家で過ごす時間が増えた今、リビングから見えるベランダに緑や花にあふれていたら癒やされることでしょう。そこで、マンションで気軽におしゃれなベランダガーデニングを楽しむためのノウハウと注意点、施工例を紹介します。
身近な場所に観葉植物や花がひとつあるだけでも気持ちが癒やされるものです。専用庭のあるマンションの1階や、広いルーフバルコニーがある住戸でなくても、ベランダがあればガーデニングが楽しめます。
「選ぶ植物で南国風に演出したり、ミニトマトなどの野菜を育てて季節を感じたり、いろいろな楽しみ方ができるのがベランダでのガーデニングのよさ。マンションならではの制約はありますが、高層階だと虫がつきにくいので育てやすいなどのメリットもあります」と、ベランダガーデニングやルーフガーデニング、インテリアガーデニングの専門ブランド「ブルームフィールド」のYoshinoさん。まずは、マンションのベランダでガーデニングをするメリットを紹介しましょう。
室内で切り花や植木を置くだけでも癒やされますが、ベランダでのガーデニングでは大きめのプランターで植え替えをして土の感触を楽しんだり、植物が風に揺れる様子を眺めたり、自然をより身近に感じることができます。おうち時間が長い今、日常的に目に触れる場所に緑があることで暮らしに潤いが生まれます。
戸建ての広い庭でガーデニングを始める場合、植物の選び方やレイアウトで悩みがち。でも、ベランダの場合は、育てたい植物のプランターをひとつ置くところからスタートして、少しずつ植物を増やしてもいいですし、レイアウトの変更もしやすいメリットがあります。
ベランダでは、ミニトマトやネギなどを育てて、摘んだ野菜をそのまま食卓で使うことができます。子どもにも野菜づくりに参加してもらえば、好き嫌いの解消につながるかも。
ゴーヤなど、つる性の植物を育てることで夏の直射日光を遮ることができます。また、ベランダのフェンスのそばに大きめの植物を置くことで向かいのマンションからの視線を遮る効果もあります。
マンションでのガーデニングは手軽に楽しめる半面、マンションならではの制約があります。
「ベランダ(バルコニー)は住戸の延長にあるスペースですがマンションの共用部分。その住戸で専用に使用できるというだけで、住戸の所有者に所有権はありません。ですから勝手に改造したりできませんし、マンションのルールに沿って使用することが必要です」と住宅ジャーナリストの大森広司さん。
ベランダは火災や災害時などのための避難経路ですから、避難はしごがあるハッチや隣の住戸のベランダとの間にある蹴破り戸(隔て板、間仕切り板)は常に使えるようにしておかなければなりません。
「避難経路としての役割を損なわないよう、ハッチや蹴破り戸はプランターや物置などを置くことはNGです」(大森さん)
「マンションは10年~10数年に1度、大規模修繕が実施されます。その際、ベランダに置かれたものはすべて撤去しなくてはなりません。大きなテーブルや椅子、たくさんのプランター、ウッドデッキやタイルを置いている場合は撤去作業が大変です。撤去したものの置き場所に困ることにもなります。近々、大規模修繕を控えているマンションなら、大規模修繕が完了してからベランダガーデニングを始めたほうがいいでしょう」(大森さん)
そのほか、大量の水を撒いて階下のベランダを水びたしにしたり、葉や土で排水管を詰まらせたりしないよう、注意する必要もあります。また、プランターをつり下げるのに便利なラティス(格子状のフェンス)の設置が、管理組合のルールで認められていない場合や、管理組合の許可が必要なこともあります。
「虫の発生や臭いの強い植物などは近隣住戸からのクレームのもと。ベランダでガーデニングを始めるときは、管理人(管理員)や管理会社、管理組合に、どんなプランターでどんな植物を育てたいかを相談しておくといいですね」(大森さん)
ベランダの床面に、直接土を盛ることはほとんどのマンションのルールで禁止されています。そのため、プランターや植木鉢で植物を育てることになりますが、その選び方にも注意が必要です。
「ベランダのガーデニングではフェンス側にプランターなどを置くことが多いのですが、小さなプランターをたくさん並べると、フェンスに沿って設けられている排水溝のお掃除がしにくくなります。また、小さなプランターは保水力が弱く、毎日の水やりが大変です」(ブルームフィールド・Yoshinoさん、以下Yoshinoさん)
大きめのプランターなら、掃除の際の移動の手間が少なくなるほか、土量が多く保水力が強いため水やりの回数を少なくできます。重さがあるため風が強い日でも転がりにくいメリットも。ただし、自力で動かせないほどの大きさや重さのあるプランターは、ベランダや排水溝の掃除がかえって大変になりますから注意。
また、土選びもポイント。
「近年、園芸用に販売されている土はどんどん軽量化してきています。地上でのガーデニングにはよいのですが、高層階にあるベランダで軽すぎる土を使用すると、風の強い日に土が飛んで排水溝や排水管を詰まらせる原因になったり、植物が倒れたりします。台風の日でも土や植物が飛ばないよう、ベランダのガーデニングでは根を抑える力のある土で、保水力と排水性を兼ね備えたものが適しています。園芸用品店などで手に入らない場合は、通販を利用するといいでしょう」(Yoshinoさん)
マンションのベランダは、1階の専用庭や戸建ての庭とは環境が異なります。そのため、環境に合った育てやすい植物を選ぶことが大切なポイントです。
「マンションのベランダは高層階になるほど風が強く乾燥ぎみ。その一方で真夏には上から照りつける太陽光の反射熱で高温になります。地上とは違う植物選びがポイントになります」(Yoshinoさん)
そこで、さまざまな条件別に、育てやすい植物を紹介しましょう。
・オリーブ
・ドドナエア
・ギルドエッジ
「風が強く乾燥する地中海産の植物、オリーブは葉の色がグリーンのほかシルバーのものもあり、育てやすいだけでなく色も楽しめます。また、銅色の葉をしたドドナエアや黄色い班入りのグミ科のギルドエッジは乾燥に強く、グリーンの植物の中に入れると見栄えがします」(Yoshinoさん)
「そのほか、ハーブ系植物も乾燥に強く、風に飛ばされにくいのでオススメです。花や香りを楽しむだけでなく、料理や入浴剤に使えるものも。ラベンダーやローズマリー、タイムなどを育ててみるといいですね」(Yoshinoさん)
・ゴムの木
「ゴムの木の仲間は日差しに強く扱いやすい観葉植物。夏は日当たりのよいベランダに出してあげるといいでしょう。意外ですがヤシ系の植物は直射日光に弱いため、ベランダで育てるよりも室内で楽しむのがオススメです」(Yoshinoさん)
・カラーリーフの植物(ドドナエア、ギルドエッジ、コルジリネなど)
・1年草の花
「植物の葉は、緑だけでなくシルバーや銅色、赤色、黄色、なかにはショッキングピンクのような色合いのものも。花の開花時期は春から秋が多いですが、カラーリーフは一年中楽しめます。緑の葉の観葉植物にカラーリーフ系の葉の植物を合わせるのがオススメです。乾燥に強いドドナエアやギルドエッジなどのほか、コルジリネは枯れた葉が自然に落ちないため排水管を詰まらせたり、隣の住戸に飛んでいったりしないためベランダ向きです。花を使う場合は、気に入った1年草の花を買ってきて植え替えれば、毎年違うデザインの寄せ植えが楽しめます」(Yoshinoさん)
ベランダでは洗濯物を干したり、エアコンの室外機を置いたりします。つまり、生活感のある場所。おしゃれなレイアウトやデザインでガーデニングをしたくても、物干スペースや室外機が気になります。
洗濯物を干すのはベランダのなかでも特に日当たりと通風のよい場所で、植物を育てるにもぴったり。とはいえ、ガーデニングでスペースをとられて、洗濯物を外に干せないというのももったいないですね。
「フェンスに設置した物干金物がコンパクトに折り畳めるタイプであれば、昼間は洗濯物を干す場所として活用し、夕方以降は椅子やテーブルを出し、照明を置いて、植物に囲まれながらお酒や食事を楽しむという使い方ができそうです」(Yoshinoさん)
また、エアコンの室外機は木製やアイアン製などの室外機カバーをすることでガーデニングの雰囲気になじませることができます。ただし、エアコンの使用中は室内の熱を外に逃がすために空気の通り道が必要ですから、カバーをはずしておくのが無難です。
リビングに面したベランダに植物だけでなく、椅子やテーブル、カウンターを置くと、本格的なガーデニングを楽しめるだけでなく、アウトドアリビング(オープンリビング)として楽しむことができます。リビングと色合いの近いウッドデッキを敷くことで、リビングとベランダがひとつづきの空間になり、開放感もアップします。
ポイントはベランダの椅子や、リビングの椅子に座ったときの視線の高さに植物を配置すること。ベランダの向こうの景色や空を背景に、ゆったりとくつろぎながら花やグリーンを眺められます。
椅子は、雨や風の日には室内に収納できるよう折り畳みタイプが便利です。
水の流れるやさしい音が聞こえると癒やされるもの。ベランダガーデニングでは、循環ポンプ付きの水盤などを設置することで、涼しげな演出ができます。水は水盤内で循環するためベランダに水栓は不要。さまざまなデザインの水盤や小さな噴水がホームセンターなどで販売されています。
写真は、水が流れるつくばい(手水鉢)をプランターに設置することで、和テイストを感じさせるベランダにした例です。
ベランダは限られたスペースだからこそ、気軽にガーデニングを始められる場所。まずはプランターひとつからスタートして、少しずつ自分好みの庭に育てていくのもオススメです。
マンションのベランダでのガーデニングは管理組合のルールによる制約がある
風や乾燥に強い植物選びや、風に飛ばされない土選びがポイント
テーブルや椅子など植物以外のグッズでくつろげる空間にするのもオススメ