子世帯と親世帯がひとつの住まいで生活する「二世帯住宅」。育児や介護の相互協力、2棟新築するよりも資金負担が少ないなどメリットも大きいことから、前向きに検討している人もいることでしょう。とはいえ、三世代が暮らしを共にするとあれば、「坪数はどれくらい必要?」「ストレスなく暮らすためにはどんな間取りが理想?」など、気になるポイントもたくさんあるはず。そこで、『最高の二世帯住宅をデザインする方法』の執筆者でもあり、二世帯住宅の施工実績も多数もつ、一級建築士の鈴木信弘さんに坪数や間取りについて解説していただきました。
二世帯住宅といっても、どの程度スペースを共用するのかによって、空間のつくり方はさまざまです。ちなみに、鈴木さんが手がけてきた二世帯住宅の多くは共用部分がほぼない、上下階で居住スペースを別にした「分離型」とのこと。やはり価値観の違いによるトラブルを未然に防ぐため、「分離型」を希望する人が多いのだとか。
「二世帯住宅で心地よく過ごすためには、各世帯のプライバシー領域を確保することが重要です。キッチンやトイレ、お風呂などの空間は共用にしたほうが、坪数を抑えられたり居室スペースを広く取れたりしますが、使い方の違いなどでストレスになる可能性も高い。それであれば、玄関だけは共用にしても、その他の空間は分離した方が合理的です。ちなみに、上下階で分離する場合は2階床の遮音もトラブルを防ぐために大切。通常、足腰の弱さを踏まえて親世帯が1階になることが多いですが、子どもがまだ小さくてドタバタ走り回るようであれば子世帯が1階のほうがストレスは少ないかもしれません」(鈴木さん、以下同)
そこで、本稿でも「分離型」の二世帯住宅について紹介していきたいと思います。
まずは、二世帯住宅を建てるにあたり、どれくらいの建坪が必要なのか、次の計算式で算出してみよう。
※家のゆとり度合いを示す数値「間取り係数」。係数1.5~2.0の数値でゆとりスペースの目安面積を算出する
「自分たちが主に居室として必要としている畳数をだします。例えば、子世帯でリビング・ダイニング12畳、キッチン6畳、夫婦寝室6畳、子ども室4畳半だとすると合計畳数は28畳半。これに1.6を掛けると、45.6畳になります。この半分が坪数ですから必要な床面積は約23坪になります。同様に親世帯は、リビング+ダイニング+キッチンで12畳、寝室が8畳として計算すると16坪になります。したがってこの二世帯住宅の延べ床面積は最低でも39坪は必要だということが分かります」
ちなみに、玄関を共有し、連絡扉だけを設けて、コンパクトな二世帯住宅を建てようと思ったら最低でも30坪は必要とのこと。もちろん40坪が可能であればかなりゆとりが生まれます。
連絡扉だけを設けて4間×4間の完全分離型の二世帯住宅を建てようと思った場合、建ぺい率50%の土地で30坪あれば何とか収まり、40坪あれば4.5間×4.5間のプランを入れることができるそうです。まずは、自分たちが求めている広さを算出してみましょう。
親世帯、子世帯がひとつ屋根の下で暮らす二世帯住宅。とはいえ、普段は親世帯・子世帯ともに「ある程度の距離がある暮らし」を希望する人が多いのが実情とのこと。そこで、「共有スペースをどれくらい持つのか」という基準で考えた間取りの、代表的なパターンをいくつか紹介していきましょう。
「家への入口は1カ所、キッチンや浴室などの水まわりを共用するプランです。ほどよい分離具合によって、家族としてちょうどいい距離感をキープできます。ただし、お互いのライフサイクルのズレによる生活音などに配慮することがポイント。また、キッチンを利用する人数が増えるため、収納スペースを含めて広めにとりましょう。浴室についてもバリアフリー設計の採用や、洗面台の収納など、幅広い年代が使用することを想定した設計をおすすめします」
「玄関だけを同一にして、その他のスペースは分離するプランです。【玄関+水まわり共用プラン】よりも、さらに分離が進んだ空間設計になります。この場合、共用玄関の広さや収納スペースをしっかり確保することが大事。例えば、届いた荷物を一時的に置けるスペースはもとより、靴で散らかっているのが嫌だという家族がいれば、ゆとりあるシューズクローゼットをつくったほうが整理できていいかもしれません。このように、ただ『出入りできればいい』とミニマムなスペースにしてしまうと、逆に使い方についてお互いの不満がたまることになりかねません」
「1棟でありながら、住まいとしては二世帯がほぼ独立しているパターンです。生活上の干渉は最低限にしたいという意向をもっていたり、ペットを飼いたい世帯と苦手な世帯の住まいだったりする場合は、完全分離がベストでしょう。外部空間の配置や開口部の位置についても、干渉しない設計が必要になります。いずれにしても、紹介した3プランのうち最も敷地面積が必要になるプランになることは確かです。40坪以上あればゆとりをもって設計しやすいです。また、設備についても水まわりの設備費用が2倍必要になります。生活空間だけではなく、水道・ガス・電気のインフラも世帯ごとに分けるかどうかでも工事費や将来にわたる維持費も変わってきます。予算感を踏まえて、しっかりと検討することが大事です」
どのような二世帯生活を望むか、また予算や坪数をどれくらい確保できるかによって、プランは変わってきます。ともあれ、世代も価値観も違う2家族が住まいを同一にするとなれば、“トラブルの芽”を事前に摘むに越したことはありません。
「老後の不安を同居によって解消したい親世帯と、子どもの面倒を見てもらいたい子世帯、この2つは二世帯住宅を希望する人たちの理由として、多く共通していることです。その意味でも、二世帯住宅がいわゆる“実利”に根差した住まい方であることに間違いはないでしょう。ただし、各世帯がどのような暮らしを望んでいるかのすり合わせをおろそかにしてしまうと、ギスギスした生活を余儀なくされることもあり得ます。ベースとなる3つのプランを参考に、具体的な設計に落とし込んでいきましょう」
二世帯住宅は資金や生活面の負担軽減につながりますが、ストレスフルな暮らしになってしまっては本末転倒。予算と照らし合わせながら、どのような工夫ができるのか、またできないことは何なのかをしっかり把握して二世帯住宅の計画をたてましょう。
※各プランは鈴木アトリエ一級建築士事務所提供資料(area045著「最高の二世帯住宅をデザインする方法」)を参考
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