もしも自宅に防音室があったら、楽器を思い切り演奏したり、音楽や映画を迫力のある音響で楽しんだりすることができます。そもそも防音室とはどのような設備なのでしょうか? 一戸建てだけではなくマンションにも設置できるのか、新築だけでなくリフォームで防音室を後付けできるのかなど、分からないことがたくさんありますよね。
防音室の施工を専門にしている高橋建設の小野崎隆仁さんに、防音をかなえる仕組みに加え、防音室を作る際にかかるコストや注意点などについて聞きました。
音は空気を伝わって人間の鼓膜を震わせます。この振動が伝わらないようにする素材として、吸音材と遮音材があり、防音室は一般的に、この二つの素材を組み合わせて作られています。
遮音とは空気中を伝わる音を硬い材質でシャットアウトして跳ね返すことで防音する方法です。吸音は、音の振動が壁などを通り抜ける過程で柔らかい材質によって吸収することにより、音の反射を防ぐ方法です。
吸音材は音を吸収し振動を抑える素材で、ガラス繊維を綿状に加工したグラスウールなどが使われます。
遮音材は、石膏ボードなどの音が伝わりにくい素材を使います。
「吸音と遮音、更には防振も重要です。さまざまな素材を組み合わせて吸音、遮音そして防振で振動をきちんとおさえていくことが、音漏れの少ない防音室を作るポイントです。例えば、コンクリートなどの硬い壁のマンションは音が響きやすく、そこで振動の大きな楽器を弾くと、遮音性だけをいくら上げても音が響いてしまいますので、振動を伝えない防振の必要があるわけです」(小野崎さん、以下同)
また吸音性をむやみに上げてしまうと、音が響かないことで楽器の音色が分かりにくくなるという問題点もあるのだとか。用途にあった素材の選び方や、吸音と遮音のバランスが重要です。
どれくらいの防音が必要かは、使う人の用途や住まいの環境によっても異なります。
「建物自体の遮音性能と、防音室の遮音性能を足し合わせたものが、住んでいる人が実際に体感する遮音性能になります」
防音性 = 建物自体の遮音性能 + 防音室の遮音性能
遮音等級とは、空間の遮音性能を表す値(D値)です。遮音等級は、壁に入る音と、壁を透過する音の音圧レベルをデシベル(dB)で表し、その差を求めることで、どれぐらい壁によって音圧がカットされたかを割り出した数値です。
例えばD-45の遮音等級は、その壁を通過することで45デシベル(dB)音圧がカットされることを示します。言い換えると生活実感、プライバシーの確保の面では「隣戸住宅の有無は分かるがあまり気にならない」レベルにまで防音できるということになります。
「防音室を作る意図は音が全く漏れないことではなく、近隣の迷惑にならないということがポイントなのでD-45(防音室だけの遮音性能)でも個人宅では十分な遮音性能だといえます。また実際には防音室だけの性能が体感遮音性能ではなく、家自体の遮音性能も加味されるので最終的にD-45より遮音性能がアップし、家の外にはほとんど音は漏れません」
下の表を見てみましょう。遮音等級D-45はピアノ・ステレオなどの大きい音は「かなり聞こえる」ので、自宅内ではピアノ・ステレオの音は聞こえます。しかし、建物自体の遮音性能が防音室の遮音性能に加わるので、結果的にD-60以上になり、家の外までは聞こえないということになるのです。
防音室の種類を選ぶとき、気になるのが遮音性能です。しかし楽器によって必要な遮音等級も異なりますし、何を選べば目的にかなうのかを見極めるのは難しいですよね。
一体どのように防音室の種類を選び、どこまでの遮音性能を求めたら良いのか、それぞれのケースで費用はいくらくらいかかるのかを見てみましょう。
防音室の用途で、まず考えなければいけないのはそこで何をしたいかです。演奏する楽器が奏でる音の周波数帯によって防音の難易度が異なります。
「周波数帯が異なっているピアノやバイオリン、ドラムなどの楽器は同じ設備でも遮音可能な範囲が異なります。遮音等級は、それぞれの周波数帯をどの程度防音できるかを基準に決められたものです。まず自分が演奏したい楽器の周波数帯(Hz)を調べて、該当の遮音等級(D-)で何デシベル(D-B)カットできるかを調べましょう」
音の周波数はヘルツ(Hz)、音の強さはデシベル(D-B)で表し、何ヘルツの音を何デシベルカットできるかによって、遮音等級(D-)が決められています。
例えば「D- 45」の遮音等級では、周波数帯2000ヘルツのフルートは55デシベルを遮音できるのに対し、周波数帯125ヘルツのティンパニは30デシベルしか遮音できません。つまり低い周波数帯のティンパニは遮音が難しいということです。
そうしたことを念頭に、用途にフィットした遮音等級の防音室を作ることが重要です。
では防音室を作る段階になった時、どのような種類があるのでしょうか。工法の違いや、それぞれのコストについて見てみましょう。
「さまざまな作り方がある防音室の中で、大きくは既にある部屋の内部に防音パネルを設置する方法と、部屋自体を工事して防音室に改装する方法に分けられます」
防音パネルは賃貸住宅にも設置可能というメリットがあります。また、組立式の防音室なら、引越しのときは解体して、新しい家でパネルを流用することができます。防音室の大きさを変更する場合でもパネルを追加したり減らしたりできます。賃貸住宅やマンションで防音室を後から作りたい人には、有力な選択肢になりそうです。
さらに1畳程度の小さな防音ブースもあります。設置も簡単に済むため、バイオリンやフルートなど、場所を取らない楽器の場合にはこうしたブースを選ぶ方法もあるでしょう。
しかしパネルやブースは規格品なので、その規格が持つ遮音性能以上を望むことはできません。高い遮音性能が必要な場合は、部屋の改装工事が欠かせません。
「この方法では新築やリノベーションのような大々的な工事が必要ですが、用途に合わせカスタマイズして遮音等級を高めることができるメリットがあります」
一般的には既にある部屋に防音パネルを設置する方法の方が、部屋自体を工事して防音室に改装する方法よりも安価です。部屋の中に設置する1畳程度の防音ブースなら、もっと手頃に手に入ります。目安までに価格を示すと、6畳一部屋を防音室にする場合、防音パネルを設置する方法が250万円から、部屋自体を工事して防音室に改装する方法は300万円から、というのが平均的な相場です。1畳程度の防音ブースなら10万円程度の商品もあります。
防音室のタイプ | 金額の目安 |
---|---|
既製の防音室の設置 | 約250万円(6畳) |
防音室の施工 | 約300万円(6畳) |
設置型防音ブース | 10万円台~(1畳程度) |
防音室を作る時、注意すべき点にはどのようなことがあるでしょうか。快適に過ごすためのポイントや必要な部屋のサイズを確認しましょう。
防音室を作るときは用途を明確にして広さの設計をすることが大切です。
「組立式を設置する場合も、部屋全体を防音仕様にする場合も、部屋はもともとのスペースより狭くなります。防音機能の高い部屋を作るには、絶縁工法(ぜつえんこうほう)と浮床工法(うきゆかこうほう)という方法があります。これらは部屋の壁や床に接しないように空間を空ける工法で、空けたスペースと防音壁や床の厚みの分、部屋が小さくなります」
絶縁工法も浮床工法も、壁や床から大体10センチから15センチほど狭まってくるため防音室を作る際にはその空間を考慮した上で、楽器などの機材に必要なスペースが確保できるかを事前に確認しましょう。
防音に影響する要素として、ドアや窓、換気システムがあります。
しかしドアは当然のことながら、窓やエアコン設備も、心地よい環境を作るためには必要なものです。音漏れせずに快適な環境を維持するには、どのような方法があるのでしょうか。
「ドアや窓は隙間から音が漏れるので、隙間をゴムパッキンで塞ぐようにします。エアコンは配管穴の部分の隙間がないようにパテで塞ぎます。ただし、ゴムは10年単位で劣化しますので定期的な交換が必要です」
防音室のサッシや換気システムに、施工会社がオリジナルの製品を使用している場合もあります。そのような場合でも、隙間を作らない構造になっているか、またゴム部分などは施工会社でメンテナンスしてくれるか、といった点に注目すると良いでしょう。
防音室を作ることによって周囲への騒音の軽減などのメリットがある一方で、デメリットがないわけではありません。ここでは防音室を作ることのデメリットも押さえておきましょう。
防音室のデメリットは、ここまでで紹介してきた通り、性能や工法に応じたコストがかかること。さらに部屋が狭くなることに加え、重さの問題があります。
「例えば6畳の防音室だと、防音壁や天井、床などの建築材料を合わせると1.6トン(乗用車1台分)程度になります。コンクリート造のマンションであれば大抵の場所に設置できますが、木造住宅の2階など重さへの耐性がない場所には置けないケースもあります」
これまでに紹介した予算感や広さ、耐荷重の確認を事前に行っておくことで、用途に適した防音室のメリットを享受できるでしょう。
スーモカウンターで、住まいの中に防音設備を設けた先輩たちの事例を紹介します。先輩たちが、どんな点にこだわり、どんな住まいを実現したのか、実例を参考に学んでいきましょう。
趣味のドラムを楽しむ部屋が欲しいという希望をかなえるために、防音室のある家を建てた実績のある施工会社を選んだそう。実際に防音室の施工事例を見学し、実績を確認してから会社を選ぶことができました。
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防音室は閉鎖的な空間になりがちですが、しっかり防音をしていれば窓を大きく取ることも可能です。リビングと繋げて室内窓を付けることで、防音室に居ても家族の様子がわかる部屋になりました。
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近所の人に気兼ねせず好きな音を鳴らせる防音室のメリットは大きいもの。用途や目的によって必要な遮音等級が違うため、最適な防音室をつくるには遮音や吸音のバランスを調整することが必要です。この記事を参考に、目的にかなった防音室を作ってください。
防音の仕組みを知って、目的にあった防音室を作る
10万円から300万円程度まで、防音室のタイプ別予算を把握する
部屋の広さを圧迫すること、重さがあることなど、デメリットを知っておく