最近注目を集めているのが、省エネ住宅・エコ住宅。光熱費が安くなるイメージはあるけれど、具体的にどんな家なのか?ここでは、注文住宅を新築したいと考える方向けに、省エネ住宅・エコ住宅の種類やメリット・デメリットについて解説していく。省エネ住宅・エコ住宅を建てる際は補助金や優遇制度もあるため、これから家を建てるならぜひ知っておきたい。
省エネ住宅やエコ住宅と呼ばれる家は、一般的に家の断熱性・気密性を高めることで冷暖房機器の使用エネルギーを抑えられる家のことを指す。
地球温暖化問題への対策を国際的に約束した(2015年の「パリ協定」)こともあり、国は省エネ住宅・エコ住宅を推奨しており、補助金制度も設けている。補助金制度を利用するにはそれぞれ定められている基準をクリアしなければならないが、この基準によって省エネ住宅・エコ住宅の種類が分けられる。また、住宅の種類によって補助金制度も異なる。
住宅の省エネ性能は「住宅の屋根や外壁、開口部などの断熱性能の高さ(外皮性能)」と「空調や換気などに使う『エネルギー量』をどの程度少なくできるか(一次エネルギー消費性能)」によって評価される。
2015年に制定された「建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)」ではこの評価方法を明確にし、住宅など建築物の省エネ性能について3つの水準を定めている。
(1)外皮性能(断熱性能)
建物の外壁、屋根、窓の品質や表面積などをもとに、「断熱性能(建物内外への熱の伝わりにくさ・逃がしにくさ)」を算出。地域ごとに定められた基準値より低いことが、一定の省エネ性能の要件となる。
(2)一次エネルギー消費量
建物の空調や換気、照明、給湯などに必要な「一次エネルギー消費量」を少なくできれば、その分省エネ効果が高く、電気代の節約にもなる。そこで、建築物の省エネ性能の評価基準として「一次エネルギー消費量」の基準値が定められた。一次エネルギー消費量が基準値(省エネ基準)よりどの程度低いかで、建築物の省エネ性能の水準が分かる。
一次エネルギー消費量の評価では、高効率給湯(エコキュート)や太陽光発電など省エネ設備の有無もポイントとなる。
(1)省エネ基準
省エネ性能の確保のために建築物が備えるべき基準。建築物省エネ法では、一定規模以上のビルや工場など(非住宅建築物)の建築にあたり、同基準に適合することを義務付けている。
省エネ基準は過去数回見直され「28年基準(平成28年に制定された最新の基準)」「25年基準」というように、制定された年で区別されている。
(2)誘導基準
省エネ基準より省エネ性能のレベルが高く、一次エネルギー消費量の基準値を「省エネ基準」の90%以下としている。この基準に適合する建築物(住宅を含む)は「性能向上認定」を受けることができ、容積率アップの特例が受けられる。
(3)住宅トップランナー基準
建築物省エネ法では省エネ性能の高い住宅供給を推進するため、建売戸建て住宅を年間一定数以上供給する事業主に対し、一次エネルギー消費量が「省エネ基準」の85%以下になることを義務付けている。この基準を「住宅トップランナー基準」といい、基準に適合しない場合は、必要に応じて大臣が勧告・公表・命令等ができるとしている。
2024年度以降は、注文住宅にも「住宅トップランナー基準」の制度が導入される。基準値は省エネ基準の75%以下(ただし当面は80%以下)となる予定だ。
省エネ住宅・エコ住宅の中には、上記の基準を満たすと補助金をもらえたり、所得税などが減税されたりするものがある。
中でも注目したいのは「こどもみらい住宅支援事業」だ。これは、子育て世帯または若者夫婦世帯が所定の住宅事業者と省エネ住宅等の新築工事請負契約を結んだ場合に、60万~100万円の補助金を受けられる制度。
ここで紹介する「ZEH等(補助金額100万円)」「認定長期優良住宅・認定低炭素住宅・性能向上計画認定住宅(補助金額80万円)」のほか、「断熱性能や一次エネルギー消費量に関する性能が一定以上の住宅(補助金額60万円)」も対象となる。
同制度は2021年11月26日~2023年3月28日に、所定の住宅事業者と住宅新築の工事請負契約を結んだ場合に適用される(交付申請の予約期限は2023年2月28日)。また、住戸の床面積50m2以上などの要件があるので確認しておこう。
→詳しくはこどもみらい住宅支援事業
ここからは、省エネ住宅・エコ住宅について詳しく解説。「こどもみらい住宅支援事業」以外の補助金制度や税金・住宅ローンの優遇制度も紹介しよう。このほかにも、東京都の「東京ゼロエミ住宅導入促進事業」など自治体独自の補助金・減税制度もあるので要チェック。
なお、補助金や税制は一定期間限定の制度であることが多いので、建築する際に同様の制度が継続しているかどうかを確認することが大切だ(当記事の情報提供日/2022年6月30日)。
長期優良住宅とは、その名のとおり「長期にわたって良好な状態で使用するための措置が講じられた優良な住宅」を指す。劣化対策や耐震性、維持管理・更新の容易性……といった認定基準があるが、その一つに「省エネルギー性」がある。この認定基準には「住宅性能表示制度の『断熱等性能等級5』かつ『一次エネルギー消費等級6』であること」と定められている。
断熱等性能等級5は「28年度基準」より厳しい基準(ZEH強化外皮基準)に相当する断熱性能で、5段階ある等級の最高レベル。つまり長期優良住宅も省エネ住宅・エコ住宅の条件を十分満たしているといえるのだ。
長期優良住宅に認定されれば、下記のような補助金や優遇制度を受けることができる。
住宅の一次エネルギー消費量(空調や換気、照明などのエネルギー消費量。家電等のエネルギー消費量を除く)が基準より低くなることが求められる。加えて(1)節水型の水栓やトイレ等の設備を備える(2)家の中のエネルギー使用状況がわかるHEMS(HEMS/ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)を備える(3)木材など低炭素化に資する材料を使う(4)壁面緑化などヒートアイランド対策を行う、のうち一定以上の項目をクリアすれば低炭素住宅として認められる。
「性能向上計画認定」は、省エネ性能が「誘導基準」に適合し、資金計画等が適切であるなどの要件を満たす住宅を対象とする認定制度。認定を受けると、容積率の緩和などの優遇措置が受けられる。
同制度は、2015年に制定された「建築物省エネ法」で定められ、住宅の新築のほか、増改築や修繕、空気調和設備の設置・改修によって基準に達した場合も認定の対象になる。また、住宅以外の建築物にも適用される。
ZEHとはネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略。「断熱性能の高い住宅」を建築し、そこに「省エネ設備」を取り付けることで家での消費エネルギーを抑制する。さらに太陽光発電システムなどエネルギーを創る装備を備えることで、計算上「使うエネルギー≦創るエネルギー」になる住宅のことを指す。
ZEHの主な要件は、「断熱性能が28年(省エネ)基準に適合すること」「一次エネルギー消費量が基準値の8割以下になること」「太陽光発電などの再生可能エネルギーによって一次エネルギー消費分を全て(100%)賄うこと(一次エネルギー消費量-再生可能エネルギー創出量≦0となる)」などだ。
このほかZEHには、ZEHを見据えた先進住宅として「Nearly ZEH(ニアリー・ゼッチ)」、太陽光発電システムが取り付けにくい都市部狭小地に建てられた住宅などを対象にした「ZEH Oriented(ゼッチ・オリエンテッド)」という種類もある。前者は、エネルギー消費量と創出量に関する条件が緩和されており、後者は太陽光発電システムなど再生可能エネルギーの導入そのものを条件から除いている。
また、将来の普及を目指した、「ZEH+(ゼッチプラス)」「次世代ZEH+(ゼッチプラス)」などの基準もある。いずれも、省エネルギー性能や再生エネルギーシステムの性能がより高く設定され、補助金の額もZEHよりも高くなる。
詳細は経済産業省 資源エネルギー庁のHPを参照。
●戸建住宅ZEH化等支援事業(環境省)
ZEH+、ZEH、Nearly ZEH、ZEH Orientedが対象。補助額は、一戸当たり55万円(ZEH+100万円)+蓄電システム2万円/kWh(上限20万円または補助対象経費の1/3のいずれか低い額)
●次世代ZEH+実証事業(経済産業省)
次世代ZEH+が対象。補助額は一戸当たり100万円
※登録されたZEHビルダー(ハウスメーカーや工務店など)/ZEHプランナー(建築事務所など)を利用することが前提。
※こどもみらい住宅支援事業の補助金とは併用できない
●住宅ローン控除の優遇(2023年12月末までに購入、入居する場合)
13年間の最大控除額409.5万円(一般的な住宅の場合273万円)となる。
●【フラット35】Sが利用できる
一般的な【フラット35】低い金利が10年間適用される【フラット35】Sの金利Aプランが利用可能。
※一次エネルギー消費量等級5であることを示す必要書類を用意する(または検査によって確認)
LCCMとはライフ・サイクル・カーボン・マイナスの略。建築時から廃棄するまでに排出するCO2を削減する住宅のことを指す。わかりやすくいうと、上のZEHの建築時や回収時、解体時にもCO2の削減ができる住宅ということだ。
詳細は国土交通省のHPを参照。
●光熱費を抑えられる
「省エネ」というくらいなので、光熱費を抑えられるのが最大のメリット。断熱性が高いため、外気の温度に影響を受けにくく、一度、冷暖房で暖めたり、冷やしたりした室内の空気温度が長く保たれ、夏は涼しく、冬は暖かくなる。そのため冷暖房費を抑えられるというわけだ。
どれくらい節約できるかだが、例えば創エネも備えるZEHの場合、一戸当たりの年間エネルギーコスト収支はプラス4万2461円だ(※)
※ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス支援事業調査結果(2018年版)/(社)環境共創イニシアチブ
●健康面に好影響を与える
断熱性が高いので窓の結露を防ぎやすくなる。結露が減れば、ぜん息やダニの原因となるカビが生えにくくなるため、健康的に暮らしやすくなる。
また家の中の温度差がなくなるためヒートショック(※)も防ぎやすくなる。
※例えば暖かいリビングから寒い浴室へいくと血圧が上昇。その後の入浴で一気に血圧が低下して心臓に負担をかけ、心筋梗塞や脳卒中につながりやすい
●建築費用が高くなる
断熱性能を高めたり、省エネ機器を備えたりするための材料・工事の費用がかかるほか、申請する書面の準備などに手間もかかる。補助金をもらえる省エネ・エコ住宅でも、そのために必要な費用すべてが補助されるわけではないので、注意が必要。
●設計・建築できる事業者が限られる
ZEH住宅などは認定を受けるためには決められた事業者に建築してもらわないと補助金制度を利用することができない。
メリット | 注意点 |
---|---|
光熱費を抑えられる | 建築費用が高くなる |
健康面に好影響を与える | 設計・建築できる事業者が限られる |
断熱性や気密性の高い住宅なら、多くの建築会社で行える。ただし、上記の補助金を受けられる省エネ・エコ住宅は建てられる建築会社が限られることがある。
断熱等性能等級4の住宅は、長期優良住宅の施工実績がある建築会社であれば建築してもらえるはずだ。
低炭素住宅や性能向上計画認定住宅、LCCM住宅は、それぞれの基準をクリアしているかどうか審査機関が判断するが、基準に適合しているかどうかの計算が複雑なこともあり、申請書類の作成や手続きに慣れた建築会社でないと建築を断られがち。施工実績があるかどうか確認してから依頼するようにしよう。
ZEHはあらかじめ登録されているZEHビルダー(ハウスメーカーや工務店など)/ZEHプランナー(建築事務所など)を利用してZEHを建てないと、補助金の対象にはならない。下記の(社)環境共創イニシアチブのホームページで検索できるので確認しよう。
「省エネ住宅」「エコ住宅」は建築費用が余計にかかるが、一年を通して過ごしやすく、光熱費を抑制でき、健康面でも期待できる。国は2020年までに標準的な新築住宅で、さらに2030年までには新築住宅の平均がZEHになることを目標としている。将来の資産価値を考えた上でもZEHをはじめ省エネ・エコ住宅のほうが有利になる。これから家を建てるなら、ぜひ検討してみてほしい。