防火扉、防火戸、乙種防火戸などと呼ばれる防火設備には、どのような役割・種類があるのでしょうか?火災時に備えたメンテナンスの必要性などを、一級建築士の佐川旭さんに教えていただきました。
防火扉とは、防火性能を持つ扉のことです。防火扉には、防火設備にあたるものと特定防火設備にあたるものがあります。その他、乙種防火戸や甲種防火戸、防火戸、防火ドアなどと呼ばれているものがあります。それぞれ、定義はどのようなものなのでしょうか。
「2000年(平成12年)に建築基準法が改正されまして、『乙種防火戸』は『防火設備』という名前になりました。防火設備には、防火シャッターや網入りガラスも含まれます。ちなみに、『甲種防火戸』は『特定防火設備』に変わりました。
また、防火扉の法律的に正しい呼び方は防火戸(ぼうかど)です。防火扉(ぼうかとびら)や防火ドアと呼ばれることもあるようですが、厳密には防火戸です。防火戸も防火扉も防火ドアも、指すものは同じです」(佐川旭建築研究所 佐川旭さん。以下同)
防火設備(旧乙種防火戸)と、特定防火設備(旧甲種防火戸)の違いは、建築基準法で細かく決まっており、簡潔に言うと、火災に耐えられる時間によって区別されます。
「防火設備は、20分火に耐えられるもの。特定防火設備は、1時間火に耐えられるものと設定されています」
建築基準法改正前の名称※1 | 乙種防火戸 | 甲種防火戸 |
---|---|---|
建築基準法改正後の名称※1※2 | 防火設備 | 特定防火設備 |
使用箇所 | ・外壁の開口部 ・防火区画の一部 など |
・防火壁や防火区画の開口部 ・外壁の開口部 ・避難階段の出入口部分 など |
設備の例 | ・防火戸 ・網入りガラス ・袖壁 |
・防火戸 ・防火シャッター |
遮炎時間 | 20分 | 1時間 |
防火戸の役割は、建物の中で火災が広がるのを防いだり、隣接する建物への延焼を防いだりすることです。
防火設備としての防火戸は、政令で定めた技術的な基準に合格していなければなりません。また、国土交通省が定めた構造でつくられているか、国土交通省の認可を受けていることも必要です。
防火戸は、火災に気をつけたい人が自由に導入すれば良い設備というものではありません。
都市計画法で「準防火地域」・「防火地域」に定められている地域に家を建てる場合、決められた防火の条件を満たさなければなりません。その中にドアを防火戸にする、壁や屋根の材料は耐火のものにする、などが定められています。
「一般的な木造建築の住まいで使うのは防火設備(旧乙種防火戸)になりますね。物件を建てる地域が防火地域であったり耐火建築にしなくてはならない地域であったりすると、特定防火設備(旧甲種防火戸)を使う場合もあります。地域によって耐火基準が決められていて、それに基づいてどのような防火設備を使わなければならないかも決まってきます。扉や壁、屋根の材料などに対して定められています」
建物の密集地や幹線道路沿いなど、防火地域に指定されている場所では、1時間耐火できる特定防火設備を使って家を建てなければなりません。
「これは、防火戸に限ったことではありません。例えばシャッター付きの車庫を用意したいとします。この場合、シャッターは普通のシャッターではなく、防火シャッターでなければなりません。普通のシャッターより厚く、火に耐えられます。ただ、やはり価格も割高です。
防火地域に家を建てるとなると、そのほかの地域よりもどうしても値段が高くなります」
実際に防火地域に指定されている地域は、各都道府県の公式サイトの都市計画情報などで調べることができます。家を建てる場合には、その土地が防火地域や準防火地域になるのか確認してみましょう。
※どの程度の耐火対策が必要かは、地域だけではなく、建てる物件の床面積や階数によっても変わります
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住宅の多い都心や幹線道路の近くなど、防火地域に指定されている場所に家を建てる場合、きちんと防火設備を使っているかを、役所にチェックしてもらう必要があります。
「どのような材料を使うか、その品番まで物件の図面に記入し、役所や民間の審査機関に提出して許可をもらいます。物件ができあがってからも、ちゃんと提出した通りにつくられているかをチェックされます。申請については、基本的には建築会社が進めてくれます。一連のチェックが終わってはじめて、建物を使って良いということになります」
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「防火戸のメンテナンスはほとんど必要ありません。扉は10年くらいで色が退色してきたり蝶番が軋んだりするので、それを直すことはあります。ですが、防火という観点でのメンテナンスは、20年30年と使っていても不要です」
防火戸は普通の扉より重くなります。蝶番やドアクローザの負担が大きくなるので、定期的にチェックをしておきましょう。
防火戸というと機能が優先され、デザインのバリエーションは少ないイメージがあるかもしれませんが、デザイン豊富で、最近は装飾性の高いものも増えてきています。普通のドアと比べると種類は少ないかもしれませんが、防火ガラスを組み込んだものなどおしゃれなものもあります。
庭と調和したデザインの防火戸。外壁や庭などと合わせて防火戸のデザインにも凝ってみると、より理想の住宅に近づきそうです。
軽やか鋳物のアクセントが取り付けられた防火戸。玄関回りがシンプルな家の場合、ドアの装飾で華やかさを足しても良いでしょう。また、玄関先でガーデニングを楽しみたい方は、この防火戸のようなデザインを採用すれば統一感をだすことができます。
家を建てるときに、どこにどのような防火設備・特定防火設備が必要なのかは、建築会社が提案してくれます。
ですが、自分が暮らす家の地域が防火地域や準防火地域の場合にどのような防火対策がされているか知っておくと、より安心して生活できるでしょう。
これから家や土地を購入するときや今住んでいる方がリフォームするときなどに参考にしてください。
防火扉は正式名称「防火戸」。遮炎時間が20分の防火設備と、1時間の特定防火設備に分けられる
自分が建てる物件にどの程度の耐火対策が必要かは、物件を建てる地域、物件の床面積、階数によって変わってくる
防火機能という面においては、特にメンテナンスや定期点検は必要ない