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猛暑が続く夏は熱中症の危険を避けるために、寒さの厳しい冬は体調管理のためにと、もはやエアコンなしの生活は考えられません。マンションでエアコンは増設できるのか、増設する場合の条件や手続きなどを、建築家の佐川旭さんに教えてもらいました。

エアコンは室内機と室外機がセットで、壁を通る配管パイプでつながっています。エアコンの室内機と室外機にはそれぞれ熱交換器が内蔵され、交換された熱を、配管パイプの中に充填された「冷媒(れいばい)」が運んでいます。
夏の冷房時は、室内機の熱交換器が部屋の暑い空気(熱)を取り出し、配管パイプを通って室外機へ運ばれます。室外機の熱交換器は熱を取り除き、冷やされた空気は室内機へ運ばれ、熱は大気中に排出されます。室内機で室内の温かい空気は冷やされることで発生した水(結露水)、ドレンホースを通じて屋外に排出されます。
暖房運転時は、冷房運転と熱の動きが逆になりますが、配管パイプの中の「冷媒ガス」が熱を運ぶ仕組みは同じです。

エアコンを取り付けるには、室内機と室外機、両機をつなぐ配管パイプと排水ホースが必要です。マンションにエアコンを設置する際には何が必要なのでしょうか。「壁に配管用の穴があることと、室外機を置くスペースが必要です」と、建築家の佐川旭さん。以下、エアコンを設置する場合に必要な条件をまとめました。

エアコンを設置するには、冷媒が通る配管パイプ、連絡電線、水と排出するドレンホースを通す穴(エアコンスリーブ穴)が必要です。穴は天井に近い壁にあるのが一般的です。

マンションで室外機を設置する場所の条件は以下の通り。
なるべく室内機に近い屋外で、基本的には室内機を設置した壁の真裏側に設置します。バルコニー(ベランダ)か開放廊下が一般的です。
通気を確保するために、室外機の周りに十分なスペースを確保します。十分なスペースが取れなかったり、吹き出し口の前に障害物などがあると、エアコンの効きにも関わる場合があります。室外機の後方は5cm以上、前方に20cm以上といった必要なスペースが、メーカーや機器ごとに決められています。また、室内機も同様に、機器の周囲に一定のスペースが必要です。
マンションにエアコンを設置するためには「配管用の穴」と「室外機置き場」が2大条件ですが、その他にも電気関係が重要です。

エアコンは、一般的なコンセントは原則使用できず、エアコン専用のコンセントが必要です。エアコン専用コンセントのプラグ穴は3つ穴など、通常のコンセントと形状が違います。穴の形状は、電圧と電流により異なります。
エアコンの専用回路はあるか?
エアコンは他の家電と比べて多くの電力が必要で、安全上、エアコンの専用回路が必要です。エアコンの専用回路は、他のコンセントや電気器具と共用ではなく、ブレーカーと1本の配線で直接つながっています。分電盤を見て「エアコン」「AC用」と書いてあれば、エアコン専用回路です。
エアコン専用のコンセント・回路を使用しないと、ブレーカーが落ちたり、感電や火災につながり危険です。エアコン専用の回路・コンセントがなく増設する場合は、電気工事士の資格者(専門業者)による専用回路工事を行わなければならず、回路数が不足している場合、さらにブレーカーの交換や増設が必要になる場合があります。

エアコンを快適に運転するために必要な電気容量は機種によって異なりますが、40A(アンペア)以上は必要です。分電盤で電気容量を確認し、契約電流が30A以下の場合は電気容量の見直しが必要です。
また、配電方式は、100V(ボルト)しか取れない「単相2線式」と100 V も200 Vも利用できる「単相3線式」があります。家庭用エアコンは100Vまたは200Vなので、200Vのエアコンを取り付ける場合は「単相3線式」が条件。分電盤(ブレーカー)のアンペアブレーカーに3本の線(赤、白、黒色が一般的)が引き込まれていれば「単相3線式」で、家庭用エアコンの設置に問題はありません。
マンションにエアコンが設置できる条件を見てきましたが、新築マンションではエアコンを設置する際は何を確認すればいいのでしょうか。「新築マンションの場合、リビング、寝室などすべての居室にエアコンが設置できるよう設計されています」と佐川さん。「また電気容量も50A位で、エアコン専用コンセントや専用回路も用意されているので問題ありません。エアコンを全部屋に設置できるでしょう」
一方中古マンションでは注意が必要な場合もあります。
「まだエアコンが普及していなかったころに建てた築25年以上の中古マンションでは、エアコンを設置することを想定していない部屋があり、すべての居室に設置できるとは限りません」とのことで、中古マンションは確認が必要です。
そもそも、マンションで、エアコンを設置・増設するには、壁に配管用の穴(エアコンスリーブ)があることが条件ですが、穴が開いてない場合は壁に穴を開けて増設することはできるのでしょうか。

「マンションの壁は区分所有者が単独で所有している専有部分ではなく、共用部分です。マンションの区分所有者全員の共用物なので、自由に穴を開けることはできません。共用部分を変更するには、マンションの管理組合の許可を取らなければならないのです。集会の特別決議で、区分所有者および議決権総数の4分の3以上の賛成があれば承認されますが、許可されない場合も少なくありません」と佐川さん。
壁に限らず、開放廊下やベランダも共用部なので、勝手に配管工事はできません。管理組合の許可をとらずに穴を開けた場合は、原状回復(穴をふさぐこと)を求められるケースもあるので無断で行わないようにしましょう。
しかし、「管理組合で許可をもらえたとしても、壁に穴を開けることは難しいと思います」と佐川さん。その理由は、エアコンの穴を開けるには、管理組合の承認を得ること、構造壁ではなく雑壁かどうかの確認、壁の中の鉄筋の位置の検査という3つのハードルがあることです。
「穴を開けるとしたら、建物を支える構造壁ではなく雑壁になりますが、構造壁と雑壁の違いは一般にはわからないので、構造設計事務所にチェックしてもらう必要があります。
さらに、鉄筋コンクリート造りの壁の中には鉄筋が入っています。鉄筋は建物の強度に関わるため、鉄筋を切らないように鉄筋の位置を調べてから穴を開ける必要があります。鉄筋の位置を調べるには、マンションを建設した工事会社に依頼して、X線探査と呼ばれる非破壊検査を行いますが、10万円位かかります」

天井などに埋め込まれたビルトインエアコンは、室内がスッキリ見えてインテリア性も高く、リフォームしたいと思う人もいるのでは。しかし、「あらかじめビルトインエアコンがついていた場合はエアコンだけ交換するだけですが、ゼロからビルトインエアコンを設置することはほとんど不可能だと思います」と佐川さん。
「天井の構造にもよります。直天井(じかてんじょう)は天井スラブに仕上げ材を貼ったもので、天井裏に空間がなくエアコンの埋め込みはできません。二重天井の場合は、天井スラブの下にある空間がエアコンを埋め込むのに十分なスペースがあるか、専用の配線を通せるかという問題もあり、増設は難しいでしょう」と、こちらもハードルは高そうです。
これまで、エアコンを設置するのに必要な条件などを見てきましたが、条件がそろわない場合はエアコンの設置は不可能でしょうか。それでも「どうしてもエアコンがほしい」という場合、エアコンの代わりになるものとして、ウインドエアコン(窓用エアコン)、ポータブルクーラーがあります。いずれも、壁穴が不要で室外機がなく、施工業者による取付工事はありません。
・ウインドクーラー・ウインドエアコン
窓の内側にはめこむクーラー(エアコン)で、比較的簡単に設置できます。
佐川さんによると「開放廊下側に設置するのであれば、窓の外は共用部になるため、許可が必要な場合があります。窓の外見にも関わり景観を壊すという理由で設置が許可されない場合もあります」とのこと。あらかじめ、管理組合に確認しましょう。
・ポータブルクーラー
タンクに水を入れ、水が蒸発するときの気化熱を利用して部屋を冷やします。加湿、除湿、空気清浄機能を兼ね備えた機器もあります。ハンディタイプはコンセントのみでどこにでも設置できますが、窓に窓パネルを取りつけ、穴に排気ダクトを通すポータブルクーラーは、窓に近い場所に設置が可能です。窓パネルを取りつけると窓の鍵がかからないため、防犯面の心配があります。夜は窓パネルを外して鍵をかける必要があるでしょう。
エアコンの設置条件を満たさないマンションにエアコンを後付けするには、壁の調査や費用、時間もかかります。将来、家族が増えたり、在宅勤務になるなど、想定外のことがあったり、部屋の使い方が変わることもあります。さらに、十数年後にリフォームしたくなるかもしれません。
「この部屋は納戸にするから大丈夫」など、現時点での使い方だけを考えるのではなく、今後のライフサイクルやリフォームの可能性なども長い目で見て、マンションを選ぶのがオススメです。

マンションにエアコンを設置するには、壁に配管用の穴、室外機を置くスペースが必要
壁に配管用の穴を開ける場合、管理組合の承認を得なければならない
壁に穴を開けるには、専門家による壁の調査などが必要で、費用と手間がかかる
将来エアコンをつけられるか、なども視野に入れたマンション選びが重要