ひとつ屋根の下、いっしょに暮らす集合住宅。アパートやマンションでは、自分が出す生活音に気をつかいます。また、接している住戸からの騒音や生活音が気になっても、トラブルにつながる可能性もあるためなかなか苦情を言い出せないという悩みもあるでしょう。そこで、賃貸での騒音・防音対策や、音で悩まない物件選びのポイントを紹介。不動産のプロにアドバイスをもらいました。
日常の生活には音がつきもの。家族の笑い声や足音、テレビや音楽を楽しむ音、お風呂やトイレの水を流す音など、寝静まった深夜を除いて、常に家の中には音があふれています。音が響くのが自分の部屋の中だけであれば問題ありませんが、アパートやマンションといった集合住宅では上下や隣の住戸に響いてトラブルの原因になることも。
では、アパートやマンションで、音はほかの住戸にどのように伝わってしまうのでしょうか。
音には「空気伝播音」と「固体伝播音」があります。
空気伝播音は、空気によって伝わっていく音。テレビの音、ギターやピアノなどを演奏する音、話し声などがそうです。床下、天井裏の空間の空気や、窓の隙間などを介して音が伝わります。音の発生した場所からの距離が大きくなるほど、また、ドアやカーテン、壁、床など障害物が多くなると音の大きさは減衰します。
固体伝播音は、床や壁を振動させて伝わる音。子どもが走ったり、ソファやテーブルからジャンプしたり、椅子を引く音などがあります。固体は気体や液体に比べて密度が高く音を伝えやすいため、距離が離れていても空気伝播音ほどは音が小さくなりません。また、壁や床を厚くしても伝わってしまいます。
空気伝播音は壁内に吸音材を施工する、壁を厚くするなどの対策が可能ですが、固体伝播音は壁が薄い場合はもちろん、厚い壁でも伝わってしまうため、防振ゴムを床に施工するなどの対策をとっても、空気伝播音に比べると防ぐことが難しいのが実情です。
木造アパートよりもRC造(鉄筋コンクリート造)のマンションやアパートのほうが隣の部屋からの音が気にならない、というイメージがあるでしょう。たしかに、RC造のほうが壁が厚いケースが多い分、空気伝播音は伝わりにくくなります。しかし、足音や家具を移動する音などの固体伝播音はRC造でも伝わってきます。
「築年数の古い木造アパートに比べると、最近の賃貸住宅の防音性能はある程度よくなってきています。とはいえ、賃貸住宅の建築の際は、建築費と家賃のバランスを考えると、家賃に反映しやすい設備などのグレードを上げることが重視され、遮音性能の優先度は下がるケースが多いといえます。音を気にするのであれば、賃貸に比べて遮音性能にも配慮している傾向が強い分譲マンションの賃貸物件を探すのが近道です」(ハウスメイトマネジメント 伊部尚子さん、以下同)
また、注意したいのは、RC造の建物だからといって、すべての壁がコンクリートでできているとは限らないこと。
「お隣との間の壁がコンクリートではなく、骨組みに石膏ボードを張って、間にグラスウールなどを入れてつくられている場合もあり、期待していたような遮音性能が得られないこともあります」
では次に、音で悩まないためには、どのような対策があるのか、また、物件選びの際の注意点は何かを解説していきましょう。
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騒音と感じるのは、お隣や上下階からの音だけではありません。建物の外から聞こえるさまざまな音に悩まされることも。
下のグラフは各都道府県に寄せられた騒音に関する苦情の発生源の割合。建設作業や工場・事業場からの騒音が苦情の6割以上を占めています。住宅やビル等の建設作業は建物の完成によって音の問題は解消しますが、工場などからの音は事業が継続する限り発生します。
ほかにも、商店街から流れる音楽、電車の通る音、交通量の多い道路からの車の音など、人によって気になる音はさまざま。賃貸物件を探す際には、周辺にはどんな建物があるか、交通量はどうかなど環境のチェックも必要です。
また、「物件見学をしたのが休日で、近所の工場の平日の稼働音に気がつかなかった」ということも。曜日や時間帯によって環境が違う場所もありますから、できれば曜日や時間帯を変えて周辺を歩いてみるのもオススメです。
外の音は換気扇や給気口のほか、窓からも入ってきます。換気扇や給気口をふさぐことは安全上できませんし、賃貸の場合、窓を遮音性の高いものに勝手に変更することはできません。
防音対策としては、遮音性能の高い窓ガラスが採用されている分譲マンションの賃貸物件を探すほか、管理会社に相談のうえ、壁などを傷つけない簡易的な内窓を設置する方法もあります。内窓には断熱性をアップさせる効果がありますから、夏の暑さや冬の寒さへの対策にもなります。
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「最近は賃貸物件での騒音苦情が増えています。コロナ禍の影響により家で仕事をする人、家にいる時間が増えたことで、隣近所からの音が気になるケースが多いのでしょう」
これまでは会社に行っていた昼間の時間帯に、子どもが走り回る足音や騒ぐ声が響くことがあります。また、仕事をしている家族に気をつかって静かに過ごしていると、普段は気にならなかった上下階やお隣の音に気づくことも。
隣近所の音が聞こえるということは、自分が出している音もご近所に聞こえるということです。生活音でお互いに気兼ねせずに暮らせるように、物件選びのポイントと、防音対策を知っておきましょう。
「寝室が隣の住戸のリビングと接していると、隣の生活音が気になるもの。音に対する対策を考えた物件の場合は、遮音のために隣の住戸との間に収納スペースを挟んだり、寝室の隣は共用の階段室になっていたりします。音が気になる場合は、自分の借りたい部屋の間取図だけでなく、物件全体の平面図を確認するといいですね。不動産会社を通して依頼すれば、物件の管理会社から見せてもらうことができます」
また、物件探しの段階で、不動産会社に「近所の生活音が気になる」「自分たちの出す音で気兼ねしたくない」などと伝えておくと希望に近い物件に出合いやすいとか。その物件で、過去に騒音クレームがなかったかを不動産会社に確認しておくのもいいでしょう。
「お子さんがいるなら、一戸建て感覚で暮らせるテラスハウスや、階下への音を気にせずにすむ1階の部屋、お隣と接する部分が少ない角住戸などを探すといいですね」
また、部屋で楽器の演奏をしたいなら、音楽大学周辺に多い防音室のある物件から探すのがオススメ。
「防音室のある楽器可の物件の場合、家賃が相場よりも1~2割程度アップします。でも、24時間いつでも気兼ねなく練習できるメリットは大きいはずです」
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音への配慮が行き届いた賃貸物件に出合えたとしても、気兼ねなく、トラブルなく暮らすためには、生活騒音の発生源に合わせた気配りが大切です。
下のグラフは環境省が発表した「生活騒音の発生源内訳」。騒音トラブルでイメージしやすい「人の声や足音、給排水音」よりも、「電気機器」が10ポイント上回り、全体の約4分の1を占めています。
「最近はオンライン飲み会での大声なども騒音になりがちです。また、騒音としてトラブルのもとになるのは『音』だけではありません。『振動』も固体伝播音として壁や床を伝わり騒音になります。洗濯機や冷蔵庫の振動は、特に深夜に気になるもの。そのほか、早朝や夜など、静かな時間帯に掃除機をかけると振動音として伝わります。古いエアコンの室外機のコンプレッサーやモーターの音、椅子を引く音、扉を閉める音、コロナ禍での運動不足解消に健康器具を使う音も騒音になりがちですから注意が必要です」
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近隣へ迷惑をかけないためにも自分の家から出る生活音にも気を付けておかなければなりません。しかし、賃貸物件の場合、勝手に防音工事をすることはできません。そこで、簡単に防音・騒音対策ができるグッズを紹介します。
窓の隙間から自分の家の音が漏れる可能性があります。隙間テープで隙間をふさぐことで音漏れを防ぐことが可能です。また、近所や道路の騒音が気になる場合も隙間テープである程度防ぐことができます。
なお、賃貸物件の退去時はテープをはがす必要があります。はがす際は跡が残らないように気を付けましょう。もし心配な場合は、物件の管理会社に相談してください。
壁に貼り付けるタイプのスポンジ状の素材です。音を吸い込みますので、外に音が漏れにくくなります。楽器の演奏や歌を歌う際の音漏れ対策にも最適です。壁に貼り付ける際も、跡が残らないよう気を付けましょう。
床に敷くことで足音が階下に響くのを防げます。自分の家にあったサイズを選びましょう。
電化製品などの機械と床・壁の間に敷くと、振動が伝わるのを防げます。洗濯機、エアコンの室外機の振動が気になる場合にオススメです。
では、騒音トラブルを防ぐため、賃貸の場合はどんな対策が効果的か具体的に紹介していきましょう。
洗濯機や冷蔵庫 防振・消音マットなどを敷く。洗濯機は使用時間に配慮する
掃除機 使用時間に配慮する
エアコンの室外機 管理会社に相談し、防振対策をするか、故障しているなら修理や交換を検討してもらう
ドアの開閉 静かに開け閉めする。隙間テープなどの緩衝材で音を抑える
給排水音 シャワーや入浴などの早朝や深夜の利用を控える
家具の移動音 テーブルや椅子を引きずらない。脚にキャップをする
テレビやオーディオ機器 適正な音で使用する。隣の住戸と接する壁際への設置は避ける。深夜・早朝などはヘッドフォンを使用するなど配慮をする
楽器の演奏 カーペットやカーテンで室内の吸音性能を高める。電子楽器はヘッドフォンを使用する。防音室(防音ブース)を設置する
足音 カーペットやマットなどを敷いて音が響くのを抑える。歩き方に注意する
話し声 窓を開けたまま大声で話さない。部屋に人が集まるときは時間帯を考慮した声の大きさで会話する
ペットの鳴き声 習性を学んだうえで飼い、しつけを行う。ペットがストレスをためないよう飼育環境に配慮する
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生活騒音は、法律による規制がありません。また、人によってどれくらいの音なら騒音ととらえるかも違ってきます。ちょっとした物音でも気にしてしまう人もいれば、生活音程度ではまったく気にしない人も。ですから、騒音トラブルの解決はなかなか難しいといえます。
もしも、同じマンションやアパートの住人の出す生活騒音で困る事態になったら、当事者同士で話をしてこじれてしまうよりも、管理会社に相談するのがいいでしょう。
音は空気で伝わる空気伝播音と、固体を通して伝わる固体伝播音がある
開いている窓や、床・壁・天井から音や振動は伝わるため、木造でもRC造でも騒音は発生する可能性がある
物件探しの際、外からの音は環境をチェック。建物内での音は建物全体の平面図で部屋の配置を確認
家電のほか、健康器具やオンライン飲み会での騒音も。暮らし方に配慮することが大切