「マンションの間取りを確認したいけれど表記の意味が分からない…」そんなお悩みを抱えている人もいるのではないでしょうか? そこで間取図に書かれてある「S」「PS」などのアルファベットの表記の意味やマンションの間取図でチェックしておきたいポイントについて、間取りの研究家で一級建築士の井上恵子さんに聞きました。
マンションの間取図を見ていると、「2SLDK」というような表記を見かけることがあります。「3LDK」や「4LDK」の間取りは目にする機会も多く、「LDK」は「リビング・ダイニング・キッチン」のことだとご存じの方も多いでしょう。でも、数字と「LDK」の間に「S」が入っています。この場合、「S」は何を意味するのでしょうか?
「Sはサービスルーム、または納戸のことです。一見、間取図上は普通の洋室のように見える場合でも、Sと表記されていることがあります。洋室とサービスルームの違いは、採光条件なのです。建築基準法によって、人が長い時間を過ごす部屋、例えばリビングや個室などの『居室』には、一定以上の面積の採光に有効な開口部を確保しなければならないことになっています。有効採光面積と呼ばれるこの面積が、部屋の床面積の1/7以上ない場合は、洋室などの『居室』とは認められないため、サービスルームまたは納戸として記載することになるのです」(井上さん、以下同)
部屋の広さが同じでも、基準以上の採光面積が取れていれば洋室、足りなければ「S」になるため、一見「3LDK」の間取りでも、LDK以外に3つある部屋の1つが「S」ならば、「2SLDK」になるというわけです。
「それなりの大きさの窓があるのに、その部屋名が「S」と表記されている場合は、その窓が採光に有効な窓ではないことを意味します。このような部屋は、窓の前にエレベーターや共用階段があることが多いですね」
「S」はサービスルーム(または納戸)だと分かりました。でも、間取図にはよく分からないアルファベット表記がまだまだあります。代表的なものを確認していきましょう。
間取図略語 | 意味 |
---|---|
S | サービスルームまたは納戸 |
PS | パイプスペース |
MB | メーターボックス |
DEN | 多目的の小部屋 |
STO | ストレージ(倉庫、納戸) |
CL | クローゼット |
WIC | ウォークインクローゼット |
SIC | シューズインクローゼット |
RF | ロフト |
「PS」はパイプスペースの略です。このアルファベットが書かれている場所には、給水管や排水管が通っています。
「MB」はメーターボックスの略。電気や水道、ガスなどのメーターが格納されている場所です。共用廊下の玄関近くに設けられていて、他人が検針しやすいような配置になっています。
「DEN」は、もともと巣穴やねぐらを意味しますが、間取図上では書斎や仕事部屋などに使える多目的の小部屋を指します。ただし、広さや形に明確な定義はありません。
「STO」はストレージ(倉庫や納戸)の略です。
収納の中でも主に衣類を収納するのが「CL」で、クローゼットを指します。
「WIC」は、ウォークインクローゼットの略で、足を一歩踏み入れることができるほど奥行きがあるのが特徴の収納です。服以外にも、帽子やバッグなどを同じ場所に収納しておけば、WICの中で身支度を整えることができます。
「SIC」は、シューズインクローゼットの略で、靴を履いたまま出入りできる収納空間のことです。主に玄関脇に配置されています。靴に限らず、ベビーカーや外遊びの道具など、外で使うものを収納しておくのにとても便利な空間です。
「RF」は、一般的にはロフトの略です。ただし、屋上(ルーフフロア)を「RF」で表記する場合もあります。
それでは、マンションの間取図を見るときのチェックポイントについて、先に紹介した「3LDK」の間取図を例に説明します。
窓や扉には開き戸と引き戸があり、間取図で見分けることができます。
例えば、1は片開き戸です。片開き戸の場合は、扉が開く軌跡を1/4の円で表現していますが、引き戸の場合は軌跡が描かれておらず、形状を直線で表現しています。中でも2のような場合は、引き戸が2枚あり、2枚とも壁の後ろに引き込むことができる「2枚片引き戸」であることを意味しています。
この間取りの場合、LDに接する3つの個室の内、洋室1は片開き戸、洋室2は片引き戸、和室は2枚片引き戸になっています。
「引き戸は、開放しやすいという特徴があります。洋室2と和室の引き戸を開け放しておくことで、LDの延長のように空間を広く使うことができます。もちろん、引き戸を閉じておけばプライベートな個室としても使えますから、柔軟な使い方ができます。一方、洋室1は夫婦の寝室として使われることを想定しているため、引き戸よりは遮音性が期待できる片開き戸にすることで、プライベート感を高めています」
開き戸の場合は、扉の軌跡上にモノが置けませんので、家具などを配置する際には注意が必要になることを間取図から読み取っておきましょう。
間取図上でNを指しているのが北、その反対が南です。一般的には南向きの住戸が好まれるようですが、ライフスタイルが多様化してきた現在は、必ずしも南向きがベストとは言い切れません。
ただし、日当たりを重視する人にとって、南向きの住戸が魅力的なのは変わりません。この3LDKの間取りの場合、南側のバルコニーに和室、LD、洋室2の3室が面するワイドスパンとなっており、日当たりは期待できます。
「ワイドスパンの住居というのは、間口(バルコニーに面した端から端まで)の長さが7m~8m程度ある住居のことです。ワイドスパンだと、バルコニーに面して3室取ることができます。バルコニーに面しているということは、採光条件もいいですし、窓が設けられるので通風条件もいい。つまり、居住性の高い部屋が3つ取れるというメリットがあります」
キッチンについても、一概に「北側がいい」「南側がいい」とは言えず、各家庭のライフスタイルに応じて選ぶのがおすすめです。
「食べ物が長持ちするからという理由で北側を好む人もいますし、日中キッチンで過ごす時間の長い人にとっては明るく過ごせる南側がいいでしょう。ただ、西側は食べ物が傷みやすいので、おすすめしません」
間取図をチェックするとき、どうしてもLDや個室に目がいきがちですが、忘れてはならないのが収納です。収納は、どんなところに気をつければいいのでしょうか?
「最低でも1部屋に1つ以上専用の収納があること。そして、できれば掃除機などをしまっておける共用の収納も欲しいですね。この3LDKの間取図では(3)が共用の収納になっています。さらに、パウダールームにもタオルや洗剤をしまっておける収納があると便利です。キッチン脇にある収納(4)はパントリー。買い置きした食材などものを入れて置く収納で、小さくてもこういった収納があると便利です」
「ウインドスルークローゼット」という大き目の収納も目に付きますが、普通のクローゼットやWIC(ウォークインクローゼット)とはどう違うのでしょうか?
「この収納は、和室と洋室1の2部屋からアクセスできて、通り抜けできます。通り抜けできる収納を『ウォークスルークローゼット』と呼びますが、この間取図の収納は、バルコニー側の窓と洋室1の外廊下側の窓を開ければ、風の通り抜けも期待できます。このような収納のことを『ウインドスルークローゼット』といって、風通しのよさに一役買っています」
「生活動線」というのは、朝起きて、顔を洗って、着替えて、食事をして、トイレに入って、出かけるといった毎日の一連の動きを示す動線です。生活動線に優れた間取りは、暮らしやすいというメリットがあります。
「この間取図のように、パウダールームに着替えを入れられる収納があると、お風呂から出てきたときにその場で着替えることができます。毎日のことですから、このようなちょっとした工夫が暮らしやすさにつながります。間取図を見るときには、こういった点もチェックするといいでしょう」
「家事動線」は、調理する、片づける、洗濯する、干す、掃除するといった家事にかかわる動きを示す線です。家庭内で家事をする人が動きやすい動線になっていると、家事効率が上がり、日々の負担が減って暮らしにゆとりが生まれます。
「この間取図では、キッチンのすぐ横にパウダールームがあって洗濯機が置けるようになっています。調理しながら洗濯機も回す「ながら家事」をしたい人にとっては、この配置は便利です。また、お風呂との距離も近く、子どもが1人で入浴しているときは、調理しながら子どもの気配を感じることができるため、何かあったときにはすぐに様子を見に行けます」
また、この間取りには回遊できるという特徴もあります。全ての扉を開け放つと、玄関からLD、全ての個室とキッチン、パウダールームまで、ぐるりと一周できるのです。このように回遊性のある間取りにはいろいろなメリットがありますが、掃除がしやすいのも大きなメリットの一つです。
「普通は、1つの部屋を掃除した後、廊下に出て、次の部屋に行ってというように、何度も廊下に出る必要があります。でも、回遊性のある間取りだと廊下に出る回数が少なくて済み、掃除の効率がアップします。また、ロボット掃除機を使えば、留守の間にほとんどの部屋の掃除ができてしまうかもしれません」
新築マンションのモデルルームに行くともらえるパンフレットには、間取図以外にも参考になる図面が掲載されています。
平面図は、ほぼ間取図と同じ意味です。しかし、間取図だけでは天井の高さや梁の出っ張り具合など、細かいところまでは分かりません。そういった詳細について知るためには、平面詳細図を見る必要があります。平面詳細図は、平面図(間取図)の上に細かい数字や記号が書き込まれたものです。例えばそこに「CH=2300」と書いてあれば、天井高が2.3mあるという意味です。
マンション全体の敷地と、その敷地に接している道路などが描かれた図面です。建物の真上から見た様子が描かれています。自分が購入しようとしている部屋がマンション全体のどのあたりにあって、どんな道路や建物に面しているか、南向きか東向きかなど、大きなところをチェックします。
マンション全体の外観を4方向から真横に見た図面です。建物全体の形や窓の位置を確認することができます。
「間取図だけを見て入居を決めたら、引越しの際に梁が邪魔で家具が入らなかったということもあります。入居を決める際には、必ず平面詳細図など間取図以外の図面もチェックしましょう」
夫婦二人家族の場合、子どものいる家庭よりは、必要な広さはコンパクトになり、部屋数は少なくて済みます。ただ、1LDKよりは2LDKのほうがさまざまなメリットがあります。夫婦二人家族におすすめの間取りを見てみましょう。
「この間取りは、洋室1がプライベート感の高い寝室になっています。洋室2は、LDと一体化させて広く使ったり、夫婦の趣味の部屋としても使えますね。将来子どもができたら、子ども部屋としても使えます。夫婦のどちらかが夜遅くまで仕事をするような場合は寝室を分けることもできます。このようにフレキシブルに使える間取りだと、夫婦仲良く暮らせそうです」
核家族化が進み、夫婦共働きも増えた現代の子育て世帯にとって、子育てがしやすい間取りかどうかはとても重要です。どのような間取りだと子育てしやすいのか、井上さんおすすめの間取りを見てみましょう。
「これは、子どもが二人いて、それぞれに個室を与えたい家庭におすすめの間取りです。洋室(1)は夫婦の寝室、洋室(2)と(3)は子ども部屋として使います。ポイントは、洋室2に行くも洋室3に行くもLDを通る必要があるところ。これだと顔を合わせる機会が多いため、子どもの様子や遊びに来た友達との関係を把握しやすいというメリットがあります。また、対面式のキッチンなので、調理をしながら子ども部屋やリビングにいる子どもの様子を見ることができます。さらにキッチンに入ってすぐの場所に冷蔵庫を置けるのもポイントです。子どもがジュースやアイスを自分で取り出す際に、コンロのあるキッチン奥まで来る必要がなく、安全な間取りと言えます」
マンション選びの基本となる間取図の見方について、アルファベット表記の意味や、チェックしておきたいポイントをご紹介してきました。誰にとってもベストな間取りは存在しません。もし自分たち家族が住んだらどんな暮らしになるだろうとイメージしながら、理想の間取りを探してみてはいかがでしょうか。