家とは別にガレージやカーポートを備えるよりも、土地を有効活用しやすいビルトインガレージ。そもそも、ビルトインガレージとはどのようなものでインナーガレージとの違いはあるのでしょうか。また、使い勝手のよいビルトインガレージにするためには、どんな間取りがいいのか、注意したいことはどのような点でしょうか?そんなビルトインガレージの基礎知識を建築家の松永さんに教えてもらいました。
敷地内に駐車スペースを設ける場合、居住空間のある建物とは別棟で建てるガレージや、カーポート(屋根と柱だけの簡単な車庫)のほかに「ビルトインガレージ」という方法があります。車を格納するスペースを建物の一部に組み込んで、シャッターやドアを設置したガレージのことです。「土地が比較的狭いという日本独特の事情から人気があります。土地の広いアメリカでは別棟で建てるガレージが一般的です」(松永さん、以下同)。またビルトインガレージは屋内から愛車を眺めて楽しむことができるので、土地が広くても車好きの方には要望が多い間取りです。
松永さんは「ビルトインガレージは単に土地を有効活用できるだけでなく、暮らしを豊かにしてくれます」と言います。まずは、そんなビルトインガレージの実例を見て、魅力に触れてみましょう。
「ビルトインガレージ」も「インナーガレージ」も、どちらも建物内に組み込んだガレージのことで、言葉こそ違いますが同じガレージのタイプを指しています。どちらかと言えば、「ビルトインガレージ」のほうが言葉として浸透している印象です。一方、「ガレージハウス」は、インナーガレージやビルトインガレージを設けた“家“を指します。
ガレージを単に「車を格納する場所」ではなく、一つの部屋として“車も格納できる居室をつくる”と考えることで、豊かな暮らしができるようになると松永さんは言います。「好きな車いじりやプラモデルづくりが楽しめるような趣味部屋にしたり、ソファやテーブルを備えた第2のリビングにしたり、好きな車を眺めながら本を読んだりできるスペースにするなど、ビルトインガレージにはさまざまな活用方法があります。
また、ビルトインガレージから居室に出入口をつくることで雨の日の買い物が便利に。ガレージ内に出入口を設けていない住宅も散見されますが、ガレージ→パントリー→キッチンという風に、動線を工夫すればさらに暮らしやすい家にできますので、私が設計する場合、必ず設けています」。
木造3階建ての家族4人用のビルトインガレージの例です。敷地面積は約24坪ですが、1階部分にガレージ兼趣味部屋を設けることができました。ソファの置かれている趣味部屋には施主のバイクやトレーニングマシン、サーフボード、フィギュアコレクションなどが収められています。3階に設けたLDKは、天井の高さを活かすことで広々とした空間となっています。
1階が親世帯、2階が子世帯の二世帯住宅。1階の親世帯の居住スペースとガレージは玄関スペースを挟むことで緩衝空間にしています。ガレージは2階までの吹抜け構造で、中空に施主の書斎が設けられました。ここから愛車を眺めながら仕事ができます。書斎の隣は子世帯のリビングで、ガレージ~書斎の空間とは仕切り壁で区切り、古い車ならではの臭いや排気ガスがリビングへ入らないようにしています。ただし仕切り壁は大きなガラス面にして、「愛車と過ごす時間も、家族との繋がりも、どちらも大切にしたい」という施主の要望をかなえました。
これはビルトインガレージに限らず、別棟のガレージにも通じる話ですが、ガレージの床は、重量のある車が載っても割れなくて、水に強く、油などで汚れても気にならないコンクリートやモルタルの床が一般的です。その上に撥水・防汚対策としてオイルフィニッシュを塗布したり、車の修理工場のような樹脂製塗料を塗るという方法もあります。
「ただし、ガレージの目的によって床を選んだほうがいいでしょう。私が最近いいなと思っているのは実は無垢のフローリング材です。見た目が部屋のようになりますし、多少の傷や汚れは味とするか、気になるなら無垢材ですから表面を削ってきれいにすることもできます」
1階はガレージと水まわり、2階はLDKと寝室のあるビルトインガレージの事例です。ガレージは大型バイク3台と車1台が収まる広さがあります。ガレージの右側の床はコンクリートですが、左側だけ表面に樹脂加工が施されています。これはバイクいじりの好きな施主のために、水や汚れに強く、部品を落としても見つけやすいようにするためです。
ガレージ内にバーカウンターを設けたガレージの例。向かって左側のガレージは古いイギリス車に合わせて、床が無垢材をヘリンボーン柄に組まれているほか、壁はビンテージ加工が施されているなど、古いイギリスのガレージを思わせる内装に。一方、右側は近年の車用のガレージとし、床は市松模様の樹脂タイルとするなど、左側のガレージと性格が分けられています。両ガレージの間には玄関ホールがあり、2階に上がると広々としたLDKが広がります。
ここまでさまざまなタイプのビルトインガレージの実例を通して、その魅力を紹介してきましたが、改めて、別棟のガレージやカーポートと比べた場合の、ビルトインガレージのメリットを見ていきましょう。
まず先述の通り、居住する建物とは別に車を格納するスペースを用意する必要がないので、土地が狭くてもガレージを備えることができます。またガレージ(自動車車庫)は「敷地内の建築物の床面積の1/5を上限に、容積率の緩和を受けられる」ため、容積率(※)の厳しい都心部などでは思っていた以上に広い家を建てられるというメリットがあります。
※容積率とは、敷地面積に対する建物の延床面積の割合のこと。都市計画法によって地域毎に定められている容積率内に収めなければなりません
容積率について、詳しくは
「知ってると安心!建物の規制につかう「建蔽率(建ぺい率)」「容積率」ってなに?」
一方で1階スペースはガレージで削られることになりますが、その分居住スペースを2階以上に充てることになるので、結果的に眺望や採光に有利な2階リビングといった間取りにしやすくなります。それに別棟でガレージを設けるのと違い、居住する建物と基礎も屋根も共有するため、その分のコストを抑えられます。
また、趣味部屋や書斎、第2のリビングなどに活用すれば、ガレージと別にそれらのスペースを用意する必要がありません。もともと土地の広さに制限があるからビルトインガレージを検討する人が多いため、趣味部屋や書斎もつくれるということは、自分の趣味をあきらめない、豊かな暮らしの実現に近づくことができます。
・土地が狭くてもガレージを設けることができる
・容積率の緩和を受けられる
・採光や通風に有利な2階リビングなどの間取りにしやすい
・ガレージ内に出入口を設ければ雨の日も濡れずに外出・帰宅できる
・ガレージ兼趣味部屋や第2のリビングなどにすることで暮らしが豊かになる
一方で別棟のガレージやカーポートと比べた場合の、ビルトインガレージのデメリットはどんなものがあるのでしょうか。
まず1階スペースがガレージに削られてしまうので、居室空間が2階以上、土地の条件によっては3階建てになる場合があります。3階建てとなると老後の上り下りを考慮した間取りを検討する必要があります。
また車を2台以上格納するなど、間口の広いガレージを設ける場合は、建物を建てる工法の制約を受けやすくなります。「RC工法など間口を広く取れる工法を選ぶか、木造軸組工法なら梁や柱を補強する必要があります。とはいえ、これを逆手にとって、補強材をデザインの一部に取り入れることも可能です」
また補強として壁を入れれば、壁に冬用/夏用タイヤを置くなど収納スペースとして活用することもできます。
“音”に対しても注意が必要です。ガレージ内でエンジンをかけることはもちろん、暖機運転のためにしばらくエンジンをかけておく(暖機運転による排気ガス対策の方法については後述します)といった場合もありますから、車やバイクの種類にもよりますが、エンジン音が居住スペースに響かないように対策が必要です。「特にハーレーダビッドソンのように、気筒数が少なくて排気量の大きなバイク(※)はエンジン音が躯体に響きやすくなります」。
※ハーレーダビッドソンの主なバイクは2気筒で排気量1000cc前後。ちなみにほとんどの軽自動車は3気筒・660ccですから、それと比べると気筒数が少なくて排気量が大きいエンジンを搭載しています
“音”にはもう一つ、ガレージの扉に備えるシャッターもあります。「シャッターを巻き上げる際に出る作動音が2階の居室空間に響く可能性があります。最近のシャッターはアルミなどを使った軽量タイプが多く、静粛性を謳うタイプもたくさんあるので、あまり神経質になる必要はありませんが、それでもガレージの真上に寝室を設けるのは避けたほうがいいでしょう」
・1階に居住スペースを設けにくい
・土地条件によっては3階建てになる場合がある
・間口の広いガレージにする場合は工法・構法が限られたり、木造軸組工法なら補強が必要
・エンジン音やシャッター音に注意
リフォームするなら、詳しくは
駐車場・ガレージリフォームの種類と費用相場
先述の通り、ガレージの床に、重量のある車が載っても割れず、水に強くて油などで汚れても気にならない素材を選ぶことは、別棟/ビルトインに関わらず、気をつけるべき点であると言えます。その他には、どんな点に注意したらよいでしょうか。
ガレージ内での洗車は、床が濡れてしまうし、湿気がこもりやすくなるのであまりオススメしませんが、土地条件によってどうしてもガレージ内で洗車したいという人もいるでしょう。その際は水に強いコンクリートなどの床材を使用し、排水口もガレージの出入口に設けたほうがよいでしょう。雨に濡れたまま車をガレージに入れることも当然ありますが、その程度の水であれば「ガレージの出入口に向かって緩やかに傾斜をつけておけば、排水口を用意する必要はありません」
また、いずれやってくる電気自動車の時代に備えて、充電用の200Vコンセントを備えられるように配線だけでも済ませておけば、後からリフォームで内装を剥がすなどの配線工事をする場合と比べて費用をかけずに済みます。
ガレージの広さを決める際は、今の車でギリギリではなく、できるだけ余裕を取っておいたほうがいいでしょう。最近の車は衝突安全性を高めるため、モデルチェンジのたびに大きくなりがちですし、将来福祉車両を使うようになった場合、スロープが出せないとか、車があると狭くて車いすで移動できないといったことになりかねません。またガレージ内に冬用/夏用タイヤを置くなど、使っていくうちに置きたくなるモノが増えて行きがちです。
「そのほか、備えると便利なのがシンクです。車をいじる人はもちろんですが、実はガレージでは何かと洗い物が発生したり、手を洗いたくなる用事が意外とあります。ですからシンクを備え、給水(温水含む)管と排水管を備えることをオススメしています」
そのほかの注意点として、ガレージは建築基準法により壁や天井に燃えにくい素材を使うことが定められています。そのため、何でも自由に内装材として選べるわけではありませんが、ガレージの施工実績の豊富な建築士や施工会社なら、ある程度のインテリアのバリエーションを考えてくれるはずです。
・床には水や汚れに強い素材を使用する
・ガレージ内で洗車する場合は排水口を備える
・洗車しない場合でも、床はゆるやかな傾斜は必要
・広さを決める場合、なるべく余裕を取っておいたほうがいい
・シンクがあると意外と便利
さらに、部屋としてのビルトインガレージを備える場合はどんな点に注意すればよいでしょうか。まず先述の通り、動線の設計は他の居室同様に行ったほうがいいでしょう。また長時間過ごすことを考えてエアコンを備えると便利です。「その場合、シャッターの閉じ方にも注意したほうがいいでしょう。私はシャッターが閉まりきる位置を、ガレージの床より20mm低くするようにしています。そうすれば外から風が入り込みにくくなりますし、車種にもよりますが、20mmならたいていの車は楽に入っていけます」
また冬になると必ず暖機運転を行う地域であるとか、ガレージと趣味部屋を兼ねて長時間いられるような空間にする場合は、換気扇が必須となります。換気扇はキッチンに備えるような簡易なものから、車の排気管付近に備える専用品までさまざまなタイプがあります。
・他の居室と同じように、動線の設計を行うといい
・長時間過ごせるようにエアコンがあると便利
・シャッターをガレージの床より20mmほど落とす
・換気扇を備える
見つけた土地に車を出し入れしやすいガレージを備えられるかどうか、素人が判断するのは難しいことが多々あります。例えば前面道路と高低差があって出し入れ時に車の底を擦ってしまうかもしれないと思うような土地でも「土地の状況によりますが、ガレージを半地下のようにしてクリアできる場合もあります。ガレージを半地下にすれば家をスキップフロアのある間取り(※)にしやすくなります」。もしビルトインガレージを建てたいなら、建築家や施工会社に土地探しから協力してもらったほうがいいでしょう。
※床の一部に高低差をつけ、いわゆる「中二階」「中三階」を設ける間取り。視覚的に広く見える効果や、収納スペースを設けやすいといったメリットがあります
スキップフロアについて詳しくは
「スキップフロアの間取り実例と知っておきたい注意点 どんなメリットやデメリットがあるの?」
加えて、できればガレージハウスの施工実績がたくさんある建築家や施工会社を選ぶことをオススメします。例えば先述の「ガレージの床に無垢材を使用したい」とか「シンクを備えたい」というと、多くの施工会社で驚かれるはず。これは長年ガレージハウスを手がけてきた松永さんだからこそのアイデアです。
このように、愛車を単に格納できるだけでなく、暮らしを豊かにできるビルトインガレージ。土地探しの段階から建築家や施工会社の設計士に相談して、ぜひ楽しいガレージライフを手に入れてください。
土地が狭くても2階リビングをはじめ多様な間取りがつくれるビルトインガレージ
ガレージの真上に寝室を設けないなど、音に注意が必要
ガレージ=居室と考えると、暮らしが豊かになる