家探しや土地探しをしているときに耳にすることがある「市街化区域」という言葉。市街化区域とはどのような地域で、居住に向いている場所なのでしょうか。市街化調整区域との違いや用途地域との関係性、区域を調べる方法など、家探しのプロセスの中できっと役立つ情報を紹介します。
まずは「市街化区域」がどのような地域を指すのか、定義や指定される条件から見ていきましょう。
市街化区域は、都市計画法第7条で指定されている都市計画区域のひとつで、「すでに街の整備が進められて市街地になっている区域」と、「おおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街地として整備を図るべき区域」を指します。人が建物を建てて住む、または事業や商売をする区域と考えるとわかりやすいですね。
市街化区域では道路や公園、下水道などの公共施設が優先的に整備され、広さや位置は人口の伸びや産業などの予測から決められます。
では、都市計画区域とは何でしょう。
都市計画とは、住民が安心・安全・快適に暮らせる街をつくるための計画のこと。都市計画を考える範囲(都市計画区域)を、街の整備を進める「市街化区域」と、整備を抑える「市街化調整区域」に分けることで、限られた土地を有効に活用しようというものです。
広域的な視点から決めるべき市街化区域の区分や、都市開発方針などは都道府県知事が、用途地域や地区計画など具体的な土地の使い方などは市町村の長が決定します。
前述したように、市街化区域に指定される条件は「すでに市街地を形成している区域」または「おおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」です。ただし、次に掲げる都市計画区域については、区域区分を定めるものとされています。
<土地の区域の全部又は一部を含む都市計画区域>
言葉の響きは似ていますが、街の整備が進んでいる、またはこれから進んでいく「市街化区域」と、整備を抑制する「市街化調整区域」には明確な違いがあります。土地の利用や建築物の制限、開発許可の要件などを比較してみましょう。
市街化区域に該当するエリアでは、さらに都市計画法の用途地域というものが定められています。用途地域とは、土地の使い道を13種類に分けたもので、この分類によりどこにどんな建物をどれくらいの規模(大きさ)で建てられるかが決まります。詳しい区分や規制内容についてはのちほどご紹介しますが、一部の用途地域を除いて、原則土地の利用に大きな制限はありません。
一方の市街化調整区域では、原則として全ての開発行為に許可が必要であり、土地利用ならびに建築物にも厳しい制限が設けられます。土地の利用規制や範囲は、管轄の自治体や土地の場所によって異なります。
用途地域による規制がかかる市街化区域では、用途地域の区分によって建築物にも制限がかかります。一方の市街化調整区域では、原則として住宅や商業施設などの建物を建てることはできません。仮に建築物を建てたい場合には、都市計画法第34条に定められている基準を満たしたうえで、自治体からの許可を得る必要があります。
市街化区域では、1000m2(三大都市圏の既成市街地・近郊整備地帯等は500m2)以上の開発行為に対してのみ開発許可権者の許可が必要です。
一方の市街化調整区域においては、建て替えや中古住宅を購入して増改築する場合も、基本的には自治体の許可が必要となります。ただし自治体によっては、条例で市街化調整区域でも開発許可が出るケースも。市街化調整区域で土地を購入して家を建てたいと考えるなら、まずは自治体の担当部署に確認しましょう。
市街化区域 | 市街化調整区域 | |
---|---|---|
土地利用の規制 | 用途地域の区分に準ずる | 厳しい制限が設けられるが、利用方法や範囲は自治体や土地の場所によって異なる |
建築物の制限 | 用途地域の区分に準ずる | 原則住宅や商業施設などの建物を建てることはできない。ただし、都市計画法第34条に定められている基準を満たしたうえで、自治体からの許可を得た場合には認められる |
開発許可の要件 | 1000m2(三大都市圏の既成市街地・近郊整備地帯等は500m2)以上の開発行為 ※開発許可権者が条例で300m2まで引下げ可 |
原則として全ての開発行為 |
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市街化調整区域とは? 家は建て替えできる?売れない可能性も?――
では、家を建てたり購入したりする人にとって、市街化区域にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
「工業専用地域には住宅は建てられない」など用途地域の制約はありますが、それ以外の市街化区域内は誰でも建物を建てることができ、自由度の高い土地活用がかないます。また用途地域による制約は、ある種“この場所でどんな生活をするのか”をイメージするひとつの目安にもなります。子育て中のファミリーなら周辺環境の落ち着いた「住居専用地域」、利便性を求めるなら「近隣商業地域」を選ぶといったように、求めるライフスタイルに近いエリアを選ぶと暮らしやすいでしょう。
ニーズの低い市街化調整区域の土地や住宅に比べれば、市街化区域の土地や住宅は価格が高くなりがち。現時点で市街地を形成していなくても、将来的には市街化が促進されるため、住宅の売却もしやすいといえます。リセールバリューの高さを意識している方には向いているでしょう。
市街化区域は人が住むために適した地域で、公共交通機関や道路、電気、上下水道などの生活インフラがすでに整備されている、またはこれから整備される場合がほとんど。日々の買い物だけでなく、通勤・通学もしやすいのも魅力です。
市街化区域に家を建てることでデメリットになることは、あまりないと思っていいでしょう。強いていうなら、次のようなデメリットが考えられます。
地価の高い市街化区域は、その分固定資産税が高くなりがち。さらに、固定資産税のほかに都市計画税もかかります。都市計画税の支払いタイミングや税率などはのちほど詳しく解説します。
市街化区域は人や建物が多く、にぎわっているエリアです。場合によっては騒音や交通量の問題に悩まされることもあるでしょう。しかし近年は、こうした環境上の問題を解消するためにさまざまな規制が定められています。そのひとつが、騒音にかかる環境基準の指定です。地域の特性や時間などを基準として、以下のような基準を各都道府県知事が指定しています。
<一例>
家の広さを左右する大きな要素が、「建ぺい率(敷地面積に対する建築面積の割合)」と「容積率(敷地面積に対する3次元空間の割合)」です。それぞれの制限(パーセンテージ)は、用途地域によって異なります。つまり該当する用途地域によっては、同じ土地面積であっても建てられる家の大きさに差が生じてしまうのです。
また、宅地などの開発では、最低敷地面積が定められていることがあります。市街化区域の最低敷地面積は、市街化調整区域に比べて小さく設定されることが多いため、流通する土地の面積が希望よりも小さい可能性もあります。
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市街化区域では、用途地域の区分によって土地の利用や建築物などが制限されます。
用途地域は、大きく以下の3つに分類されます。それぞれの違いと、全13の用途地域の区分について詳しく見ていきましょう。
1.住宅系用途地域
2.商業系用途地域
3.工業系用途地域
13地域あるうち8地域が「住居系」です。この8地域のどれかに指定された区域には基本的に大きな工場や商業施設は建てられません。住環境が優先されている用途地域です。
第一種低層住居専用地域 | 低層住宅のための地域。住宅や小規模な店舗併用住宅、小中学校、診療所、公共施設などが建てられる |
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第二種低層住居専用地域 | 主に低層住宅のための地域。第一種低層住居専用地域に建てられる建物のほか、床面積150m2以下の店舗などが建てられる |
第一種中高層住居専用地域 | 中高層住宅のための地域。第二種低層住居専用地域に建てられる建物のほか、大学や病院、床面積500m2以下の店舗などが建てられる |
第二種中高層住居専用地域 | 主に中高層住宅のための地域。第一種中高層住居専用地域に建てられる建物のほか、床面積1500m2以下の店舗や事務所など利便施設が建てられる |
第一種住居地域 | 住宅の環境を守るための地域。第二種中高層住居専用地域に建てられる建物のほか、床面積3000m2以下のお店や事務所、ホテルなどが建てられる |
第二種住居地域 | 主に住宅の環境を守るための地域。第一種住居地域に建てられる建物のほか、床面積1万m2以下ならパチンコ店やカラオケボックスなどが建てられる |
準住居地域 | 道路の沿道地域に適した施設と住宅との調和を図る地域。第二種住居地域に建てられる建物のほか、車庫や倉庫、客席部分200m2未満の映画館などが建てられる |
田園住居地域 | 農業と調和した低層住宅の環境を守るための地域。建物の制限は第一種低層住居専用地域に近く、住宅のほか、幼稚園~高校の教育施設、図書館、2階建て以下の農産物直売所などが建てられる |
例えば、13の区分のひとつ「第一種低層住居専用地域」は低層住宅のための地域。住宅や小規模な店舗併用住宅、小中学校、公共施設などは建てられますが、タワーマンションや工場などは建てられません。郊外の一戸建てが並ぶ住宅地に、突然工場が建つことがないのは、用途地域による決まりがあるからです。
主に大勢の住民が買い物や遊びなどに使える商業施設などが立ち並ぶ地域になります。
近隣商業地域 | 周辺住民が日用品などの買い物をするための地域。準住居地域に建てられる建物のほか、小規模な工場などが建てられる |
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商業地域 | 銀行や映画館、飲食店、百貨店などが集まる地域。風俗施設や小規模な工場も建てられる |
以下の3地域が「工業系」になります。主に工場の利便性を高める地域で、住居の建築には向きません。
準工業地域 | 主に軽工業の工場などが立地する地域。周辺環境を悪化させるおそれのある工場のほかは、ほとんどの建物が建てられる |
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工業地域 | どんな工場でも建てられる地域。住宅や店舗は建てられるが、学校や病院、ホテルなどは建てられない |
工業専用地域 | どんな工場でも建てられる地域。住宅、店舗、病院、ホテルなどは建てられない |
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購入したい住宅や土地が市街化区域内なのか、用途地域は何なのかを調べるにはどうすればいいでしょう?
その住宅や土地がある市町村の役場の都市計画課などの担当部署(部署の名称は市町村によって異なるためホームページや役場の総合案内などで確認)に出向くか、自治体によってはインターネットで都市計画情報が調べられます。その際は調べたい場所の住居表示を○番○号まで確認しておきましょう。
また、SUUMOでも土地や建売戸建ての区域を調べることが可能です。検索して出てきた物件の詳細ページにある「物件概要」をクリックすると、「用途地域」という欄があります。ここに「1種住居」「第1種中高」などと用途地域を示す記載があれば市街化区域内だとわかります。「無指定」とある場合は市街化調整区域にある物件の可能性があります。
1.「SUUMOで土地を探す」ボタンからエリアを選択
2.物件一覧から、気になる物件を選択
3.詳細画面から用途地域を確認
購入したい物件は確定していないけれど、この辺りがいいなというエリアのめどが付いている場合、そのエリアが市街化区域かどうかは自治体が公表している都市計画図から判断ができます。市町村役場の担当部署に出向いてもわかりますし、インターネットで「○○市 都市計画図」と検索することで確認できます。
「『いい土地を見つけた!』と思ったら、市街化区域内の農地だった」という場合、家を建てるには少し特殊なプロセスを踏む必要があります。
農地に家を建てたり、駐車場にしたりするなど、農地以外の使い方に変えることを「農地転用(のうちてんよう)」といいます。転用するには、その農地が市街化区域内なのか市街化調整区域内なのか広さはどれくらいなのかによって許可や届け出のルールが違ってきます。
市街化区域内にある農地に家を建てる場合は農業委員会への届け出のみで転用可能です。ただし、自治体によっては条例などで転用ができないケースもありますから、まずは地元の農業委員会に相談するのが近道です。
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市街化区域のデメリットでも触れましたが、市街化区域内に不動産を所有していると都市計画税がかかります。そもそも都市計画税とは、どのような税金でいつ支払うものなのでしょうか?
市街化区域のデメリットでも触れましたが、市街化区域内に不動産を所有していると都市計画税がかかります。
都市計画税は東京23区内の場合は東京都に、それ以外は市町村に納税する地方税です。固定資産税と同様、毎年1月1日に土地・建物などの固定資産を所有している人に対して課税されます。4月から6月頃に納税通知書が届き、一般的には年4回に分けて納めます(自治体によっては、一括での納税もできます)。
都市計画税の計算方法は下記のとおりです。
【課税標準】×【0.3%(制限税率)】=【都市計画税】
課税標準とは固定資産課税台帳に登録されている価額。この課税標準に税率をかけて計算します。課税標準は各自治体が決定し、都市計画税の場合は0.3%が上限です。
家を買ったり建てたりするのに、スムーズでメリットが多い市街化区域。物件探しをする際には、候補物件やエリアが市街化区域内かどうかを確認しておきましょう。
市街化区域は、都市計画法で指定されている都市計画区域のひとつ。街の整備が進められて市街地になっている区域と、おおむね10年以内に市街地として整備を図るべき区域を指す
市街化区域の土地や住宅はインフラ整備が充実しており、不動産価値が安定している市街化区域は自治体の情報や、SUUMOなどの不動産検索サイトで確認ができる
市街化区域内の農地に家を建てる場合は農業委員会に届け出が必要