女性が一人暮らしをするときはどのようなことに気をつけるべきなのでしょうか。賃貸マンション・アパートは、オートロック付きはやっぱり必要?でも、オートロックがついていれば安心なの?そのほかに注意する点は?犯罪が増えている今、自分も親も安心できる賃貸物件選びのポイント、被害に遭わないための防犯対策など、気になることを防犯ジャーナリストの梅本正行さんに教えてもらいました。
初めて一人暮らしをする方は、オートロックとはどんなものか知らない方も多いかもしれません。オートロックとは、インターホンと連動する電気錠を備え、玄関ドアの施錠や解錠を自動で行うシステムです。
オートロック付きマンション・アパートのエントランスにある共用玄関ドアは、普段はロックされています。入居者・来訪者が出入りするときの流れは以下の通りです。
つまり、オートロックは、住人や住人が許可した人だけが建物内に入ることができて、不審者や勧誘員など知らない人が建物に入るのを防ぎ、防犯性を高めるシステムです。
東京都安全安心まちづくり条例にもとづいた「住宅における犯罪の防止に関する指針」においても、「共用玄関に各住戸と通話可能なインターホン及びオートロックシステムが導入されていること」が「犯罪の防止に配慮した住宅の構造及び設備等に関する基準(共同住宅)」のひとつとして挙げられています。
オートロックシステムの鍵・オートロックの種類は大きく分けて4つあります。
賃貸マンション・アパートでは、オートロックシステムはどの程度普及し、どんな種類が採用されているのでしょうか。防犯ジャーナリストの梅本正行さんに聞くと「オートロックシステムはマンションではだいぶ普及していますが、アパートでは2割~2.5割以下です。圧倒的に多いのは歴史の長い集合キー式、暗証番号式ですがセキュリティ面で弱点があり、その弱点を補う非接触カード式、生体認証を使ったものが出てきています。
集合キー式、暗証番号式より防犯性が高い最先端の顔認証、カードキー式がオススメですが、地方ではオートロックがついていないところが多いですし、ひと縛りでは語れません」と話しています。
梅本さんによると、「オートロックがついていない物件は、堂々と正面から入れるので、オートロック付きより犯罪被害件数は多いです」、とのこと。しかし、オートロック付きでも入居者以外がエントランスから建物に入る3つの方法があるそう。
「住民がエントランスドアを開けてから閉まるまで、10秒ほどの時間があります。そのわずかな隙を狙って住人の後についてきて入る『共連れ(ともづれ)』、風除室で電話をしているふりなどを装って待ち伏せして、住人が建物から出るときにすれ違いで入る『入れ違え』があります。そして、犯罪のプロは、身近なものを使ってドアの内側のセンサーを作動させてオートロックを開けることもできてしまいます」
オートロックは犯罪抑制にひと役買っていると言えますが、盲点もあります。「オートロックがついているから安心」と過信しないで、建物に出入りするときは周りを見て開錠しましょう。
あなたは、ゴミ捨てや近所に買い物に出るとき、「すぐに戻るから大丈夫」と部屋の鍵を締めずに出かけていませんか。「面倒だから鍵を掛けないタイプか、誰も入ってこないと油断しているタイプか、どちらかです。部屋から一歩でも出るときは施錠する習慣を身に着けましょう。
実は、出かけるときに部屋の鍵を掛けない人は3割近くもいると言われています。オートロックがついている物件はとりあえずオススメですが、オートロックは防犯のひとつのツールにすぎないので、過信は禁物です。オートロックの有無より、自分の防犯意識が最も大事です」。以下は、梅本さんに教えてもらった、オートロック以外の防犯性が高くなる条件です。
エントランスのインターホンにカメラがついていること。かつ、住戸の玄関ドアの横にもカメラ付きのインターホンが設置されている場合は防犯性が高いです
1つの玄関ドアに鍵が2つついているワンドア・ツーロックタイプは、ピッキングやロックを不正解錠するのに時間がかかるため、比較的安全性が高いです。同じ種類の鍵が2つではなく、鍵穴がついた鍵と自動的にロックされる電子錠がついている部屋がオススメです。
鍵がツーロックタイプでない場合は、不動産屋さんか大家さん、管理会社に相談を。許可が下りれば、自分でつけることができます。ドアが閉まったら自動的に施錠される種類の鍵もありますので、カギ屋さんに相談しましょう。
女性の一人暮らしはネット通販で買い物をする機会が多く、来訪者に慣れて警戒心が薄れています。最近は、警察や宅配業者を装った犯罪が増えているため、住戸の玄関ドアにドアガードがついている物件を選び、外出から帰ったら鍵をかけるついでに、ドアガードもセットすることを習慣にします。
人が来てもドアガードをしたまま対応して、宅配荷物の伝票や警察手帳を見せてもらうなどして「間違いない」と思ったら初めてドアガードを外して鍵を開けるようにしましょう。
「性善説ではなく性悪説で、まずは疑うことが必要。犯罪被害に遭わないためには、ひと手間ふた手間を惜しまないで」と梅本さん。毎回施錠し、ドアガードをセットする、ツーロックドアにするなどは、オートロックの有無にかかわらず犯罪防止に有効です。
鍵やドアガードだけでなく、ドアスコープにも対策が必要です。
近年、一人暮らしの部屋がドアスコープから盗撮される事件が増えています。ドアスコープの内側に100均などで購入できる蓋や布を取り付けておくようにしましょう。
マンションのオートロック・防犯対策をより詳しく
オートロックとは?マンションでも過信はNG! 安全面で知っておきたいメリット・デメリット
犯罪はオートロック外から多く起きていると梅本さんは指摘。犯罪者は正面ではなく、建物の裏や駐輪場、駐車場など、人目につかないところから入ってきます。どこから侵入してくることが多いのか、梅本さんに教えてもらいました。
塀や柵がない、高さが低い、裏門や非常口から簡単に建物内に入れる場合は、安全とは言えません。また津波避難対策などで、非常用の外階段から建物内に入る扉に鍵がかかっていないマンションもあります。
下の警視庁のデータをみても、侵入犯罪者のうち窓からの侵入が42.4%と多いことがわかります。女性の一人住まいで気をつける場所は玄関は当然ですが、窓やベランダも重要なのです。
共同住宅 (3階建て以下) |
共同住宅 (4階建て以上) |
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1位 | 表出入口 47.3% |
表出入口 60.7% |
2位 | 窓 40.7% |
窓 24.5% |
防犯対策としてのベランダの目隠しをチェックしたい方はこちら
ベランダに目隠しを設置すべき? 目隠しで得られる効果やアイデアを解説!マンション・戸建て、賃貸物件もOK
共同住宅は、中高層住宅(4階建て以上)よりも低層住宅(3階建て以下)の方が侵入件数が圧倒的に多く、特に低層住宅で窓ガラスが狙われることが多いです。
侵入手段で最も多いのが、無締り(無施錠)です。無施錠の次に、ドア錠などを工具で開錠して侵入する「不正解錠」やガラスを割ったり破ったりして侵入する「ガラス破り」も多く発生しています。その他、合かぎ以外にピッキング、サムターン回しなどの施錠開け、ドア錠破り、戸外しなどもあります。
共同住宅 (3階建て以下) |
共同住宅 (4階建て以上) |
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1位 | 無締り 51.5% |
無締り 40.6% |
2位 | ガラス破り 18% |
合かぎ 23.5% |
3位 | 合かぎ 11.8% |
ガラス破り 11.3% |
侵入犯罪で多い窓の「ガラス破り」対策はどのように行えばいいのでしょうか。「網入りガラスは安全と思っている人が多くいますが、網入りガラスは火災のときにガラスが割れて飛び散るのを防止するためのもので防犯上は意味がありません」(梅本さん)
強化ガラスは耐風圧に対する強度を目的としたもので、防犯性は高くありません。網入りガラス、強化ガラスともに防犯性は普通の板ガラスと同様です。防犯性が高いのは、防犯ガラスか専門の施工業者が貼った防犯フィルム(いずれも「防犯建物部品目録」に掲載されているもの)です。真夏も窓を開けて寝ることは禁物です。外出時、就寝時はすべての窓に鍵をかけ、窓に鍵付き補助鍵をつけたり、防犯フィルムを貼りましょう。
犯罪抑止効果がある防犯カメラはどこについているといいでしょうか。「エントランス入口、集合ポスト、エントランスホール、エレベーター前、エレベーターの中、非常階段。またエレベーターのかごの映像が1階のエレベーターホールのモニターに映ると安全性が増します。また駐車場と駐輪場にもカメラがあり、明るいかどうかも大事です」と、梅本さん。
同じマンションの同じフロアに住む人は、家族構成や生活スタイルを把握しやすく、過去には同じフロアの人に襲われた事件もありました。理想ですが、各階の通路に防犯カメラがあると、かなり防犯性が高いです。
少しでも犯罪被害に遭う確率を下げるためには、犯罪者に狙われにくい物件を選ぶことが大切です。物件内見時にチェックしたいポイントを見ていきましょう。
空き巣は雨どいを登ってベランダに侵入することが多いそう。建物の外を見て、2、3階に簡単に登れるような雨どいはないか、雨どいに指の跡や足でこすったような跡がないかを確認します。
エントランス近くの集合ポストにはダイヤル式の鍵がついていますが、大きな事件が起きている物件では3割以上が鍵をかけていなかったそうです。「ダイヤルを回さずにそのまま引っ張って開く場合は鍵がかかっていません。20戸の物件で6戸以上鍵が開いていたら住人の防犯意識が低い証拠なので、住むのはやめた方がいいです」(梅本さん)
賃貸物件の内見時には、ベランダに立って外に何が見えるかを確認します。両手を160度くらい広げたとき、視界の中に公園や駐車場があるかどうかをチェックします。公園が目の前にある部屋、駐車場が近い部屋、見晴らしがいい部屋は一見魅力的ですが、部屋から見える場所からは、部屋を見られる可能性も高いのです。「実は公園から部屋の様子を下見して狙いをつけるケースが多い。また駐車場に車を停めて様子をうかがう手口があり、駐車場から見える家は犯罪被害率が高いです」(梅本さん)。公園、駐車場と同様、コンビニから情報をとり狙う犯罪者も多いので要注意です。
空き巣と並んで、一人暮らしの女性が狙われやすいのが暴行、下着泥棒、盗撮などの性犯罪です。女性が1人で住んでいることがばれない生活を心がけ犯罪を抑制しましょう。
夕方以降、部屋が真っ暗になり不在だとわかる状況は危険です。道路から見える部屋は室内灯を点けっぱなしにして出かけましょう。LED電球にすると電気代が節約できます。また、タイマー付きのリモコン照明や照明スイッチを採り入れ、夕方に照明が点くようセット。レースのカーテンはしっかり閉めて、厚手のカーテンは10cm~15cm位開けて、室内の光が外に漏れるようにします。
レースのカーテンだけで生活をするのはNG。ミラーカーテンは、外の光を入れつつ外から中の様子が見えないので防犯対策に有効です。
下着類は必ず、洗濯物もできるだけ室内干しに。ベランダに干すときは、男性用も一緒に干します。また、玄関に男物の靴を置いたり、集合ポストに男性の名前を書くなど、男性も住んでいるように見せかけます。
何気なく捨てているゴミには、名刺、領収書、薬、診察券など、個人情報がたくさん含まれ、実は情報の宝庫。ゴミを捨てるときはシュレッダーにかけ、個人情報がわからないようにします。また、ゴミの中身を見られないよう、前日の夜ではなく、収集日の朝に捨てましょう。
同じマンション・アパートの住人に会ったら挨拶をして顔見知りになっておくと何かのときに情報交換や協力がしやすく、住民と住民でない人の判断もしやすくなり、防犯効果につながります。隣近所やよく行くお店の人ともコミュニケーションをとっておくと、困ったときに相談しやすいでしょう。
マンションが乱立するような場所は、隣の人の顔も知らない人が多く、防犯上はオススメではありません。昔から住んでいる方が多い下町は人の目が多く、犯罪者が徘徊しにくい環境です。各警察署が発表している犯罪統計を見ると犯罪発生率が高い場所がわかるので、参考にしましょう。
女性が賃貸マンション・アパートで一人暮らしを始めるとき、オートロック付きを選ぶのは第一関門としてオススメです。けれども、オートロック付きエントランス以外からの侵入経路はさまざまで、オートロックや防犯カメラ付きだからと安心しすぎることはかえって危険です。
オートロックの有無よりも大事なのは、玄関と窓の施錠の徹底、防犯意識です。侵入犯罪者に狙われやすいポイントをおさえて安全な物件を選びましょう。そして、女性の一人暮らしだとわからない防犯生活を当たり前の日常にして安全・快適な暮らしを送りましょう。
オートロックは犯罪抑制には役立つが、過信は危険
玄関の施錠を徹底。ツーロックドア、ドアガード付きで防犯性がアップ
エントランスより窓からの侵入犯罪に注意しすべての窓を施錠する
防犯意識を高く持ち、性悪説を原点に心にも鍵をかける