女性の一人暮らしというと、分譲マンションや賃貸アパートなどをイメージする方が多いのではないでしょうか。しかし近年は、平屋の一戸建てを選ばれる方も増えています。40歳代やシニアの方々にとっても過ごしやすい平屋。今回はニッカ不動産の奥園丈博さんに、一人暮らしの女性が平屋に住むメリット・デメリットやおすすめの間取り、平屋を建てるためにかかる費用、防犯上の対策などを伺いまとめました。
一人暮らしの女性といっても、年代や価値観はさまざまです。平屋の一戸建てがおすすめなのはどのような人なのかを奥園さんに伺いました。
「平屋の一戸建てがおすすめなのは、集合住宅ではなく、一戸建てでしかできない暮らしをしたいと明確な意思を持った女性です。具体的には40歳代後半~50歳代で、これまで実家や賃貸・分譲マンションでの暮らしを通し、庭がある一戸建てでの理想の生活を思い描ける方が適していると思います。ご自分で土地を買い平屋を建てる方もいれば、ご両親の敷地内に小さな平屋を建てる方もいます。
もちろん20歳代、30歳代でも自立した女性は多くいらっしゃいます。しかし若い内に一戸建てを建ててしまうと、将来転職で別の土地に住みたくなったときなどの選択肢が狭まってしまう可能性があります。そういった意味でも、40歳代後半になり、将来のビジョンが明確になってから検討することをおすすめしたいです」(奥園さん/以下同)
「子世帯の近くに家を建てて暮らしたい、と考える一人暮らしのシニアの女性にも、コンパクトな平屋はおすすめです。
例えば子世帯が家を建てた敷地内に小さな平屋を建て、遠方に住む一人暮らしの母親を呼び寄せるようなケースです。もしくは両親が暮らしていた広い母屋を子世帯に明け渡し、同じ敷地内に母親が住む小さな平屋を建てるパターンも考えられます。
いずれのケースも二世帯同居ほど近すぎず、適度な距離を保って暮らせるのがメリットです」
一人暮らしの女性が平屋に住むことには、どのようなメリットがあるのでしょうか?
「一人暮らしの女性が平屋を建てる場合、自分のこだわりの住宅を実現できるのが一番のメリットだと思います。
特に注文住宅は、外観から内装、間取りまですべて自分の思いどおりに仕上げることが可能です。これまで暮らしてきた住まいに対する不満をすべて解消し、自分が理想とする家で暮らせるようになります」
「アパートやマンションと違い、平屋は庭がある暮らしを楽しめることもメリットです。ガーデニングを楽しんだり、家庭菜園で野菜を収穫したりといった、集合住宅ではできない地に足が着いた暮らしをしたい女性にも、コンパクトな平屋はおすすめです」
「一人暮らし用の平屋はコンパクトに設計されるため、家事動線が短いことも特徴です。女性はこれまでいろいろな家で家事をしてきた経験から、自分の理想とする家事動線がある方も少なくありません。自分が効率的に家事をこなせる動線を自由に設計できることも、平屋を建てるメリットです」
「一人暮らしの女性で一戸建てを希望する方は、すでにシニアの方はもちろん、40歳代、50歳代の方でも老後の生活を意識しているケースが多いことも特徴です。平屋であれば2階建てのように上下移動がないため、バリアフリーを計画しやすいのもメリットです」
一人暮らしの女性が平屋に住むことにはデメリットもあるのでしょうか? 奥園さんに伺いました。
「マンションであればエントランスのオートロックなどセキュリティーが充実していますが、平屋で一人暮らしをするのであれば、防犯は自分で行わなければなりません。
平屋を建てるためには広い土地を要するので、郊外の開けた場所に建てられるケースが多く、人通りが少ないことが考えられます。そのため女性が平屋で一人暮らしをするのであれば、防犯面も考慮して家を建てることが大切です」
「平屋に限らず一戸建ては、室内はもちろん外壁や屋根など外部のメンテナンスも自分で行う必要があります。マンションであれば修繕積立金を払うことで、管理組合がスケジュールに沿って定期的にメンテナンスしてくれますが、一戸建てではすべて自分で考えなければなりません。
一人暮らし用の一戸建てはコンパクトとはいえ維持管理に労力はかかるため、家を建てるときからメンテナンス性を高める工夫をしておくのがおすすめです。具体的には外観をシンプルな形状にしたり、外壁や屋根材にはガルバリウム鋼板など耐久性やメンテナンス性が高いタイプや、セルフクリーニング機能のある塗料が使われたタイプを選んだりするのも方法のひとつです」
「周囲に2階建てが立ち並ぶような都市部で一人暮らし用のコンパクトな平屋を建てる場合は、日当たりや通風に問題が生じる可能性があることもデメリットです。
窓の配置を慎重に検討したうえで、勾配屋根にして階高を上げ、高窓や天窓から光を取り入れるなどの工夫が必要になるでしょう。平屋を建てる土地探しから建築会社にまかせると、周辺環境まで配慮して理想の平屋を建てやすい土地を提案してもらえるのでおすすめです」
女性が一人暮らしをする平屋におすすめなのは、どのような間取りなのでしょうか?
「掃除やメンテナンスの手間を極力省き、コンパクトな暮らしをしたいと考えるなら、1LDKがおすすめです。
こちらは延床面積約14坪の平屋の間取図です。6畳の寝室と約12畳のLDK、そして施主さまのご希望で約2畳の広々としたウォークインクローゼットを設けました」
「キッチンは来客時でもコミュニケーションをとれるよう、対面式にしました。ただ、LDKが12畳程度だとリビングとダイニングを分けるのが難しくなります。
その場合はこのように、食事もとれるダイニング・リビング兼用家具を選ぶのがおすすめです」
「収納については、1LDKの平屋では、後から家具を入れると狭くなってしまいます。そのためはじめから設計に組み込み、つくり付けにするのがおすすめです。
女性は男性と比較すると物が多い傾向がありますが、入居に際し持ち物を収納に納められる量まで減らすことで、コンパクトに暮らしやすくなります」
「物をどうしても処分できない、思い出のある物は大切に保管しておきたい、という方は、勾配屋根にしてロフトを設けるのもおすすめです。勾配屋根にすると階高が高くなり、開放感を得られることもメリットです。
ただしロフトは階段でアクセスできないと使わなくなってしまいがちです。自治体によってはロフトには階段ではなくハシゴしか設置できないところもあるので、階段を設置できるかどうかを建築会社に確認するとよいでしょう」
「1LDKだと個室が寝室として使用されるため、基本的に日中はリビングで過ごすことになります。敷地や資金に余裕があるなら2LDKの平屋にすると、寝室と趣味や仕事に使う部屋を分けられるようになります。
こちらは延床面積約16坪の、2LDKの平屋の間取図です」
「LDKの広さは先に紹介した1LDKと1畳しか変わりません。しかしキッチンを壁付きにしたことで、ダイニングとリビングの両方のセットを配置できるようになりました。対面キッチンはコミュニケーションのとりやすさから人気がありますが、一人暮らしでしたら壁付きキッチンを選んだほうが空間を広く活用できます」
「スペースを広くとるため、クローゼットはあえて扉をつけていません。扉がないと開閉の手間を省けるのもメリットです」
「家の建築価格は坪単価(建築価格を延床面積で割った価格)に延床面積をかけた価格を目安とするのが一般的です。女性が一人暮らしするようなコンパクトな平屋でしたら、建築会社によって異なりますが、標準的なグレードであれば一般的には坪単価65万円~85万円程度で考えるとよいと思います」
坪単価65万円~85万円で計算すると、平屋の坪数ごとの価格の目安は以下のようになります。
平屋の延床面積 | 建築価格 |
---|---|
14坪 | 910万円~1190万円 |
16坪 | 1040万円~1360万円 |
18坪 | 1170万円~1530万円 |
20坪 | 1300万円~1700万円 |
「なおこれは平屋の本体価格であり、実際に家を建てるときにはほかに付帯工事費(給排水工事、外構工事など建物以外にかかる工事費)として200万円~400万円程度が必要です※。また登記にかかる費用などの諸費税や、10%の消費税がかかることも見込んで予算を立てましょう」
※付帯工事費は土地の状況などにより大きく異なります。
一人暮らしの平屋を建てるための土地も購入する場合、どの程度の広さが必要になるのでしょうか?
「土地の広さを考えるときには『建ぺい率』を考慮する必要があります。建ぺい率とは『敷地に対して建てられる家の建築面積の割合』を指し、土地ごとに決められています。
平屋の場合、延床面積が建築面積となることがほとんどなので、例えば建ぺい率60%の土地に15坪の平屋を建てるなら15坪÷60%で25坪の土地が、20坪の平屋なら約33坪の土地が、最低でも必要になる計算です。
なお都市部では、建築面積に対する敷地面積が狭ければ狭いほど、隣家と近くなりマンションと変わらない窮屈な暮らしになってしまいます。庭のある暮らしを楽しみ、日当たりや通風などを考慮して家を配置するためには、15坪の平屋なら35坪程度の土地を確保するのが理想です」
一人暮らしの女性が平屋で暮らすうえで気になるのが防犯対策です。平屋を建てるときにできる防犯対策には、どのようなものがあるのでしょうか?
「防犯性を考えて平屋を建てる土地を選ぶときには、道路から細く延びる敷地の先にほかの家に囲まれた敷地がある『旗竿地(はたざおち)』は避けるのが無難です。旗竿地は奥まっているので一見安全に思えますが、四方を囲まれ死角が増えるため、防犯面では不安があります。
道路に面した土地は外からの視線が気になるかもしれませんが、女性が一人暮らしする平屋であれば、人目があることはかえって安心といえるでしょう」
「平屋の防犯性を高める工夫としては、大きな掃き出し窓を極力減らすことが考えられます。採光を確保するための窓は、人が通れないサイズの窓やすべり出し窓(左右もしくは上下の一方向にのみ回転するように開閉する窓)など侵入が困難なタイプを選ぶと効果的です。
ただし大きな窓は災害時に脱出口としての役割も果たすので、すべてなくしてしまうことは避けましょう。大きな窓は、防犯ガラスを選ぶと防犯性が高まります。
ほかには窓にシャッターをつける、防犯カメラを設置する、玄関やアプローチには人感センサー付き照明を採用するのも防犯対策としては有効です」
「外構で防犯対策を考えるときには、『囲いすぎない』ことが大切です。
人の侵入を防ごうと考えると、堅牢(けんろう)な塀を立て、門扉で閉ざしたほうがいいと考えてしまいがちです。しかしそのように囲い込んでしまうと死角が増え、いったん敷地に侵入されてしまうと外から見えないため、かえってリスクが高まります。
外構はオープンにまでしなくても、低いフェンスや生け垣でゆるやかに囲むセミクローズド程度にするのがおすすめです」
最後にあらためて奥園さんに、一人暮らしの女性が平屋を建てるときのポイントを伺いました。
「一人暮らしの女性が、これまでの経験から思い描く自分の理想の家を実現したいと考えるときには、コンパクトな平屋はおすすめです。一戸建ては高額なイメージがありますが、一人暮らし用の1LDK程度の平屋なら比較的安価に建てられます。
ただし女性が一人暮らしをする平屋は、防犯面の不安を軽減し、安全な暮らしを守る工夫が欠かせません。また限られた空間を最大限活用する設計力も求められます。コンパクトな平屋の建築実績がある会社を選び、安全に暮らせる理想の家づくりを楽しんでください」
平屋の一戸建てがおすすめの一人暮らしは、庭がある家での理想の暮らしが明確な40歳代後半~50歳代もしくは子世帯のそばで暮らしたいシニア世代の方
一人暮らし用のコンパクトな平屋は、これまでの経験を踏まえた理想の家を実現しやすい
限られた空間を最大限活かし防犯性が高い平屋を建てるには、コンパクトな平屋の実績が豊富な建築会社に相談することが重要