憧れのマイホームを新築で建てたいけど、できるだけコストをかけずに安い家にしたい、でも後悔はしたくない、と考えている人もいると思います。ローコストでも魅力的な新築の家を建てるにはどんなポイントを大切にすれば良いでしょうか。一級建築士の佐川旭さんに話を聞きました。
ローコスト住宅とは一般的な注文住宅よりも低価格で建てられる住宅のことです。では、具体的にはどれくらいの価格が相場なのでしょうか。まずはローコスト住宅の特徴について知りましょう。
一般的な注文住宅がフルオーダーであるのに対し、ローコスト住宅は規格化されたプランの中から間取りや設備を選んだり、リーズナブルな材料を使用したりすることで低価格を実現しています。家づくりを計画する中でいくつか制限は出てくるものの、限られた予算内でマイホームを建てることができます。
「ローコスト住宅の家づくりは足し算ではなく引き算をすることが特徴です。通常の家づくりは『2階にもトイレをつけたい』とか『ミニキッチンもプラスしようか』といったように足し算をしていきますが、ローコスト住宅の場合はその逆。自分たちに本当に必要なものを考え、不必要な部分を削っていくことによりコストカットが可能になるのです」(佐川さん、以下同)
ローコスト住宅といえば1000万円~2000万円ほどの価格で建てられる家、というイメージがあるのではないでしょうか。一般的な住宅と比較してどれくらい安いのかを知るために坪単価で説明します。坪単価とは床面積1坪(約3.3m2)あたりの建築費のことです。
「住宅の坪単価を松竹梅で解説すると、松が80万円~90万円、竹が70万円~80万円、梅が60万円以下といったところです。
この場合、ローコスト住宅は梅です。坪単価60万円くらいまでがローコスト住宅の平均的な価格ではないでしょうか。近年はウッドショック等の影響により、以前に比べてローコスト住宅の相場価格も高くなっています。その一方で、建築会社の中には50万円前後(※)でローコスト住宅を提案しているところもあります」
※首都圏の場合
例えば、坪単価が60万円の場合、延べ床面積が100m2(約30坪)だとすると、1800万円くらいの建築費で建てられる家、ということになります。ただ、この他にオプションや住宅ローンの諸経費を加算することを想定して全体で2200万円を目安にすると良いでしょう。
一般的な注文住宅よりも価格が安いと、構造や耐震性に問題がないのか不安になるかもしれませんね。結論を述べると、ローコスト住宅であってもその点は心配ありません。
「どんなに安い家でも構造や耐震性に問題はありません。建材は審査機関の基準を通ったもののみ使うことができ、構造は国の基準に則っているため安全性が保証されています。低価格であっても躯体工事をいいかげんに行うことはできないのです。価格が安い家だからといって災害に弱いとか危険な構造であるということはないので安心してください」
安い価格で家を建てられる理由はいくつかあります。間取りや設備、使っている素材などにローコスト住宅ならではの特徴があるのです。
1つ目の理由は規格化されたプラン内で家を建てているから。ハウスメーカーや工務店が扱うローコスト住宅の多くはフルオーダーではなくセミオーダーです。決まった間取りや設備、建材の中から気に入ったものを選択して組み合わせていくため、低価格で新築の家を建てることができるのです。
「建物の形に曲線があったり部屋数の多い間取りなど、複雑なつくりの家は材料費や工賃が膨らみ、高額になります。ローコスト住宅は基本的にシンプルなつくりになっています」
2つ目の理由は間接経費を抑えているからです。ハウスメーカーや工務店が広告費や展示場の費用等に間接経費を割いていない場合、安い家を提供できるという事情があります。
3つ目の理由は材料を安く仕入れているからです。設備や建材を大量に仕入れることで安く提供できたり、生産者から材料を直接購入するなど独自のルートを持っているのでリーズナブルなプランを提案できるのです。
「ローコスト住宅の実績を多く持っている会社であれば、安く資材を仕入れることができるルートを知っているかもしれません。その場合、相場よりも安い金額で素材を使うことが可能になります」
低予算でマイホームを持てることから、資金面における魅力が多いローコスト住宅。初期費用を抑えられることから貯蓄の少ない若年層にも向いているでしょう。一方、値段が安いこと以上の魅力やデメリットも忘れてはいけないと佐川さんは言います。
ローコスト住宅の最大のメリットは安い金額で新築の家を建てられることです。また、低予算でマイホームを持てることや住宅ローンの完済が早くなることなど、資金面における魅力が多くあります。さらに、それ以外にもメリットがあるのです。
「ローコスト住宅を計画する中で、家族にとって本当に必要なものが洗い出され、生活の軸がはっきり見えてくることもメリットだと思います。先述したように、ローコスト住宅の家づくりは引き算が必要です。子どもが巣立った後は部屋をどう使うか、夫婦それぞれのワークスペースが必要か、書斎の広さは、といったことを細やかに議論するきっかけができるのです。
つまり、生き方の議論です。これは、欲しいものをどんどん追加していく足し算の家づくりではできない経験だと思います」
一方でデメリットもあります。後悔しない家づくりのために、マイナスポイントもしっかりと押さえておきましょう。
「コストを落とすために安い材料を選んだことで、後々お金がかかってしまうケースを紹介します。
特に屋根や外壁は雨風に晒される部分なので、耐用年数が短いリーズナブルな材料を選べば短期的なメンテナンスが必要になります。そのため、初期費用を安く抑えても、結果的にコストがかかってしまうのです。しかし、初期費用を抑えるために耐用年数が短くても安い材料を前向きに選ぶケースもあるでしょう。
このあたりは施主の考え方でマイナスにもプラスにも捉えることができるので、やはり最初に家族で議論をしておくことが大切です。値段の安さばかりに焦点を当ててしまうと、安い材料ばかり使えば良いということになり、結果的に満足できる家づくりに繋がらないことに注意しましょう」
ローコスト住宅を建てた人の中には、住宅購入が将来設計のきっかけになったという声も。安く家を建てるからこそ、よりシビアで細やかな見通しが必要になるということですね。
それでは、具体的にできるだけ費用を抑えるにはどうしたら良いのでしょうか?ローコストで家を建てる時のポイントをまとめました。
構造が複雑になるほど建築費用は高くなるため、シンプルな構造を選択するのがベスト。
「組み立てが簡単に行える構造を選ぶと工期も短くなりコストカットに繋がります。たとえば1階が16坪、2階が16坪の総2階は最もシンプルでローコスト住宅に多い構造です」
キッチン、風呂、洗面所など水回りを1階に集約することで配管が短くなり、費用を抑えることができます。
「2階にトイレやミニキッチンを設置する予定であれば、本当に必要かどうかを一度考えてみると良いかもしれません。家族と相談した結果、1階にひとつあれば十分という結論に至るケースも少なくありません」
エアコンや洗面台などそれほど大きくない設備は、自分で購入して取り付けてもらう「施主支給」を選択することでコストカットになります。
「使用する中でトラブルが起きても簡単に交換しやすい設備は、施主支給にするとコストダウンが図れます」
システムキッチンには様々なタイプがあり、価格も40万円台から150万円を超えるものまで幅広くなっています。なるべく費用を安く抑えたい場合はシンプルなデザインのものや収納部分が引き出しではなく開き扉のものを選んだりする方法があります。
部屋の仕切りを減らすと間取りがシンプルになり工事費用を抑えることができます。
「建具が増えると部屋の構造が複雑になります。コストカットのためには建具を減らすこともポイントのひとつです」
壁の塗装やクロス張りなど、自分でできる子ども部屋などの壁はDIYを取り入れることで工事費用を節約することができます。ただし、作業内容によって難易度は変わるため注意が必要。DIYを取り入れたい場合は施工会社にまず相談してみましょう。
「注文住宅の見積もりを出すと、躯体工事費が40%、仕上げ工事費が35%、設備費が25%という内訳になっています。躯体工事、つまり家の骨組みの部分は基準に則って工事するため素材から構造まで妥協することはできません。コストカットをしたい場合は躯体工事費以外の残りの60%をどう安くするかがポイントとなるのです」
仕上げ工事で手掛ける場所は外壁や屋根、床など面積が大きくコストがかかります。そのため使う材料によって費用が大幅に左右されます。ただし、安いから良いというわけではなく耐用年数も視野に入れて検討したほうが良いでしょう。
そして、キッチンやバスタブ、洗面台といった設備面もコストカットに繋がる部分です。施主支給にしたりグレードを下げたりしながら賢くコストを落としていきましょう。
家を建てることは大きなライフイベント。安い価格で家を手に入れたとしても後悔や失敗はしたくないですよね。ローコスト住宅を建てる時の注意点やリスクをまとめました。
家づくりの費用を安く抑えることができても、安い材料を選んだため住み始めてからランニングコストが余計にかかってしまう場合があります。
「窓を選ぶ時には特に注意が必要です。1枚ガラスは複層ガラスに比べて安く購入することができますが、熱を通しやすい構造のため断熱性の面では少々頼りないというのが正直なところです。冬は寒く夏は暑くなるため、エアコンをフル稼働させなくてはいけない分、光熱費がかかる結果に。初期費用はかかっても、複層ガラスあるいはグレードの高いトリプルガラスを選んだほうがランニングコストを半分ほどに落とせるのです」
家づくりの費用は安く抑えることができても、光熱費が高くなってしまうという落とし穴。住宅を手に入れた後の暮らしまで見据えて窓ガラスを選ぶ必要がありますね。
安い金額だけに注目して家づくりを進めてしまうのは後悔のもととなります。
「安い金額ばかりにこだわっていると、家族にとって本当に必要なものが見えてきません。とにかく安い材料を選んでカスタマイズしていった結果、必要なものが足りないことに後から気づいたり、すぐにメンテナンスが必要になったりしてマイホームに対してマイナスのイメージを持ってしまうかもしれません。
人生に一度の家づくりが楽しく前向きなものであるためにも、金額以外の部分をきちんと見据えることが大切です。コストカットしても良い部分と妥協できない部分を明確にし、家族と認識を合わせた上で家づくりを進めれば、数年後に『こんなはずでは……』と後悔することはないでしょう」
ここからはローコスト住宅の事例を紹介します。低価格でもデザイン性に優れたおしゃれな住まいを実現した先輩たちの暮らしを家づくりのヒントにしてください。
立地条件に妥協しなくて済むように低コストで良い家をつくりたいと希望したSさん夫妻。建築会社の標準装備の中からよりコストを省いた資材を選択し、コストカットした差額でこだわりたい部分にお金をかけました。リビングの窓をトリプルガラスにしたことで住まいのランニングコストを抑えることにも成功。家族全員が気持ちよく暮らせるむく材仕様の住宅の完成です。
この実例をもっと詳しく→
効率の良さとリラックス感を兼ね備えたむく床の家
シングルマザーのKさんが家を建てるにあたって一番不安だったのは資金面。コストパフォーマンスの高いセミオーダー住宅を選び、予算内でマイホームを建てることに成功しました。リビング・ダイニング・キッチンを中心に2部屋を確保したシンプルな間取りは母と子の生活にちょうどよい広さ。セミオーダーであっても外観や内装、設備は好きなものを組み合わせることができるのでSNSの写真等を参考にして可愛らしいテイストの家が出来上がりました。
この実例をもっと詳しく→
シングルマザーが自分好みの家を建て、明るい未来にステップアップ
コストカットのためにステンドグラスやガラスブロックを自分で購入して取り付けてもらったというIさん夫妻。設備メーカーも自由に選ぶことができたため、好みに合った家を楽しく作ることができたそうです。寝室や収納の扉は取り付けず、ロールスクリーンを自分たちで後付けする予定。施主支給やDIYといった工夫を取り入れ、上手にコストカットを実現した事例です。
この実例をもっと詳しく→
テーマは「ぬくもりを感じる居心地の良いカフェ風の住まい」
二人暮らしのTさん夫妻が希望したのは、なるべくローコストで建てられる土間のある平屋。和風建築では値段が上がってしまうため、和モダンのデザインを選択しました。さらに給湯器や床暖房は自分たちで設置したことで節約に成功。コストカットをする一方で、譲れないこだわりも。石が浮かび上がる洗い出しの手法で、雰囲気のある理想の土間を作りました。
この実例をもっと詳しく→
「わが家に帰ってきたな」とホッとする、土間のある平屋
できるだけ安い費用で家を建てたい場合は、規格内の間取りプランや設備・建材を選んだり、できる限りシンプルな構造にすることがポイントとなります。さらにコストダウンを狙うのであれば、施主支給やDIYを取り入れる方法もあります。
楽しい気持ちで家づくりを進めるためには、安い金額にすることばかりにこだわらず、そこで暮らす家族にとって本当に必要なものを見つめることも重要です。ローコストでも家族のニーズを満たす素敵なマイホームを作りましょう。
ローコスト住宅はシンプルな構造・間取りが基本
設備は自分たちで用意して取り付けると節約になる
コストカットを考える時は、外壁や屋根など価格の大きな部分から検討する
安さだけに捉われず、家族にとって本当に必要なものを考えることが大切