住まいの中でありながら、土足で歩くことを前提とした「土間」に魅力を感じる人が増えています。この土間をリビングに取り入れた「土間リビング」とは、どのようなものなのでしょうか。土間リビングのメリット・デメリットや失敗・後悔をしないための工夫、インテリアや間取りのポイントについて、フォレストコーポレーション・工房信州の家の赤羽由美さんに聞きました。
土間リビングとは、土足で歩くことを前提とした、コンクリートやモルタル、タイルなどを素材としたリビング空間を指します。
リビングといえば、床にはフローリングやカーペットなどが敷かれているイメージをもつ人が多いのではないでしょうか。対して土間は「玄関」「昔ながらの平屋の台所」といった印象があります。しかし近年、土間に魅力を見いだし、生活の中心となるリビングに取り入れたいと考える人が増えているのです。
リビングをあえて土間にするのには、どのようなメリット、そしてデメリットがあるのでしょうか?
まずは、土間リビングのメリットから見ていきましょう。
室内から土間に下り、そこからさらに庭へと出られる土間リビングは、内と外をゆるやかにつなぐ空間として多目的に使えることが魅力です。
例えば子どもやペットの遊び場にする、ガーデニング、DIYを楽しむなど、通常のリビングでは少しためらうような使い方も検討できます。外のように使える一方、屋内の空間なので、雨天時や冬場の寒さ、夏場の暑さなど、天候を気にしなくてよいのもポイントです。
「陶芸などを楽しむ人もいますよ。なによりリビングであるため、家族とコミュニケーションを取りながら作業できるのが土間リビングのよいところだと思います」(赤羽さん/以下同)
土間リビングは、通常の床から10~30cmほど下げて設計することが多いため、庭との距離が近くなります。さらに窓を大きく取ることで「家」と「庭」との境目がゆるやかになり、外界との一体感を得やすくなります。
例えば人が訪ねてきたときでも、玄関ではなく土間リビングであれば、家に招き入れるほどの堅苦しさがありません。気軽に立ち寄れるコミュニケーションスペースとしての役割を果たすのも、土間リビングのメリットです。
「外からのお客さまだけでなく、自然と家族も集まります。なんとなくいつも人がいて、居心地よく過ごせるのが土間リビングのいいところです」
土間リビングは土足で歩くことを想定している場合が多いため、汚れが気になりません。例えば飲みものや食べものをこぼした場合、フローリングやカーペットではすぐに拭き取らなければシミになってしまう恐れがあります。
しかしコンクリートやモルタル、タイルなど、耐水性や耐汚性が高い素材が使われている土間リビングなら、床材に液体などがしみ込んでいく心配がありません。慌てず雑巾やワイパーなどで拭き取れば、簡単に汚れを落とせるのがメリットです。
土間リビングは、そのまま外に出られるように、庭などに面して掃き出し窓とあわせて設計することが多くあります。そのため、外で使うものを玄関を経由せずに屋内に持ち込み、気軽に収納できるのも土間リビングの長所です。
例えば、野球やスキー道具などのアウトドア用品を外から直接持ち込み、そのままメンテナンスをして収納することができます。室内の汚れを気にしなくていいのは大きなメリットといえそうです。
土間リビングに使用されるコンクリートやタイルなどの素材は熱伝導率が高いので、素足で歩くとひんやりして気持ちがいいのもメリットです。土間は土足で歩くイメージがありますが、土間リビングは居室の一部としてきれいに掃除し、素足で行き来する人もいます。
「もちろん履物を用意する人もいますが、普通のリビングと同じように日常的に掃除機をかけて、そのまま素足で使うケースもありますよ」
土間リビングにはデメリットもあるのかも気になるところです。ここでは考えられるデメリットを紹介します。
夏場はひんやりと気持ちいいコンクリートやタイルですが、冬になると冷たくなるため足元が冷えるのがデメリットです。土間リビングは一段低い位置にあるので、冷たい空気がたまりやすい傾向もあります。ただし冷えの問題は、家自体の断熱性を高めることで解消が可能です。
「近年は住宅の断熱性能が向上し、気密性も高くなっています。そのため土間リビングを設計するときにきちんと断熱を考えていれば、昔の土間のような『底冷えする寒さ』を感じることはありません」
土間リビングを土足で利用するケースでは、ほかの居住スペースと行き来するたびに靴の脱ぎ履きが生じることを面倒に感じる人もいるようです。
そのまま外出するときには靴を履くにしても、日常過ごすときにはさっと履けるサンダルを用意するなどの工夫が必要かもしれません。
土間リビングはその性質上、段差を設けるケースが多くあります。そのためバリアフリーには適していないように感じられます。
しかし土間リビングは、車イスであっても間口の広い掃き出し窓から直接室内に入れるのは利点です。段差を小さくする、土間にアクセスするルートを考えるなど、設計面でできる工夫をあわせて検討するとよいでしょう。
家の設計にもよりますが、土間リビングをプランに入れることで、工事費用が高くなるケースがあります。通常のリビングであればフローリング工事だけで済みますが、土間をつくる別工程の費用が加わり、左官・タイル職人などが入る必要があるためです。
ただし内装を塗り壁にする、玄関やアプローチはタイルで仕上げるなど、もともと左官やタイル職人が工事に入っている場合には、さほど影響しないことも。土間リビングにどんな素材を使うのかにもよるので、必ずしも工事費が高くなるとは限りません。
続いて、土間リビングにする際の注意点を解説します。とくに「冬は寒い」「じめじめする」イメージがある土間リビングでは、どのような対策を取るとよいのでしょうか?
土間リビングにするときには、基礎部分をしっかりと断熱することが大切です。床の冷えは床下から伝わってくるものなので、基礎部分の断熱が不十分だと寒い土間リビングになってしまいます。
「近年は住宅の断熱性能に対する人々の意識が向上し、建築技術も発達してきました。断熱材も高性能なものが多くあります。断熱をしっかりしていれば、土間であっても足元が冷えることはありません」
土間リビングとあわせて、暖を取るために薪ストーブを導入する人も多いようです。土間リビングなら、薪をストーブの近くに置いておくことができます。寒い中、外に取りにいかなくてよいので便利です。
薪ストーブは溜まった灰や付着したススの手入れが必要ですが、土間リビングなら汚れを気にせず掃除できるのもメリットです。
「薪ストーブは土間リビングととても相性がいいアイテムです。当社では、お客さまの約6割が薪ストーブを導入しています」
土間リビングでも、床下に温水を循環させて暖を取る「温水式床暖房」を採用することがあります。床暖房は基本的に後付けが困難なので、設置するなら新築時に検討が必要です。
「当社の展開する長野県内では、導入する人はあまりいません。それは基礎からきちんと断熱していれば、寒さを感じることがないためです」
一般的に湿度が高くなりやすいといわれる土間ですが、基礎を打つときに適切な断熱材を入れ、さらに防湿シートを敷き込むことで気にならない程度に抑えられます。土間リビングの壁に珪藻土や漆喰(しっくい)など吸湿性がある素材を使うのも方法のひとつですが、基本的には家全体の断熱性能を高めることが大切です。
「温度や湿度に左右されない過ごしやすい住宅にするためには、土間だけでなくほかの床や壁、窓などの開口部、天井なども含め、トータルで断熱を考えることが大切です。
住宅に求められる断熱等級をクリアするようにきちんと設計されていれば、土間リビングであるかどうかにかかわらず、快適に暮らせる家になります」
ここからは、土間リビングをよりおしゃれにするポイントや、掃除・メンテナンスの方法などを紹介します。
土間リビングのインテリア選びには、土間の広さがどの程度の割合を占めるか、またどのような素材を使用するかなどが影響します。とくに土間リビングの面積が広い場合は、土間部分の色にあわせてインテリアを選ぶと、家全体の統一感が生まれます。
「お手入れしたお気に入りのアウトドア用品や自転車などを、そのままインテリアとしてディスプレイする人も多いです」
土間リビングとほかの部屋との段差については、どのように使いたいかによって適切な高さが異なり、また見た目の印象も違ってきます。
基本的に、低ければ昇降が楽になり、ほかの部屋との連続性・一体感を感じられます。しかし低くしすぎると、土間の汚れやほこりが部屋に入り込みやすくなる点に注意しましょう。
反対に高くすると、昇降しづらくはなりますが、ベンチのように使えて便利です。土間リビングの用途に応じて、高さを検討するとよいでしょう。
土間リビングの日常的な掃除は、ホウキを使って掃き出し窓から土やほこりを掃き出すだけなので手軽です。土足ではなく素足で利用している場合は、ほかの部屋と同様に掃除機をかけてもよいでしょう。
タイルやコンクリートなど耐水性の高い素材が使われているので、ひどく汚れたときには絞った雑巾で拭き掃除をしたり、水で洗い流したりしても問題ありません。
「土間リビングには排水口などは設けていませんが、掃き出し窓から水を外に流せます」
土間リビングに使われるコンクリートやタイルなどは耐久性が高く、表面に傷がつくことはほとんどありません。屋内にあり、直射日光や風雨にさらされることもないので、定期的なメンテナンスは基本的には不要です。
ただしタイルは、重いものやとがったものを落としたときにはひびが入ってしまうことも。大きな亀裂が入ったときには、施工した業者に相談することをおすすめします。
土間リビングを検討するときの、間取りのポイントや実際の事例を紹介します。
これから建てる家に土間リビングを検討するときには、土間をどのように使いたいのかを考えて設計しましょう。
内と外の中間の位置づけとして庭との連続性を考えるなら、土間リビングの先にテラスを設けるとさらに空間が広がります。ほかにも玄関とつなげる、キッチン・ダイニングも含めるなど、いろいろな間取りが考えられます。家族の日常生活の動線も含め、設計事務所や建築士とアイデアを出し合うのがおすすめです。
ここからは実際に土間リビングを採用した実例を、間取りとあわせて紹介します。
広々としたダイニングキッチンの先に土間リビングを設けた事例です。天然石を敷き詰めてつくられたテラスと同じ素材を土間に使うことで、内と外の一体感が増しました。2面のほとんどがガラスとなっているため明るく、まるでサンルームを思わせる土間リビングとなっています。片隅にBBQコーナーを設けてあるので、友人を大勢招いてのパーティーも楽しめます。
1階のリビングの半分を土間にした事例です。土間リビングの先にはさらにテラスが設けられ、より庭との一体感が得られるつくりとなっています。土間リビングからそのまま駐車場にもアクセスできるよう、動線も工夫しました。土間の高さは床から30cmほど下げたので、人が多いときにはベンチとして使えるのも便利です。
家の中心に、大きなウッドデッキと土間リビングを大胆に配置しました。土間リビングからウッドデッキに通じるサッシはすべて開放できるので、まるでひと続きのリビングルームのように使えます。天井を吹抜けにしたことで空間が広がり、さらに開放感がアップしました。土間リビングに据えたドイツ製の薪ストーブも、存在感抜群です。
最後にあらためて赤羽さんに、土間リビングを取り入れるときのポイントを聞きました。
「土間リビングありきで考えるより、まずは自分たちの理想の暮らしを思い描くことが大切です。そしてその中に土間リビングがあったらどうなるのか、どうよくなるのかをイメージしましょう。より自分たちらしい、ほかとは違う住まいを実現する方法のひとつとして、土間リビングを取り入れてみてくださいね」
土間リビングは内と外をゆるくつなぐ空間として多目的に使える
きちんと断熱を施せば寒い土間リビングになる心配はない
自分たちの理想の暮らしの中で土間リビングがどう役立つのかをイメージすることが大切