コンクリート住宅にはさまざまな魅力がありますが、コンクリート打ちっぱなし(打放し)に代表されるモダンでクールなデザインも大きな魅力の一つです。そこで、コンクリートのデザイン的なメリット・デメリットと、コンクリートをおしゃれに使った家を実現するためのポイントについて、アーキスタジオ代表で一級建築士の滝川博之さんに話を聞き、実例とともに紹介します。
コンクリートの家とは文字通りコンクリートを使った家のことですが、パターンとしては次の2種類があります。
一般的に、構造にコンクリートを使った家のことをコンクリートの家と呼びます。
構造にコンクリートを使った家には、鉄筋でコンクリートを補強した鉄筋コンクリート造(RC造)や、鉄骨の支柱と鉄筋でコンクリートを補強した鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)があります。
「一戸建てに多いのは、RC造の家です。さらに、RC造にはラーメン構造と壁式構造があり、一戸建てに用いられるのは主に壁式構造です」(滝川さん、以下同)
鉄筋コンクリート造(RC造)の特徴について、詳しくはこちら
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構造自体は木造や鉄骨造で、内外装の一部にコンクリートを使った家もあります。
「木造や鉄骨造でも基礎や土間にはコンクリートが使われますが、デザインのポイントとして使うケースや蓄熱による室温の安定を目的として使う場合もあります」
デザイン性の高さが気に入って、コンクリートの家を選ぶ人もいます。コンクリートを用いることで、住宅のデザインにどのようなメリットがあるのでしょうか?
「一般的には『コンクリート打ちっぱなし』と呼ばれますが、私たち専門家の間では『コンクリート打放し』と呼んでいます。
コンクリートの素材感を表面に出したコンクリート打放しにすると、モダンでクールな印象が得られます。
コンクリート表面の天然石のような自然な色むらが味になり、素材自体の重厚感とともに、デザイン性の高さにつながっていきます」
「コンクリートの性質上、形を自由に成形できます。曲線の表現も可能で、直線だけでは表現が難しいデザインされた空間を創出することができます」
コンクリートの表面をそのまま内外装の仕上げとする「打放し」でも、平滑な仕上げ以外に、木目を模した仕上げなど、多彩な仕上げが可能です。
「コンクリートを固める際の型枠に木目を強調した杉板を使い、コンクリートの表面に木目を転写する仕上げを『本実(ほんざね)仕上げ』と言います。このように、コンクリートでありながら温もりの感じられる仕上げも可能です」
「壁式構造のRC造は、丈夫な鉄筋コンクリートの壁で建物を支える構造のため、大空間が実現できます。
柱や梁の少ないすっきりとした大空間では、インテリアが映え、おしゃれな空間を演出できます」
コンクリートの家には、見てきたようなデザイン的なメリットがある一方、デメリットもあります。どのようなデメリットがあるのでしょうか。
「上手に施工すれば、追加の処理をしなくても表面を綺麗に仕上げることはできます。ただし、上手に施工できなかった場合、表面にコンクリートの模様を描いて再現するケースもあります。しかし、私の場合、こうした補修はなるべくしなくてもすむように、施工することを心がけています。
また、型枠の中にコンクリートを流し込む際、先に流し込んだ部分と後で流し込んだ部分の継ぎ目が出てしまうことがあります。
施工の際は、この継ぎ目がどこに出やすいかを計算して、継ぎ目が目立たないように施工計画を立てます」
「多くの人の固定観念として、コンクリート=冷たいものというイメージあるのでしょう。そのため、コンクリート打放しにすると、冷たい印象を受け、室内は寒いのではないかという声を聞くことがあります。
ただし、きちんと外側が断熱されていれば、コンクリート打放しの内壁は、冬でも冷たくなく、むしろ室内の熱を蓄えるので、室温は安定します」
「外観の仕上げをコンクリート打放しにすると、表面が汚れるので、保護剤を塗って汚れから保護します。また、目立たない場所に雨が流れるようにするなど、細かい工夫が必要です。
内装をコンクリート打放しにする場合は、必ずしも保護剤を塗る必要はありませんが、汚れ防止に塗ってもいいでしょう。なお、液体ガラスという保護剤を塗ると、コンクリートの耐久性も上がります」
「コンクリート打放しの家が登場した当初は、内側も外側も断熱しない家が主流でした。断熱しなければ結露しやすくカビも生えやすい家になってしまいます。
しかし、今はコンクリート打放しの家でも、内側か外側のどちらかは断熱するのが普通で、十分な断熱性が確保できていれば、結露しにくく、カビも生えにくい家になります」
コンクリートの家には、これまで紹介してきたようなデザイン面以外にもデメリットがあります。どのようなデメリットがあるのでしょうか?
「結露やカビのところでも触れましたが、コンクリートの家は断熱性が低いと思われているようです。しかし、今はしっかり断熱するのが普通で、コンクリートの家だから断熱性が低いということはありません。また、すき間のない一つの塊(モノコック)なので気密性でも優れています。
特に当社が主に採用している外断熱の場合は、コンクリートの蓄熱効果によって室内温度が安定するため、光熱費の節約にもつながります。
デメリットとしては、地盤改良や杭打ち工事が必要になるケースがある点が挙げられます。木造住宅では特に地盤改良が不要な土地でも、コンクリートの家は重いため、このような対策が必要となることがあるのです。コストはかかりますが、固い地盤まで杭打ちをすれば、逆に耐震性では安心感が得られます」
おしゃれなコンクリートの家を実現するためには、どのような点に注意すればいいのか、ポイントを紹介します。
「なるべくコンクリート面をシンプルに広く見せる方が、コンクリートの力強さや自然な色むらの模様が楽しめます。
当社が採用することの多い外断熱方式でも、断熱材を必要としないところには、コンクリート打放しの素材感によって外観が広く見えるように計画します」
「コンクリートは無機質な印象があるため、木と組み合わせることで柔らかな印象を演出できます。どんな色でも合いますが、なるべく無垢材を使うことで、自然な温もりを演出できるでしょう。
タイルと組み合わせる場合は、タイルの持っている素材の質感を素直に出すと、コンクリートの質感と良い調和がとれます。
なるべく人工的な素材ではなく、自然に近い素材と組み合わせるのがおすすめです」
「コンクリートの階段は、施工は大変ですが、都会的でスタイリッシュな印象になります。
カウンターや天板をコンクリートにしたキッチンもインパクトのある存在感や重厚感が感じられておしゃれになります。カウンターの下は置き家具などと組み合わせて使うといいでしょう。
コンクリートの表面は、飲み物や食べ物をこぼしてシミにならないように、表面には保護剤を塗った方がいいでしょう」
「当社では主に外断熱を採用しているため、内壁がコンクリート打放しになります。
内壁には型枠のパネルを並べた形が転写されるので、デザイン的におしゃれに見えるような型枠の配置を考えるのがポイントです」
予算の関係でRC住宅にできないけれど、コンクリート打放しの雰囲気は味わいたいという場合、どのような方法があるのでしょうか。
「コンクリート打放し風の壁紙もありますが、あまりおすすめしません。コンクリートは表面的な部分だけではなく、その重量感や存在感も含めておしゃれに感じるものだからです。
壁紙以外には、左官仕上げでコンクリート風にしたりする方法もありますが、それぞれの素材の個性をいかしたデザインの方が本物のもつ風合いが伝わってくると思っています。
建築は、長く使い続けるものなので、素材本来の持ち味を活かすデザインをおすすめします」
実際におしゃれなコンクリートの家がどのように建てられるのか、アーキスタジオが手掛けたコンクリートの家の実例を紹介します。
床材に黒系のタイルを採用。コンクリート打放しの内壁との組み合わせで、クールでスタイリッシュな印象に仕上げた例です。
木製サッシやテレビボード、ソファの茶色で空間が硬い印象になり過ぎるのを緩和しています。
梁や柱のないスクエアな空間、ガラス張りのホームエレベーターなど、都会的な雰囲気があふれる内観です。
コンクリート打放しの内壁、床やテーブル、建具の木、照明やらせん階段のアイアン、キッチンのステンレスなど、複数の素材が絶妙に調和して、おしゃれな空間にした事例です。
らせん階段の曲線が、空間全体に柔らかな印象を与えています。
コンクリート打放しの内壁と和室を組み合わせた事例です。
縁なし畳と板張りの床が、コンクリート打放しの内観と調和して、モダンな和室に。間接照明も雰囲気づくりに一役買っています。
「コンクリートの素材感は、最初こそ冷たい印象を持っていても、住んでいるうちに愛着がわいてきます。それは、住んでみてはじめて、住み心地の良さが体感できるからです。
コンクリートの家は、デザイン性以外にも、寿命が長く、耐震性、耐火性に優れており、災害時でも安心感があります。長期的な視点を持って検討するといいでしょう」
コンクリートの家はクールな印象だが自然素材と組み合わせると柔らかい印象になる
柱や梁の少ないすっきりとした大空間が実現できて、インテリアの自由度も高い
見た目は冷たい印象でも、外断熱のコンクリートの家は室温が安定していて過ごしやすい