マンションの住人が快適に暮らせるように、それぞれのマンションには管理や使用に関するルールを定めた規約があることをご存知でしょうか。ルールの内容を知らずに暮らしていると、思いがけないトラブルが発生する可能性もあります。マンション管理見直し本舗の村上智史さんにお話を伺い、管理規約の内容や確認方法、法的効力について解説します。
「マンションの管理規約と密接に関連した「建物の区分所有等に関する法律」(以下、「区分所有法」)というものがあります。区分所有法とは、建物の区分所有者および居住者の権利や財産を守ることを目的に制定された法律です。この区分所有法に基づいて国土交通省が作成したマンション管理規約の指針となるものが、マンション標準管理規約です。
昭和57(1982)年に国土交通省(旧・建設省)が「中高層共同住宅標準管理規約」を作成し、マンション管理のガイドラインとしました。その後、数年ごとに改正を重ね、平成16(2004)年には現在の「マンション標準管理規約」という名称になりました」(村上さん、以下同)
また、マンション標準管理規約には、1つの敷地に1棟の建物の場合の「単棟型」、複数の建物がある場合の「団地型」、店舗や事業スペースを併用した場合の「複合用途型」の3種類が存在します。
「各マンションの管理規約は、マンション標準管理規約をもとにマンション管理組合によって作成されるのが一般的です。区分所有法は法律ですが、管理規約はマンション管理のルールブックです。区分所有法の枠の中で、各管理組合ごとに作成しています」
マンション標準管理規約はあくまでも「指針」であり、必ずしもその内容どおりに各マンションの管理規約を作成する必要はありません。また、管理規約の対象者は区分所有者全員であり、区分所有者から賃貸借をしている入居者も管理規約を守る義務があります。
管理規約には、管理組合運営に関する事項や共用部分の範囲などが記載されています。管理規約で示される規定は、主に以下の3種類に分類されます。
「管理規約の変更や廃止、共用部分の変更、建て替えなどに関する重要な議案について、一定数以上の議決を取って可決することを特別決議といいます。例えば、管理規約の変更や廃止には特別決議組合員数および議決権総数の4分の3以上の賛成が必要です。また、建て替えの決定には5分の4以上の賛成が必要になります。こういった特別決議に関する内容および数字は区分所有法で定められており、管理組合が自由に変更・調整ができない強行規定となります」
「共用部分の持分割合や共用部分の管理、集会招集通知の期間などは区分所有法が定める範囲で調整を行うことが可能です」
「特に法的な制限がない内容もあります。理事会の設置や理事の人数、駐車場・集会室の使用方法などは管理組合ごとに自由に決めてよい内容とされています」
管理規約が適用される範囲は建物(専有部分、共用部分)、敷地、付属施設になり、専有部分、共用部分がどこなのかは管理規約に記載されています。
「一般的に共用部分とはエントランスや共用廊下、エレベーター、駐車場などを指します。
専有部分とは区分所有者が所有する部屋の中のことです。
ここで注意しなくてはいけないのが、専用使用権のある共用部分についてです。例えば、バルコニーや専用庭、窓や網戸は専有部分だと思われがちなのですが、実は専用使用権のある共用部分にあたります。そのため、区分所有者ではなく管理組合が監督する場所になり、所有者が勝手に修繕や塗装、交換、タイルの張り替えなどを行うことは禁止されています」
マンションの管理や使用に関するルールには、管理規約のほかに使用細則というものがあります。
管理規約がマンションの管理や使用に関する決まりごとであり、憲法のような存在であるのに対し、使用細則は憲法を土台とした民法のような位置付けです。
使用細則には管理規約よりもさらに具体的な内容が記されています。
例えば、管理規約では修繕積立金を積み立てる旨が記載されていますが、使用細則では修繕積立の納入方法や未払いの際の罰則について決められています。
「管理規約の内容は基本的には誰でも閲覧することができます。区分所有者であれば、購入時に分譲会社等から管理規約の写しを配布される、もしくは前所有者から引き継ぐのが一般的です。また、管理規約の内容に改正があった場合、区分所有者に対し変更内容の通知があるはずです。
また、中古マンションを検討中の段階に管理規約を閲覧することは可能です。マンションに管理室があれば、通常はそこで管理規約の原本を保管しています。原本を確認したい場合は、購入を相談している不動産会社からマンションの管理会社に連絡を取る方法が一般的です。管理室では管理規約のほかにも総会議案書や議事録等を保管しています。これらを確認することで、どのように総会が行われているのかや、どのような意見が出ているのかなどを知ることができます」
マンション標準管理規約は、時代の変化に伴い変更されることがあります。
「マンション標準管理規約が改正されたからといって、各マンションの管理規約の改正が義務付けられているわけではありません。マンション管理規約を改正するためには管理組合が議案を検討し、総会を開き、一定数以上の議決を取らなくてはいけません。そのためマンション管理規約改正までの道のりは決して容易とはいえないのです」
ここで、マンション標準管理規約の過去の主な改正内容を見ていきましょう。
平成29(2017)年に、住宅宿泊事業法の成立に伴いマンション標準管理規約が改正されました。分譲マンションにおける住宅宿泊事業(民泊)をめぐるトラブルの防止のために、住宅宿泊事業を可能とする場合と禁止する場合の双方の規定例がマンション標準管理規約に示されています。
マンションの管理の適正化の推進およびマンションの建て替え等の円滑化に関する法律の改正、そして新型コロナウイルス感染症拡大といった社会情勢の変化を踏まえ、管理組合におけるITを活用した総会・理事会のルールが明確化されました。
ITを活用した総会・理事会や置き配を認める際の留意事項、専有部分配管の工事を共用部分配管と一体的に行う際の修繕積立金からの工事費の拠出について、必要な規定が整備されています。
「管理規約は法律ではありません。しかし、先述したように管理規約の中には区分所有法どおりにしか定めることが許されていない内容が記されています。また、管理規約に記載された内容は裁判のときに有効に働きます。管理規約は管理組合の権利と財産を守るものといえます。そういったことから、管理規約に定められた内容には法的効力があるといってもよいでしょう。
具体的には、管理費の滞納をしたときに遅延損害金を請求できることや、迷惑行為や長期滞納の際には強制競売を求めることができるといった内容です。こういったことは管理規約に記されているからこそ可能であり、法律によって執行されます」
建物の毀損や危険物の持ち込み、管理費滞納などは規約違反となります。
「管理規約に違反したからといってすぐに法律違反になるわけではありません。まずは違反行為の停止などの請求(区分所有法57条)から始まり、それに応じない場合は専有部分使用禁止請求(区分所有法58条)、それでも改善が見られない場合、競売請求(区分所有法59条)となるのが一般的な流れです」
競売とは、管理組合が区分所有者に対して専有部分の競売を裁判所に訴えて請求することをいいます。管理組合が競売を申し立てるには、裁判による判決が必要となります。
つまり、管理規約違反をし、注意に応じなかった場合は所有者・入居者の意思に反して強制的に退去を命じられる可能性があるということです。
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「マンションの管理規約は、区分所有者たちからなかなか関心が向けられていないというのが実情です。しかし、安心で快適な日常生活を送るためにも、ぜひ意識を向けていただきたいものです。自身が管理組合の役員にならないのであればなおさら、管理をお願いする立場になるわけです。総会の議事録や議案書をしっかりと読み、現在の規約がどうなっているのかを確認してみましょう。それらを確認することによって、マンションの管理組合の運営が適切になされているのか、意見交換が活発に行われているのかが見えてきます。
管理規約が何度も改正されているマンションは問題があるのでは?と感じるかもしれませんが、実態に合わせてこまめな改正が実施されているマンションはそれだけ丁寧な管理・運営がされているともいえます。管理組合に管理を丸投げするのではなく、所有者一人ひとりが管理規約に意識を向け、自身で意思決定をしようという姿勢でいることが大切です」
管理規約はそのマンションの住みやすさを左右するものでもあります。自分の暮らしにも関わる内容なので、ぜひ一度チェックしてみてください。
マンション管理についてもっと詳しく
→マンション管理とは?管理会社だけに任せず、管理組合でマンションの価値を維持するには?
マンション標準管理規約とは国土交通省が作成したマンション管理規約のガイドラインのこと
管理規約の内容は、強行規定、区分所有法の範囲で調整可能な規定、管理組合の裁量で決められる内容の3種類がある
管理規約は誰でも閲覧することが可能。多くの場合はマンションの管理室に原本を保管
管理規約自体は法律ではないが、区分所有法に基づいて定められた内容は裁判のときに有効
管理規約に違反して注意に応じない場合、退去を命じられる可能性がある
約26年間不動産ディベロッパーに勤務し、マンションの管理組合理事長を10期以上務めた実経験から
マンション管理組合が抱える負や課題の解決や資産価値の向上を事業目的として起業。
「不動産のプロ」と「マンションの住人」の目線を持ち、管理組合をサポートしている。
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