健康に暮らすために、室内の空気をきれいな状態に保つことはとても重要です。実はマンションでは、24時間換気システムなどの換気扇設備の設置が義務付けられています。この記事では24時間システムの仕組みや、きちんと換気をするために知っておきたい換気扇・給気口のお手入れ方法などをご説明します。
私たちが1日に吸い込む空気の量は、約1万5000リットル~2万リットルと言われています。人が1日に摂取する物質のうち飲み水は8%、食物は7%、室内の空気が57%と圧倒的に多いのですが、水や食事ほど空気の健康への影響を気にする人は少ないように思います。けれども、昨今、新型コロナウイルス感染症対策のひとつとして、換気の重要性が指摘されるようになってきました。
マンションでは、24時間換気システムなどの機械換気設備の設置が義務づけられていますが、どんな背景があったのでしょうか。建築家の佐川旭さんに聞きました。
「昔の日本家屋は風通しの良いつくりで、空気を出すのも入れるのも自然に行われていました。ところが冷暖房が普及して、通気の良い家は冷暖房効率が悪く、高気密・高断熱化が進みました。
しかし、高気密の家は常に意識して空気を入れ替えないと空気が汚れます。また、湿度が高くなるためカビ、ダニなどが繁殖しやすくなるとともに、建材や家具などから発散されるホルムアルデヒドなどの化学物質などが部屋にこもり、『シックハウス症候群』が増えて大きな社会問題になりました。
その『シックハウス症候群』対策の一つとして、室内の空気がきれいに保てるようにと2003年に建築基準法が改正され、換気設備の設置が義務付けられたのです」
「改正建築基準法が施行された2003年7月1日以降に建設された建物はすべて(建築基準法の改正前に建築確認を終えているものは対象外)、機械換気設備(24時間換気システムなど)の設置が義務付けられました」と佐川さん。シックハウス症候群の原因となる化学物質の室内濃度を下げることを目的に、建築物の建材・部材や換気設備を規制するための法律改正で、住宅、学校、オフィス、病院など、すべての建築物の居室を対象にしています。
そのうち住宅の場合は、換気回数0.5回/h以上の機械換気設備(24時間換気システムなど)の設置が必要と定められています。換気回数0.5回/h以上とは、1時間当たりで部屋の半分の空気が入れ替わる、つまり2時間で部屋の空気が全部入れ替わることをいいます。
定期的に部屋の空気が入れ替わることで、人が生活することで発生する二酸化炭素や水蒸気、臭気、チリやホコリなども低減されます。
「24時間換気システムとは、24時間機械で給気と排気を行うシステムで、室内の空気をキレイに保ちます。特にマンションは一般的に気密性が高い構造なので、自然にまかせておかず機械で常時換気をする必要があります」(佐川さん)
さらに、マンションにおける24時間換気システムの仕組みについて、パナソニックエコシステムズに話を伺いました。
「マンションにおける換気の一般的な例として、室外の空気は、外壁に面したリビングや寝室などの壁にある『給気口』から室内に取り入れられ、居室のドアの下にある隙間(ドアアンダーカット)などから廊下を通り、浴室やトイレ、洗面所の換気扇で室外へ排気されます。
住戸全体の空気は、人が主に生活する「居室」から、湿気や臭気の発生する「浴室・トイレ・洗面・台所」へ流れるように換気経路が形成されます。
24時間システムの空気の流れを見ていきましょう。
1)部屋にある自然給気口から外の新鮮な空気が入ります。
2)室内に入った空気が廊下を通り浴室やトイレ、洗面所に流れます。
3)浴室に集められた空気が、浴室の換気扇により室外に出ていきます。
「換気には3つの方式があります」と佐川さん。「まず『第1種換気方式』は、空気を入れるのも出すのも両方とも換気扇などの機械で行う方法です。『第2種換気方式』は、空気を入れ込むのが機械で排気は自然にまかせ、『第3種換気方式』は空気を入れ込むのは自然にまかせ、機械で排気する方法です。
住宅で主に使われるのは『第1種換気方式』か『第3種換気方式』ですが、『第1種換気方式』は、空気の出し入れを機械で行うため換気効果は高くなりますがコストが高くなります。なので住宅・マンションでは『第1種換気方式』よりコストが抑えられる『第3種換気方式』が多く用いられています。
『第3種換気方式』は、空気の入れ込みを自然にまかせるため、すべての居室に自然給気口をつける必要があります。また、給気口がない部屋もアンダーカットといってドアと床の間に隙間があったり、ドアに穴(ガラリ)を設けるなど、空気が流れる設計になっています」(佐川さん)
各居室に設置されている自然給気口の役割とお手入れについて、パナソニックエコシステムズに聞きました。
「自然給気口は、パネル(キャップ)の後ろにフィルターがついています。メーカーによってはフィルターがついていないタイプもありますが、フィルターがついていないと、空気をそのまま室内に入れるため、ホコリや花粉などがそのまま室内に入ります。特に花粉やPM2.5などの空気の質が気になる方などは、フィルター付きが有効です。当社では、PM2.5に対応したフィルターを搭載した製品もご用意しています」
機種により違いがありますが、新築マンションの給気口はフィルター付きがほとんどです。「24時間換気システムを効果的に使うには、自然給気口のお手入れが重要です。フィルターの掃除をしないと目詰まりし、外から入る空気の量が少なくなって換気システムの効果が発揮できなくなります」
お手入れとして、1カ月に1回程度の掃除、2年に1回程度、新しいフィルターに交換する必要があります。掃除は、フィルターのホコリを掃除機で吸い取るのが基本ですが、メーカーにより水洗いできるタイプもあります。給気口・吸気口の室内側のお手入れの流れを見ていきましょう。
1)給気口のキャップを外します。キャップは中央をプッシュして開けて回すと外れます。
2)フィルター抑えとフィルターを外します。
3)フィルターの表面のゴミやホコリなどを掃除機で吸い取ります。
換気扇・排気口もカバーを外して中のフィルターを取り出し、優しく水洗いをして汚れを落とし、乾かしてから取り付けます。
給気口だけではなく、浴室暖房換気乾燥機や換気扇のフィルターの掃除も忘れずにしましょう。
・給気口の室外部分の掃除
外にある給気口も汚れるので、カバーとフィルターを外して水洗いして、水気が乾いてから取り付けます。
一般的なお手入れを説明しましたが、お手入れや掃除方法はメーカーによって違うので、取り扱い説明書を読んで適切に行いましょう。
24時間換気システムの換気扇を使う上で、気になること、よくある疑問を佐川さん、パナソニックエコシステムズに教えてもらいました。
例えば「電気代がもったいないので、換気扇を止めてもいいのか?」という声を聞きますが、そもそも、24時間換気システムの運転を止めることはできるのでしょうか。
「室内の空気を2時間で入れ替える機械換気の設置は法律で義務付けられています。24時間運転するための換気扇なので、基本的にはつけっぱなしが望ましいです。
浴室暖房換気乾燥機のリモコンには、長押しなどの操作が必要で、簡単に止められないようになっている機種もあります。
マンションの浴室の換気扇は、24時間換気システムとしての役割と、入浴後の湿気の排出という2つの役割を行っています。湿気の排出には、24時間換気の換気量よりも通常は多くの換気量が必要になりますので、お風呂を出た後は『換気』スイッチを押して湿気をしっかり排出してください」
佐川先生は「電気代を気にする方はいますが、24時間換気システムの電気代は、1カ月で150円~400円程度。契約にもよりますが、気にするほどではありません。また電気は点けたり消したりするとつけっぱなしより消費電力が高くなるので、むしろ常時回しておく方が安くなります。
電気代を気にするより、換気扇を止めることで化学物質や湿気がこもってシックハウス症候群になったり、結露やカビが発生する方が心配です」。健康のためにも、換気扇は24時間連続換気を行った方がいいでしょう。
マンションは給気口を開けておくことが大事だと述べました。給気口を開けているからこそ、外の寒い空気や雨雪が室内に入ってくるのが心配だという声もあります。給気口は開閉できますが、閉じてもいいのでしょうか。
「台風のときは雨が横流れで入ってくる場合があるので、よほどのときは閉じてもいいです。ただし給気口は開けておくことが基本です。台風がおさまったらすぐに開けてください。特に梅雨どきや寒いときにずっと閉めておくときちんと換気できず結露する可能性もあるので、注意してください」(パナソニックエコシステムズ)。開き具合を調節できるタイプは、気温や天気に合わせて調節するといいでしょう。
近所の工事の音や、車やバイクの音などが給気口から入って聞こえるのがうるさくて気になる場合は、どうしたらいいのでしょうか。
「音がうるさいというのは人によって感じ方が違います。気になる場合は、防音フィルターや防音スリーブ(パイプ)などをはめる方法もあります。ただし、防音スリーブなどを設置すると、パイプの中を通る空気の量が減って換気効率が下がる場合がありますし、性能もさまざまなので注意が必要です」と佐川さん。
「屋外につけるパイプフードの内側に吸音材を貼って、環境騒音などの音の侵入を低減するタイプがあります。部屋に騒音を入れないようにすると同時に、ピアノの音や赤ちゃんの泣き声などを外に漏らさない効果があります」(パナソニックエコシステムズ)というように、幹線道路や高架線の近くの新しいマンションなどでは、吸音材付きが採用されている場合もあります。
また、「換気扇を回すと玄関の扉が重くなるような気がする」という声も聞きます。
「排気と給気は同じ量だとバランスがいいのですが、例えばキッチンで調理をするときにレンジフードを「強」で運転すると室内の空気を外に出す量が多くなり、気圧の差で扉が重くなり開かなくなることがあります。そういうときは、まず給気口が閉じていないかを確認してください。給気口が開いていても扉が重い場合は給気のための開口面積が足りていない状態なので、場合によっては窓を開けて空気を入れてください」(パナソニックエコシステムズ)
佐川さんは「気密性が高いマンションでは、外の音が気になったり、扉が重くなることもありますが、給気口を開けっぱなしにしておくことと24時間換気システムを常時活用することが結露やカビの繁殖を抑え、住まいを長持ちさせるためにも大切です。
特に新築マンションでは、涼風、暖房機能などがプラスされた多機能な換気扇が多く設置されているので、そういったプラス面も考えながらうまく活用するといいのでは」と教えてくれました。
自分や家族、そして住まいの健康のために、室内の空気をキレイに保つ換気は大切です。給気口・換気扇のすべてを常に作動させておき、定期的にお手入れをすることで、24時間換気システムを最大限有効に活用できます。健康と空気の関係を見直して、クリーンでさわやかな空気をキープして、気持ちのいい毎日を過ごしましょう。
24時間換気設備の義務化は、住まいの高気密化によるシックハウス症候群対策が目的
24時間換気システムは常に作動させ、連動する給気口も開けておく
しっかり換気をするために給気口・換気扇の掃除とメンテナンスが重要