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木造住宅は何階まで建築可能なのでしょうか。一般的には木造住宅は2階、もしくは3階建てのイメージがあるかと思います。しかし近年、建築基準法改正によって4階建ての木造住宅も登場しています。
4階建て以上の木造建築物を手掛けるAQ Group(アキュラホーム)の商品技術部長 塚谷誠さんと不動産・中規模木造事業部長 中道弘敬さんに詳しいお話を伺いました。
かつて木造住宅といえば2階建てが一般的で、3階建てが法律・技術的にも限界とされてきました。しかし、2019年の建築基準法改正により、木造建築物における耐火構造の規制緩和がなされ、4階建て以上の木造住宅が建てられるようになってきました。
4階建て以上の木造住宅は、都市部の狭小地を有効活用できる点でも注目されています。特に、木造の持つデザインの自由度を活かした個性的な住宅が増えており、環境にも優しい建築手法としても評価されています。
「現在の建築基準法では、木造だから何階までしか建てられないという決まりはありません。法改正により、耐火性能や構造の条件などを満たせば、木造で何階建てでも建てられるようになったのです。近年は、70階建ての木造ビルディングなども計画されています」(塚谷さん)
木は燃えやすい素材であるため、高層建築には向かないとされてきました。しかし、最近では耐火技術が進化し、木造でも高い耐火性能を持つ建築が可能になりました。燃えにくい木材(準不燃木材・難燃木材)や厚みがあり燃焼を表面にとどめることができるCLT材(※)、耐火被覆などの材料が耐火技術を向上させているとともに、それをシミュレーションするデジタル技術なども進化しています。
※CLT材:ひき板(天然木を薄く板状にしたもの)をクロスさせて重なるように板を貼り合わせたパネル。欧米を中心に構造体に普及している
法改正前は、木造建築物の高さが13mまたは軒高(※)が9mを超える場合、必ず耐火構造にすることが求められていましたが、法改正後は、建物の高さが16m以下で、かつ3階建てまでであれば、木造であっても耐火構造にする必要がなくなったのです。
また、高さ16mを超える、または4階建て以上の木造建築物であっても耐火構造などの条件を満たせば、木材を見せるデザインも実現可能になりました。
※軒高:地盤面から柱の上部を結ぶ横架材(梁)までの高さ
木造は断熱性や調湿性にも優れ、快適な室内環境を実現しやすいというメリットもあります。また、木のぬくもりや自然素材の風合いが人気を集め、特に注文住宅では木造の魅力を活かした設計が求められています。
「法改正により、木特有のぬくもり感や造形の可変性といったメリットを持つ木造の建物を、より広く、高層に建てることができるようになりました。特に都市部では、土地の有効活用という観点からも、4階建ての木造住宅への関心が高まっているようです」(中道さん)
法改正により、都市部の狭小地でも、木造でより多くの居住スペースを確保できるようになり、木造建築の可能性が大きく広がっています。
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「4階建ての住宅を建てる場合、すべての階の主要構造部に1時間の耐火時間が必要になります。また、階数が5階建て以上になると、耐火時間が90分や2時間必要な部分も出てきます。耐火構造とは、耐火被覆材で木材を覆うこと。つまり、壁や柱、梁、階段といった主要構造部を石膏ボードで覆う必要があります」(塚谷さん)
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「用途地域では建物の高さ制限が設けられていることが多く、制限を超える高さの建物の建築は許可されていません」(塚谷さん)
特に第一種低層住居専用地域では、良好な住環境を守るために建物の高さが10〜12mほどに制限されています。3階建ての住宅の高さが13m程度なので、3階建て以上の木造住宅を建てる場合、高さ制限の影響を受けない地域を選ぶ必要があります。一般的には、準住居地域や商業地域の土地であれば高さ制限の影響は受けにくくなりますが、自治体によっては独自の制限を設けている可能性もあるため、土地のある自治体の窓口等で事前に確認しておきましょう。
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「4階建て以上の住宅となると、使用する資材も大きさや長さのあるものが多くなります。そのため、家の前の道路の幅が4m程度では搬入が難しくなる可能性があります。また、建てられる延床面積(容積率)の制限が課されます。土地を探すときには、道路にも注意してください」(中道さん)
「一般的な2階建ての木造住宅と比較して4階建て以上の木造住宅は重量があり、RC造より軽いとはいえ、地盤の強度を確保する必要が生じます。そのため、事前に地盤の強度を確認することも重要です。4階建て以上の木造住宅のニーズが高い都市部には地盤が弱いエリアも多く、そのことが土地探しを難しくしている原因の一つです」(中道さん)
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「使っている素材が木なので、RC造やS造と比較すると建物の重量は1/3から1/2ほど軽くなります。そのため地震のときのリスクも軽減できると期待できます」(塚谷さん)
「近年、建築資材の価格高騰が顕著になっています。コンクリートや鉄と比較すると木材の価格は安定しているため、建築コストが大幅に跳ね上がる可能性はそれほど高くありません」(塚谷さん)
「4階建て以上の木造住宅は、3階建て以下の木造住宅よりも構造が複雑になり、法による制限も多いです。そして、建物の強度を保つために耐力壁を多く使わなくてはいけないのですが、高い技術力のある建築会社であれば特別な工法や強い壁を用いることで、大開口の空間を実現可能です。広いリビングや大きな窓を取り入れたいという希望もかなえられるかもしれません」(塚谷さん)
「木造住宅は主要構造部以外の壁を外して間取りを変えやすいため、リフォームの幅が広いことが強みです」(塚谷さん)
子ども部屋の壁を取り払って大きな空間をつくったり、間仕切りを増やして納戸やワークスペースを増やしたりなど、家族構成や暮らしの変化に合わせて家をつくり替えていくことができます。
「昨今、土地や建物の価格が高騰しています。そのため限られた土地をいかに活用して建築資金を捻出できるかがポイントです。同じ土地面積でも容積率を活かして中高層の賃貸併用住宅にすると賃貸収入を土地代や建築資金にあてられるという良さがあります」(中道さん)
上下の空間を最大限に活用できるのが4階建て以上の木造住宅の魅力です。賃貸併用住宅や二世帯住宅を検討している人の選択肢にも入りやすいといえます。
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「4階建て以上の木造住宅を建てる場合、建てられる土地を探すことが最初のハードルになります。先述した通り、法規制や道路幅などの関係で、4階建て以上の家が建築不可能なことは珍しくありません。また、土地が見つかっても予算オーバーの可能性もあります」(中道さん)
4階建て以上の木造住宅の建築は条件が難しいため、建築会社を先に決めて相談しながら土地探しをすると、スムーズに家を建てられる可能性が高まります。担当者と共に、予算や期間に余裕を持って土地探しをしましょう。
「現在、4階建て以上の木造住宅は、建築の難しさから耐震等級1までしか実現できないケースがほとんどです。しかし、施工実績が多い会社であれば耐震等級3も実現可能になってきました。耐震等級や構造については、住まいの計画段階でよく確認しておくことをおすすめします」(塚谷さん)
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「木造住宅の特徴として、特殊な設計にすると建築費用が高額になることがあります。コストを抑えるなら、木造ならではのルールを活かすことをおすすめします」(塚谷さん)
大空間を取り入れる場合には、大きな梁を入れたり、耐力壁の配置や構造計算が難しくなります。また、長方形や正方形ではない複雑な間取りにしたい場合も注意が必要です。RC造よりも柔軟な設計ができるのは木造の魅力ですが、特殊な設計にすると、それだけコストがかかります。設計における希望は早めに建築会社にも伝え、まずは実現可能かどうかを確認することも大切です。
「木造住宅はRC造と比較すると音が響きやすい特徴があります。特に賃貸併用住宅の場合は上下左右の空間に他人が住むことになるため、音漏れ対策などは視野に入れて計画することをおすすめします」(中道さん)
4階建て以上となると、階数が多くなるため一般的な2階建ての木造住宅よりも将来のメンテナンス費用が高くなる傾向にあります。外壁や屋根のメンテナンス時などに必要な足場の費用も大きくなることも忘れずに。
不安があれば、家の計画段階で将来必要になるメンテナンス費用についてもこまかく聞いておいたほうが良いでしょう。
4階建て以上の家となると、生活・家事動線が上下階に分かれる可能性があり、間取りの工夫が必要です。
例えば、洗濯動線を考慮して、洗濯機とランドリールーム、クローゼット(衣類の保管場所)を近づけるようにしたり、キッチンやお風呂などの水まわりをワンフロアに集約して家事や子どもの見守りをしやすくするなど、実際の生活をイメージして間取りを考えてみましょう。
最後に、4階建て以上の木造住宅・マンションを建てるときに大切にすべきことを塚谷さんと中道さんに伺いました。
「3階建ての木造一戸建て住宅は都市部を中心に数多く存在しますが、4階建て以上となるとまだまだ事例は少ないです。その理由は、木造4階建ては木造3階建てと比べものにならないほど建築の難易度が高いためです。構造計算の複雑さ、法律による規制、土地探しの難しさといった数々のハードルがあるため、すべての建築会社が木造4階建て住宅の建築を請け負えるわけではありません。ただ、現在注目されている技術ではあるため、今後は木造4階建て以上の住宅の事例が増えていくと予想しています」(塚谷さん)
「木造で4階建て以上の家を建てるなら、まずは建築会社選びが重要です。施工できる建築会社は限られていますので、施工実例や展示場なども確認すると良いでしょう。デザイン面だけでなく安全面もしっかり担保した家にするためにも、技術力のある建築会社に依頼し、共に家づくりを進めていけるといいですね」(中道さん)
2019年の建築基準法改正により、木造住宅の耐火構造規制が緩和され、4階建て以上の木造建築も可能になった
4階建て以上の木造建築には耐火構造が必須で、高さ制限や地盤条件、資材搬入経路などを考慮する必要がある
木造は軽量でコストが安定しているが、設計の難易度が高く、耐震性やメンテナンス費用も考慮することが重要