二世帯住宅の間取り、悩みますよね。家族それぞれの希望もあり、全員が満足する二世帯住宅を建てるのは難しいかもしれません。
二世帯住宅とは、2つの世帯がひとつの住宅で暮らすスタイルというイメージですが、1975年に初めて二世帯住宅を提案した旭化成ホームズ(ヘーベルハウス)のLONGLIFE総合研究所の松本吉彦さんは「二世帯住宅は、土地と建物を共有して空間を自由につくることができます。家族の数だけ、いろいろなスタイルが存在します」と話します。(以下、コメントは松本さん)
この記事では、間取りの自由度が高い二世帯住宅のつくりかたを、間取りタイプの比較(完全同居型、完全分離型、部分共有型)、空間の分け方、二世帯住宅に必要な広さ、間取りプラン、共有部分のポイント、二世帯住宅間取りの成功のポイント、気になる費用について、順に紹介します。
隣居を二世帯住宅の一部のように表現している場合もありますが、隣居は、隣同士や近くの土地に家を構えるスタイルで、二世帯住宅とは異なります。この記事では二世帯を一つの建物として建てるケースを紹介します。
まず、親世帯と子世帯の生活空間をどう分けるかから見ていきましょう。
「セパレート(寝室、個室などのプライベート空間)はどのタイプでも必ず必要ですが、どこまでシェアするか、しないかがポイント。親世帯、子世帯の関係性に応じて二世帯の空間を上手に分けると、両世帯のいい関係が保たれ、同居するメリットが生まれます。
二世帯住宅の間取りには、大きく3つのタイプがあります。特にキッチン、浴室、玄関を分けるか、分けないかで間取りのつくり方が大きく変わります。分けない場合はミニキッチンやシャワールームなどのサブの水廻りを設けるかどうかがポイントです」
二世帯住宅の世帯の分け方には大きく、完全同居型と完全分離型、部分共有型があります。3つのスタイルについて、それぞれのメリット・デメリットなどを見ていきましょう。
完全同居型(一体型二世帯)は、単世帯住宅に親も同居する住まい方で、玄関・キッチン・お風呂は共有します。寝室・子ども部屋といったプライベート空間は世帯ごとに分けます。
完全分離型(分離型、独立二世帯)は、玄関、LDK、プライベート空間も、それぞれ分離・独立した二世帯住宅です。
部分共有型(共有型、共有二世帯)は、共有のリビング、キッチン、お風呂などを設けた上で、ミニキッチンやシャワー室などのサブ設備を世帯専用で設置するパターンや、玄関のみ共用するパターンなどがあります。
松本さんによると、部分共有型は完全同居型に近いものから完全分離型に近いものまで、どんなパターンでも作れるとのこと。
「部分共有型でもダイニングが共有の場合、基本的には食事は同じ場所で行われるため、生活は完全同居型に近い形になることが多いです。くつろぎの空間を分けたい場合、そこから外れたサブリビングなどの逃げ場をどちらの世帯にどの程度つくるか、というのがポイントになると思います。
一方、ダイニングを分ける場合、リビングも分かれることが多く、その場合は完全分離型のように世帯別の空間は確保できます。また、玄関を共有すればその分スペースは節約できますし、浴室を共有して片方をシャワーのみとすれば、さらに面積は小さくなります。
このように家族のニーズに合わせて完全同居型、完全分離型のメリットの“いいとこどり”を目指すのが部分共有型です」と松本さん。
部分共有型は、完全同居型、完全分離型の“いいとこどり”を目指す型で、どこをどう共有するかによってメリット・デメリットは変わりますが、それぞれと比べると次のようになります。
完全同居型、完全分離型、部分共有型の3つの二世帯住宅は、どの空間をどのように分けているのでしょうか。それぞれの空間の数の比較を表で見ていきましょう。
完全同居型 一体型二世帯 |
完全分離型(分離型) 独立二世帯 |
部分共有型(共用型) 共用二世帯 |
|
---|---|---|---|
シェア空間 | 室内空間をすべて共有 | シェア空間なし | ・LDまたはLDKをシェア ・水廻りの一部をシェア ・玄関のみ共用などを選択 |
玄関 | 1つ | 2つ | 1つ |
水廻り 浴室 |
1つ | 2つ | ・2つ、または共用浴室+世帯専用シャワー室 などを選択 |
水廻り キッチン |
1つ | 2つ | ・2つ、または共用LDKとサブキッチン(ミニキッチン) |
リビング | 1つ | 2つ | ・2つ、または共用リビング+サブリビング |
プライベート | セパレート | セパレート | セパレート |
世帯別の空間の分け方としては、大きく『重層型(重ね型)』と『連棟型』の2つに分類できます。
二世帯住宅の多くは2階建てになります。但し、狭い敷地で部屋数がほしい場合は、高さ制限や斜線制限などがクリアできるなら、3階建てもいいでしょう。3階建ては、親世帯と子世帯のどっちを上階にするかがポイントです。
「加齢配慮で親世帯を1階に設ける場合が多いと思いますが、ホームエレベーターを設置して日中家にいる親世帯のスペースを日当たりが良い3階に設ける方法もあります。ただし、エレベーターはメンテナンス費用が高いことも考えて、エレベーター空間を新築時に想定しておき、必要になった際に後から設置することもできます」
「一般的な戸建て住宅は、夫婦+子ども2人の4人家族を想定して設計されることが多いですが、二世帯住宅の間取りは、家族の数で部屋数を決めるのではなく、ひとつの空間を何人で使うかを考えて設計します。
例えば、キッチンを1つにする場合も、何人分の食事を作り、何人で作業をするか、冷蔵庫や収納の大きさ、家電置き場、使いやすさなどを考えて決める必要があります」
二世帯住宅に必要な広さはどのくらいか、一般的な住宅の広さの基準とした国土交通省の「住生活基本計画における誘導居住面積水準(2人以上)」を参照し、二世帯住宅に当てはめて考えてみましょう。
最低居住面積とは「健康で文化的な住生活を営むために必要不可欠な住宅面積」、誘導居住面積とは「豊かな住生活の実現を前提として、多彩なライフスタイルを想定した場合に必要な住宅面積」を指します。
例えば、6人(父・母、夫・妻・子2人)で住む二世帯住宅を検討する際、タイプ別に必要な面積は以下の通りです。
算定式(m2) | 6人 (完全同居型) |
6人 (2人+4人、分離型) |
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---|---|---|---|
最低居住面積水準 | 10m2×人数+10m2 | 70m2(21.1坪) | 80m2(24.2坪) |
誘導居住面積水準 (都市居住型) |
20m2×人数+15m2 | 135m2(40.8坪) | 150m2(45.4坪) |
誘導居住面積水準 (一般型) |
25m2×人数+25m2 | 175m2(52.9坪) | 200m2(60.5坪) |
国が定めた居住面積水準とは別に、松本さんが二世帯住宅設計の経験から編み出した、「二世帯住宅に最低限必要な居住面積(延床面積)の目安」を求める計算方法は以下のとおりです。
「欲しい部屋の広さ(畳数)の合計×1.5~1.9倍=二世帯住宅に必要な居住空間の畳数」
例)LDKは20畳、6人同居で個室は6畳ずつ欲しい場合
(LDK20畳+6畳×6室)×1.5~1.9=84畳(42坪)~106畳(53坪)
※坪数は1畳=0.5坪で換算しています。
「上記の場合だと、二世帯住宅に必要な居住面積(延床面積)の目安」は42坪~53坪と幅がありますが、これは水廻り、玄関、階段、廊下、収納などのスペースをどれだけ確保するかで違ってくるためです。コンパクトにするためには、各部屋の広さを見直すことと、リビングや水廻りなど共有できるものがないかなど、ご家族の関係性も考慮しながら検討してみましょう」
一方、平屋で二世帯住宅を建てたい、100平米(約30坪)の狭小住宅で二世帯住宅を建てたいといった要望もあります。
「家を小さくつくる場合ですが、スペースを小さくしていいものと小さくしていけないものがあります。コンパクトに建てる場合は、例えば廊下を減らすことで面積は小さくなりますが、廊下をなくすと部屋の中を通過することになり、その部屋にいる人、通過する人が出会いやすい、というロジックになります。その出会いをプライバシーの問題と感じるかどうかには個人差が大きく存在します。
また、平屋や狭小地で二世帯住宅を建てる場合、完全分離型にするのは一般的に難しいです。ただし、広い敷地であれば、平屋で完全分離型の二世帯住宅は可能です。また、家族の人数にもよりますが、狭小地でも、工夫することで、完全分離型に近い間取りを作ることは可能です」
平屋で二世帯住宅を建てる場合は、敷地が広い場合、家族の人数が少なく建物の面積を大きくする必要がない場合に限られます。また、狭小地の場合は、無駄な空間を作らないよう設計することがポイントになり、容積率が許す場合は3階建て住宅を検討するのもいいでしょう。いずれも、部分共有型でも水廻りを共有するか、親世帯をミニキッチンにするなどの工夫が必要でしょう。
お互いに助け合いながらプライバシーも確保できる「部分共有型」では、完全分離型や完全同居型と異なり、シェアする空間によって、間取りの考え方が変わります。
「玄関が1つの共有玄関は、出掛ける際に声かけをするなど、コミュニケーションがとりやすく、家族が帰宅したことがすぐに分かったり、スペースを有効に使える反面、生活の様子が分かり気を使うという人もいます。一方、玄関が2つある世帯別玄関は、自由に外出や帰宅ができるし、帰宅が遅いときや来客の際も気を遣わず、お互いに気楽です。
最近の傾向としては、コミュニケーションを重視して、完全分離型でも玄関くらい共有しようというケースでの部分共有型が増えています。また、玄関は1つでも、勝手口を設けておくと将来の介護ヘルパー用の入り口にもなり便利ですね」
お風呂を1つにするか、2つにするかも重要です。
「お風呂を1つにする場合、掃除の手間や経済性、スペースがもったいないからという理由が挙げられます。一方、好きな時間に入りたいという理由でお風呂を2つ設ける方もいらっしゃいます。他の家族が待っていると思うとゆっくりできない、汚れなどが気になるという方もいます。お風呂を1つにして、子世帯にシャワーユニットなどを設ける方法もあります。
また、世帯ごとに洗濯機を設置するケースもあります。洗濯機をそれぞれ設置するのには大人数の同居など人数も関係しますが、運動部のお子さんがいる、洗濯のやり方が違うといった理由が挙げられます。
洗面所や洗濯機は脱衣所の外に設置すると、家族がお風呂に入っている間でも使えるのでおすすめです」
「キッチンを共有するかどうかは、夕食の取り方でかなりしぼられます。旭化成ホームズの調べでは、平日の夕食を親世帯の母と子世帯の妻が一緒に取る割合はキッチン1つの場合68%、キッチン2つの場合は12%と大きな開きがあり、キッチン2つの場合は88%が別々です。(旭化成ホームズ「家族の多様化で進む二世帯シェア」調査報告書より)
それぞれの理由を調査したところ、キッチンが1つで食事を一緒にとる世帯は、食事をする場所や時間帯が同じだからという理由が上位で、キッチンを2つ設ける世帯は帰宅が遅かったり、外食する人や食事の時間帯が違うという理由が上位でした」
子世帯にキッチンがなくても、お湯を沸かしたり、簡単な調理をするためにミニキッチンを採り入れるケースもあります。
二世帯住宅を成功させるには、心がけも大切です。LONGLIFE総合研究所が長年二世帯住宅を建てた施主と関わり、調査・研究を行うなかで見えてきたのは、1.お互いの生活に干渉しない、2.相手への過度な気づかいは不要、考えが合わなくて当然と割り切ること、3.感謝の気持ちを持つことの3つが大切だということ。
「シェア空間とセパレートを希望通りのバランスにできるのが二世帯住宅です。お互いの負担にならないように、我慢をしすぎたりストレスをためないように、お互いの暮らしについて話し合い、それぞれの同居のメリットを生かせるように建てていただくのが大事です」
「二世帯住宅を建てるときに考えておきたいのは、ライフステージの変化です。
LONGLIFE総合研究所では築30年以上の二世帯住宅に住んでいる家族(出典:2015年実施二世帯住宅アンケート調査結果(旭化成ホームズ調べ))を対象に、介護をする上で二世帯住宅に住んで良かったことを調査したところ、
・離れて住んでいると心配な親の様子や気配がすぐに分かる
・親世帯にすぐに行ける
・食事を運ぶのがラク
・デイサービスに送りやすい
といった声がありました。
また、介護経験者で通所介護(デイサービス)を利用した人は6割以上。完全分離型や部分共有型でLDKが分かれている場合は、同居家族の生活に影響せず訪問介護を頼みやすいという声がありました。重層型(完全分離型)で外階段を設けた場合は、雨の夜に食事を運ぶ際、行き来のたびに靴を履いて鍵をかけて、傘をさすなどが不便なので内部通路は必要という意見もありました」
親世帯の将来の介護や子世帯の子どもの誕生から成長なども考え、建築会社に相談するといいでしょう。
二世帯住宅の値段は、建築会社、素材、広さ、タイプなどで異なります。ちなみにヘーベルハウスの場合、建物の本体価格は約80万円/坪~とのこと。単純に計算して、40坪の場合、3200万円~です。
「一般に同じ広さなら建築費用は、平屋、3階建てと比べると2階建て、2棟建て(別棟)よりも二世帯で1棟の方が安くなります。
形状は、総2階建てなどのように、単純な形状でシンプルにつくるほど予算が抑えられます。玄関ドアやポーチ回りを含めて玄関を2つにすると、100万円単位で費用が変わることがあります。完全同居型など、共有部分が多いほど値段は抑えられますが、その分ストレスが増えるかもしれませんね」
失敗しない二世帯住宅を建てるには、価格だけでなく、全体のバランスを考えましょう。
子育て世代の定住などを支援することを目的として、市内に住む親の世帯と同居または近居をするため、子の世帯が市内の住宅を取得(新築または購入)する場合に、費用の一部を補助する「3世代同居・近居促進事業」の補助金制度を設けている地方自治体もあります。
長崎県波佐見町の「波佐見町3世代同居・近居促進事業」では、令和4年6月以降に新たに3世代で同居、または近居するための住宅の新築や改修工事、住宅の取得を行う場合に補助金が交付される制度で、補助対象経費の5分の1以内の額(新築工事または新築住宅取得の場合は上限20万円)を補助します。但し、受付可能件数に達した時点で受付が終了になるなど、条件があります。
補助金の有無や条件などは、お住まいの自治体のホームページで確認してください。
次に家族の人数別に二世帯住宅の間取り実例を紹介します。
3人家族(二世帯同居、想定家族、母、夫、妻)、約33.8坪の完全同居型のプランを紹介します。1階には広々としたLDKを設け、2階には子世帯の寝室と親世帯のパーソナルリビング(寝室とリビングを兼ねた部屋)と書斎を設置。将来介護が必要になったときの介護室として使える和室を玄関脇に設けています。
次に6人家族(三世代同居、想定家族/父、母、夫、妻、息子、娘)で、約54坪の完全分離型の間取りプラン例を紹介します。玄関は2つ、LDK、お風呂を各階に設けた完全分離型で、それぞれの生活は独立させながら、玄関ホールに親世帯と子世帯の行き来ができるよう室内ドアを設けています。子世帯は共働きをイメージして、親世帯が子世帯のLDKを通らずに孫の部屋や屋上に行ける動線を工夫しています。
次に4人家族(三世代同居、想定家族/母、夫、妻、娘)で、約42坪の部分共有型のプラン例を紹介します。玄関は1つ、1階のLDKにはビッグテーブルを置いて家族全員で食事をとれるようにしていますが、2階にはサブリビングを設けたほか、シャワールームも設置しました。1階のパーソナルリビングは、母の寝室兼専用リビングです。子ども部屋へはサブリビングを通って出入りします。階段を中央に配置して、玄関からリビングを通らず子世帯に行けるプランなので、来客や外出時も気を使いません。
二世帯住宅の間取りは、家族の人数や希望、価値観をはじめ、敷地の広さや予算などによりさまざまな選択肢があり、自由度も高いです。それを踏まえて、完全同居型、完全分離型、部分共有型のどのタイプにするかを決めると方向性が見えてきます。二世帯住宅の間取りをつくる基本を頭に入れて、家族で率直な意見を出し合って方向性を決め、建築会社に相談してみましょう。
二世帯住宅の間取りは大きく分けて、完全同居型、完全分離型、部分共有型の3タイプがある
二世帯住宅に必要な居住面積は「欲しい部屋の広さ(畳数)の合計×1.5~1.9倍=二世帯住宅に必要な居住空間の畳数」を目安にするとよい
二世帯住宅を成功させるには、お互いの生活に干渉しない、過度に気を使わないなど、心がけが大事