家を建築する際、設計から完成までにいくつかの検査を受けることが義務であり、合格すると「検査済証」が施主に発行されます。この「検査済証」とは、どんなものなので、いつもらえるのでしょうか。「確認済証」と「検査済証」の違いは?もらっていない場合や紛失してしまった場合のリスクは?再発行してもらえるのでしょうか?
注文住宅を建てる施主は知っておきたい「検査済証」のポイントを、一級建築士・白崎治代さんに分かりやすく説明してもらいました。
「検査済証」とは、読んで字のとおり検査が済んだ証明書のことです。その検査とは、建築基準法で定められている「建築確認申請」「完了検査」の2つの検査のことで、この両方の審査・検査が完了し、その建物が建築基準法や関連法規の基準をクリアすると交付される書類になります。
「まずは建築確認申請を行い、確認済証をもらわないと、工事に着手することができません。分かりやすく言うと、工事の着工許可のイメージです。
そして、検査済証で建物を使っていいというお墨付きをもらうことになります。検査済証をもらって初めて建物を使うことができるので、建物の使用許可のようなイメージです」(白崎治代さん、以下白崎さんと表記)
「検査済証の目的はこうである、という定義は特にありませんが、建築基準法の根本的な部分です」(白崎さん)
建築基準法の目的は、国民の生命、健康および財産を保護するため最低限の基準を法整備したもの。検査済証も、建物を使う人の安全の確保と建物の質の向上を図ることを目的としていると考えていいでしょう。
建築基準法についてさらに詳しく
建築基準法の意味・解説
住宅などの建物を使ってもいいというお墨付きの検査済証ですが、発行すること、持っていることは義務化されているのでしょうか?
「建物の完了検査を受けることが義務で、完了検査を受け合格した結果として検査済証をもらいます。検査済証自体が義務化されているわけではなく、建物を使う以上、完了検査は必ず受けるので、必然的に検査済証を持っていることになります。義務を果たした証明ということになりますね」(白崎さん)
前項で説明したように、「検査済証」は「建築確認、完了検査」の2つの審査・検査に合格すると交付される書類ですが、「建築確認、完了検査」とはどのようなものでしょうか。
「建築確認」とは、建物の設計などの計画が建築基準法など関連する法律に適合しているか書類で審査を受けることで、合格すると「確認済証(建築確認済証ともいう)」が発行されます。
「完了検査」とは、建物の建築工事が完了したときに、建築確認申請どおりに工事が行われたかどうかを現地で確認する検査で、合格すると「検査済証」が発行されます。
住宅を建てる場合、設計図が決定してから家が引き渡しされるまでに、建築基準法などの各種法令に適合しているかどうかを確認する複数の検査を受ける必要があり、「建築確認」「完了検査」のほかに「中間検査」が行われる場合があります。
「中間検査」は、特定の建築物の特定工程において義務付けられ、対象となる建築物や工程が指定されています。「中間検査」の有無は特定行政庁ごとに定められているので、建築物がある都道府県のホームページで確認しましょう。
「中間検査は、一般住宅を建てる場合は、自治体や建物の構造・規模により義務付けられている場合と、義務でない場合があります。
『特定工程』という言い方をしますが、工事が決められた工程まで進んだら、建築確認申請を行った役所や審査機関に中間検査を申請して、現地に来てもらって目視・実測で検査を受けます。現地での検査以外に、基礎のコンクリート打設前の配筋写真、屋根の小屋組、構造耐力壁の筋交いや仕口金物などの工事写真の提出を求められることがほとんどです。
中間検査がない場合も、完了検査の申請のときに、それらの写真提出が必要になります。
建築士や施工者などが図面通り工事が進んでいるかを建築現場でその都度チェックしていれば、スムーズに審査は通ります」(白崎さん)
なお、「中間検査」に合格しないと、次の工程に進むことができません。
「検査済証」は、いつ、どのタイミングでもらえるのか、一戸建てを建てる際の「検査済証」の発行までの流れを見ていきましょう。
確認済証・中間検査合格証・検査済証は、それぞれ役所の建築主事、または指定された民間の確認検査機関が審査・検査を行い、その機関が発行します。建築確認や完了検査の申請から発行まではどのくらいかかるのでしょうか。施主の立場からすると、「工事着工の日は決まったが、その前に検査済証は発行されるか」「銀行の住宅ローンの実行の際に検査済証が必要と言われたから、いつもらえるのか気になる」といった心配があるかもしれません。以下は目安の期間です。
検査や審査名 | 証書の申請期間 | 申請から証書交付までの期間 |
---|---|---|
確認済証 | 建築確認以外の許可・認定の手続き終了後 | 7日以内(※木造2階建て以下の一戸建て住宅の場合) |
中間検査合格証 | 特定工程に係る工事完了日から4日以内 | 4日以内に検査・合格後速やかに交付 |
検査済証 | 工事完了日から4日以内 | 4日以内に検査・合格後速やかに交付 |
「確認済証は、建築物の用途・構造・規模によりますが、木造2階建て以下の住宅の場合(※)は、申請から7日以内に交付するのがきまりです。
同じ住宅でも木造3階建ての住宅などは、構造計算書・設備図の提出も義務となっており、その審査も行われるため、確認済証の交付は申請から35日以内と決められています。
ただ、いずれの場合でも申請図書に不備があれば、指摘や質疑が書面で通知され、審査は中断されます。その対応で図面や書類を訂正・追加する必要があり、その手続きに時間がかかれば、確認済証が発行されるまで長期戦になるケースもあります。
また、役所や審査機関での審査後、所管の消防署の同意が必要な場合もあり、さらに数日かかることもあります」(白崎さん)と、発行までの期間は建物や申請の内容により多少異なります。
検査済証は、完了検査に合格後すぐに交付されますが、検査での指摘内容により期間が延びる場合もあります。
「検査で未施工部分の指摘や手すりの追加といった是正を求められた場合は、その箇所を施工して、写真での報告や再検査を受ける必要があります。それが終わるまでは検査済証は交付されません。
また、検査済証が発行された後に、例えば駐車場のコンクリート部分を工事したり、室内のちょっとしたものをつけるなど、建築基準法に係らない工事を行う場合もあり、検査済証が発行になれば即引き渡しというケースは少なく、検査済証が工事の終盤で下りて、それから1週間ぐらいかかるのが一般的です。
また、完了検査での指摘への対応が遅れると、検査済証の交付も遅れ、引き渡しに間に合わない、場合によっては引き渡しができないという事態を招きかねないので、余裕をもって完了検査を設定し、完了検査を行う必要があります」(白崎さん)
「確認済証」と「検査済証」の違いは、これまで見てきたように、受ける審査の違いです。確認申請後の合格証として交付される書面が「確認済証」と完了検査後に交付される書面が「検査済証」です。
検査や審査名 | 実施義務 | 交付される書類 |
---|---|---|
建築確認 | 義務 | 確認済証(建築確認済証) |
中間検査 | 自治体・行政庁により、義務の場合も | 中間検査合格証 |
完了検査 | 義務 | 検査済証 |
「検査済証」とはどのようなものでしょうか。検査済証に記載される主な内容は以下のとおりです。
・確認済証番号
・確認済証発行年月日
・建物物の場所(地名、地番)
・建物物の主要用途
・建物物の規模、階数、構造、面積
・検査年月日
・検査担当者名氏名
「検査済証は完了検査が義務ですから、本来持っているのが当たり前です。一般に認知されていないかもしれませんが、車なら車検に合格していないと運転してはいけないというのと同じくらいの重みがあること。建物を使うなら、検査済み証まで持っているのが当たり前です」(白崎さん)
家を建てるまでも、建てた後も様々な場面で必要になります。
「検査済証」が必要になるのはどんな場合でしょうか。基本的には以下の場合です。
(1)住宅ローンを金融機関に申し込む場合
住宅ローンの申し込み時に「確認済証」、ローンの実行(振込)時に「検査済証」が必要になるケースが多いです。
(2)不動産を売却する際
不動産売却時は「確認済証」「検査済証」が必要。建築基準法に適合した建物である証明になります。
(3)住宅のリフォームや増築の際
増築や構造に係わる大掛かりなリフォームでは、新たに建築確認申請を行う必要があり、その際に「検査済証」が必要になります。
「新築住宅を建てる場合、最近は住宅ローンの融資で確認済証と検査済証の提出を条件に挙げている金融機関が多いです。また、住宅を増築する場合は建築確認申請が必要で、建築基準法に適合していないと許可されません。その申請の際に検査済証の提出が必要です。
リフォームは、キッチンの向きを変える、棚を付ける、クロスを張り替えるなど構造を触らない、間取りを大きく変えないリフォーム工事は建築確認申請の対象でないため、建築確認申請は不要です。
不動産登記に必要な書類として、確認済証と検査済証が挙げられていますが、融資などの関係で引き渡しの前に登記をしたいというケースがあり、そのタイミングでは検査済証が発行されていないことがあります。その場合は、検査済証と工事請負書、工事代金の領収書など、所有権を証明できる書類でも登記はできるようです。詳しくは住宅ローンの借入先の銀行にご確認ください」(白崎さん)
「検査済証は持っているのが当たり前。防火地域・準防火地域以外の床面積10m2以下の建築物など、建築確認申請をしなくてもよい例外はありますが、住宅として使用する建物で検査済証が不要な場合はありません」。万が一、引き渡しのときにもらわなかったら、どうなっているか確認してください。
ただし、古い建物は、工事は完了していても、完了検査を受けないまま物件を引き渡したケースも多く、確認済証はあっても検査済証がない場合があります。また、長年のうちに書類を紛失してしまったケースもあるでしょう。増築や大掛かりなリフォームをしようとしても検査済証を持っていない場合、手続きが難航しますし、制約を受ける場合があります。
実際には、こういう検査済証がないケースがあまりにも多いので、検査機関が建築基準法などの法律に適合しているかを調査して、調査報告書を付ければ申請の手順を踏めるような、いわば『救済措置』のような指針が国土交通省より示されています」(白崎さん)
国土交通省では、「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関等を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」を定めています。
「古い建物は検査済証がない場合があるため、中古住宅を買うときに検査済証がついていないケースはあるかもしれません。売りにくい、または買った場合はリフォームや増築で制約を受ける場合があります」(白崎さん)
主なリスクは、建物を使う人の安全が保証されない、安心して売買を行うことができないため、住宅ローンの融資、売却が難しくなること。また、増築やリフォームで制約を受ける、場合によっては増築やリフォームができない可能性もあります。そして、安全性を全く無視したものや、床面積や高さ制限オーバーなど、明らかな違法建築は、場合によっては取り壊し命令があるかもしれません。中古住宅を買う場合などは検査済証があるかどうか確認した方がいいでしょう。
「検査済証は紛失しても再発行はできません。建物がある限りはなくさないこと。万が一、紛失した場合は、検査済証が発行されたかどうかの記録は残っているので、管轄の行政庁に申請して『台帳記載事項証明書』を発行してもらいます。完了検査が行われ、建物の適合性が証明できれば、増築や大がかりなリフォームの申請手続きができます」(白崎さん)
「検査済証」は、マイホームを建てた際に施主が必ず受け取る大切な証書です。建築基準法の法令を遵守して建築され、建築確認と完了検査の2段階以上のチェックを受け、安全性が確認された建物である証明になります。
住宅ローンの申し込みや融資実行の際、また引き渡し後に、増築や建築基準法に係るリフォーム、売却などを行う際に必要になる場合があります。再発行はできないので、建築確認申請書・確認済証とセットで大事に保管しておきましょう。
「検査済証」は、建築確認申請と完了検査の2つの審査・検査に合格した場合に発行される
建築工事完了後の完了検査を行うことは義務で、その結果「検査済証」がもらえる
古い建物は「検査済証」をもらっていないケースがある
「検査済証」がない場合再発行はできないが、検査済証が交付されていれば『台帳記載事項証明書』を発行してもらえる