数年前に生じた「ウッドショック」は、住宅の価格高騰の一因となりました。現在もウッドショックや住宅価格の高騰は続いているのか、今後の価格の見通しはどうなるのかなどを、住宅・不動産業界に詳しい竹内英二さんに教えていただきました。
各メディアで頻繁に登場している「ウッドショック」とは、いくつかの原因により輸入木材の需要が高まったため、木材価格が高騰している現象のことを表す言葉です。1970年代に石油価格が高騰した際に「オイルショック」と呼ばれたことから、このような言葉で表しているようです。
ウッドショックという言葉を多く見聞きするようになったのは、2021年春ごろからです。
「2020年に発生した新型コロナウイルス感染症を機に、世界中でテレワークが普及しました。家で快適に仕事をするために広い戸建住宅に住みたいというニーズが、アメリカや中国などで高まった結果、戸建住宅の建材となる木材需要が高まり、価格が一気に高騰したのです。
当時の日本は、コロナ禍で不動産市場が委縮していたので、戸建住宅の需要は伸びませんでした。1年後の2021年にようやく市場が回復し、他国同様に『広い戸建住宅に住みたい』というニーズが高まったのですが、当然、これまでのような価格では木材を購入できませんでした。
さらに、長いコロナ禍により国際海上輸送が滞ったことも、輸入木材不足に拍車をかけ、価格を上昇させました。輸送が滞ったことで輸出入時に必要なコンテナが不足し、輸送費も高くなりました」(グロープロフィット 竹内英二さん。以下同)
つまり、ウッドショックの最大の原因はコロナ禍による住宅ニーズの変化で、国際海上輸送の滞りも原因のひとつだったといえます。
ウッドショックによる輸入木材の価格上昇は、特に戸建住宅の建築工事費に影響を与えました。
「ローコストの注文住宅や建売住宅は、輸入木材を原料とする木製建材を多く使って家を建てています。つまり、ウッドショックの影響をより強く受けたのは、ローコスト住宅を建築・販売しているハウスメーカーや工務店と、その購買層でした」
ウッドショックにより新築住宅の建築工事費が高くなったため、予算オーバーで買えない人が中古の戸建住宅へ流れる傾向が見られました。首都圏では、埼玉や千葉にある中古戸建住宅のニーズが高まり、価格が上昇しました。
2021年頃に住宅の建築工事費を押し上げたウッドショックは、現在、どのような状況にあるのでしょうか。
「ウッドショックは、アメリカや中国など海外の住宅需要の高まりから、木材価格が上昇したことが主な要因です。しかし現在、これらの国の住宅需要は落ち着いているため、ウッドショックは収束傾向にあります」
住宅価格は、大きく分けると建築工事費と土地代からなります。
ウッドショックは収束傾向にあるものの、国土交通省のデータを見ると、木造・非木造問わず、建築工事費は依然として上昇を続けています。
「住宅の建築工事費は、『今が一番安い』という状況が過去10年続いています。ここ数年はウッドショックが押し上げた面もありますが、根本的な原因は建築工事の職人不足による人件費アップによるものです。職人不足が解消されない限り、建築工事費は上がり続ける可能性が高いでしょう」
2022年春頃からの円安により、輸入品全般の価格は上昇しています。住宅建築に必要な木材や鉄は輸入に頼っていて、海外生産された設備や建材も価格がアップしていることも、建築工事費を押し上げる原因となっています。
「今後、国は何かしらの施策を実施し、円安が是正される可能性はあります。もし円高になれば輸入品の価格は落ち着き、建築工事費への影響も小さくなるかもしれません」
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、2025年4月から原則すべての新築住宅には省エネルギー基準への適合が義務付けられます。
住宅の省エネルギー基準とは、建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)によって定められた、建築物が備えるべき省エネルギー性能の確保のために必要な、建築物の構造や設備に関する基準です。
省エネ基準を満たすためには、断熱性の高い窓や建材を用いる、太陽光発電システムなど創エネ設備を設置する、空調や給湯などは省エネ性能の高い機器を採用する必要があります。このように住宅を“ハイスペック”にすると当然建築工事費は高くなり、これまでの一般的な住宅と比べると1割程度アップするそうです。
「実は、2020年時点で新築戸建は約9割、マンションは約7割が省エネルギー基準を満たして建築されています。先述した国土交通省のデータでも、この数年前から建築工事費が急上昇していることから、住宅のハイスペック化も原因と考えられます」
ちなみに、2024年以降は、省エネ基準に適合した住宅でないと住宅ローン控除の適用が受けらません。住宅ローン控除の恩恵を受けるためには、ハイスペック住宅の一択になるのです。ただ、住宅価格は高くなりますが、光熱費を抑えられたり、快適な住み心地を得られたりとメリットは数多くあるといえます。
■参考記事
建築物省エネ法とは?これから住宅を建てる人は、届け出は必要なの?わかりやすく解説
建築工事費は、職人の人件費アップや円安の影響などで今後も上昇する可能性が高そうですが、土地の価格はどうでしょうか。
国土交通省の令和5年地価公示データを見ると、地域により差はあるものの、住宅地の価格は全国総じて2年連続で上昇し、上昇率も拡大しています。都市中心部や生活利便性に優れた地域はもちろんですが、生活スタイルの変化によりニーズが多様化し、郊外へと上昇範囲が拡大しています。
上昇が続きそうな住宅価格ですが、国や地方公共団体は、住宅取得を促進する補助金制度を用意しています。ここでは省エネ住宅や長期優良住宅の取得、国産木材を利用した住宅建築で利用できる制度を紹介しますが、年度によって要件や申請期間、補助金額が変わるので、詳細は各団体のホームページで確認してください。
エネルギー価格高騰の影響を受けやすい子育て・若者夫婦世帯が、高い省エネレベルを有する新築住宅の取得を支援するために実施している事業です。補助額上限は住宅の種類や建築地域により異なり、ZEH住宅は80万円、長期優良住宅は100万円となります。
2030年度に家庭部門からのCO2排出量約7割削減(2013年度比)に貢献するなどを目的に実施している事業です。ZEHのレベルにより補助額上限は変わり、ZEH住宅は55万円、ZEH以上の省エネ・再エネ性を確保したZEH+住宅は100万円で、追加補助も用意されています。
※ZEH:住宅でつくったエネルギーのほうが、1年間の住宅におけるエネルギー消費量、もしくは二酸化炭素排出量よりネット(正味)で多い、または、その差がおおむねゼロ以下になることを目指す住宅のこと
子育て世帯・若者夫婦世帯が、高い省エネ性能(ZEHレベル)を有する新築住宅の取得を支援する事業です。省エネルギー性や耐久性などが優れた木造住宅を、地域の木材を利用し、事前に登録された工務店などで建てる場合、最大100万円の補助金が受けられます。
■参考記事
2024年 住宅ローン控除や相続税、贈与税、税制改正でなにがどう変わる?【得する住宅税制ガイド】
住宅取得の際、ほとんどの方は住宅ローンを利用するでしょう。住宅ローンの固定金利は2022年から上昇基調にありますが、変動金利は低水準が続いています。
金利は日銀の金融政策が大きく関係します。
固定金利は、主に新規発行10年物国債(10年国債)の利回りに連動しています。10年国債の利回りは国債価格が下がると高くなるため、日銀は国債を大量購入して利回りを低く維持する金融政策を実施していましたが、コントロールが難しく、2022年以降は上昇に転じました。
変動金利は、短期プライムレート(短プラ)に連動しています。日銀が経済を活性化させるために実施している金融政策により、短プラの水準は低く維持できているため、変動金利は低く抑えられているのです。
「変動金利は日銀がコントロールできているので低水準を維持していますが、金融政策の変更などにより上昇に転じる可能性があります。そのタイミングがいつになるのかは分からないので、動向には注目したいですね」
■参考記事
2023年版 住宅ローンの動向、金利予測と金利推移から考える、金利が低いと買い時? 上がる可能性は?
ここまでご紹介したように、住宅価格はいくつかの要因で変動しますが、下がる可能性は低いと考えられます。さらに、住宅ローン金利の動向も注視したいところです。
「住宅取得を検討するとき、住宅価格の推移や金利動向を意識することは大切ですが、『家が欲しい』と思ったときが、その人の取得のベストタイミングだと思います。特に家族で暮らすマイホームを取得する場合、不動産投資をする訳ではないので、必要な時に取得するのが一番でしょう。
家族のライフスタイルを考慮したうえで、自分たちのタイミングを重視してマイホーム取得計画を進めてください」
ウッドショックとは、いくつかの原因により輸入木材の需要が高まったため、木材価格が高騰している現象のことを表す言葉。新築戸建住宅の価格には直接的、中古戸建住宅には間接的に影響を与えた
アメリカや中国など海外の住宅需要の落ち着きを受け、日本でのウッドショックは収束傾向にある
住宅価格は工事職人の人件費高騰や円安、住宅のハイスペック化、土地価格の上昇基調などにより、下がる可能性は低い