家の基礎(土台)は大きく「ベタ基礎」と「布基礎」に分類されるのですが、具体的に何が違うのでしょう。それぞれのメリット・デメリットや事情について一級建築士の佐川さんに話を伺いました。見分け方や工程・費用の違い、基礎を選ぶときのポイントや注意点などもあわせて解説します。
家を建てるときは、最初に家を支えるためにコンクリートで土台をつくります。これは十分に安定した土台がなければ、自然災害や経年劣化などによって毀損(きそん)・倒壊する恐れがあるためです。こうした役割を持つ土台を「基礎(きそ)」といいます。基礎は、大きく「ベタ基礎」と「布基礎」の2つに分類されます。
「ベタ基礎」とは、立ち上がっている部分と床一面を、鉄筋を入れたコンクリートで一体化して、大きな面で家の重みを支える基礎のこと。“平ら”を意味するベタという言葉からもイメージできますね。
「面で支えて荷重を分散するベタ基礎は、立ち上がった部分のみで支える布基礎より耐震性が高いのが特徴。阪神淡路大震災以降から普及しはじめ、今では多くの住宅で採用されています。私の場合、ここ20年間はほとんどベタ基礎です」(一級建築士 佐川さん、以下同)
もうひとつが「布基礎」です。「ぬのきそ」と読むこの基礎は、先述のベタ基礎と同じく、床をコンクリートで覆います。一見するとベタ基礎と同じように思えますが、住宅を支えるのは立ち上がっている部分のみで、鉄筋もこの部分にだけに入っています。
家の基礎が「ベタ基礎」か「布基礎」かどうかは、断面図や施工写真、見た目などで確認できます。見分ける際にどの点をチェックすべきかをご紹介します。
建築初期の場合は、基礎部分を見ればすぐにわかります。ベタ基礎の場合はコンクリートが地面全体を覆っていますが、布基礎の場合は地面が見えています。ただし、ある程度建築が進んだ状態や完成した家を見てもどのような基礎なのかはわかりませんので、建築業者に「ベタ基礎なのか?布基礎なのか?」を確認してください。それ以外だと、新築現場にある「建築計画」看板で確認するという方法もあります。
ベタ基礎と布基礎は、断面図を見ると大きな違いがあります。先述したように、ベタ基礎は立ち上がっている部分と床一面に鉄筋を入れたコンクリートで一体化して、大きな面で家の重みを支えています。
一方、布基礎は立ち上がっている部分にのみ鉄筋が入り、この部分だけで家を支える仕組みです。つまり、ベタ基礎が面で建物を支えるとしたら、布基礎は点で支える構造になります。
鉄筋コンクリート造の建物において、鉄筋の大きさや組み方などを示した図を「配筋図」といいます。ベタ基礎を用いる場合には、配筋根拠を図面に明記する必要があるため、平面図に配筋や基礎梁(きそばり)の位置が細かく示されるのが一般的です。
一方、布基礎の平面図では建物の外周や構造壁、間仕切り壁に沿って基礎が描かれます。
「布基礎は、立ち上がり部分以外は地面の上に防水シートを敷き、その上にコンクリートを設置します。ただし、そのコンクリートの厚さは、ベタ基礎が15cmほどなのに対して、布基礎は5~6cmです」
実際の施工現場や施工写真を見ると、より簡単に見分けられます。
ベタ基礎の施工写真を見ると、建物の形に沿って四角形や長方形の鉄筋の格子が組まれています。一方、布基礎の施工写真を見ると、建物の柱や構造壁に沿って溝が掘られたうえで、その底部に基礎部分と鉄筋が組み立てられています。
つまり、建物の輪郭に沿うよう全面に鉄筋の格子が組まれていたらベタ基礎、一部にのみ鉄筋が組まれていたら布基礎です。
中古住宅の場合は、以下のいずれかの方法で確認可能です。
ベタ基礎 | 布基礎 | |
---|---|---|
見た目(建築初期) | コンクリートが地面全体を覆っている | 地面が見えている |
断面図 | 立ち上がっている部分と床一面に鉄筋を入れたコンクリートで一体化している | 立ち上がっている部分にのみ鉄筋が入っている |
施工写真 | 建物の輪郭に沿うよう全面に鉄筋の格子が組まれている | 建物の一部にのみ鉄筋が組まれている |
では、ベタ基礎と布基礎には、それぞれどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
ベタ基礎のメリットとして、まず耐震性の高さが挙げられます。面で支えることで荷重を分散できるため、布基礎より耐震性が高くなります。
また、床下の地面すべてを厚いコンクリートで覆うので、湿気が建物に伝わりにくくなり、住宅の木材の腐食などの心配も減ります。
一方、デメリットとしては布基礎に比べてコンクリートと鉄筋の使用量が多くなる(布基礎の約2倍)ため、コストがかさみます。
布基礎よりもコンクリートが厚く、建物と地面が直に接さない構造のベタ基礎はシロアリによる被害も防ぎやすくなります。また、先述したように湿気も溜まりにくいため、シロアリの餌となる腐食して柔らかくなった木材も発生しづらいでしょう。シロアリの繁殖は、場合によって家の倒壊まで招きます。シロアリによる被害を防ぎたい場合は、布基礎よりもベタ基礎のほうが適しています。
ベタ基礎工事で生じ得る失敗として、次のような例が挙げられます。
ベタ基礎工事がしっかりなされていないと、家の耐震性にも大きく影響します。信頼できる業者に任せるのはもちろん、施工中の様子などを見て気になった点は都度確認しましょう。
床部分に鉄筋を使わず、コンクリートも薄い布基礎は、ベタ基礎に比べてコストを抑えるのがメリットです。一方で、布基礎は面で建物を支えるベタ基礎と比べて耐震性では不利。また、床部分のコンクリートが薄いため、ベタ基礎と比べて地面の湿気が上がりやすく、シロアリ被害を受ける可能性が高くなります。
では、ベタ基礎と布基礎工事はそれぞれどのようなプロセスで進められるのでしょうか。具体的な工程と注意点を見ていきましょう。
ベタ基礎工事の工程は、ざっと下記のようになります。
(1)地盤調査
地盤が弱くてはどんなに基礎に耐震性を持たせても意味がありません。敷地内で実際に家を建てる地面の調査を行い、必要があれば地盤改良を行います。
(2)基礎の範囲を決める
敷地内のどこに建物が建つのかわかるように、縄やロープで印をつけます。
(3)掘削工事
基礎の鉄筋&コンクリートを入れるために、重機や手作業で基礎の底辺まで土を掘ります。ベタ基礎では範囲内のすべてを掘削します。
(4)砕石を入れる
掘削した全面に砕石(さいせき)を入れ、地面を固めます。
(5)防湿シートを敷き、捨てコンクリートを流す
砕石を入れた上に防湿シートを敷き、建物を建築する位置が正確にわかるように、コンクリート(捨てコンクリート)を流し、乾いたらそこに印(墨入れ)を入れます。
(6)基礎をつくる
最初に建物の位置に鉄筋を組みます。次に基礎の外周に枠組を組んでコンクリートを流し、コンクリートが固まったら型枠を外します。
(7)完成
不要なコンクリートの除去など仕上げをして完成です。
布基礎工事の工程も、先ほどご紹介したベタ基礎工事のプロセスとほぼ同じです。掘削工事と砕石を入れる作業で、少し違いが出ます。
(1)地盤調査
(2)基礎の範囲を決める
(3)掘削工事
布基礎では、立ち上がり部分を掘削します。
(4)砕石を入れる
布基礎では掘削した立ち上がり部分に砕石を入れ、地面を固めます。
(5)防湿シートを敷き、捨てコンクリートを流す
(6)基礎をつくる
(7)完成
家を建てる場合、どの業者に頼むのかで基礎工事の質も大きく異なります。地盤調査の段階から信頼できる業者を見極めましょう。
また、営業担当者はもちろん、基礎工事を行っている現場にも出向き、職人さんとも積極的にコミュニケーションを取るのが理想です。施工中の様子を確認したい場合には、事前に行く日時などを伝えておくと工事の邪魔になる心配もないでしょう。
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では、基礎工事にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか。ベタ基礎と布基礎の費用を比較してみましょう。
地域や施工会社によって異なりますが、ベタ基礎のコストの目安としては【1m2当たり1万円~1万4000円】です。
一方、布基礎の費用目安は【1m2当たり9000円~1万3000円】です。例えば、1m2当たりベタ基礎が1万円、布基礎が9000円とするなら、その差額は1m2当たり1000円、施工面積が100m2(約30坪)なら10万円の違いになります。
ベタ基礎 | 布基礎 |
---|---|
1万円~1万4000円 | 9000円~1万3000円 |
一般的にコスト面では使用する鉄筋やコンクリート量の少ない布基礎のほうが有利ですが、上記で試算したように、場合によっては思ったほど差が出ない場合もあり得ます。
「ベタ基礎があまり普及していないころは、それまで中心だった布基礎より施工費用が高かったのですが、普及が進むにつれ、施工会社もベタ基礎づくりに慣れてきたことで施工費用が下がりました。今では材料費を除いた施工費用だけなら布基礎とあまり変わりません」
こうしたなかでコストを削減したい場合は、複数社から見積もりを取ることが大切です。3~5社を比較検討したうえで、品質と価格に納得できる会社を選びましょう。
どちらの基礎を選ぶべきか迷ったときは、気候条件や耐震性、シロアリ対策の面での適正などを確認しましょう。
冬になると頻繁に気温が0度以下になるような寒冷地では、地面が一定の深さまで凍結します。地面が凍結すると膨張して基礎を押し上げてしまうため、寒冷地では行政により「凍結深度」が設けられています。この場合、決められた深度より深いところに基礎を設置しなければなりません。
「布基礎と比べてベタ基礎は、掘る面積が広いため、深く掘るほど残土が多くなります。そうなると残土処理の費用も無視できません」
ちなみに、1m2当たりの残土の処理費用の目安は3万~5万円です。費用を安く抑えたい場合は、やはり布基礎のほうが適しています。
これまでご紹介してきたとおり、面で建物を支えるベタ基礎のほうが耐震性は優れています。ただし、布基礎でも立ち上がり部分の底盤を広くする、地盤を強固にする、建物の構造を強化するなど、耐震性を高める工夫はいろいろとできます。
「耐震性は建物+基礎+地盤の3つが重要な要素です。基礎だけにとらわれず、全体で耐震性を高めるように考えるべきです」
ベタ基礎のほうが湿気やシロアリには強いのは事実ですが、絶対安心というわけではありません。反対に、自然の少ない都市部や標高が高い場所などでは、布基礎であってもシロアリに悩まされない可能性も十分あります。シロアリ対策を万全にしたいなら、いずれの基礎だとしても定期的に点検することが大切です。
ベタ基礎の場合、最低でも10年に1回は床下をのぞける点検口から確認をしましょう。布基礎の場合は、2~3年に1回は見るようにするといいです。
ベタ基礎と布基礎にはそれぞれメリット・デメリットがありますが、これまで見てきたように耐震性などベタ基礎のほうが有利な点も、対策次第で布基礎でも高めることができます。
これまでにご紹介した比較ポイントをチェックしながら、わが家に適した基礎を選びましょう。
予算や地域性に問題がなければベタ基礎がオススメ
地面と建物が直に接さず、湿気が生じづらいベタ基礎のほうがシロアリ対策には有利
基本的な工程には大きな違いはない
凍結深度が設けられているエリアは布基礎で検討を