親として、子どもが安心して過ごせる家を選ぶために、起こりうるリスクは事前に意識しておきたいものだ。
発生するリスクの内容と質は、子どもの成長とともに変わっていくものだから、子育てにおける住まい選びは、現在の暮らしだけでなく、将来の子どもの姿や生活シーンもイメージしておくことが大切になってくる。マイホーム購入を考えている今こそ、「親子で安心して長く暮らせる」ための5つの視点についてミキハウス子育て総研の藤田洋さんにお話を伺いながら、子どもを安心して育てられる住環境と住まい選びについて解説していく。
子どもが安全に出かけられる動線や病院の有無など、必要な条件を満たす環境か確認を。家の周りや通うことになる幼稚園や小学校までの道のりは、子どもと一緒に歩いてみよう。「特に下校時刻など、実際にその道を通る時間帯の交通量や、犯罪抑止力になる人の目があるかどうかを見ておくことが大切です」(ミキハウス子育て総研 藤田さん、以下同)。実際に見ると、ヒヤリとするのはどんな場所か気付くことができる。周辺環境は、自力では後から変えられないので、購入前の確認が肝心だ。
特に子どもが小さいうちは、急な発熱やケガで頻繁に医療機関を受診する。「救急対応の病院のほか、小児科や眼科、耳鼻科など、各科の医院が近いと、思いがけない体調不良に対応しやすいです」
近くに児童館などの屋内施設があれば、雨の日や夏の暑さ、冬の寒さが厳しい季節でも安心して遊ばせられる。「小学生が放課後に安心して遊べる場所として、共働きには心強い施設です」
小学生くらいになると、子どもだけで遊ぶこともある公園。木やフェンスなどで暗がりや死角になる場所がないことが大切だ。「見通しがよいことで、周囲の人の目が犯罪の抑止力になります」
<子育て中の家探し経験者のコメント>
「交通量が多い道路が近いと、事故に遭うリスクが高まります」。特に大型車が多い道や、スピードが出やすい幹線道路は、大事に至ることも。細い道でも抜け道やバス通りになっている場合は注意が必要だ。
「 歩道に十分な幅があったり、自転車道と分かれていると、小さな子ども連れでも歩きやすいですね」。ガードレールがあると、車輪に荷物が巻き込まれることがなく、飛び出し防止にもなって安心だ。
「子どもの1人歩きが心配される昨今、通学路の安全面は重要です」。人通りの量や死角など防犯面のほか、車の出入りが多い商業施設や工場、駐車場、路上駐車の状況など、交通面の確認も必要だ。
将来、習い事や学校のクラブ活動などで帰宅が少し遅くなったときでも、人通りが多く、街灯が整備された道なら安心だ。地域の見回りボランティアがいるなど、防犯意識の高い街なら一層心強い。
<子育て中の家探し経験者のコメント>
大人とは違う、子どもの視界
子どもの目線は低く、大人に比べて視野が狭いので、車や自転車などの危険に気付きにくい。特に路上駐車の車の後ろからくる自転車やバイクなどは見えにくい。子どもからの見え方を知って、街を観察する目を養おう。路上駐車や放置自転車が多い道路は、子どもにとって死角が多く、注意が必要だ。
図はスウェーデンS.SANDELSの研究データによるもの。
提供:本田技研工業 安全運転普及本部
大人なら問題がなくても、子どもには危険ということがある。家庭内事故は、一戸建て、マンションにかかわらず、備え次第でグッと減らせる。家の中においては、子どもの行動に目が届きやすい間取りや、思わぬ事故を防いでくれる設備を選ぼう。
「高さ1m以下の出隅は、子どもが顔や頭をぶつけても大事に至らないよう、角に丸みがあると安心です」。マンションなら共用部の管理状態、一戸建てなら飛び出しを防ぐ出入口のつくりなども見ておくとよい。家の外からくる「まさか」を防ぐには、セキュリティや防災対策がしっかりした家を選びたい。
マンションは、防犯カメラや管理員により人の出入りが見守られている。「人感センサー付きの街灯などがあれば、侵入者を抑止する効果が期待できます」。また、敷地内に住人専用の公園やキッズルームなどがあると、安心して遊ばせられる。一戸建てなら、分譲地全体を警備するタウンセキュリティがあることも。
画面付きのインターホンがあると、在宅中か留守かを来訪者に気付かれることなく相手の顔を確認でき、ドアを開けるかの判断ができる。「特に子どもだけで留守番をするときなどに重宝します」
マンションは、管理員に子どもの顔を覚えてもらうと安心感が増す。子どもの帰宅時に「おかえり」と声を掛けてもらうことで、不審者の共連れを防ぐことができる。不在時は遠隔で警備会社が見守る。
マンションのエントランスと住戸のドアなど、今どきの新築マンションは、多重セキュリティが一般的。「一階住戸の場合は、窓からの侵入を防ぐ工夫もされていると安心です」
<子育て中の家探し経験者のコメント>
地震の際、家の中では家具や家電の下敷きになるリスクが。本棚やテレビが接する壁に、固定用の下地があると対策をとりやすい。「耐震ラッチが付いたキッチン扉なら、皿が飛び出ずに安心です」
1981年以降に新築された建物には、震度6強でも倒壊しない強度が義務付けられている。揺れへの対策は、建物自体の強さで耐える「耐震」のほか、マンションに多い「制振」や「免震」など、さまざまな工法が。制振や免震は家の中の揺れが軽減され、家具の転倒などによるケガや損壊のリスクが減る。
<子育て中の家探し経験者のコメント>
子どもが外に遊びに行く際、玄関ドアを開けて勢いよく飛び出すことも。家が道路に面している場合、玄関前に飛び出し防止の柵やゆとりスペースがあると、車が迫っていてもぶつかる心配がない。
小さな子は、ドアの開閉を繰り返したり、隙間に指を入れてしまうことも。「主要なドア、特に重さのあるドアや戸には、ゆっくり閉まる機能や引き残しがあると、思わぬケガを避けられます」
浴室は、残り湯が思わぬ水の事故につながったり、滑って転倒するなど、小さな子には危険が多い。「高い位置にロックがある浴室扉なら、子どもがひとりで浴室に入ることはできないので安心です」
バルコニーの手すりは、乗り越える際の台になりやすい室外機置き場とは離れていて、足掛かりになるようなスリットがないタイプだと安心。「できれば、手すりの高さは120㎝以上としたいですね」
子どもが小さいうちは、目が離せないもの。「家事の最中、振り返らずとも子どもの様子が確認できるので、対面式キッチンがベターです」。また、段差がない間取りなら、つまずきの心配もない。
<子育て中の家探し経験者のコメント>
子育てファミリーにとって安心して暮らせる家選びの視点として、「周辺の施設」「通学路の安全性」「住まいのセキュリティ」「地震・災害対策」「安全性に配慮された設備」の5つを紹介した。これらは、どれか1つでも満たされていれば良いというものではなく、すべてを満たしていることが「親子で安心して暮らせる家選び」につながるものだ。そして、それらは物件パンフレットやネット情報だけで十分に確認できるものでもない。もし気になる家が見つかったら、その街で一日過ごしてみよう。役所に行ってハザードマップを入手したり、時間を変えて街を見てみることで、新しい気付きがあるかもしれない。また、通学路や近くの公園などで、自分たちと同じような家族構成の人に、地域の雰囲気や学校の情報などを聞いてみるのも生きた情報源となる。自分の目で耳で確認することが、安心して長く暮らせる家を選ぶことにつながるのである。
【今回お話を伺ったのは】
情報誌やWEBサイトで子育てを応援する一方、独自の評価認定制度で子育てにやさしい住まいや宿泊施設などの認定事業を行う。著書に『子育てにやさしい住まい』(週刊住宅新聞社)ほか