壁紙の色は、部屋の方角によって見え方が変わることがあります。たとえば、西向きの部屋なら夕陽に照らされてオレンジがかって見えたり、北向きの部屋では青い色が寒々しく見えたり。色見本で想像していた仕上がりにならないことや、快適さが損なわれることもあります。方角による影響を知った上で壁紙を選び、思い通りの部屋に仕上げてみませんか?インテリアコーディネーターの荒井詩万さんにアドバイスをいただきました。
東向きの部屋は窓から朝日が差し込む爽やかなイメージ。日差しが水平に差し込むため、部屋の奥まで明るさが届きます。一方、気温が上がる午後には日差しが入らなくなるので、夏場は南向きの部屋ほど室温が上がらず快適に過ごせます。
また、夜明けとともに徐々に明るくなることで自然な目覚めが得られるため、生活習慣を整えるのにもぴったりの部屋。そういった理由から、子ども部屋を東向きに用意するケースも多いようです。南向きの部屋に次いで人気があるのも納得です。
【メリット】
朝日が部屋の奥までたっぷり差し込む
午後は夏場でも室温が上がりにくい
自然な目覚めが得られやすい
【デメリット】
午後からは日差しは入らない
冬は夕方冷え込む
夏の朝は特にまぶしく暑くなる
夕陽がオレンジ色であるのと同様に、朝日も実はオレンジ色。日の出の時間には、部屋は黄色やオレンジがかった光で照らされます。
もちろん、壁紙も黄色やオレンジがかって見えることになります。ただし、朝焼けの時間にはまだ就寝中であることが多く、また朝日は夕陽よりも赤みが少ないことから、あまり影響を感じずに暮らす人の方が多いようです。朝焼け後から午前中は白い光が入ってかなり明るくなりますが、午後は光が入らず暗くなります。
「東向きや西向きなど、一日の間で明るさに差がある部屋の場合は特に、できるだけ大きなサンプルを実際に使う場所に一日貼ってみて、色を確認しておきたいですね。
東向きの部屋は、爽やかな朝の光を楽しむことができる一方、午後は日が入りません。たとえば白の無地に柄を組み合わせることで楽しさをプラスし、午後の寒さを感じさせないような演出をしてはいかがでしょうか」(荒井さん)
西向きの部屋といえばやはり「西日」。窓からきれいな夕焼けを眺めることができる部屋です。夏には午後からかなりの日差しが入って暑くなる一方、明け方から午後までは日が入らないので、冬は朝の冷え込みが厳しくなります。朝ゆっくり眠りたい人、朝から夕方までは部屋を使わない勤務形態の人に向いていると言えそうです。
【メリット】
きれいな夕陽が見られる
冬場の午後は暖かく過ごせる
【デメリット
午前中から昼過ぎまで日が入らない
夏の午後は日差しがまぶしく、室温が高くなる
壁紙や家具が日焼けしやすい
西向きの部屋には、午後から黄~赤みがかった暖かい光が入ります。夕方には、夕陽そのままのようなオレンジ色の光が部屋の奥まで差し込みます。夕陽には、部屋全体をオレンジ色に染めるほどのパワーがあります。暖色系の色をメインカラーにすると、夏はさらに暑さを感じさせることになりかねません。
「暑さ、寒さを感じさせにくい部屋にするには、壁紙には中性色を選んでおくといいでしょう。緑や紫といった中性色であれば、色自体が暑さ寒さを感じさせることがありません。西向きや東向きなら淡いグリーンがおすすめ。
また、一般的なビニール壁紙では気にするほどではありませんが、色が濃い壁紙は直射日光で色褪せすることもあります。西向きの部屋で、アクセントクロスとして濃い色を使いたい場合は、光が当たらない側の壁に貼っておくという方法もあります。西日の暑さを軽減させるブルーをベースに、楽しい柄を組み合わせてみてはいかがでしょうか」(荒井さん)
南向きの部屋は、1年を通して日照時間が長く、どの方角よりも長時間明るい状態で過ごすことができます。ただし、室内への日差しの入り方で言えば、冬は部屋の奥まで差し込むものの、夏はほぼ垂直に日が差すので、軒や庇があれば室内にはそれほど入ることはなく、「冬暖かく、夏涼しい」快適な空間になります。
もちろん、軒や庇でカットできなければ、強い日差しが長時間入るので、壁紙や家具が黄ばんだり変色したりする可能性もあります。
<メリット>
室内が明るい時間が長い
冬は部屋の奥まで日差しが入る
冬も室温が下がりにくい
<デメリット>
夏場は室温が上がりやすい
壁紙や家具が日焼けしやすい
光が反射してテレビが見にくい
南向きの部屋は、家族が集まるリビングに使われることが多く、窓も大きく取られている場合が多いようです。南からの光は、朝日や夕陽のようなオレンジ色を含まない、ほぼ白~やや青みを感じる爽やかな色です。はっきりと物を映し出すので、壁紙もそのままの色味を楽しめます。
「南向きの部屋は日がさんさんと入って快適ですが、夏は暑いイメージがあります。壁紙に暖色系を選ぶと、夏はより暑苦しく感じさせる可能性も。南向きの部屋にブルーの壁紙を使うことで、夏の暑さを軽減しながら、1年を通して爽やかなイメージに演出できますよ」(荒井さん)
北向きの部屋といえば、「日が入らず一日中暗く寒い」イメージです。しかし、たとえば西向きの部屋のように「夕方になったら西日で暑くなるからカーテンを閉めないといけない」といった、一日の間での光の質・量の変動が少なく、明るさが安定しています。
北向きの窓から見える景色は、南からの太陽光で照らされて明るく輝きます。北側に素敵な眺望が得られる立地なら、あえてリビングに使われることもあります。また、少し離れた場所に白いビルなどがあると、反射光で意外なほど明るくなることもあります。
最も人気が低い北向きの部屋ですが、部屋に差し込む光がやわらかいため、「白いノートやパソコンに光が反射して見えにくくならない」という点で、屋内作業や勉強に向いていると言えます。
【メリット】
・部屋に入る光がやわらかく、安定している
・ノートやパソコンの画面に光が反射しにくい
・窓からの景色が美しく見える
【デメリット】
・一日を通して日当たりが悪い
・室温が下がりやすい
・結露からカビが発生しやすい
「北向きの部屋にブルー系の壁紙を貼ると、『夏はいいけど冬は寒々しい』というイメージになってしまいます。暖かい光が入りにくい北向きの部屋には、壁のような大きな面積に赤、オレンジ、黄色など暖色系の色を取り入れるのもおすすめです。暖色系の視覚効果で、暖かさを感じやすくなります。壁だけでなく、カーペットやカーテンなど、ある程度広い面積で暖色を取り入れると、さらに効果が高まります。薄い黄緑色などもおすすめです」(荒井さん)
天窓からは時間帯に関係なく、ストレートに日差しが入ります。天窓がつくられるのは、周囲に建物が密集している場所や、北向きの部屋やキッチン、洗面室など、窓からの採光が確保できない場合がほとんど。基本的には暗い部屋が多いのですが、快晴のときは非常に明るく、曇天の日は暗くなり、光の質・量の変動が大きいのが特徴です。
「光と影が強く感じられることを考えると、ダークトーンよりも白系を選ぶといいのではないでしょうか」(荒井さん)
窓が無い部屋であれば、近くの部屋の明るさに頼る、もしくは、常に照明器具の明るさに頼ることになります。頼りにする光源の影響を考えておきましょう。
「プライベートな空間なので、遊びのある壁紙も人気です。とはいえ、きちんと洋服やモノがよく見えることが大切なので、白ベースでストライプや小さな柄が入ったものなどがおすすめです」(荒井さん)
壁紙の色は、「どの時間に、部屋のどこにどんな光が当たるか」によって見え方が変わり、色あせ等の可能性も変わります。同様に、どんな色の照明器具を選ぶか、も大切です。壁紙の色を選ぶときは、日差しと照明器具の光の色も意識しておきたいですね。
「『北向きの部屋だけどどうしてもブルーがいい』という人もいると思います。そんなときは、壁紙はブルーにしておいて家具やインテリア小物で明るい色を足したり、ブルーでも少しピンク色が入っている壁紙を選んだりすれば大丈夫。そういう調整をすることが、インテリアを考える上でとても大切だと思います」(荒井さん)
東向き・西向きの部屋は、時間によって明るさに大きな差があることを理解しておこう
南向きの部屋は、直射日光がどこにどれだけ当たるかを考えて、色を選ぼう
北向きの部屋は、「暗い・寒い」イメージを、暖色系の壁紙を使うことでカバーしよう
●取材協力
荒井詩万さん
CHIC INTERIOR PLANNING主宰。インテリアコーディネーター
戸建住宅やマンションのインテリアコーディネート・リノベーションを数多く手掛け、住まう人に寄り添う心地よい空間づくりが人気。大妻女子大学短期大学部非常勤講師、町田ひろ子アカデミー講師、企業セミナー講師。雑誌の監修やスタイリング、メディア出演多数。著書「今あるもので『あか抜けた』部屋になる。」
「第45回神奈川建築コンクール優秀賞」「キッズインテリアコンテスト協会賞」「平成28年度 住まいのインテリアコーディネーションコンテスト特別審査員賞」「第3回モダンリビング スタイリングデザイン賞金賞」など受賞多数