空間に開放感が生まれる勾配天井のある家。広く感じられるほか、どんなメリットがあるのでしょう。また、デメリットは?通常の天井よりも難しいという照明プランについても知っておきたいもの。インテリアコーディネーターの住吉さやかさんに話を聞きました。
傾斜、つまり勾配をつけた天井が「勾配天井」。屋根の形状を活かして、平屋の天井や、2階のリビングや居室、上に2階部分がない1階の空間につくられるケースが多いプランです。
では、勾配天井にすることで、空間にはどんなメリットが生まれるのでしょうか。
「開放感が出るのが一番の特徴です。高い位置に窓を設ければ、お部屋が明るくなります。また、上階部分の床を設けずにつくる吹抜けほど空間を使わないので、生活スペースを大きく減らさずにすみます」(住吉さん、以下同)
勾配天井の一番の特徴であり、メリットでもある開放感は、ちょっとした工夫をすることでより大きく感じることができるそうです。
「壁も天井も真っ白な空間にすると、立体的に把握しにくくなります。そこで、壁よりも天井を明るい色のクロスにしたり、壁の一面を濃い色にするアクセントウォールにしたり、天井を板張りにして斜めのラインを強調したりすると、空間の形がわかりやすく、より広く感じられます」
そのほか、構造の梁をあえてデザインとして見せたり、デザインのための飾り梁をつけたりすることでおしゃれな空間づくりができます。家づくりの楽しみの幅が広がるといえるでしょう。
勾配天井にはいくつか気をつけておきたいデメリットもあります。
「デメリットはメンテナンスに費用がかかることです。窓を高い位置につけると日差しは入りますが、カーテンをどうするかが問題になります。手が届かない位置なので、電動カーテンをつける方が多いのですが、電気で動作をさせるものは故障する可能性があります。修理で足場を組む必要があると、足場代で10万円程度かかることも。高い位置に設置したシーリングファンが故障した際も同様です。天井のダウンライトの交換にも足場が必要な場合があります」
カーテンが不要なように、高い位置の窓を曇りガラスにするケースも多いそうですが、空が見えなくなること、夜の室内の光が外に漏れるため在宅か不在かがわかり、防犯上でのデメリットもあります。
メンテナンスコストがかかることなど、いくつかのデメリットを知ったうえで、勾配天井を取り入れるかを決めるといいでしょう。
「照明計画は、どんなときでも一室多灯で考えましょう。勾配天井には照明付きのシーリングファンをつけることが多いですが、心地よく過ごすためにはもう少し工夫が必要です」
ポイントは照らす向きなどのタイプが違う照明器具を組み合わせて使うこと。
「目線よりも上の高い位置が明るいと、勾配天井の高さがより際立ちます。上向きのライト、下向きのライトを組み合わせることで、すっきりと空間を明るくできます」
ダウンライトは勾配に対応しているもので、光があまり広がらず下まで届く集光タイプなら、明るさも十分。空間の真ん中ではなく、壁に寄せて低い位置につけるとメンテナンスの心配も軽減されます。
なお、シーリングライトは勾配に対応しているものもありますが、手もとまで光が届かないデメリットがあります。デザイン的にも見栄えがあまりよくありません。
おしゃれな空間にするなら、建築化照明も検討するといいでしょう。
「建築化照明とは、間接照明といいかえるとわかりやすいでしょう。天井や壁に光を当てて、その反射で部屋全体を明るくする照明です。ただし、上向きの間接光だけでは本を読んだり、食事をしたりするときの手もとが暗くなりますから、ペンダントライトやスタンドライトなどを併用するのがオススメ。ホテルライクな空間になります。この組み合わせは、レストランやカフェ、ホテルのほか、最近ではデパートのパウダールームでもよく見られますから、出かけたときにすてきな照明プランを見つけたら参考にするといいですね」
部屋の中に明るい部分と暗い部分があることで、空間に奥行きや雰囲気が生まれます。部屋全体を明るくするのではなく、全体を照らす照明と手もとを照らす照明などを使い分けると、快適性も機能性も満たされる空間になります。
「照明器具は明るさを調整できるタイプを選んだり、電気の回路を分けておくと、照明を使ったいろいろな雰囲気が楽しめます」
天井に埋め込むタイプの照明や建築化照明は、注文住宅やリフォームのプランニング段階で考えておくことが大切。間取りや水まわり設備選びと同様に、照明計画も最初に検討し、後悔しない空間づくりをしましょう。
実際に勾配天井の家の照明はどのようになっているのでしょうか。ここからは、おしゃれな実例を見ていきましょう。
勾配天井の登り梁がアクセントになっている約22畳のLDK。フルオープンの窓を開ければ、ダイニング・キッチンとテラスを一体化して使うこともでき、光と風がたっぷり入る明るく開放的な空間です。その一方でゆるやかにゾーニングされたリビングはあえて光量を落とし、明るすぎない落ち着いた雰囲気の中でくつろげる雰囲気を演出。グレーのアクセントウォールにはスポットライトを当てています。
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無垢材をふんだんに使用したやわらかく優しい印象の室内。リビングの勾配天井には無垢のレッドシダーを使用し、壁の白と木目の組み合わせが大人の雰囲気をかもし出しています。ダイナミックさを演出する現しの梁にはブラックのライティングレールを配し、スポットライトを設置。ダークグレーのシックなデザインに仕上げたキッチンとも上手く調和しています。
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綿密に調色したグレーの塗り壁が印象的な落ち着きのあるモダンな室内。開口部に向けたゆるやかな勾配天井とのバランスを工夫して、テレビボードやカウンターを造作しました。ベース照明は存在感を消すことで、空間のポイントとなる銅の照明器具を際立たせています。また、エアコンはルーバーの中に設置するなど生活感をなくし、すっきりとした空間にしたことで、間接照明が効果的にスタイリッシュな雰囲気を演出しています。
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隣家が迫る南側にはハイサイドに窓を設けて視線が行き交わないように配慮しつつ、伸びやかな勾配天井には光を優しく取り入れるトップライト(天窓)を設けることで、明るい空間を実現しました。勾配天井にはダウンライトも設置しています。階段周りのアイアンの手すりや黒いシーリングファンは、ナチュラルな風合いの無垢フローリングの空間のアクセントになっていて、シンプルな中にスタイリッシュな雰囲気をプラス。飽きの来ないカフェのような雰囲気の空間になりました。
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天井が高い空間の場合、冷暖房効率アップのためにシーリングファンは効果的。ファンがまわることで空気が対流し、室内の温度を均一にしてくれます。
斜めになった勾配天井でも設置できるのでしょうか。
「シーリングファンはほとんどのものが勾配天井対応になっています。選ぶ際には、対応角度の確認や、部屋の大きさとシーリングファンの大きさのバランスを考えればだいじょうぶです。天井によっては下地が必要な場合がありますし、高い位置での取り付けですから、プランニングの段階から建築会社の担当者やインテリアコーディネーターに相談を。サイズやデザインの選び方も相談してみるといいですね」
「つり下げる高さで冷暖房の効率は変わりません。天井に近いほうがファンがまわる際に設置ポイントにかかる負荷が減ります。ファンの説明書に天井や壁からどれくらい離す必要があるか書かれていますから、まずはそれを守って設置してもらいましょう。羽根の上に付くホコリを払う、照明付きの場合は電球を交換するなど、メンテナンスのしやすさを考えると床から3mくらいまでの高さに本体が来るのがオススメです」
器具そのものが壊れたり、故障したりで修理・交換する場合は、電気工事を依頼することになり、照明器具の場合と同様に足場代がかかりますから、シーリングファンを設置する場合には、将来のメンテナンスの費用のことも気にしておくといいでしょう。
勾配天井は空間に開放感が生まれることが一番のメリット
照明プランは、勾配天井の高さを活かし、複数のタイプの照明器具を併用するとおしゃれな空間に
シーリングファンは冷暖房効率がアップ。メンテナンスしやすい高さに設置するのがオススメ