暮らすなら、便利な「都心」がいいか、それとものんびり「郊外」がいいか。
実際に世帯年収800万円以上から1000万円未満で、都心、郊外にそれぞれ新築マンションを購入した2組のファミリーにインタビュー。「住み心地」「子育て」「経済事情」の観点から、暮らしのメリットについて語ってもらった。
同じ年収帯でも選ぶ物件、選ぶ場所によって暮らし方は大きく違うので、住まい選びの参考にしよう。
東京都港区・Oさん
家族構成/夫(39歳)・妻(37歳)・長男(5歳)
世帯年収/約800万円
専有面積/約81m2 間取り/3LDK
今年港区に新築マンションを購入したOさんファミリー。結婚当初は郊外暮らしだったが、職住近接を求めて、初めて中野区の中古マンションを購入したのが9年前。現在のマンションは3件目だが、ずっと都心暮らしだ。「都心はどこへ行くにも便利なので、フットワーク軽く暮らせます。特に夫の職場まで約15分。忙しい身なので通勤時間に時間がとられないのがいいみたいです」
休日の主なお出かけ先は東京ミッドタウンや六本木ヒルズ。家族でランチ、公園、買い物、とアクティブに暮らせる。「再開発されたエリアは緑が多く、道が広く整備されて、実は子ども連れには最適の場所。公園で子どもを思う存分遊ばせた後、買い物やママ友とお茶を楽しんだりすることも。休日はすごく混んでいますが、平日はそうでもないので、地元民ならではの優越感を味わえます。休日はよくイベントをやっていて、出かけるたびに何かしら発見できる、楽しい場所ですね」
もちろん、郊外に比べれば車の交通量が多く、大型スーパーがなく物価も高めと、デメリットもある。しかし、街全体がわくわくする刺激に満ちていて、それが何よりの魅力とOさんは実感しているとか。
「実は最初のマンションのリフォーム工事のときに工期が2カ月も遅れてしまって、ウィークリーマンション暮らしを余儀なくされたんです。せっかくなら、と都心のアパートメント暮らしを経験してみたら、これが楽しくって。職場は近いし、遊ぶところも、オイシイお店もいっぱいある。”都心で暮らすっていいなと”と実感しました。この仮住まいの経験は、わが家の街選びの大きな基準になっているかもしれませんね」
バルコニーからの眺め。建物が密集している都心は、タワーマンションの上層階でない限り、見晴らしのいい眺望を望むことは難しい
六本木ヒルズは、最新ショップやレストランだけでなく、無料で楽しめるイベントも多い。「映画館や美術館、展望台などがあり、一日過ごせますね。高級レストランもランチはおトクなんです」
東京ミッドタウンに隣接する檜町公園。大型遊具のあるスペースや日本庭園など趣の違うエリアは変化に富んでいる
現在保育園に通っている長男は、卒園後は地元の小学校に通わせる予定だそう。「私が働いていることもあるので小学校受験は難しいし、うちの子は勉強より体を動かすことが好きなので向かないかなぁって(笑)。でも、評判のいい私立小もこの辺りには多く徒歩圏にあるので、受験するか迷っているママもいますよ。子どもの性格や親の方針によって学校が選べるので、都心の選択肢の多さは魅力的だと思います」
また港区は外国籍の子どもたちが多く、インターナショナルな雰囲気もある。「私自身は子どものころ海外で育ったので、”この世界にはいろんな国の人がいるんだ”と肌で感じられる環境なのはありがたいですね。大使館も多く、地元民とふれあうイベントもいろいろあるんです。この前はアメリカ大使館のフレンドシップデーに参加しました。親子で楽しめました」
メリットいっぱいの都心暮らしだが、やはり難点なのはその物件価格の高さ。「正直、ローンは夫婦それぞれに組んでいて、合わせて目一杯借りています」とOさん。ただし、それは働くモチベーションになっているとか。「都心なら高く売れるし高く貸せる。最初に購入した中野区のマンションが意外に高く売れたこともあり、次はさらに都心に住み替えることができました。2件目を今は賃貸として貸していますが、やはり都心は高く貸せるし値下がりもしにくい。物件選びとタイミングを間違えなければ、資産価値の高い都心の物件なら、不動産がお金を生むことも可能なんですよね。特に今は1%前後の超低金利。私たちの場合は不動産投資は最も利回りがいい手段だと思っています」
では、同じ年収帯ながら、郊外暮らしを選んだご家族の場合はどうだろう。
東京都町田市・Kさん
家族構成/夫(45歳)・妻(41歳)・長男(12歳)・長女(10歳)
世帯年収/約920万円
専有面積/約96m2 間取り/4LDK
新宿区にあった社宅から郊外の新築マンションに移り住んだOさん。「ただ、始発駅も近く座って通勤できるので意外とラクです」。
大きく変化したのは車生活になったこと。それまでの都心暮らしでは駐車場代が高く、車生活は贅沢だったからだ。「車になったので移動範囲はぐっと広くなりました。アウトレットやコストコ、イオンのショッピングモールなど大型商業施設がぐっと身近に。特にコストコは普通のスーパーでは売っていないものが多くておもしろいですね」。
また自然豊かな環境も魅力だ。「特に去年の大雪のときはおもしろかったですよ。マンションの裏山は辺り一面雪景色に。ジャンプ台をこしらえて、そりで滑って遊んだり。思う存分遊びました」。子どもに、都心では味わえない経験ができたことも喜びだ。
新しい趣味もできた。「近くに160坪の貸農園を借りたんです。休日は朝5時に起きて畑に出かけ、午前中いっぱい土いじり。自分で育てた採れたての野菜を食卓に並べることができるのが、すごく充実していて楽しいんです」
上層階ではないが、もともと高台に建つマンションのため、遠くまで眺望が抜ける。「天気がよければ富士山の先だけ見えることもあります」
家庭菜園で採れた野菜たち。手間をかけたからこそ愛着もたっぷり
買い物だけでなく食事など休日に出かけることの多い、三井アウトレットパーク多摩南大沢。「マンションの裏手から直通で行けるバスがあるので気軽に出かけられます」。ほかにもコストコやイオンモールなど大型商業施設が豊富にある
マンション近くの公園。放課後はキックボードやキャッチボールを楽しむ小学生でにぎわう。「学校が終わったら、よく友達と待ち合わせて遊んでいます。小学校の隣なので授業でも使うんです」と小学生の長女
子育て環境も都心とは大きく違っている。「以前住んでいた都心では、やはり中学受験熱は高かったですよ。近くに有名な私立の付属小学校もありましたから、塾通いは当然でした。だけど、こちらに引越してみると、みんな地元の小学校、中学校に通う感じなので、とてものんびりしていますね。元々このあたりは、この10年間でたくさんの新築マンションが建てられたエリアなので、昔から地元の人よりも新しく移り住んでいる人が多い。だからでしょうか、保護者の方もどこか似たような雰囲気、価値観の人が多い気がします」
のんびりした景色の広がる田園風景だが、正直、夜は暗いとか。「5時の鐘が鳴ったら、みんな家に帰るのが当然。自分たちの子どものころと同じですよ。中学は少し遠いので、息子は学校の登下校だけでぐったりして、まっすぐ下校。あのまま都心暮らしだったら、なにかと誘惑が多そうでしたね。もちろん都心の教育の選択肢の多さにはうらやましいなとは思いますが、私たちには、ここでの、ゆったりした子育てがちょうどよかったかなと思います」
Kさんがこのマンションに決めたもうひとつの理由が3000万円台前半という「価格の安さ」だ。年収を考えればもっと高い価格の物件も買えたはずだが、そうしなかった理由とは? 「これから教育費がかかるから、無理はしたくないという気分もあったんですが、そもそも家にそんなにお金をかける必要性も感じていなくて。家族4人が圧迫感を感じないで暮らせると考えたら100m2ぐらいは欲しかったけれど、都心では無理でしょう。ここは100m2弱で3000万円台。”これはアリだな”と一気に買うという行為そのもののハードルが下がって、ここに決めました。ちなみに毎月の返済額は5万円弱と、社宅時代よりも負担は軽いんですよ。子どもが独立するまでゆったりと暮らす場所を、金銭面で無理せず確保できたので、とても良い選択だったと思います」
通勤の利便性と都心ならではのアクティブライフ、選択肢の多い教育環境を重視し、多少ローンは無理をしても購入した都心暮らしのOさんと、多少遠くても、自然豊かな環境とのんびりした子育て環境を、軽い負担で確保した郊外暮らしのKさん。同じ年収帯でも選んだ住まい、環境、不動産に対する考え方は大きく違う。以下、都心、郊外のぞれぞれの暮らしの特長について表にしてみた。
都心暮らしのOさん | 郊外暮らしのKさん | |
---|---|---|
通勤事情 | 職住近接で通勤時間が短い | 通勤時間はかかるが、始発電車を利用すればラク |
商業施設 | おシャレなお店やスポットが多く、アクティブに暮らせる | アウトレットなど大型商業施設が充実しており、何でもそろう。生活に便利 |
自然環境 | 商業施設の横に整備された公園があるので、親子で楽しめる | ありのままの自然が豊富。緑や土と接する機会が多い |
教育環境 | 私立の学校が多く、教育の選択肢が豊富。国際的な雰囲気を肌で感じられる | 公立の学校に進学する家庭が多く、のんびり、力まない子育てができる |
経済的観点 | 物件価格は高いが、資産価値も高い | 物件価格が安く、無理しないでローンが組める |
どちらの暮らし方が自分の価値観やライフスタイルに合っているか参考にしよう。