最近は3階建て住宅を見かけることも多くなりました。一方で、3階建てにして後悔したという声もあるようです。3階建ては本当に不便なのでしょうか、メリット・デメリットや、3階建てで後悔しないためのポイントについて、一級建築士の佐川旭さんに聞き、実例とともに紹介します。
3階建て住宅とは、文字通り3階建ての住宅のことです。昔は一戸建て住宅と言えば平屋または2階建てが一般的でしたが、ある時期から3階建て住宅が増えてきたと、佐川さんは言います。
「以前は準防火地域には木造3階建てを建てることができなかったのですが、1987年に建築基準法が改正され、準防火地域でも木造3階建てが建てられるようになりました。
また、当時は特に都心の土地が高騰していたこともあり、土地はなるべくコンパクトにして取得価格を抑えながら、家族が暮らすのに不足のない延べ床面積を確保したいというニーズが高く、その解決策として3階建て住宅が増えたのです」(佐川さん、以下同)
3階建て住宅には、2階建て住宅と比較するとどのようなメリットがあるのでしょうか。
「住人1人につき、必要な住まいのスペースは、約6坪(20m2)だと言われています。4人家族なら約80m2、それに玄関や廊下などの面積を足すと、4人家族に必要な延べ床面積は約30坪(約99m2)が目安です。
この延べ床面積を2階建てで確保する場合、約15坪ずつ必要ですが、3階建てなら単純計算で約10坪ずつで済みます。つまり、3階建てにすれば、狭小地でも必要な床面積を確保することができるのです」
土地の価格は、地域によって大きく異なります。建物の建築費用にも地域差はありますが、土地の価格ほどの差はありません。
「限られた予算の中で、地価の高い地域にマイホームを持とうとすれば、土地の面積をなるべく抑える必要があります。その際、2階建てだと予算オーバーだが、狭小地でも床面積を確保できる3階建てなら予算内に収まるというケースはあるでしょう」
「立地にもよりますが、3階建ての3階部分や屋上から眺望が見込める点は、3階建てのメリットです。川の流れや花火大会の様子を楽しむために、川沿いに3階建て住宅を建てたという人もいます。
また、周囲に高いビルなどがなければ、日当たりも見込めるので、3階のバルコニーや屋上は、物干しとして活用もできます」
「フロアが変われば、プライバシーも確保しやすくなります。そのため、階ごとでプライベートスペースとパブリックスペースに分けて、それぞれに適した使い方ができます。
コロナ禍で在宅勤務が増えたため、自宅にワークスペースを設けたいという人には、例えば、1階にワークスペース、2階にLDK、3階に寝室や子ども部屋という配置にすれば、仕事とプライベートのメリハリも付けやすいでしょう」
「2階建てでも3階建てでも構造計算はしますが、3階建ての場合は審査機関へ構造計算書を提出することが義務付けられています。この構造計算書を審査機関が確認して、許可をもらってから基礎工事を行うため、住む人にとっては安心材料になります」
「階ごとにプライバシーを確保しやすいため、3階建ては、2つの世帯がひとつの建物の中で暮らす二世帯住宅に適していると言えます。
例えば、1階は親世帯の居室、2階は共有のリビング・ダイニング、3階に子世帯の居室、というような使い分けが考えられます」
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→“秘密のドア”で二世帯がつながる、完全分離型の3階建て住宅
2024年3月31日までに新築された住宅に対して、固定資産税が2分の1に減額される措置があります。
例えば、東京都の場合、一般的な一戸建て住宅は、50m2~120m2までの居住部分に相当する固定資産税額が、新築から3年度分に限り、2分の1になりますが、3階建て以上の耐火・準耐火建築物については、新築から5年度分が2分の1に減額になるのです。
3階建て以上の耐火・準耐火建築物は主にマンションなどを想定しているようですが、3階建て以上の木造家屋のうち、準耐火建築物に該当するものも、新築から5年度分に限り固定資産税が2分の1に減額になる可能性があるので、自治体に確認しましょう。
「税の優遇措置は、自治体によって対象や対応が変わるので、建築予定の自治体に必ず確認してください」
固定資産税 | ||
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税率 | 1.4% | |
住宅 | 2階建て以下または耐火・準耐火建築物ではない3階建て以上の戸建て | 3年間(長期優良住宅の場合は5年間)固定資産税額(※1)の1/2を減額 |
3階建て以上の耐火・準耐火建築物 | 5年間(長期優良住宅の場合は7年間)固定資産税額(※1)の1/2を減額 |
東京都の例について、詳しくは、東京都主税局のホームページを参照してください
→東京都主税局「固定資産税・都市計画税(土地・家屋)」
3階建て住宅には、これまで見てきたようなメリットがある一方、デメリットもあります。どのようなデメリットがあるのでしょうか。
「30~35坪くらいの2階建てだと、着工から完成まで、約4カ月半~5カ月かかりますが、3階建ての場合は、着工から半年以上かかるのが一般的です。
これは、足場の設置や解体に時間がかかるのと、フロア数が増える、壁量が多くなる、建物の重さを支える1階の間仕切り壁の量が増えるなど、2階建てよりも施工に手間がかかるためです」
「工期が長くなれば、それだけ施工に関わる人件費も高くなります。
そのほか、3階建ては、2階建てに比べて、狭い範囲に重い荷重がかかるため、基礎を深く厚くしたり、鉄筋の量を増やさなければならず、基礎工事のコストが高くなります。
また、階段の多さも建築費用に影響しています。階段は施工に手間がかかり、2階建てよりも階段の多い3階建ての方が、建築費用が高くなります」
「防火、準防火地域に木造3階建てを建てる場合は、外壁を耐火仕様にしなければなりません。
また、第一種低層住居専用地域や第二種低層住居専用地域に3階建てを建てる場合には、日影規制の対象になりますし、北側斜線制限もあります。これらの制限により、建物の形や屋根の形が制限されることがあるのです」
日影規制や北側斜線制限について、詳しくはこちら
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「これまで見てきた通り、狭小地でも床面積を確保できるため、3階建ては狭小地に建てられる傾向があります。このようなケースでは、土地をできるだけコンパクトに抑えつつ、建物面積を広くとりたいので、必然的に隣家との距離は近くなる傾向にあります」
「3階建てでも敷地面積が広ければ問題ありませんが、前述のように隣家との距離が近い場合には1階の日当たりは悪くなります」
「3階建ての外壁を塗り直す際には、高い足場を組まなければならず、手間とコストがかかります。また高い位置に窓を設置すれば、日常的な掃除も大変です。
このような場合、多少初期コストはかかりますが、外壁や窓に光触媒コーティングを施せば、メンテナンスの手間を省くことができます」
「3階建ては階段が多いため、日常的な上り下りが負担に感じることがあるでしょう。
特に洗濯機と物干しが別フロアにある場合は、洗った洗濯物を干すという毎日の家事が、苦痛に感じるかもしれません。
また、最近は大型の冷蔵庫を入れたいという人も多いのですが、きちんと階段の幅や形を設計しておかないと、2階や3階に運べないというケースも考えられます」
「狭小地の3階建ての場合、床面積にも余裕がないことの方が多いでしょう。さらに2階から3階に上る階段のためのスペースも必要です。そのため、居室として使えるスペースをできるだけ確保しようとすると、十分な収納が確保しづらくなります」
「3階建ては、せっかくエアコンで温めたり冷やしたりした空気が、階段を通って抜けてしまい、冷暖房効率が悪くなるケースがあります。そのため、階段の出入り口部分に引戸を設けるなどの対策が必要です」
「3階にエアコンを設置する場合、室外機をどこに置くかという問題があります。3階にバルコニーがあればいいのですが、ない場合は外壁に設置したり、1階から配管を延ばしたりする必要があります。
これらの工事には、別途費用が必要なことが多いため、2階建てよりも設置コストが高くなります」
「3階建てだと、建物の高さが高い分、Wi-Fiの電波が届きづらくなります。家全体にWi-Fiの電波が届くようにWi-Fiルーターの配置場所を計画したり、中継器を設置したりする必要があります」
「3階建ては、狭い範囲に建物全体の荷重がかかるため、地盤の状況によっては、地盤改良が必要になるケースがあります」
「間口が狭く、細長い敷地に3階建てを建てる場合などは、建物の幅と高さのバランスが悪くなりがちです。そのため、外観デザインがやや画一的になりがちな傾向もあります」
3階建てを建てて後悔しないためには、どのような点に注意すればいいのでしょうか。実例を交えて、間取りのポイントなども紹介します。
「3階建ては冷暖房効率が悪いというデメリットがありました。このデメリットの対策として、家全体の断熱性を高めるという方法があります。そのためには断熱性の高い外壁にして、窓もトリプルガラスなど、断熱性の高いものを採用するとよいでしょう。
また、各階の部屋と階段の間に引戸を設けて、仕切れるようにしておいたり、シーリングファンを設置して空気を攪拌したりするのも、冷暖房効率対策には有効です」
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「3階建てのなるべく下の階まで日光を取り入れるためには、設計上の工夫をするといいでしょう。例えば、中庭を設ける、室内に吹き抜けを設ける、天窓や高窓を設けるなどの方法があります」
「ちょっとしたスペースを工夫して、全体で必要な収納スペースを確保するという方法があります。例えば、床下収納を設ける、ロフトや小屋裏収納を設ける、小上がりをつくって小上がり収納を設ける、壁にニッチを設けるなどです。
また階段の踊り場を広くとって本棚を設け、ギャラリーにするなど、空間を多目的に使う工夫も効果的です。
建築コストは上がりますが、地下室や半地下を設けて収納にするという方法もあります」
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3階建ては、生活動線や家事動線が悪くなりがちです。そこで、日常や家事の負担を軽減するような間取りの工夫を紹介します。
「3階建ての場合、建物全体の荷重を支えるため、1階に耐力壁を多く設ける必要があります。そのため、どうしても1階にトイレ、浴室、洗面脱衣室など、スペースを細かく区切れる水まわりを設けるケースが多くなります。一方で、日当たりを考えれば、物干しは2階以上に設けることが多いため、洗濯物を干すために階段の上り下りが必要になってしまいます。その負担を減らすために、あえて3階に水まわりと物干しをまとめるという配置もあります。
また、思い切って洗濯物を外に干さないという方法も考えられます。最近は、強力なガス式衣類乾燥機を設置して、室外干しをしない家庭も増えています」
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「3階建てならば、トイレは2カ所欲しいところです。配置としては、1階と3階がいいでしょう。
洗面は、帰宅してすぐに手を洗えるように1階にひとつ、寝る前に歯磨きがしやすいように、寝室と同じ階にひとつあると便利です」
「LDKは広くとりたいので、2階に配置することが多いのですが、眺望が見込める場合は、3階にリビングを設けて、風景を楽しみながらくつろぐという暮らし方もあります。
LDKで1フロア全部を使うと、居室は別のフロアに配置することになります。2階リビングなら3階、3階リビングなら2階に寝室や子ども部屋を配置します。
また、1階に高齢者のための部屋を設けるという配置もあります。その場合は階段の上り下りが少ないので、日常生活の負担が軽くなります」
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「老後のことを考えた家づくりも重要です。階段の傾斜はできるだけ緩く、幅も広くとって、上り下りの負担を和らげたいところです。階段の幅は1m以上、踏むところの奥行は25cm、1段の高さ(蹴上)は18cmくらいだと、あまり負担がかかりません。なお、建築基準法で、階段には必ず手すりを付けなければいけないことになっています。
また、1階に納戸とウォークインクローゼットを設けて、歳をとったら寝室に変更できるようにしておく、1階から3階にホームエレベーターを後付けできるスペースを確保しておくなど、将来的なプチリフォームを想定したつくりにしておくのも有効です」
「建物の1階部分に駐車スペースを組み込んだインナーガレージにすると、容積率が緩和されるため、土地を有効に活用することができます」
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最後にあらためて佐川さんに、3階建てにして後悔しないためのポイントを聞きました。
「将来的な生活の変化を見越した設計にすれば、住み続けたくなる3階建てになります。
例えば、子どもが独立した後の子ども部屋をどう使うかを考えて、プチリフォームのしやすい間取りや電源の位置にしておくといいでしょう。
3階建てを選ぶ人は、土地の広さや予算で選ぶことが多いと思いますが、まず、住まいのどこに価値を置くのかを明確にしておくことです。その上で、3階建てのメリットに価値を感じたなら、デメリットは設計などの工夫で対応する。そうやって家づくりを楽しんでほしいですね」
3階建てはデメリットもあるが、土地の価格が抑えられるなどメリットも多い
将来的な生活の変化を考えて、プチリフォームしやすいつくりにしておくといい
3階建てのメリットに価値を感じたら、デメリットは設計の工夫で対応する