賃貸物件に住んでいると、更新料の支払いのタイミングがあります。なかには更新料を高いと感じたり、払いたくないという理由で引越したという人もいるでしょう。そこで、賃貸物件の更新料はなぜ払わなければならないのか、支払い義務のあるものなのか、更新料の相場や支払いを拒否するとどうなるのかをメリットパートナーズ法律事務所の弁護士・木村康紀さんと、賃貸管理業を展開している住友林業レジデンシャル株式会社の大澤裕次さん、東急住宅リース株式会社の高部俊輔さんにお話を聞きました。また、更新料以外にもかかる費用があるのかについても紹介します。
関東圏で賃貸物件に暮らしていると、2年ごとに更新料を支払うことが一般的。まず大前提として、更新料が日本全国どこでも共通なのかが気になります。
「実は、更新料には地域性があります。大阪や名古屋では更新料がないケースのほうが多いのですが、京都では更新料があることのほうが多く、関東よりも高額な場合もあります。関東では家賃の1カ月分が一般的ですが、賃貸需要の高いエリアにある人気物件は家賃の2カ月分、もしくはそれ以上という場合も珍しくありません」(大澤さん)
「当社の調査でも、首都圏と京都府で平均0.5カ月分以上の更新料を取得しており、千葉の一部の地域では1カ月を超えるような更新料の設定をされているようなところもありました。逆に北海道や福岡などの九州地方では更新料の設定をしていない物件もあります。設定している場合でも事務手数料程度の金額設定のようです。」(高部さん)
地域や物件によって更新料がない場合もあるとすれば、必ずしも更新料を支払う必要はないように思えるのですが、そもそも更新料というのはどういう目的を持つものなのでしょうか?
「個別の事情にもよりますが、平成23(2011)年の最高裁では『更新料は、一般に、家賃の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である』とされています」(木村さん)
つまり、大家さん目線で更新料を考えると、月々の家賃を低く抑える代わりに頂くもの、継続して住居を提供することに対して頂く謝礼的なもの、という意味合いがあるようです。これは、大澤さん、高部さんの認識とも合致します。
「部屋を借りる際に、毎月の家賃を低く抑えたいという要望は多いでしょう。更新料は、本来毎月支払う家賃を低く抑えるためにできたものと、業界内では解釈されています。入居した部屋が気に入らず、一定の期間に満たずに退去するなら、更新料はかかりません。毎月家賃として支払うよりは、そのほうが入居者側にもメリットがあるといえます。逆に更新料無料をアピールしながら、入居者サービスの会費等として毎月費用がかかるケースもあるので、注意が必要です」(大澤さん)
「入居者さんは、家賃・敷金・礼金・更新料といった費用をそれぞれ単体で捉えられる傾向がありますが、大家さんはすべてを包括的に考えて物件の管理をしています。家賃を抑えて他の費用にその分を上乗せする方針の大家さんもいれば、家賃以外の費用はゼロにしてその分を家賃に反映する考えの人もいます。各費用の振り分けは市場の需給バランスを見て、それぞれをどのような金額設定にすれば入居者さんに魅力的に感じてもらえるかを考えた結果に過ぎません」(高部さん)
結局は、更新料という名目で1~2年に1回の割合で支払うのか、毎月の家賃や別項目として支払うのか、の違いのようです。
では、請求された更新料が高いため、または支払うこと自体に納得がいかない場合、更新料の支払いを拒否することはできるのでしょうか?
この点については、入居時の契約書にきちんと更新料の記載があるかどうかが最初の判断ポイントになるとのこと。契約書に記載がなければ、基本的には拒否できると考えて良さそうです。
では、契約書にはっきりと更新料について記載されている場合はどうでしょう? これについて木村さんは、平成23(2011)年の最高裁判例が一つの基準になると言います。
「最高裁判例では、更新料の支払特約自体は有効であると判断しています。契約時に合意したのであれば、請求額が過大でない限り、支払ったほうがよいでしょう」(木村さん)
「賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう『民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの』には当たらないと解するのが相当である」
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
更新料の請求額が高過ぎなければ、拒否せずに支払ったほうがよいというご意見ですが、いくらなら「高過ぎない」と判断されるのかが気になります。実はこれにも判例があります。
「平成23(2011)年の最高裁判例では、1年更新で2カ月分の更新料を適法と判断しています。大阪高裁は、1年で3.12カ月分を適法と判断しています(大阪高判 平成24(2012)年7月27日)。つまり更新料の額が、1年更新で家賃の3カ月以下ならば、高過ぎないといえるでしょう。ただ、その辺りが限界事例となるのではないかと思います」(木村さん)
そうすると、入居者側が更新料や他の費用が高すぎるという理由で値下げ交渉をすることも難しいのでしょうか?
「基本的に契約書に記載されていれば、値下げも厳しいでしょうね。大家さんの心理として減額請求を拒んで解約されたとしても、同等以上の条件で新しい入居者を確保できれば問題ありませんから」(大澤さん)
「なかなか新しい入居者を見つけることが難しいエリアだったり、大家さんが管理会社を頼らず入居者さんと直接契約されているような場合には交渉の余地があるかもしれませんが、現在の市況では、更新時や入居者の入替時に家賃が値上がりする状況も見られるため、交渉は難しいと考えます」(高部さん)
更新料の支払いを拒否したり、値下げを交渉するのはかなりハードルが高そうです。
賃貸物件の更新の際に支払うお金は、地域ごとに違いはありますが、更新料のみではありません。その他にも支払う必要のある費用があるため、更新料とあわせて請求されます。
その他にどのような費用を支払う必要があるのかを一般的な相場とともにご紹介します。
これらはその物件によって大きく異なるので、最初の契約のタイミングで不動産会社もしくは大家さんに確認することをおすすめします。
それでも、もし更新料を支払わなかったらどうなるのでしょうか。
実際には更新料以前に家賃の滞納などがあって、更新料も支払われないというケースが多いようですが、ここでは更新料にフォーカスするため、毎月の家賃や管理費についてはきちんと支払った上で、更新料だけを支払わなかったと仮定してお聞きしました。
「原則として、賃貸人(大家さん)から賃貸契約を解約するには『正当な事由』が必要です(借地借家法26条、28条)。解約できない場合は、期間が満了しても更新される法定更新になります。法定更新になった場合、賃貸人が更新料を請求できるかどうかは裁判例が分かれていますが、『法定更新の際にも更新料を支払う』と契約書に記載されていたといえるかが重要となってきます。もし記載されている場合にこれを拒絶すると、解約の『正当な事由』があるとして、契約解除になる可能性もあります」(木村さん)
更新料の支払いがなかったり、遅れたりした場合も単純に契約解除・即刻退去というわけではなさそうですが、場合によっては契約解除に至ることもある上、「退去時に過去に遡って、支払われていない更新料の合計に金利も加算されて請求される可能性がある」(大澤さん)とのことです。
どうしても更新料が支払えない場合、待ってもらったり、分割での支払いをお願いするようなことも難しいでしょうか?
「基本的に難しいと考えます。管理会社としては、大家さんと事前に取り決めた上で契約しているため、その契約に則ってきちんとお支払いいただくよう、お願いしています」(高部さん)
やはり更新料の支払いについては、最初の契約次第、ということですね。つまり、更新料を払いたくない人は最初から更新料がない物件を探す、という方法をとるのがベストなようです。
それでは、更新料なしの物件はどのように探せばいいのでしょうか?
「先の話のとおり、首都圏中心部や京都以外の空室の多いエリアであれば、更新料なしの物件も一定数存在します。また、定期借家契約やマンスリー契約等の短期契約物件では更新料はかかりません」(大澤さん)
「他にUR都市機構の物件や住宅金融支援機構(旧 住宅金融公庫)物件も、更新料の設定がありません。もともと住宅難の時代に、良質な住宅を国民に提供するといった国の政策に沿って設けられた機構だからです。それ以外の物件については繰り返しになりますが、大家さんの意向次第ですので、契約を結ぶ前に確認をしましょう」(高部さん)
更新料や敷金・礼金などの一時金が不要な物件がうまく見つかれば、今の物件に住み続けるよりも引越しのほうがお得になる場合もあるかもしれませんね。
専門家の話をお聞きして、更新料については最初が肝心だと痛感しました。賃貸契約を結ぶときには、家賃や敷金・礼金のほうが気になるものですが、更新料についても額や支払い条件を吟味して気になる点があればきちんと説明を求めましょう。
また、どうしても更新料を支払いたくない人は、はじめから更新料設定のない物件を探すというのも一つの方法です。エリアや物件が限定されますが、後々に気持ちよく住み続けられるように部屋探しをしてください。