「マンションを購入するなら、より資産価値の高い物件がいい」という声はよく聞きます。家族の形や生活スタイルが変われば、住まいも変えるという考え方が広がり始め、住み替えを意識して売却時に値下がりしない物件を探したいというニーズの変化が広まってきたためです。
では、資産価値の高いマンション、住み続けても資産価値の落ちないマンションのポイントとはどのようなことでしょうか?住宅評論家の櫻井幸雄氏にお話を伺い、詳しく解説します。
マンションの資産価値が注目されるようになった理由は、2つの理由があります。
1つは住宅の流動性が高まり、住み替えという考え方が定着しつつあることです。
かつて不動産は一生に一度の買い物と言われていた時代がありました。若いうちは賃貸住宅や社宅に住み、そのあとマイホームを購入し、一度購入したマイホームには生涯住み続けるという考えが一般的でした。しかし、子どもの独立などで家族が増減したり、リタイア後の生活では通勤の必要がなくなったりと、家族の形や生活スタイルは変化します。現在はライフステージに合わせて、住み替えを考える方が増えています。住み替えの場合、今住んでいるマンションがいくらで売れるかが、住み替えを成功に導く大きなカギとなるため、資産価値に注目が集まっているのです。
もう1つは、マンション購入を資産形成としてとらえる見方が広まりつつあることです。リクルート住まいカンパニーの行った「2019年首都圏新築マンション契約者動向調査」によれば、マンションの購入理由として「資産を持ちたい、資産として有利だと思ったから」を挙げた人は26%に上り、2003年の調査開始以来増え続けています。住宅の購入では、住宅ローン減税や各種控除を受けることができるため、現金の預貯金に加えて資産形成として不動産をもつ考え方があります。また、不動産を購入しておけば、将来賃貸に出すことも。例えば、一時的に転勤で住まいを離れるといった場合、空いた部屋を人に貸すことで収入を得るという選択肢ができるのです。
それでは、マンションの資産価値とはどんな点で判断できるのでしょうか。マンションの価格を決める要素は、「立地条件」、「築年数」、「住み心地」など、多様ですが、一番の決め手になるポイントを住宅評論家の櫻井幸雄さんに聞きました。
「新築の分譲マンションの場合、一般的に言って当然資産価値が高いマンションは、分譲価格も高くなります。その価格を決める一番の要素は立地です」櫻井幸雄氏(以下:同)
「新築マンションの場合は、分譲価格を決めるのは土地の仕入れ価格と建物の建設費です。中でも大きく分譲価格に直結するのが土地価格です。人気のあるエリアでは土地価格が高く、分譲価格はそれなりに高くなりますが、中古マンションとして売り出す時にも価値が下がりにくいと言えます」(同)
なぜ下がりにくいかというと、分譲価格は土地価格+建物の価格で決まりますが、建物の価格が築年数に比例して下がるのに比べて、継続的に人口の流入が見込める人気のあるエリアならば地価は下がりません。したがって経年により建物の価格が下がったとしても一定の価値を維持できるのです。誰もが住んでみたいと考える人気のエリアなら、地価の上昇により購入時よりも売却価格が上回り、リセールバリューを期待することもできます。
逆に人気のないエリアは、将来的にさらに地価が下がる可能性があります。そうなると売却時にも買い手がつきにくいですし、売却できたとしても価格は低くなります。
地価の下落リスクを避けるためにぜひチェックしておきたいのがハザードマップです。水害時の浸水や地震による液状化などが発生すれば、地価の下落は避けられません。ハザードマップは各自治体が公表しているので、マンションの購入前に必ず確認しておくことをオススメします。
どのエリアに住むかを決めたら、次に重要なのが交通の利便性です。「具体的には、駅から徒歩7分以内に立地するマンションが、多くの人が理想として望む立地だと言われています」(同)
例えば、SUUMOで新築マンション購入を検討しているユーザー(首都圏)を分析すると、全体の72.6%が駅徒歩10分以内を希望。そのうち、約30%が駅徒歩7分を検索しています。また、東京カンテイが発表した、首都圏で発売された「新築マンションの徒歩時間別供給シェア」によると徒歩4~7分が35%で最も多く、次いで徒歩3分以内の22%と、駅徒歩7分以内が57%を占めており、駅近ニーズの強さを反映した結果になっています。
マンションを賃貸物件として貸す場合を考えてみても、「借り手がつきやすいマンション」の最も重要な条件は、立地です。賃貸物件は、仮住まいとしての要素が大きく、職場や駅へのアクセスが良い物件が選ばれることが多いといえます。立地条件に恵まれたマンションは、収益物件としても価値が高いのです。
資産価値にもっとも影響するのは「立地」ですが、その他に資産価値にかかわる要素としては、「広さ」、「間取り」、「階数」、「眺望」、「日当たり」、「部屋の方角」などがあります。
将来売却を考えるなら、「広さ」や「間取り」は周辺エリアのニーズをおさえて決定すべきです。広さは価格に直結するので、例えば単身者のニーズが高いエリアにファミリータイプのマンションを買ったところで、価格が高すぎて買い手・借り手に敬遠されることになります。
では、「階数」、「眺望」、「日当たり」、「部屋の方角」などはどう考えるべきでしょうか。
「これらの要素を端的に表すと、住み心地です。立地や広さや間取りほど売却価格に影響は与えませんが、買い手にとっては部屋を選ぶ重要な要素です。住み心地のいいマンションは買い手がつきやすいため、査定価格も高くなりやすいマンションと言えます」(同)
ただし注意しておくべきなのは、住み心地に関わる要素には、将来変わる可能性のあるものがあること。例えば眺望や日当たりは、隣に新しい建物ができれば変わる可能性があります。その点で公園などに隣接し、将来にわたって眺望が約束されている立地は、売却時のアピールポイントとなるため資産価値の面で有利と言えます。
また、高さ制限のある地域に建つ低層マンション、共用施設が充実したマンションなど、他と比べて特色を持ったマンションもほかの物件と差別化できるため、資産価値の面で有利です。
新築マンションと同じく、中古マンションの価格も「立地」が一番の決め手となります。
中古マンションの大きな特徴は、築年数が価格に反映されることです。
多くのマンションは鉄筋コンクリート(RC)や鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)と呼ばれる躯体構造で建てられます。国土交通省住宅局の調査研究によると、鉄筋コンクリート構造の共同住宅の寿命は50年から100年以上とされています。いっぽう、会計上では、新築から使用し始めて年月が経過すればするほど価値は減っていきます。財務省の定める法定耐用年数によれば、RC造・SRC造の建物は47年で耐用年数を迎え価値がゼロになります。
しかし、前述のとおり立地の良いマンションでは、建物分の価格が減価しても、地価の高さがそれを補います。
つまり価格の下落が緩やかなので、同程度の築年数のマンションと比べても価格は高くなるのです。
例えば、「広さ」「築年数」が同じ築20年の物件をエリアで比較してみた場合はどうなるでしょうか。
下のデータは、東京都(都区群)と神奈川県横浜市・川崎市の築16~20年の中古マンションのm2単価と、それを70m2に換算したものです。
m2単価 | 70m2に換算した価格 | |
---|---|---|
東京都(23区) | 70.2万円 | 4,914万円 |
神奈川県横浜市・川崎市 | 48.8万円 | 3,416万円 |
実際にはアクセスの良さや物件の状態などさまざまな条件により価格は上下しますが、一般的には中古マンション価格に立地が大きく影響していることがわかります。
かつてマンションブームの時代は、都心部の駅から近い徒歩圏内での住宅開発は、マンションが中心でした。そのため、立地のいい中古マンションは、新築マンションより物件数も多く、その利便性で、高い資産価値=販売価格を維持しているマンションも少なくありません。
近年の建築費の高騰を受けて、最近の新築マンションは10年から20年以上前に売り出された物件に比べて専有面積は狭くなっているので、新築マンションでは希望の広さを見つけられないこともあるため、中古マンションのほうが、希望の間取りにかなうケースもあります。
また、再開発によって土地価格が大きく上昇することにより、居住中に購買時より資産価値が上がることもあります。いずれにしても立地選びが、資産価値に大きく響くことは間違いありません。
中古マンションを選ぶ場合、築年数が古くなればなるほど価格も低くなりますが、築5年未満のマンションでは、新築と比べて住宅設備においても性能に変わりなく、価格もあまり減価しません。「東京カンテイ」の調査でも、首都圏では築5年以内の中古価格は新築分譲価格とあまり変わらないものの、築11年を過ぎると価格が落ち、築21年ではさらに下落していることがわかります。
⇒画像、もしくはコチラをクリックするとPDFでご覧いただけます。
それでは、資産価値の視点でオススメの築年数はいつなのでしょうか?
「すべてのマンションに当てはまるわけではありませんが、傾向として築10年で売却価格が下がるので、新築5年以内で買うよりも築10年で購入したほうが物件の価格は下がるでしょう」(同)
「安く買い、高く売る」ことを重視するなら、価格が落ち切るのは築20年以降ですがそうすると今度はマンションの性能面をチェックしたいところです。
なぜなら、マンションはだいたい築15年以上20年程度で大規模補修の時期が迫り、外壁・設備等の劣化が進行します。また給湯器やキッチン、風呂設備などの更新時期に当たることから、購入費用のほかに費用がかかる可能性も出てきます。
「資産価値を重視して中古マンションを購入する場合、価格的にも築10年から20年、できれば15年までの物件が、ねらい目と言えるでしょう。ただし都心部や再開発エリアなどの人気エリアは、古い物件でも価格はあまり下がりません」(同)
「マンションは管理を見て買う」と言われますが、大規模な建築物であるマンションの価値を維持していくためには、日常の適切な管理が不可欠な要素です。日ごろの管理や修繕状況によって、同じ築年数のマンションでも建物の状態がまったく違ってきます。
マンション購入時には、実際の部屋を内見して判断しますが、特に中古マンションの場合、住戸内の間取りや設備を見るのはもちろん、よく見ておきたいのが共用部分です。
エントランスやエレベーターホールなどの共用部分の状態でそのマンションの管理がわかります。
・エントランス、エレベーターホール、階段や駐車場などの清掃が行き届いているか
・外壁などで補修の必要な場所をそのままにしていないかなど。管理の質を確認してください。
また、空き部屋比率や住民の年齢層にも注意が必要です。
マンションの築年数に比例して修繕積立金の額は高くなる傾向にありますが、高齢者層が多いマンションの場合は、修繕積立金の値上げや一時金の徴収に抵抗感が強いことがあり、将来の修繕計画に影響を与えたり、空き部屋になるリスクもあります。
マンションの管理は資産価値に大きく影響するため、購入前によく確かめておくことが後悔しないポイントといえます。
分譲マンションの管理は、区分所有者(住民)による管理組合によって運営されています。建物や設備の維持管理に必要な資金も、住民が毎月積み立てる管理費や修繕積立金から計画的に支出されます。
管理組合が適正に運営されていれば、大規模補修や日常の補修・メンテンナンス時に資金不足になることもなく、長く資産としての価値が維持されます。
中古マンションの販売時、仲介を行う不動産会社には管理会社からマンション管理にかかる「重要事項報告書」が資料として提示されます。
ここには、修繕積立金の総額や、長期修繕計画の概要が記されています。購入を検討する場合、仲介会社を通じて、これらを開示してもらうことは可能です。
管理組合の資産状況をはじめ活動の状況をチェックすることも大切です。
さて、マンションの資産価値は、立地、築年数、広さなどの住み心地、管理状態などさまざまな要素によるということを説明してきました。
「しかし、立地に恵まれ、資産価値が高く維持されているマンションは、そもそも販売価格が高いのも現実です」(同)
しかし、資産価値の高い物件を求めるニーズに対して、違う価値観もあります。
コロナウイルスの影響により、日本では新しい生活スタイルが生まれようとしています。リモートワークやオンライン学習により個室の必要性が増した場合には、少し駅から離れた場所のマンションのほうが、居住空間を広くとれるのは現実です。いっぽう、通勤時間の短縮や生活の利便性を重視するなら、都心や駅近のマンションを選ぶほうが生活の満足度は上がるでしょう。
これからは、資産価値を重視して「都心」「駅近」を選ぶか、暮らしやすさを重視して「広さ」「部屋数」「自然」などを選ぶか、ライフスタイルや価値観によって住まい選びがより多様化する時代になるのかもしれません。
経済状況が不透明化する今、住宅ローンに関してもより賢い利用の仕方が求められています。
「低金利で大きな住宅ローン控除も含めれば、購入しやすい時期ではあります。しかし日本経済を考えると、将来不安がないわけではない。住宅ローンは低金利の今最大に活用し、返済で余った資金を貯蓄し、10年後に一括繰り上げ返済するとか。将来リスクを回避する賢い利用の仕方を考えてみてください」(同)
住宅評論家 櫻井幸雄氏は最後にこうも話されました。
「マンションを選ぶ基準として、資産価値の視点は重要ですが、でもこれからはそれだけではありません。少々交通の利便性が低くても、広い部屋で日常生活の満足感を高めたい。住んで幸せを感じるマンションを選びたい。
つまり、資産価値より現実の生活満足度を重視する。そんなマンション選びの時代が来るかもしれません」
資産価値は売却益と収益価値
資産価値は立地が決めて
マンションの資産価値は年数で減価する
中古マンションは建築後10年から15年がねらい目
マンションは管理も資産価値に直結する
資産価値を超えた生活満足度でマンションを選ぶ