賃貸契約の際に必ず加入を求められる火災保険。当たり前のように加入の申し込みをしている人も多いはず。しかし、賃貸の火災保険の内容について理解できているだろうか?賃貸の火災保険とはどのようなものなのか、火災保険と家財保険はどう違うのか、本当に必要なものか、保険料や補償額の相場は適正なのか。言われるがままに契約してしまうと思わぬ出費になることも。
一般的に火災保険とは、住まいが「火災」「落雷」「破裂・爆発」、台風や大雨などの「自然災害」「盗難」などにあった損害を補償する保険だ。賃貸向けの場合、住まい=賃貸借契約を結んでいる部屋の損害を補償する保険となり、持ち家の場合と少し異なる。主な補償内容は大きく3つに分けられ、「部屋の家財(入居者の所有物)」「物件の持ち主(大家さん)」「近隣住民」への賠償補償となる。
2024年の制度改正で話題となっているのが、火災保険の保険料。損害保険料率算出機構(損害保険会社が加盟)によると、2024年10月より火災保険の参考純率を全国平均で13%上げると発表され、それに伴い各社の保険料も引き上げられる。実際には、築年数、地域、建物の構造などによっても保険料は変わるため一律ではなく、地域によっては保険料が値下げとなったり、あるいは20%以上の値上げとなったり、さまざまだ。
そして、大きく変わるのが、水災補償。今まで全国一律だった水災料率を、リスクの度合いに応じて1〜5等地と細分化。水害被害が多い地域は保険料が高く、その最大が5等地。被害が少ない地域は保険料も安く、5等地の保険料は1等地に比べて約1.2倍となる。
火災保険は必須なのか? といえば冒頭で述べたとおり、必須といえるだろう。火災保険に入らないで万一火災などの大きな事故を自分が起こしてしまった場合、建物自体は大家さんの火災保険でカバーできるとしても、自分の家財や修復費用、隣家への補償などは、大家さんの火災保険には頼れないのだ。賃貸契約の際に火災保険に加入するのは必要なことだ。
火災保険の保険期間は、最長5年。以前は保険期間の最長は10年だったが、地震や台風、大雨など、大きな自然災害が増えている理由から、2021年に最長5年へと引き下げられた経緯がある。
賃貸と持ち家とでは、保険期間の考え方に相違がある。賃貸の場合、物件の賃貸契約期間に合わせて、火災保険の契約期間を設定する場合が多く、2年更新が多い賃貸の契約期間に合わせて、火災保険も2年契約が一般的となっている。持ち家は、長く住むことを前提にしているため、コストパフォーマンスのいい長期契約(最長5年)が多い。
2年契約の場合、更新手続きの手間が少なくなり、一括払いにすることで、1年契約より保険料が割安になるメリットがある。契約内容をたびたび見直したい、急な転勤で契約期間中に引越しをする可能性が高い方は、単年(1年)契約がオススメだ。
賃貸であっても火災保険には加入したほうがよいと前述したが、その理由を詳しく見ていこう。
もらい火の場合、建物の損害については大家さんの火災保険で補償される。しかし、家財の損害までは補償してもらえない。家電や家具などの家財の損害を補償したい方は火災保険に加入しておこう。
火災や水漏れで部屋に損害を与えた場合、部屋を入居時と同じ状態にする「原状回復義務」がある。経年劣化部分に関しては原状回復義務がないが、不注意で損害を与えた部分などは契約者が自己負担で修復してから退去しなければならない。
万が一、自己負担で修復できない場合、大家さんに損害賠償金を支払う必要があるが、それを準備できないときでも火災保険で準備することができる。
水漏れなどで同じ建物に住む住人に損害を与えた場合、損害分を補償する必要がある。自分で支払うとなると、大きな負担となる可能性があるため、火災保険で備えておくとよいだろう。
上記を踏まえて、賃貸で必要な火災保険につけておきたい補償を解説する。補償は大きく分けて、「家財保険」「借家人賠償責任保険」「個人賠償責任保険」の3つに分けられる。
名称 | 対象者 | 補償内容 |
---|---|---|
家財保険 | 賃借人 | 家財道具一式 |
借家人賠償責任保険 | 大家さん | 損害にあった部屋の原状復帰 |
個人賠償責任保険 | 近隣住民 | 隣家への火災損害、水漏れなど日常生活のトラブル |
「家財保険」は、文字どおり、自身の所有する家電、家具などの損害を補償するもので、これが賃貸の場合の火災保険の基本となる。保険金額の目安は、家財道具の合計額。金額の大きな家電や家具を中心に、いくらになるか計算してみよう。年齢によっても異なるが、一般的に、単身世帯は100〜500万円、2人暮らしで500〜1500万円、3人家族で600〜1600万円といわれている。
補償される損害原因は、火災、落雷、爆発、水害、水漏れなどが主な対象で、家財や現預金の盗難も対象となるのが一般的。このほかに、被害に遭った場合に、使えなくなった家財を片付ける費用が実費で支払われるなど、補償内容は多岐にわたっている。この保険は「自分の財産のために入るもの」と考えればいいだろう。
「借家人賠償責任保険(特約)」は、逆に、大家さんのために入ると考えればいい。火災や爆発、漏水などによって借りている部屋に損害を与えてしまったときに、原状回復するための費用を補償するというもの。一般的には家財保険の特約という形で契約することになる。補償対象は、あくまでも自身が借りている部屋に損害を与えた場合に限られるので、例えば自分が火事を起こして、隣の建物に損害を与えた場合は、この保険(特約)では補償されない。
借家人賠償責任保険の限度額が1000万円。補償内容ほか、住宅の床面積、建物の構造など、さまざまな条件によって保険料が異なり、保険料の相場は年間3500円程度~1万円前後といわれている。
実際の賃貸借契約の場面では、不動産会社が保険の代理店を兼ねていることも多く、「家財保険」と「借家人賠償責任保険」がセットになった火災保険が提示されるのが一般的。内容や保険料に納得がいかなければ、もっと割安な保険はないか、安心のためにもっと手厚い保険はないかなど、不動産会社に別のプランを要望してみるのもいいだろう。
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与えてしまう場合などに備える補償が、「個人賠償責任保険(特約)」。この保険は、日常生活のトラブル(身近な事故)を補償してくれるもの。ケガをさせてしまった相手への治療費や慰謝料、破損物の修理費用や物を壊してしまったときに発生する損害賠償などが対象となる。
「個人賠償責任保険」は「近隣住民」への補償として、とても重要なもの。その内容も多岐にわたっており、例えば水漏れで階下の部屋に損害を与えた場合や飼い犬が他人に飛びついてケガをさせてしまった場合にも補償金の支払い対象となる。
また、「個人賠償責任保険(特約)」は、自動車保険や損害保険の特約として加入することが多いので、すでに加入している保険があればチェックして、補償が重複しないように気をつけたい。
「火災保険」にはさまざまな特約があり、オプションとして組み合わせることで、「火災保険」をカスタマイズすることができる。
原状復帰までの仮住まいの宿泊費などが補償される「臨時費用保険金補償特約」や自分が火元になった場合に隣家の損害を補償する「類焼損害補償特約」、一定の見舞金が支払われる「失火見舞金費用補償特約」など。保険料は上がるものの、本当に必要な補償なら、検討してみてもいいだろう。
不動産会社から提示されるプランについては、よく検討してほしい。本来、所有している家財などは、人それぞれで補償金額も異なるはずだが、大抵の場合は、すべてがセットされた特定のプランしか提示されないことが多い。
「家財保険」は年齢によっても異なるが、前述したように、単身世帯は100〜500万円、2人暮らしで500〜1500万円、3人家族で600〜1600万円といわれている。ただ、1人暮らしでそれほど家財もないのに、家財補償が本当に500万円必要なのかは考えるべきだ。家電や家具などをもう一度買い直すとして、500万円もの費用が必要かどうか考えればよい。よほど高価な美術品やジュエリーなどを所有していない限り(これらを所有している場合は、契約時に申告が必要)、家財保障額は200万円、300万円で十分だろう。
また、逆に「借家人賠償責任保険」「個人賠償責任保険」が1000万円程度というケースも少なくない。しかし、万が一のときは、死亡事故に発展する可能性も考えると補償額は1億円といったプランが安心といえるかもしれない。
また、火災保険料は、建物の構造や地域、補償内容によって大きく変わってくる。その3つを下記で紹介していこう。
建物の構造によって、燃えやすさの危険度(リスク)が異なるため、構造の種類に応じて火災保険料が設定されている。コンクリート造の共同住宅などのM構造、コンクリート造の戸建住宅や2×4住宅などのT構造、木造の共同住宅・戸建て住宅などのH構造と3種類に分かれ、頑強なM構造ほど保険料が安くなっている。よって、保険料はマンションより戸建てが高くなる傾向にある。
なぜ、住むエリアによって火災保険料が設定されているのか。それは、エリアによっては災害の危険度(リスク)が違うから。九州は台風や豪雨など、過去に大きな災害が発生しているため、全国的に見て火災保険料が高い傾向にある。だが、それは持ち家の場合。賃貸では、そんなに差異はない。
補償内容によって保険料が異なるのは、どの保険でも同じ。火災保険の場合、火災以外にも、台風などの「風災」、洪水・土砂崩れといった「水災」、大雪などの「雪災」、「盗難」、漏水による「水漏れ」など、保険のプランに応じて補償範囲はさまざま。 また、近隣住民に与えた損害をカバーする「個人賠償責任保険(特約)や、地震に備えた「地震保険」などの補償を加えることもできる。
リスクに備える補償や特約を増やせば補償は手厚くなるが、保険料も高くなる。また、火災・落雷などの火災に関する補償のみにすれば保険料は低く抑えることができる。住まいの環境に合わせて、どんな補償が必要か見極め、組み合わせを考えよう。
賃貸契約を締結する際には、紹介された保険会社のプランをそのまま契約してしまうことが多いのではないか。賃貸契約で保険会社や契約内容が指定されている場合を除けば、自分で必要な補償を選んで契約したほうが保険料を安く抑えることができる。次のポイントを参考に、保険の契約内容をチェックしてみよう。
保険会社が提示する火災保険の家財の補償は、家族構成や世帯主の年齢などに応じて、「家族が2名・世帯主の年齢が40歳で1130万円」などのように、保険会社が目安を示している。契約ではこの目安をもとに保険金額が設定されるが、提示されたほど多くの補償を必要としていない場合には、補償金額を抑えて契約することで、その分の保険料を抑えることができる。
賃貸契約の際に加入する火災保険は、自分の持ち物の損害を補償する「家財保険」と、大家さんに対する賠償責任を補償する「借家人賠償責任保険」、偶発的な日常の生活トラブルで生じた賠償責任を補償する特約「個人賠償責任保険」がセットになっていることが多い。
個人賠償責任保険は、自動車保険や医療保険など他の保険でも特約として加入できるため、すでに紹介しているように、重複して加入することがないようにしたい。また、そのほかにも「弁護士費用を補償する特約」など、さまざまな特約がセットされている場合には、補償内容や必要性を考慮して、不要な特約は外すといいだろう。
賃貸住宅用の火災保険(家財)に加入する場合でも、「給排水管の破損による家具の損害は対象外」「空き巣による家財の盗難被害は対象外」などのように、契約内容によってさまざまなプランがある。保険料は契約がシンプルなほど安くなる傾向があるため、必要な補償に絞り込んだプランを選べば、その分の保険料を抑えることができる。
火災保険の保険料は、契約期間が長いほど安くなる傾向がある。そのため、保険料を抑えるためには、「1年更新ではなく、賃貸契約の期間に合わせて2年契約にする」など、長期契約にするといい。前述したとおり、保険料の総額は、月払いより年払い、年払いより一括払いのほうが安くなるため、支払い方法も考えるといいだろう。
実際の契約場面では、引越しに伴う手続きで時間も限られていて、なかなか保険の内容までチェックすることはできないかもしれない。2年契約で1万円、2万円なら、いいやという気持ちになるのが実情だろう。しかし、割安な保険がたくさんあるのも事実。もしも時間がなければ、ほかのプランを参考にして、不動産会社に別のプランを要望することがあってもいいだろう。いくつか補償プランを例示したので、チェックしてみてほしい。
20代1人暮らし。東京都。賃貸マンション(鉄筋コンクリート造)の場合。
延床面積条件がある場合は25m2とした。
保険料は家財補償をいくらに設定するかが基本で、さまざまな特約がある。特約をつけるかつけないかでも保険料が変わる。不動産会社や管理会社経由でも加入できるが、インターネットなどで簡単に見積もりをシミュレーションし自分で加入することもできる。保険料がプランや加入方法で異なるため、提示されたプランと比較しながら決めるといいだろう。
不動産会社の多くは損害保険会社の代理店になっているため、特定の損害保険しか提示できないが、自分で探して保険契約をするわずらわしさからは、解放されるだろう。要は、うまく使うということだ。
いつどこで起きても不思議ではない地震。持ち家購入の場合は、地震保険への加入が進んでいる。では、賃貸物件の場合は加入すべきだろうか。
賃貸物件の建物自体は、貸主が地震保険への加入を決める。賃借人が加入するのであれば、家財保険同様、自身の家財のために加入する、ということになる。ただし、地震保険は単独で加入することができず、火災保険(家財保険)とセットで加入するしかない。その際、補償額は家財保険の補償額の最大50%まで。さらに地震による被害、倒壊の状態によって、補償額も変わってくる。
地震によって引き起こされた火災の被害については、家財保険では補償されない。そのため地震保険への加入を考える必要があるものの、持ち家でなく、賃貸で、加入すべきかどうかは検討の必要があるだろう。前述のとおり、建物自体は賃借人が気にすることはなく、自分の家財の破損、流出などによるリスクを地震保険で賄いたいのか、保険料負担との兼ね合いで検討すべきだろう。
火災や地震などの被害に遭ったとき、当面の生活を立て直すためには、火災保険、地震保険は頼りになるものだ。しかし、賃貸物件もさまざまな観点で物件選びをするように、保険についても、補償内容をきちんと理解し、比較検討することが大事。万一に備えるための保険は安心につながると同時に、困ったときに本当に使えるものでなければ意味がない。