最近では住まい選択肢の一つとして広く認知されているシェアハウス。
テレビなどでシェアハウスの暮らしを見て、住んでみたいと思っている人も少なくないのではないでしょうか。
今回はシェアハウスの魅力や実際の住み心地、探す際の注意点などについて、シェアハウスの総合メディア「オシャレオモシロフドウサンメディア ひつじ不動産」を運営する株式会社ひつじインキュベーション・スクエアの北川大祐さんにお話を伺いました。
シェアハウスもゲストハウスもルームシェアも、1つの建物にそれぞれの個室があり、LDKなどは皆でシェアするというイメージですが、それぞれどんな特徴があるのでしょうか。
「一般的な認識としては、ゲストハウスが短期貸しの宿泊施設であるのに対し、シェアハウスは長期間生活をする賃貸住宅のことを指します。しかし、東京では、現在シェアハウスとして認知されているような住まいのことを、ゲストハウスと呼んでいた時代が長くありました。また、世界各都市では“SharedHousing”という呼び方で短期滞在に対応する運用も見られます。このような背景から、今でもシェアハウス、ゲストハウスという言葉は曖昧な線引きで使われることがよくあります」(北川さん、以下同)。
シェアハウスやゲストハウスなどの呼称については、法律などで明確に定義されているものではないため、住まいだからシェアハウス、宿泊施設だからゲストハウスとは言い切れません。また、宿泊施設として運営しているゲストハウスの中には、中長期滞在が可能で、住まいのように活用できるものもあります。
また、実際に暮らす個人がルームメイトを集め、家賃などを折半して暮らすことを指すルームシェアですが、シェアハウスの中にも、ルームシェアのような形で運営されているものもあるそうです。
「事業者が賃貸住宅として管理運営を行っているものが現在のシェアハウスに多い形態ですが、中には、住人個人が主体となって運営を行う物件もあります」
運営主体が住人個人か事業者かなどの違いはありますが、一般的には、建物内に共用スペースがあり、居住者がそこで接点をもてるような住宅のことをシェアハウスと呼ぶようです。
北川さんによると、シェアハウスの利用者の7~8割を占めるのは女性で、20代後半から30代が多いそうです。最近では人気テレビ番組などの影響もあり、20代前半の男性の割合も若干増えてきたそうですが、まだシェアハウスを利用するような年齢ではない10代などの若い世代も、シェアハウスに対してポジティブなイメージをもつ人が増えてきているといいます。
「最近では事業者が運営に介在し、設計から管理まで、複数人がシェアしても住み心地がよくなるように考えてつくられたシェアハウスが増えており、シェアハウスに住んだことがない人でも、シェアハウスを選択肢として抵抗なく選べる環境が整ってきていると思います」
それでは、一般的なワンルームの賃貸物件にはない、シェアハウスならではの魅力とは何なのでしょうか。
「キッチンをはじめとした共用部が充実した大型物件などが増えてきており、シェアハウスの中には都心のワンルームマンションのキッチンなどとは比較にならないグレードのキッチンを備えているものが増加しています。料理が好きな人などの場合、シェアハウスに住む決め手になることも少なくありません」
シェアハウスの規模はさまざまで、100人以上が住む大規模なものもあれば、一戸建て住宅のような規模の小さな物件もありますが、規模が小さなシェアハウスでも、特にキッチンについては、一般家庭のものよりも魅力的なものを備えていることが多いそうです。
「20~30m2程度の部屋に、浴室、洗面、トイレ、キッチンなどの設備を備えた都心の単身者向け住宅などの場合、ゆったりとくつろげる空間というものはなかなか確保できないものです。一方、シェアハウスの場合は、各個室はそれほど広くなくても、共用部として設けられたリビングダイニングなどは最低でも20~40m2、大きな物件になると100m2以上というものも少なくありません」
住まいの広さを求めると、どうしてもその分家賃は高額になってしまいます。その点、シェアハウスは自分だけの空間が広いという訳ではありませんが、ワンルームアパートと同程度の賃料でも、自宅にゆったりと手足を伸ばせるような広さのスペースがあります。食事をする場所と寝る場所や着替える場所などを区別できるというのも、大きなメリットと言えそうです。
「シェアハウスに住んだことのない人は、他人とトイレやお風呂などを共有するということに、ネガティブなイメージをもつかもしれませんが、シェアハウスを好んで選ぶ人の中には、トイレやお風呂が共有であることをメリットとして挙げる人が少なくありません。
事業者が運営しているシェアハウスの場合、通常共用部などには定期的に清掃が入るケースが多いため、そうした物件を選べば、住人は共用部の掃除をする必要がありません。面倒なトイレ掃除やお風呂掃除から解放されるのはもちろん、トイレットペーパーのストックを気にする必要などもありません」
忙しい人にとっては、自分専用の設備があることよりも、自分で掃除をする必要がないというメリットの方が大きいと感じるかもしれません。
また、シェアハウスには興味があるけれど、トイレやお風呂は自分の個室で使用したいという場合は、共用スペースを設けつつも、個室にはそれらの設備が備えられているという、ワンルームタイプと呼ばれるシェアハウスもあるそうです。
「一人で暮らしていると、人間関係が仕事を通じたものに限られてしまったり、帰宅後や週末は誰とも話さなかったりということがあると思いますが、シェアハウスに住むと、半自動的に人とのかかわりが生まれます。ちょっと週末に人とお茶を飲んだり、仕事などの利害関係のない人と過ごす時間があったりするだけで、オフの時間が少しだけ充実するという感覚をもてるかもしれません」
物件によって住人同士の交流の度合いもさまざまで、シェアハウスを選ぶ人の中には、むしろ人とかかわることが苦手という人も多いそうですが、きちんと住みやすく維持管理されているシェアハウスでは、自然と住人同士が居心地よくかかわれるような環境づくりがされているそうです。
「シェアハウスの場合、契約時に賃料の1カ月程度の敷金を預けるというケースが一般的で、礼金などはほとんど発生することはありません。ほかに初期費用としてかかるのは、引越し代程度です。また、はじめて一人暮らしをするという場合でも、共用部に必要な家電などはそろっているので、家具家電の購入費用などもそれほど必要ありません」
電気、ガス、水道、インターネットなどについては、物件で契約しているものを使用することになるため、面倒な契約手続きなども不要というのもうれしいポイントです。
良いシェアハウスにはさまざまな魅力がある一方、知らない者同士が上手く暮らしていけるように設計や管理が行われていないシェアハウスを選んでしまうと、非常に暮らしにくいものだそうです。また、暮らしやすさの基準というものは、人によって異なるため、シェアハウスを探す際は、良好な物件であることに加え、自分と相性の合う物件かどうかというのが非常に大事だと北川さんは言います。
「シェアハウスは設備などを共用するため、ハード(設備)、スキーム(枠組み)、オペレーション(管理運営)の3つが全部そろっていないと、トイレやお風呂などを使いたいときに使えないなど、生活する上で不便な住宅になってしまいます。ハード面、ソフト面共に暮らしやすい仕組みが整い、適切に維持管理されている物件でなければ、良い物件とは言えません。
また、例えば、共用スペースの使い方のルールなどについても、細かくきちんと決められている方が好きな人もいれば、ある程度住人にまかせてくれる方が好きという人もいます。住人同士のかかわり方についても、家族のような距離感が好きな人もいれば、ある程度距離感が欲しいという人もいます。
つまり、すべての人にとって住みやすいシェアハウスというものは存在しないため、設計や管理が良好な物件を選ぶのはもちろんですが、そこに住む住人と概ね同じような基準を心地よく感じて生活できるかどうかを見極めて選択することが重要です」
良い物件かどうか、相性がいいかどうかを知るには、まずはたくさんの物件を見ることが必要です。
「シェアハウスの場合、運営する事業者によって物件の特徴が大きく異なります。立地や部屋の広さ、設備などだけにとらわれず、幅広く物件の情報を集めた上で、異なる事業者の物件を比較してみるのがオススメです。各事業者の特徴がわかり、自分に合うか合わないか、判断をしやすくなります。
さらに、実際に物件に足を運んで確認するということも重要です。シェアハウスというのはそこに住む人はもちろん、管理する人によって住み心地は左右されます。
シェアハウスの場合、多くの物件では実際に管理している人が案内してくれるものなので、見学に行く際には、ぜひいろいろなことを尋ねてみるといいでしょう。もし、管理の状況を把握していないような人や、不動産仲介会社の営業担当などが案内をするような物件であった場合は、その時点で適切なシェアハウスの管理運営がなされていないと判断してもいいと思います」
例えば、共用部の利用マナーが悪い住人がいるなど、入居者間のトラブルは起こりうるものですが、運営事業者次第で、トラブルなどに遭遇する確率も、トラブルに遭遇したときの対応も大きく異なります。運営事業者や管理担当者がシェアハウスの状態をきちんと把握し、入居後も誠実に対応してくれそうな姿勢をもっているかどうかは、実際に会話をしてみないと、なかなか見極めるのは難しいものです。
シェアハウスというと、賃料が安いというイメージをもつ人も少なくないと思いますが、住居の設備を人と共有するからと言って、すべてのシェアハウスが格安というわけではありません。
「賃料が低い物件もあれば、高い物件も存在します。また、共益費に関しては光熱費や通信料などのランニングコストのほか、共用部の清掃代なども含まれているため、一般的な賃貸物件よりもむしろ高く設定されていることが多いものです。
住まいの質は落とさず、コストメリットを感じられるような物件を探したいのであれば、シェアハウスの家賃は、自分がワンルームマンションに住む場合の家賃と同程度から5000円低い程度の金額を目安に選ぶといいと思います」
シェアハウスなどの場合、ランニングコストは定額で共益費に含まれていることが多く、使い過ぎた月だけ共益費が高くなるというようなことはありませんが、あまりにも全体の使用量が多くなるような場合は、値上げを行うケースなどもあるようです。
自分に合った良いシェアハウスに出合うためには、手間を惜しまず、条件を狭め過ぎず、広く深く探す必要がありそうですが、その分、シェアハウスでは普通のワンルームタイプの賃貸アパートとは一味違う生活を送れるかもしれません。
シェアハウスは住宅を複数人でシェアして暮らす賃貸住宅
ワンルームの賃貸アパートと比較すると、空間の広さや設備、初期費用の安さなどのメリットがある
自分に合った良いシェアハウスと出合うためには、複数の物件を知り、実際に足を運ぶことが大事