注文住宅を新築したり、建て替えたりするときに、ホームエレベーターを設置するケースが増えています。しかし、費用や用途を深く考えずに設置して後悔する人も多いようです。また逆に、あとから設置しようとしても費用が高くなったり、構造上設置ができなかったり、あの時設置しておけば良かったと後悔することも。ホームエレベーターの設置で後悔しないためにはどのような点に気を付ければ良いのか、サクラ・ワークの桜川茜依子さんと山本浩三建築設計事務所の山本浩三さんに話を聞きました。
ホームエレベーターは、小型エレベーターとよく似ていますが、厳密にいうと「特殊な構造又は使用形態のエレベーター」として、小型エレベーターに対して定められている法的な規定の一部を緩和・撤廃する形で個人の住宅用に提供されるもののことを言います。
ホームエレベーターには、以下のような規定があります。
■定員:3名以下
■積載量:200kg以下
■かご(ホームエレベーター)の床面積:1.3m2以下
以前は、小型エレベーターとの違いが明白ではなく、ホームエレベーターは昇降行程(一番下の階の床面から一番上の階の床面まで)が10m以下のエレベーターで、かごの床面積が1.1m2以下のものと規定されていましたが、2015年に改正があり、昇降行程の規制は撤廃され、床面積が緩和されました。
そのため、ホームエレベーターは法的には何階建てでも設置できることになりますが、メーカーでは停止箇所が最大で3~5カ所までとしている製品が多いようです。サイズ感としては、かごの床面積が1.3m2以下ということは大体畳1畳弱が上限になります。
また、ホームエレベーターを設置できるのは、個人住宅のみ。学校や福祉施設、共同住宅(一部のシェアハウスは設置可能)などに設置するエレベーターは小型エレベーターとして区別されるので、注意が必要です。
ホームエレベーターには、駆動方法の違いでロープ式と油圧式、二つのタイプがあります。
油圧式は、油圧ユニットからの圧力で油圧ジャッキが押し上げられ、エレベータールームを昇降させます。ロープ式よりも省スペースで済みますが、定期的なオイル交換が必要で、5年ごとに約5万円程度の費用がかかります。
ロープ式は、ワイヤーロープでエレベータールームを吊り下げて、ドラム式の巻き上げ装置で上げ下げする方式です。油圧式より最大昇降行程が長く、多く停止できます。優しく快適な乗り心地で駆動音が静かなのも特徴の一つですが、上と下に、モーターや巻き上げ装置を設置するスペースが必要です。
「建物には高さ制限があるので、昔は相対的に設置スペースが小さくて済む油圧式を選ぶ人も多かったのですが、現在は、ロープ式も昇降路(高さなど)の設置寸法が油圧式とあまり変わらなくなりました。電気代はロープ式の方が安めで、イニシャルコストも油圧式よりロープ式の方が若干安いくらいです。自分の家にどちらのタイプが適しているかは、エレベーターメーカーと相談をするのが良いでしょう」(桜川さん)
ホームエレベーターを設置することのメリットは、いろいろあります。ホームエレベーターを必要とする人は、高齢者や車椅子の利用者だけではありません。どのようなメリットがあるのか、見てみましょう。
ホームエレベーターの最大のメリットは、階をまたいだ移動が楽だということです。都心部では縦型の住居も増えているので、高齢者に限らず、ホームエレベーターの設置を考える人は増えています。高齢者や障がいのある人にとっては、自由に別の階へと行き来ができるので、家族から孤立することもないでしょう。階段でうっかり足を踏み外して転倒するなどの心配もなくなり、車椅子での移動も可能です。
重いものやたくさんの荷物を運ぶ場合も、ホームエレベーターを利用すれば楽に運ぶことができます。例えば、冷蔵庫の搬入や、布団を3階のベランダで干したいときなどにも便利です。
眺望の良い2階や3階にリビングを設けるケースも増えています。来客があったときに、ホームエレベーターがあれば、玄関から直接リビングに案内することができるのがメリットです。来客にプライベートな部分を見せたくない場合も、ホームエレベーターは使い勝手の良い移動手段になるでしょう。
山本さんによると、ペットの移動にホームエレベーターを活用したいというニーズもあるそう。
「大型犬2頭を飼っている施主から、犬が歳を取ったら抱えて移動するのは厳しいということで、15坪の敷地に3階建て、屋上にドッグラン、ホームエレベーター付きの家の設計依頼を受けました」(山本さん)
ホームエレベーターは、ペットがいる家庭や、階をまたいでの移動が多い人にとっては、移動手段として便利です。
ホームエレベーターを設置するデメリットとして、設置費用やランニングコストが高いことが挙げられます。他にもスペースの問題や騒音などの注意すべき点はあるのでしょうか。
一般的にメーカーが提示しているエレベーターの価格は本体価格のみで、据付工事費は建物によって変わります。木造に設置する場合の本体価格が高いのは、補強材などが必要となるためです。
「上がる階数が増えるごとに、ドアや機械の巻き上げが増えるので、50万~75万円ほどプラスになります。また、木造の場合は、基礎を強化する必要があるため、他の工法の家に設置するよりも高めに価格が設定されています。据付のための基礎の補強は、ざっくりと、坪当たり1万円程度はアップすると考えると良いでしょう。つまり、30坪の家であれば30万円程度です」(山本さん)
「ホームエレベーターの本体+据付費用は、ざっくりとした金額ですが、2人乗りのエレベーターで320万~450万円くらい。3人乗りでは400万~670万円くらいが目安でしょう」(桜川さん)
鉄骨・コンクリート造住宅 | 木造住宅※ | |||
---|---|---|---|---|
2階建 | 約380万円 | 商品代約333万円 参考据付費約46万円 |
約390万円 | 商品代約344万円 参考据付費約46万円 |
3階建 | 約414万円 | 商品代約360万円 参考据付費約53万円 |
約430万円 | 商品代約377万円 参考据付費約53万円 |
鉄骨・コンクリート造住宅 | 木造住宅※ | |||
---|---|---|---|---|
3階建 | 約430万円 | 商品代約377万円 参考据付費約53万円 |
約447万円 | 商品代約394万円 参考据付費約53万円 |
4階建 | 約464万円 | 商品代約405万円 参考据付費約59万円 |
約486万円 | 商品代約427万円 参考据付費約59万円 |
ホームエレベーターの初期費用は、本体の購入や設置工事の費用だけでは済みません。新築の場合は、設計段階からそれらの工事を組み込んで建てますが、その分建築費や設備工事費がかかります。入居後にリフォームしてホームエレベーターを入れるとなると、さらに大規模な工事が必要です。
各階の扉となる穴を開ける工事、エレベーターが行き来するための縦の通路を設ける工事、エレベーターを固定する基礎や動力ユニットなどを収めるために基礎にスペースを作る工事などが必要です。また、エレベーター機器を昇降路に入れるための荷上げ用の梁やフックの設置、昇降路内の仕上げ、各階の乗り場の枠周りの仕上げなど、建築コストが嵩みます。また、先に紹介しましたが、木造住宅の場合はさまざまな補強工事も必要になります。
エレベーター専用のブレーカー設置、昇降路への電源線の引き込み、電話線の引き込み工事、電話会社との契約、工事用の仮設電源供給工事、試運転用の本設電源供給工事などが必要になります。また、火災時管制運転やインターホンといったオプションを選択した場合は、それぞれの設備の電線を引き込む工事も必要です。
「どのくらいの費用がかかるのかは、建物が木造なのかRC造なのか、何階建てなのか、油圧式なのかロープ式なのか、オプションをつけるのか、というさまざまな条件が関係しています。エレベーター本体の見積もり金額だけでなく、建築費や設備工事費などの費用も確認しましょう。いろいろなオプションをつけると、600万円以上、中には800万円近くかかってしまったというケースもあります」(桜川さん)
ホームエレベーターを利用するには電気が必要なほか、安全に使いつづけるためには定期的なメンテナンスも欠かせません。これらの費用以外にも、いろいろな費用がかかります。
使用頻度によっても変わりますが、ホームエレベーターを稼働させる電気代は、各メーカーが出している試算としては月々およそ500円程度です。
各メーカーでは、定期的な保守点検を行い、何かあった時はすぐに駆けつけるメンテナンス契約を用意しています。メンテナンス契約を結ぶと契約金がかかる代わりに、万が一のときの出張費が無料になったり、部品交換費用も割引になるといった特典があります。
「マストではありませんが、ホームエレベーターの安全な運航のためには、私はメンテナンス契約を結ぶべきだと考えます」(桜川さん)
エレベーターの種類やメーカー、使用頻度によって異なりますが、年1回の保守点検を行うのが一般的です。メンテナンス契約を結ぶと、管理費として年間4~6万円(+緊急対応や部品の交換費用など)ほどが必要で、部品代や交換作業代は別途必要になります。トータルでは、一般的に年間で約5~10万円ほどを見ておく必要があるでしょう。
油圧式エレベーターの場合は、5年ごとにオイル交換する必要があり、交換費用として1回5万円ほどがかかります。
ここで紹介した費用以外に、故障した場合には修理費用が必要ですし、後述する固定資産税がアップする場合などがあります。
「ホームエレベーターの設置は、簡単に言うと、家の中に上下を貫く筒を入れ込むようなもの。当然スペースが必要です。その分、他の部屋などの広さを犠牲にすることになります」(山本さん)
また、ホームエレベーターには、使用中に万が一停電になっても、最寄りの階までバッテリーで運転する装置や、停電灯・地震が起きた時に運転を制御する地震時管制運転装置などが標準装備、またはオプションでつけらます。しかし、いずれも非常時に対応する一時的なものであって、災害時に移動手段として使うことはできないのです。
ホームエレベーターを設置すれば階段は必要ないのでは?と考える人もいるかもしれませんが、階段も必ず設けなければいけません。
「電気で動くので停電や地震になれば動かすことができません。避難のための移動手段として、階段は別に作る必要があります」(桜川さん)
「玄関付近にホームエレベーターを設置し、家の奥に階段を作ることで、上下を行き来する動線が2本でき、上階に上がるときはエレベーター、降りるときは階段を利用してスムーズに動けるようになったという声もあります」(山本さん)
エレベーター稼働時の音は、約50デシベル、エアコンの室外機の音を間近で聞く程度だということです。音に敏感な人は寝室の近くに設置することは避けた方が良いかもしれません。
これらのデメリットを考えると、設置するだけでなく、ホームエレベーターを安全に動かし、維持していくにもコストがかかります。そのことを知らないと、ホームエレベーターを導入しても後悔することになりそうです。階段で移動ができる健康な人や、働いていて昼間は家にいないという人など、実際に使用頻度が少ない場合は必要ないかもしれません。
「ホームエレベーターを導入しようとご相談いただいたのですが、建築費が高くなりすぎるということで、やめた施主もいます」(山本さん)
ホームエレベーターを導入するには、所定の手続きが必要です。また、設置した後も維持管理を行うために、さまざまな手間や費用がかかります。後から「こんなはずじゃなかった」と後悔しないようにあらかじめ確認したうえで導入しましょう。
ホームエレベーターを設置するには、事前に建築確認申請が必要です。建築基準法に適合した建物・設備であるかどうかを役所や検査機関にチェックしてもらうための制度で、申請には費用がかかります。また、新築住宅にホームエレベーターを設置する場合は、建物の建築確認申請とは別にエレベーターの確認申請が必要ですが、基本的には建築会社やエレベーターメーカーが手続きをしてくれます。
「木造2階建の建物にホームエレベーターを設置する場合、エレベーター単独での申請は不要とされています。しかしこれはエレベーターの確認が不要というわけではなく、新築時は建物との併願申請になるということです。建物の確認申請書類にエレベーターの申請も添付する形で申請します。申請費用は、自治体によっても変わってくるので、窓口で確認してください。いろいろ合わせて10万~15万円ほどは予定しておいた方が良いでしょう」(桜川さん)
ホームエレベーターを設置すると、固定資産税がアップする可能性があります。固定資産税は、土地や建物といった不動産を所有している人に課されるもので、その金額は、国が定めた「固定資産税評価基準(総務省「固定資産評価基準 第2章 家屋」)」により、税務署職員の家屋調査(図面調査もしくは現地調査)で算出されます。
いくら上がるかは、ホームエレベーター以外の設備や仕様なども関係しますので一概には言えませんが、ホームエレベーターは評価基準が高くなる設備のため、固定資産税が上がる要因になり得ます。
誤解されがちですが、定期検査と保守点検は違うものです。定期検査とは、検査者により、安全装置が国土交通大臣が定める基準に適合しているかどうかを検査するもの。保守点検は、調整・給油・清掃など、エレベーターに異常がないか機器の性能をチェックし、メンテナンスを行います。
ホームエレベーターの場合、一部の地域を除いて、定期点検は必要ありません。ただ、地域の行政指導により行政庁へ検査報告書の提出を求められる場合もあるので、エレベーターメーカーに確認しましょう。
「定期検査が必要ないといっても、安心安全に運行するための定期的な保守点検は、建築基準法第8条1項によって努力義務として求められています」(桜川さん)
法定点検(保守点検)の点検記録は3年以上の保管が必須です。エレベーターメーカーとメンテナンス契約を結ぶと年に1回など、定期的に保守点検を行ってくれるので、部品の劣化などを早期に発見して交換することで、故障や事故を未然に防ぐことができます。
日本では高齢化が進み、バリアフリーを考慮した家が増えています。ホームエレベーターで車椅子に乗ったままフロアを移動できれば、高齢になったときや足に障がいが生じた場合にも、長く自宅で自立した生活を送れる可能が高まります。
ただし、車椅子での利用を想定している場合は、ホームエレベーターのサイズや積載重量に注意しなければいけません。使用する車椅子のサイズにもよりますが、車椅子が乗るには最低でもホームエレベーターの幅が800mm以上、奥行き1000mm以上が必要になることがほとんどのようです。さらに、介護者も一緒に乗ることを想定するなら、さらに大きいサイズのエレベーターが必要です。狭小住宅用のコンパクトタイプ(幅650mm×奥行き650mmなど)のエレベーターでは、最小サイズの車椅子でも奥行きが足らず、車椅子のままエレベーターに乗るのは難しいでしょう。
ホームエレベーターの部品にも寿命があり、劣化すれば交換が必要ですが、長い年月が経つと部品も廃番になるなどして部品交換ができなくなります。そのため、一般的なホームエレベーターの物理的な耐用年数は25年程度として、メーカーも交換を推奨しています。
「もし、既存のホームエレベーターを撤去するとなれば、撤去工事のほか、補強工事、クロス工事、建具取り付け工事などのリフォームも必要になります。仮に撤去費用が50万円だったとしても、合算すると100万~200万円、場合によっては300万円以上かかることも。中には撤去費用が高すぎて、動かなくなったエレベーターをそのままにしてしまうご家庭も少なくありません」(桜川さん)
国交省は、高齢者や障がいをもつ人が健康で安心して暮らせる住まいの確保を提唱しており、バリアフリー対策として、主にリフォームでホームエレベーターの設置を推進していく方針が出され、補助金制度がいくつかあります。新築住宅の場合、直接的な補助金制度はありませんがZEHや長期優良住宅など利用できる補助金をチェックしましょう。
補助金についてもっと詳しく
【2022年度版】住宅購入や建築の補助金、減税、住宅ローン補助はどのようなものがある?
こちらは必須工事を行った上で、追加で申請できる補助金です。性能向上リフォームのほか、バリアフリー改修工事や高齢期に備えた住まいへの改修工事など、補助対象となる工事にホームエレベーターの設置が含まれる場合があります。
詳細については、募集が開始されると国交省のホームページに掲載されますので、こまめに確認するようにしましょう。
高齢の親族と同居していたり、50歳以上であったりなど所定の要件を満たす人が一定のバリアフリー改修工事を行った場合、改修後に入居した年の所得税額から一定額を控除できます。ホームエレベーターの設置についても対象となる可能性があります。
※2023年12月31日までに改修工事を終え、当該住宅に入居していることが条件です
国交省の方針に準じて、各自治体でも、自宅の改修でホームエレベーターを設置するときの補助金や助成金を設けているところが多くあります。行政によって、条件や支給額が異なるので、住んでいる自治体の住宅支援制度を確認してみましょう。
ホームエレベーターを新築の家に導入するには、構造上の問題など注意しなくてはならない点がいろいろあります。そこでホームエレベーターを取り入れた住宅の設計も数多く行っている、専門家に話を聞きました。
ホームエレベーターの設置は、室内に限られているため、狭小住宅などではその設置場所にも工夫が必要です。
また、ホームエレベーターは個人の住宅での使用に限られているため、出入り口が家の外に面しているような配置はできません。
「ホームエレベーターは、玄関の近くに設置するケースが多いですが、階段の近くにエレベーターを作る場合は、構造的に注意が必要です。エレベーターを設置するということは、家の中に筒状の空間を作るということです。階段も床に穴を開けて行き来する訳ですから、エレベーターと階段を近い場所に設置する場合は、きちんと計算しないと床の強度が弱くなってしまいます」(山本さん)
エレベーターの設置に必要なスペースは1畳ほどですが、床下にもエレベーターを動かすための機械を入れる、深さ70cm程度のスペースが必要です。
家を建てる際には、建ぺい率や容積率の制限が気になるところです。特に都会では、土地も限られているので、敷地内で目一杯に家を建てようとするケースも多いですが、2014年に建築基準法が改正されて、ホームエレベーターは延床面積に含まなくて良いことになりました。これにより、狭小地に建てる住宅などでも、ホームエレベーターを取り入れやすくなりつつあります。
今はまだ必要ないけれど、ゆくゆくはホームエレベーターを入れたい、と考える人もいるでしょう。しかし、新築時に導入するのと比べると、後からホームエレベーターを設置する場合は、確認や検討をしなければならない点が多く、大変です。
「鉄筋コンクリート造やRC造であれば、骨組みのあるところにはホームエレベーターが通る空間を作ることができないので、設置できる場所が限られます。また木造は、ほとんどの場合、基礎に補強工事が必要になるでしょう。そもそも木造は柱や梁が組み合わさって家を支えているので、それらを避けてホームエレベーターを通すというのはかなり大変なことです」(山本さん)
さらに、ホームエレベーターの動力ユニットを入れるスペースを作るために、一部の基礎を壊して掘削する工事(はつり工事)が必要になります。
それゆえ、後からホームエレベーターを設置するとなると、設置費用はさらにアップするでしょう。木造で耐震補強を施す大掛かりなリノベーションになると、全体で1300万円もかかったというケースもあるようです。リフォームの場合は次のようなさまざまな要素によって金額が変わりますので見積りを取ることをオススメします。
1.その家が木造か、鉄筋コンクリートか(建物の補強)
2.どこに設置するか(間取りを大きく変えると工事費がアップする)
3.どのタイプを設置するか(タイプによってエレベーター機器の値段が変わる) など
「メーカーによっては、掘削する深さが20cmで済む製品も展開しているので、そのようなものを選べば、工事の負担が大分軽減されるでしょう。また、リフォームで後からホームエレベーターを設置する場合は、建物と切り離して昇降路を設置することで建物への負荷を軽減する、自律鉄塔方式を採用するケースが多いです。ただし、2階建てまでの住宅にしか設置できないメーカーもあるので、事前に確認する必要があります」(桜川さん)
家を建てるときに、将来ホームエレベーターを設置することを視野に入れて設計するという方法もあります。
そうすれば、構造面で補強をしたり、後から基礎をいじったりしなくて済むので、費用を抑えることが可能です。
山本さんが設計を手がけた家では、設計時には小さかった子どもたちが独立した後、夫婦の老後にホームエレベーターを設置できるような間取りにしました。後から床を抜けるよう、耐震計算をして家を建てたそうです。
「あらかじめ床下にエレベーターユニット設置のスペースを確保して設計すれば、後から設置するときの建築工事費用は、床を解体・撤去して仕上げも含めて50万円ほどで済むのではないでしょうか」(山本さん)
このように初めから先々を考えて変えられるゆとりを持って設計すれば、かなり自由な間取りが実現できます。
既存の住宅に後から設置したい場合は、建築確認申請書・検査済証(建築確認)がある住宅でのみ可能となります。木造2階建の建物に後から設置する際は、ホームエレベーターの単体での確認申請は必要ありません。
「ただし、後からホームエレベーターを設置する場合は、旧耐震の建物の場合は特に耐震性に影響が出る可能性があり、一部の行政庁からは報告を求められることもあります」(桜川さん)
「建築確認申請が不要だからといって、きちんと構造計算をせずにホームエレベーターを設置するのは非常に危険です。後から家の不具合が出る可能性もあるので、しっかりと構造計算をしてくれる業者を選び、行政にも相談してください」(山本さん)
ホームエレベーターは、スペースを取るので狭小住宅では無理と考える人もいるようですが、狭小住宅用の小型のタイプもあるので、設計次第では、取り入れることができます。
「前述のとおり15坪の敷地にホームエレベーター付きの家を設計したこともあります。最近では、狭小住宅に合わせて、0.75畳程度のコンパクトなホームエレベーターもあるので、狭小地でも設計次第でホームエレベーターの設置が可能です」(山本さん)
防火区画の建物にホームエレベーターを設置する場合は、遮炎対策や遮煙対策のために防火扉や煙探知機、火災発生時に自動的にエレベーターを避難階に運転させる機能などのオプションを付ける必要があります。
しかし、木造住宅で延床面積が200m2以下で3停止以下、つまり地上3階建て、もしくは地下+2階建ての住宅であれば、適用になりません。詳しくはエレベーターメーカーに確認しましょう。
スーモカウンターで、ホームエレベーターを設置した先輩の事例を紹介します。先輩が、どんな点にこだわり、どんな住まいを実現したのか、実例を参考に学んでいきましょう。
同居していた両親が亡くなったことをきっかけに、新たな終の住処となる家を探そうとスーモカウンターを訪れたKさん夫妻。スーモカウンターでは資金計画や家づくりのダンドリなどを中心に話を聞き、4社を紹介してもらいました。その中から「建築重機が入らないくらい細い路地奥の土地や傾斜地では、かえって建築コストがかかってしまいますよ」とアドバイスをくれた会社がピックアップしてくれた土地が決め手になりました。交通の便も土地形状も良く、トータルで2300万円という予算内で収まりそうだったため、依頼を決定。
Kさんは介護職に就いていたこともあり、将来もしも車椅子生活になったときに困らないようなつくりにしたい、というのが家づくりの一番のテーマでした。車椅子でも快適に過ごせるように、エレベーターの位置や廊下の幅など動線は試行錯誤したものの、よく考えてつくった住まいなのでとても気に入って暮らしています。
この実例をもっと詳しく→
介護が必要になったとしてもリフォームしないで快適に暮らせる家
ホームエレベーターの設置に関してよくある質問をQ&Aで紹介します。
敷地にゆとりがあれば、増築して現在の住宅の外側に昇降路を設置することができます。ホームエレベーターの利用は室内限定につき、出入口は外側に設けることはできません。
地下や屋上でも、住宅内であれば可能です。
ロフトに関しては、エレベータールームの高さが決まっているため、設置はできないでしょう。
オプションで換気扇をつけることはできますが、冷暖房機能がついたホームエレベーターは無いようです。また、断熱性は家に面した部分は建物に断熱材が入っています。さらに昇降路の下のピット部分にも、断熱材を入れることで断熱性能を高めることができます。
通常、エレベータールーム内に万が一の緊急時に外部と連絡できる電話機が標準装備されています。ただし、電話回線の契約は別途、自分で手続きする必要があります。
エレベーターメーカーのショールームなどで確認できます。
1分間に20~30m程度です。機種によっても変わるので、メーカーに確認してください。
近頃は、バリアフリー・フロアフリーの考え方から、2階建てでも設置する家が増えています。
階段昇降機と違い、ホームエレベーターの設置には家自体に手を入れる大掛かりな工事が必要です。そのため、ホームエレベーター機器のレンタルはありません。
新築時、設計にホームエレベーターを組み入れれば、住宅ローンを利用できます。
鍵がついているものは無いようです。その代わりに、セキュリティや子どものイタズラ防止、省エネのために
エレベーターの運転・停止を操作する管理スイッチが標準でつけられています。オプションで各階に増設可能です。
置けます。
3人乗りのホームエレベーターであれば、一般的な家庭用の冷蔵庫の搬入なら、重量・サイズ的にも問題ないでしょう。
二人乗りや、狭小住宅用の一人乗りホームエレベーターの場合は、サイズ確認が必要です。
一般的なサイズのベビーカーであれば、大丈夫でしょう。
業務用エレベーターと違い、家の中でも違和感なく溶け込むようなデザインになっています。木質調やメタリックなマテリアル調など、各メーカーでいろいろなタイプがあるので、インテリアに合わせたデザインを選ぶことができます。
また、手すりやルームミラーなどもオプションで選ぶことが可能です。
建築基準法により、エレベーターを廃止する場合は、所轄行政庁への届出が必要です。ホームエレベーターも例外ではありません。また、修理や改造をした場合や、1~2年の長期にわたり休止する場合も、それぞれ変更届や休止届を提出する必要があります。
最後にあらためて桜川さんと山本さんに、ホームエレベーターを設置するときのポイントを聞きました。
「ホームエレベーターの設置には、エレベーターメーカーが提示する価格の他にもたくさんの工事が必要で費用がかかります。ランニングコストも電気代だけではありません。そのことを知らないで導入すると、思わぬ出費で後悔することになります」(桜川さん)
「後からホームエレベーターを設置するなら、あらかじめ予定に入れた設計をして家づくりをすることが、スムーズに導入するポイントです」(山本さん)
エレベーターメーカーが提示する価格以外にも建築工事費などが嵩む可能性あり
将来ホームエレベーターを設置する場合は、耐震性を考慮したプランを
ホームエレベーターは撤去やリニューアル費用まで考える必要がある
補助金や助成金は、こまめに、国土交通省と自治体のホームページをチェック!