家や土地を買ったときや相続したときなど、住まいにかかわるさまざまな場面で、登記がかかわってきます。その登記について定めた法律が不動産登記法。登記にはどのような種類があるでしょう。また、手続きの際に用意しなければならない申請書にはどのようなものがあるのでしょう。2021年4月に可決された登記法の改正についても紹介します。
不動産登記法とは、家や土地などの不動産の場所や内容の表示や、不動産に関する権利を公示するための登記について定めた法律です。その不動産が誰のもので、どのようなものなのかが登記されている不動産登記制度があることによって、不動産取引は安全、スムーズに行うことができます。
不動産登記法のもととなる法律「登記法」が1887年(明治20年)に施行され、その後1899年(明治32年)に不動産登記法が施行されました。そして、2004(平成16)年に、105年ぶりの改正が行われ、それまでの書面申請に加えてオンライン申請が導入されたり、法文のすべてを現代語にしたりなど、登記時の負担軽減や利便性のアップが図られています。
不動産登記が行われると、その内容は法務局が管理するデータに記録されます。それらの内容は、登記事項証明書により確認することができます。では、どんなことが記載されているのでしょうか。
登記事項証明書の「表題部」に記載されているのは、土地や建物に関する情報です。所在地や地番、地目(宅地なのか、畑なのかなど)、地積(土地の面積)、家の所在地や建物の種類(居宅なのか、店舗なのかなど)、構造、床面積などです。
不動産の所有者は誰か
「権利部(甲区)」に記載されているのは所有権についての情報です。所有者の住所や氏名、不動産を取得した原因(売買、相続など)が記載されていますから、誰がどのような経緯でその不動産を取得したのかがある程度わかります。
所有権以外の権利
「権利部(乙区)」には、抵当権や地上権、地役権など、所有権以外の権利についての情報が記載されています。
・抵当権
住宅ローンなどを借りたときに、借りた人が返済できない場合に備え、金融機関などの貸し手が土地や建物の競売代金から優先的に貸付金を回収するための権利。
・地上権
所有者ではない他人が一定の目的のために土地を使う権利のひとつ。
・地役権
通行のためなど一定の目的の範囲内で、他人の土地を自分の土地のために利用する権利のことです。
このような、権利が登記されていると、その不動産を購入しても利用が制限されることがあります。
登記事項証明書の見方など、詳しくは下記の記事もチェック!
『不動産登記って何? 基礎知識から不動産登記の目的・費用まですべて紹介!』
不動産登記は、不動産を取得したときのほか、登記の内容に変更が生じた際に行うことになります。では、不動産登記が必要なのはどんなときなのか、その種類を見ていきましょう。
家を新築した場合、建物の種類や構造、床面積などの状況を示す「建物の表題登記(表示登記)」と、「所有権の保存登記」を行います。所有権の保存登記は、所有権が初めて生まれたときに行われる登記です。
表題登記は法律で義務付けられていますが、保存登記には登記義務はありません。しかし、新築に伴って金融機関からローンを受ける際には、新築建物と土地に抵当権設定登記を一般的には求められるため、所有権保存登記もしなければならないことが多いかと思われます。土地を購入して建てる場合は、購入者名義に「土地の所有権移転登記」を行うことになります。
所有権保存登記について、詳しくはこちら。
所有権保存登記とは? 所有権移転登記と何が違う? 税金や必要書類までプロが徹底解説
所有権移転登記について、詳しくはこちら。
所有権移転登記に必要な書類と費用、自身で手続きする場合の手順
不動産を売買などで取得した場合は、「所有権移転登記」を行います。
所有者が亡くなり、相続が発生した場合は、不動産を相続した人が「所有権の移転登記」を行います。
ローンを借りた人が返済できなくなった場合に備えて、金融機関が不動産を担保にする「抵当権設定登記」を一般的には行います。
抵当権について、詳しくはこちら。
抵当権とは? 基礎知識を専門家が分かりやすく解説!
住宅ローンを返し終えたら、ローンを借りていた人が設定されていた抵当権を抹消する「抵当権の抹消登記」を行うことができます。
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抵当権抹消を住宅ローン完済後に自分でする方法。必要書類と手続き、費用を徹底解説!
住所変更や結婚・離婚などで姓が変わったときは、登記名義人の「住所・氏名の変更登記」をします。
建て替えや、古家付きの土地を購入して建っていた建物を取り壊した場合は「建物の滅失登記」を行います。
不動産を売却した際には、売主から買主に所有権が移るため「所有権移転登記」が必要です。また、不動産に抵当権が設定されている場合は、「抵当権抹消登記」も必要になります。
このように、土地や建物にどのような変更があったかによって、必要な登記の種類が違ってきます。
また、登記を司法書士に依頼する場合は、委任状と身分証明書が必要です(建物の滅失登記は土地家屋調査士に依頼。委任状と身分証明書が必要)。
登記にはさまざまな種類があり、必要な書類もそれぞれ違ってきます。特殊な事情がある売買や物件の場合、ご紹介した書類の他にも必要な書類が発生することがあります。詳しくは法務局や土地家屋調査士、司法書士に相談しましょう。登記申請書は法務局のWebサイトからダウンロードすることができます。
不動産の表示登記に関する申請手続きは土地家屋調査士に、不動産の権利関係の申請手続きは司法書士に代理を依頼することができます。
民法・不動産登記法につき、相続登記などに関する改正法案が2021年4月に可決されました。これによって、相続登記が義務化となったのですが、これまでとはどう違っているのか、そしてなぜ義務化されたのかを司法書士の石丸大樹さんに伺いました。
「相続によって土地や建物などの所有者が変わった場合、相続による所有権移転登記を行います。これは、法改正前は義務ではありませんでした。今回の法改正によって登記を行うことが義務となります。
法案が可決したのは2021年ですが、施行は3年以内の2024年までにされる予定。2024年以降は、相続が発生してから3年以内に登記を行わないと過料(行政上の義務に違反した場合に科せられる金銭の支払い)が科せられる見通しです」(石丸さん、以下同)
相続登記が義務化された背景には、所有者不明の土地や空家の問題があると石丸さん。
「最近、所有者不明の土地や空家が増えているという問題がニュースなどで報道されるようになってきました。主には相続を原因として土地や建物の所有者が変わるたびに、きちんと相続登記がされていれば問題はないのですが、管理や売却が難しい不動産などについては、相続が発生しても相続登記を行わずに放置されてしまうことが多いのです」
その状態が長く続くと、代が変わるごとに相続人の数が増えていき、ひとつの不動産に数人、数十人、なかには百人以上の利害関係人がいることも。
「不動産を売却したり、土地に建物を建てたりするときには、所有者全員の承諾を得なければなりません。しかし、相続登記がきちんとされていないと、所有者が誰なのかわからない、わかっていても所在が不明などで交渉が進まないことがあります。
また、その土地を公共事業に使用する計画があっても、地方公共団体等が所有者に交渉することも難しくなります。そこで、不動産の所有者探索の負担を解消し、不動産を活用できるようにしていこうというのが、相続登記の義務化の背景です」
相続登記の義務化に伴って、所有者不明が生じないように関連する制度も整備されています。
「具体的な運用はこれからですが、例えば、子ども3人が法定相続人で、実家の土地や建物の相続が発生した場合、誰もそこには住まないし、売却するのも難しく、誰も実家を相続したがらないといったケースがあります。
相続登記は3年以内に行うのが義務になるのですが、話し合いがまとまらない場合などには、相続が開始した旨及び自らが相続人であることを法務局に申告することで過料は科されないことになります。所有者不明が生じないための、柔軟な施策が予定されています」
相続登記以外でも、義務化になった登記があります。
「登記記録上の所有者の名前や住所が変わったとき、これまではその変更登記は任意だったのですが、不動産登記法の改正で変更原因発生から2年以内の変更登記が義務化になりました。施行は法案が可決された2021年から5年以内となります」
改正前は、家を購入後、転勤で引越しをしたり結婚や離婚で姓が変わっても、変更登記が義務ではありませんでした。そのため、内容をそのままにしておき、住宅ローンを完済して抵当権抹消登記を行うときにまとめて変更するというケースが多かったのですが、これからは、都度変更することが求められます。
具体的な手続きは司法書士など専門家に代行してもらえる不動産の登記ですが、いつどんな登記が必要なのかは知っておきたいもの。また、不動産登記法の改正で、うっかりしていると過料が課せられることにもなりますから、相続が発生したとき、住所や姓名を変更したときは注意しておきましょう。
不動産登記法とは不動産の登記について定めた法律
不動産を買ったり、贈与されたり、担保にしてローンを借りた場合など、さまざまな場面で登記を行うことになる
これまで任意だった相続による所有者移転登記が義務化に(2024年までに施行予定)