令和4年(2022年)度の税制改正が施行され、住宅ローン減税の控除期間や控除率などが盛り込まれました。この記事では、「住宅ローン減税」の最新情報に関する適用要件や手続きなどを、数字や法律が苦手な人にもわかりやすく紹介。さらに、中古住宅、繰り上げ返済、ふるさと納税利用者など、住宅ローン減税の気になることについて、税理士の鎌田裕次郎さんに教えてもらいました。
よく耳にする「住宅ローン減税」とは、正式には「住宅借入金等特別控除」といい、「住宅ローン控除」とも呼ばれています。住宅ローンの金利の負担を軽減する制度です。
そもそも、「住宅ローン減税」とは何でしょうか。住宅ローンを借りて、マイホームを新築・購入、増改築等をする人は、年末調整もしくは確定申告により、年末(12月31日)時点での住宅ローン残高の一定割合が、一定期間、所得税から還付、つまり税金が安くなる制度です。
ただし、所得税だけで控除しきれない場合は、住民税からも控除が受けられます。
還付とは、年末調整で計算した1年間に納める必要がある所得税額より実際に納めた税額が多い場合、払い過ぎた金額が返還されることです。
会社員など給与所得者は、毎月の給与から源泉徴収されているので、原則として確定申告をする必要がなく、所得税を払い過ぎている場合は年末調整により税金が「還付」されるのです。
給与所得者でも、副収入が年間20万円を超える人、年収が2000万円を超える人など一定の条件に当てはまる場合は確定申告を行う必要があります。また、住宅ローン減税を初めて利用する人も確定申告を行う必要があります。
一方、個人事業主やフリーランスなど、事業をしている人は、確定申告をすることで一定の金額が税金から差し引かれ、税金が減額されます。これを「控除」と言います。
令和4年(2022年)度の住宅ローン減税のポイントは、以下の3点です。
令和3年度まで1%だった控除率が、令和4年度より0.7%となります。
住宅ローンの年末残高の0.7%が控除される期間は、2022年から2023年までは最長13年間になります。(中古住宅の場合は従来通り10年間)
適用対象者の所得要件を合計所得金額3000万円以下から2000万円以下に引き下げられました。
さらに、政府は「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質0にする」(出典:国土交通省)という目標に向け、住宅分野での取り組みを強化する方針を示しています。この方針を受け、住宅分野では以下2つの改正を行います。
1. 改正前は、新築住宅については「一般の住宅」と「良質な住宅(認定住宅)」に分けて限度額を計算していました。しかし改正後は、「良質な住宅」についてのバリエーションを増やし、住宅性能に応じた借入限度額の見直しを行い、借入限度額も上乗せされました。
2. 2024年以降は、新築住宅については「良質な住宅」でなければ住宅ローン控除を受けられなくなります。
「住宅ローン減税」を受けられるのはどんな人でしょうか。住宅ローンを借りて、新築住宅(建売住宅・マンション)を購入した人、注文住宅を建てた人です。また、中古住宅を購入した人、一定規模以上の増改築・リフォームなどを行った人も対象になります。「実際に申請する人は少ないですが、耐震改修、省エネ改修、バリアフリー改修、修繕や模様替えを行った人も対象になる場合があるので、適用になるかどうかは、住宅の販売会社や依頼業者等に確認しましょう」(鎌田さん)
さらに、「住宅ローン減税」が受けられる主な要件は以下のとおりです。
要件1 住宅ローン減税を受ける人が自ら居住する
住宅の引き渡し、または工事完了から6カ月以内に、住宅ローン減税を受ける人自身が住むこと(投資目的の物件は対象になりません)。賃貸用住宅、別荘、セカンドハウス、親や子どものために建てた住宅で、自分が住まない場合は対象となりません。実際に本人が居住しているかどうかは住民票で確認されます。
要件2 住宅ローンの借入金の返済期間が10年以上
要件3 合計所得金額(※)が2000万円以下
夫婦が別々に借りるペアローンの場合、所得はローンを組む人それぞれで判断するため、各人の合計所得金額(※)が2000万円以下であることが要件。
要件4 床面積は原則50m2以上。所得1000万円以下の方は40m2以上(令和5年までに建築確認を受ける新築住宅の場合)
対象となる住宅の床面積は原則50m2、ただし、合計所得金額(※)が1000万円以下の人に限り40m2以上50m2未満でも対象になります。床面積は、不動産登記上の床面積のことなので、登記簿で確認しましょう。但し、住宅の一部を店舗や事務所などで事業の経費としている場合は、床面積の2分の1以上を自己の居住用として使う場合に限ります。
要件5 増改築・リフォームの場合の追加要件、工事費が100万円超
増改築・リフォームの場合も要件1~4は共通。ただし、要件4の「床面積の2分の1以上が自己の居住用」の部分は、「増改築・リフォーム費用の2分の1以上が自己の居住用」となります。増築する床面積についての条件はありません。
他に、契約・入居時期の要件があります。(後述)
※合計所得金額とは?
合計所得金額とは、給与所得、事業所得などに、土地や建物、山林などを譲渡した場合の所得、公的年金等に係る所得、利子、配当、退職金に係る所得(非課税所得を除く)などすべての所得の合算になります
収入と所得は違います。個人事業主の場合、収入から、収入を得るために使った仕入れ代金や諸経費などを差し引いたものが事業所得です。会社員の給与所得は、給与収入から会社員としての経費である給与所得控除を差し引いたものです。所得税は所得をベースに計算します。
給与収入のみの場合、要件3の「合計所得金額が2000万円以下」とは、年収の額面が2195万円以下、要件4の「合計所得金額が1000万円以下」とは、年収の額面が1195万円以下となります。控除額は年収により決まっていて、給与所得控除の上限は195万円です。給与収入から給与所得控除を引くと給与所得になります。
参考:「給与所得控除」(国税庁)
中古住宅、中古マンションを購入した場合も「住宅ローン減税」の適用を受けられます。ただし、既存住宅の築年数要件(耐火住宅25年以内、非耐火住宅20年以内)については築年数要件が廃止され、「1982年以降に建築された住宅」(新耐震基準適合住宅)に緩和されました。(登記簿上の建築日付が1982年1月1日以降の家屋については、新耐震基準に適合している住宅の用に供する家屋とみなす)
また、
(1)新耐震基準適合証明書がある
(2)既存住宅性能評価書で耐震等級1以上が確認できる
(3)既存住宅売買瑕疵保険に加入している
のいずれかで、現行の耐震基準に適合していることが要件になります。
(3)の既存住宅売買瑕疵保険とは、中古住宅についての欠陥を保証する保険です。中古住宅を購入する際、不動産会社等から住宅ローン減税について案内がありますが、自分からも確認するといいでしょう。
土地のみを購入する場合は「住宅ローン減税」の対象になりません。ただし、住宅取得と同時期に土地を取得して住宅を新築する場合、先に土地を購入し、2年以内に住宅を新築する場合の土地購入のためのローンは対象になります。
また、注文住宅を建てる場合で住宅建築と別に土地購入を単独で住宅ローンを組んだ場合は、土地に関する住宅ローン減税の期間は13年延長には該当せず、控除期間が10年間となります。
リフォームも工事費が100万円を超える場合は「住宅ローン減税」を受けられますが、リフォーム減税との重複利用はできません。比較して有利な方を申請しましょう。
「住宅ローン減税」が受けられる対象住宅かどうかは、居住を開始した日で決まります。ただ、令和4年度の税制改正により、新築住宅と買取再販住宅の場合、住宅性能と入居年により、控除を受けられるローン残高の上限が変わるので注意が必要です(詳細は後述)。
「住宅ローン減税」を受けるためには、入居した年の翌年に確定申告をする必要があります。
・初年度の手続き
「住宅ローン減税」は、住所地等の管轄の税務署の受付に必要書類を提出し、確定申告(還付申告)をします。税務署への時間外収受箱への投函・郵送も可能、また自宅から国税庁のホームページにアクセスし、確定申告書作成コーナーから申請書を作成して電子申告(e-Tax)もできます。
会社員など給与所得者は自分で確定申告をしない人が多いと思いますが、税務署で確定申告を行わないと住宅ローン減税の控除を受けることができないので、遅れないように必ず申告しましょう。
確定申告は住宅を取得し入居した年の翌年に、原則として2月16日から3月15日に行います。個人事業主などは、一般の確定申告と併せて行います。還付申請のみであれば、1月から申請ができます。
●給与所得者が行う住宅ローン減税(住宅借入金等特別控除)の申告手続きは、一生に何度もあることではないので、知識として覚える必要はないと思います。自分で作成する場合は、国税庁のホームページ内に書類の作成方法(記載例)があるので、見ながら記入していくとスムーズにできると思います。ただし苦手な方もいて、「どこの数字をどこに書いたらいいの?」と質問されることは少なくありません。そういうときは、金融機関や不動産会社に聞いて教えてもらいましょう。
提出する書類は、「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書(提出用)」です。国税庁のホームページからもダウンロードできます。
計算明細書に添付する書類は、いずれも適用要件を満たしていることを確認する書類で、適用する控除の種類により異なります。
大きく分けて、
(1)一般住宅
(2)認定住宅(認定長期優良住宅、低炭素建築物)
(3)中古住宅
の3種になります。また、税務署などに出向いて確定申告を行う場合と、国税庁のホームページから書類を作成して送る場合では、必要書類が異なります。早めに必要書類をそろえておくといいでしょう。
確定申告についてもっと詳しく
住宅ローン控除を受けるために確定申告は必要!初年度と2年目の必要書類は違う?
●税務署などに出向いて「住宅借入金等特別控除」を申請する場合、必要書類のチェックシート付きの提出用の封筒が税務署に用意されています。提出書類を確認しながら漏れなくそろえることができて便利です。
●「連帯債務」の方、「すまい給付金」を受け取った方は、付表の作成が必要です。
●確定申告には、「マイナンバー(12桁の個人番号)」の記載が必要です。マイナンバーは、通知カード、マイナンバーカード(自分で交付申請が必要)、マイナンバーが記載された住民票の写しを見ればわかります。
初年度に確定申告をすれば、2年目以降は手続きがラクになりスムーズです。確定申告を行った年の10月ごろに、税務署から翌年以後の年数分(適用期間13年の場合は12枚)の「特別控除申告書」が送付されます。会社員(給与所得者)は、勤務先に「特別控除申告書」を提出すると、年末調整で控除を受けることができます。個人事業主は、確定申告の際に税務署に提出します。
「特別控除申告書」には、住宅の取得金額と借入金の残高を比較するところがあり、いずれか低い方を記入する欄があります(減税額計算のもとになります)。住宅ローンを借り入れている金融機関から送られてくるハガキ(年末残高等証明書)も必要です。
住宅ローン減税の申請の流れを整理すると、以下のようになります。
住宅の取得→入居(引き渡しまたは完成から6カ月以内)→「住宅ローン減税」申請に必要な添付書類の入手→入居した翌年の確定申告時に申請→2年目以降は、給与所得者は年末調整・個人事業主は確定申告
●「特別控除申告書」は、12年間(もしくは9年間)毎年1枚ずつ使うため、なくさないよう大事に保管しましょう。万が一紛失した場合は、税務署に再交付を申請します。
●住宅ローンを借りた年には金融機関から、住宅ローン減税などの支援策のセミナーの案内が届くことがあります。いつ何をしたらいいか、書類の書き方、申請の仕方なども教えてくれます。
では「住宅ローン減税」を申請すると、いくら戻ってくるのでしょうか。計算の基本になるのは控除率、控除期間、住宅ローンの年末残高の3つです。
2022年度の税制改正により、控除率は一律0.7%となりました。
控除期間は、新築と買取再販住宅が原則13年、中古が10年です。
住宅ローン残高は、以下のように、新築住宅と中古住宅、住宅の省エネ性能、入居年などによって、上限額が決められています。
例えば、新築住宅で認定長期優良住宅・認定低炭素住宅に該当する場合、2022年から2023年末までに入居すればローン残高5000万円までが控除の対象となります。仮に入居後13年間の年末ローン残高がずっと5000万円以上だとすると、年間では5000万円×0.7%=35万円、13年間で合計455万円の控除が受けられるのです。
※【1】=2022年・2023年入居、【2】=2024年・2025年入居
・認定長期優良住宅、認定低炭素住宅:【1】5000万円、【2】4500万円
・ZEH水準省エネ住宅:【1】4500万円、【2】3500万円
・省エネ基準適合住宅:【1】4000万円、【2】3000万円
・その他の住宅:【1】3000万円、【2】0円。ただし、2023年までに建築確認の場合は2000万円
・認定長期優良住宅、認定低炭素住宅、ZEH水準省エネ住宅、省エネ基準適合住宅:3000万円
・その他の住宅:2000万円
「住宅ローン減税」の還付金の上限は決まっていますが、実際に戻る税額は、住宅ローンの借入金、年末のローン残高、税額(所得税、住民税)、新築住宅か中古住宅か、といった条件で変わります。また、住宅ローン減税は、所得税、さらに住民税から控除されるため、申請者の税額(所得税、住民税)、つまりは税額(所得税、住民税)のベースになる年収(所得)や扶養家族の数などによって、戻る税額が変わります。
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住宅ローン控除の計算を自分でしたい!計算式は?何の情報が必要?
「一般的には、繰り上げ返済は早い時期に行うほど有効ですが、住宅ローン減税が適用される期間中に繰り上げ返済を行うと、年末のローン残高が減り、還付金が少なくなります。
1年間で支払う金利によって人それぞれなので、どちらが有利かはケースバイケースです。金融機関などに相談しましょう」(いずれも回答は鎌田さん)
「住宅ローンを借り換えた場合も住宅ローン減税は継続して適用できます。
以前は、より金利を下げるために住宅ローンの借り換えをする方が多くいましたが、今は10年変動金利型ローンを借りる方が多く、最初の10年は金利が安くて11年目から上がるケースが多いため、最初の10年で借り換えをする人は殆どいません。一般的な話で言うと当初10年間は低金利の住宅ローンの借り換えはせずに、住宅ローン控除を受けるのがオススメです。
もし借り換えをして住宅ローン減税を適用する場合は、
(1)借り換えるローンが最初に組んだローンの返済に充てられることがはっきりしていること
(2)返済期間が10年以上で、住宅ローン減税の適用が認められるローンであること
の2つの要件を満たしていることが前提です」
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「共働きの夫婦の場合、単独で住宅ローンを借りる場合より、2人で協力して住宅ローンを借りると、借入額が増えます。最近は、夫婦で借りるケースが増えています。
連帯債務の場合、夫婦の収入を合計してひとつの住宅ローンを組む『収入合算』と、ひとつの物件に対して夫婦がそれぞれ住宅ローンを契約して、お互いに連帯保証人になって借りる『ペアローン』があります。『ペアローン』は、夫婦それぞれが住宅ローンを契約するため、手数料などの諸費用分は2件分かかります。
『収入合算』の場合は1人分しか住宅ローン減税の適用を受けることができませんが、『ペアローン』を組んだ場合は、夫婦がそれぞれ確定申告を行い住宅ローン減税の適用を受けることができます」
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「住宅ローン減税は、原則、減税を受ける本人自らが居住することが条件です。けれども、転勤など、本人が住めないやむを得ない事情がある場合で、住宅を取得した日から6カ月以内に家族(配偶者、扶養親族、生計をともにする親族)が住み、やむを得ない事情が解消した後に本人と家族が同居すると認められれば適用が可能です。
ただし、住宅ローン減税は、居住者(日本国内に住所を有する者)に限られます。家族が居住した場合でも、国外に転勤する場合、課税の対象となる国内源泉所得がある年分に限られます。
また、住宅ローン減税が適用される年の12月31日時点で、転勤などで本人や家族が居住しなくなった場合、居住していなかった期間は適用が受けられません。適用期間中に転勤が解除され、再び居住する場合は再度、残存控除期間につき、再適用を受けることができます」
詳しくは、国税庁ホームページ(転勤と住宅借入金等特別控除等)を参照。
『ふるさと納税』は、応援したい自治体に寄付をすると、オトクな特産品などを返礼品としてもらえる制度で、寄付した金額は、確定申告をすることで寄付金控除として税金の控除が受けられます。(確定申告をしなくてもいい特例制度もあります)
「住宅ローン減税を受ける場合も、『ふるさと納税』の寄付金の控除を受けることが可能です。控除額は、収入と家族構成・扶養の状況・寄付金額などによって変わります。総務省のふるさと納税ポータルサイトに、ふるさと納税額の目安と、寄付金控除額を計算するシミュレーション(エクセルシート)があるので、確認してみましょう」
「住宅ローン減税は、住宅取得等資金の贈与税非課税措置、こどもみらい住宅支援事業などの支援策との併用が可能です。いずれも時限措置なので、適用期限や要件などをしっかり確認しておきましょう」
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今年度【得する住宅税制ガイド】
マイホームを購入する際は、税金の負担を減らす住宅ローン減税など、支援策が用意されています。住宅ローン減税の制度や仕組みなどを正しく知り、住宅購入等をオトクに進められるよう計画を立てましょう。「減税制度はよくわからない」「数字は苦手だし手続きも難しそう」とあきらめる前に、金融機関や不動産会社、税理士などに相談してみるのもひとつです。
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住宅ローン減税とこどもみらい住宅支援事業などの支援策は併用可能