お付き合いが長くても、一緒に住んでみないとわからないことはあるもの。二人で仲良く暮らすため、物件選びの前に確認しておくポイントとは? また同棲のお金の分担、二人の希望に合わせた物件選びはどうすればいいの? 初めて同棲をする人が陥りがちな悩みについて、共働きカップルの対話アプリ「ふたり会議」、パートナーシップを学ぶコミュニティ「ふたりの教室」などを運営するあつたゆかさんにお伺いします。
――あつたさんは現在ご結婚されていて、パートナーと仲良く暮らしている印象がありますが、同棲中に揉めたことなどはありましたか?
めちゃくちゃありましたね。当初私が掃除をして報告したら、夫からしたら全然キレイじゃなかったらしく、二人の「キレイにすること」の定義が違うことに気づきました。
全体的に私が雑なタイプで「キレイ」の定義を「ゴキブリが出ない、最低限生きていける」としていた一方、夫はすごく細かいタイプで「いますぐ家に人を呼べる」レベルを考えていたんです。
――衛生観念は育ってきた環境によって異なりますよね。お二人は具体的にどういうすり合わせを行ったのですか?
まずはルール化することにしました。例えば、お皿洗いは「洗剤を水で洗い流した後に全体を手でキュッキュってやって、音が鳴るかどうかをチェックする」「食器は食洗機へこう入れる」など、「キレイにすること」の定義をすり合わせルールを明確にしました。
もう一つの落としどころとして、シンプルに部屋を分けました。私はどうしても部屋を片付けられないので、私の部屋はいくら汚くても夫に干渉しないでもらいつつ、共有スペースのリビングはなるべくキレイに保つという取り決めにしました。
全部の部屋をキレイにしなきゃいけないのは私がしんどいし、逆に生活空間が汚い状態は夫にとってストレスになるので。
――あつたさんご自身も同棲して互いの生活習慣の違いに気づいたということでしたが、同棲を始める前に、どういったところをチェックするといいと思いますか?
大きく2つあります。一番大事なのが、「同棲の目的」を確認しておくこと。人によって目的は異なると思っていて、「結婚を見据えたもの」と考える人もいれば「一緒にいる時間を増やしたい」「一緒に暮らして生活費を抑えたい」という人もいます。
意見が違うのは当たり前ですが、カップルの一方が「結婚に向けての同棲」と思っているのに、もう一方は「単純に安上がりだから同棲している」と思っていた場合、後からトラブルになる可能性があります。そのため、同棲の話が持ち上がったら、なにが目的か事前に確認しておいたほうがいいと思います。
もう一つは「二人にとって家をどんな場所にしたいか」ということ。例えば、「家は帰って寝るだけの場所」と考える人にとっては家賃も安くて、ベッドだけあればいいかもしれませんが、「映画を見るなど家で充実した時間を過ごしたい」と考える人だったら、家具や家電もこだわりたいと考えるでしょう。
また、コロナ禍の影響で日常的に在宅ワークをする人も増えてきて、家は仕事をする場所にもなってきています。仕事ができる個室が欲しいかどうか、二人とも在宅ワークの場合はどうするか、その辺もチェックしておきましょう。
このように、「家をどんな場所にしたいのか」をお互いにシェアしておくと、物件選びのポイントが絞られていくのかなと思います。
――同棲することになったら、家事分担も話し合いが必要かと思うのですが、どのような点を確認しておくといいでしょうか?
人によって苦じゃない家事と苦になる家事は違うので、厳密に5:5に分けるのは難しいと思っていて。リクルートが行った「週5日勤務の共働き夫婦 家事育児 実態調査 2019」では、「仲の良い夫婦は家事分担が半々なのではないか」という仮説のもと夫婦の家事分担の割合を調査しています。
結果は、お互いに不満がない夫婦と、どちらかに不満がある夫婦は、いずれも家事分担の割合が妻7:夫3と変わらなかった。つまり、家事分担が半々であるかどうかは重要ではないのです。
家事が偏っていることに不満を感じる人よりも「感謝されない」「尊重されない」ことに不満を感じる人のほうが多いみたいです。家事分担を半々にすることにこだわるより「どうやったら2人でストレスなく家事ができるか」という観点でお互いが納得する形で家事を分担することが大切なのだと思います。
――私もパートナーに家事をしたことを感謝されたくて「トイレットペーパーを変えたよ」くらいでも自己申告しています。
自分がやったことを自己申告するのは素晴らしいです。相手がしてくれたことに気づけないこともありますので、言ってもらうほうがいいですよね。「ありがとう」「偉い」と褒め合うなど、コミュニケーションでカバーできる部分は多いと思います。
もし苦手や不安に思っている家事があれば、あらかじめ伝えておくといいかもしれません。料理があまり得意でない、苦手であれば先に言ったほうが相手にも期待されないのかな、と。
あと、家事代行や便利な家電には投資して、料理もお惣菜や冷凍食品に頼っていきたいタイプなのか、それとも時間はかかっても節約を重視して自炊したいのかなども確認できるといいですね。お金を取るのか、快適性を取るのかは人によって異なりますので。
お金は半々にしたほうが対等な関係でいられるのでおすすめですが、収入の割合で決めるケースもありますし、家賃が一方、それ以外の光熱費や食費がもう一方と分けるケースもありますし、基本的には二人に合った方法でいいと思います。
我が家の場合、私が起業してすぐに、収入が一時的に少なくなってしまって、金銭感覚の違いが生まれたときがありました。物件選びをしていた当時、夫が住みたいと思った物件が、私からすると少し高くて。
でも、家のレベルを下げるより、便利で快適な暮らしをしてほしいし、夫の意見を尊重したい。そのことを伝えた上で「私のいまの収入だと、家賃の上限はこれくらいで、これ以上負担したくないです。もし家賃を半々にするのであれば、この額に収まる家賃の物件がいいです」と話したら「それ以上の額は夫が負担する」ということになりました。
家賃や生活費の折半については、自分の収入から家賃や食費などの上限を逆算して、「あなたはどう?」って話をするのがいいのかな、と。もし予算感が違う場合は、こだわりがあるほうが多めに払うのがいいかもしれません。
――一緒に使う家具や家電についても、どういうものを選び、どう折半するかが難しいですよね。
一人暮らしのときに使っていた家具や家電があれば、引き続き利用することで同棲の初期費用を抑えることができるでしょう。もし同じ家電を二人が持っていた場合は、必要な機能を備えたものを残し、もう一方は処分する。あるいはリサイクルショップで買い取ってもらい、同棲費用の足しにすることも考えられます。
新たに購入する場合は、購入する目的やどちらが費用を負担するのかについて確認しておくことが大切です。お金は「投資」「消費」「浪費」の3つに分類されると言われていて、購入する家具や家電がどれに当てはまるのかを話し合うのが良いでしょう。
例えば、ドラム式の乾燥機付き洗濯機は「浪費」と捉えられますが、家事の押し付け合いをせず二人で仲良く暮らすために必要な「投資」と捉えることもできますよね。同棲生活の1年間だけのために使うものを買うのであれば「浪費」かもしれませんが、結婚後も長く使う予定であれば「投資」かもしれない。
金銭感覚のずれは目的のずれによるものの可能性もあるので、この辺も話し合ってみてください。
――確かにその考え方や相談方法は有効ですね。日々の生活費の支払いについても、どうするか気になりますが、あつたさんはどうされていますか?
我が家は経費精算方式で、夫に立て替え内容をエクセルに記入してもらって、その半額を私が月末に振り込んで精算する運用にしています。家計簿アプリを使うのもいいですよね。
二人で共通のプリペイドカードを作って、そこに毎月決まった金額をチャージしたり入金したりして、そのカードで日々の生活費を支払うというやり方もあるでしょう。
――同棲前のチェック項目についてお伺いしてきましたが、お互いの意見が違った場合、仲良く話し合いを進めるコツなどはありますか?
まず「意見は違って当たり前」ということを、皆さんに念頭に置いてもらいたいです。違うからって別れる必要もないですし、それ自体は悪いことではありません。違った上で「二人でどうしたらいいか」を話し合うことが大切です。
例えば「私は結婚を前提とした同棲と考えているけど、あなたは?」って聞いたときに「俺はまだ違うかな」といった返答があったとします。その場合、相手が結婚についてどういう価値観を持っているのかをまず聞いてみてください。
「結婚はまだ考えてない」という意見の場合、結婚に対する不安要素やネックがあるのだと思います。その理由は「会社で出世してからがいい」とか「自分のことを一人前だとは思えてない」とか「結婚するとお金がすごいかかりそうだから」とか、いろいろあると思います。
もしお金がネックなのであれば、お金の問題を解決することで結婚できるかもしれない。その場合は「結婚式でそんなにお金を使うつもりはないよ」とか「だったら二人で同棲して出費を抑えて、お金を貯めよう」という提案もできるでしょう。
これを機に、お互いの貯金額をシェアしてもいいかもしれないですよね。そうしたら、意外と貯金があることがわかって相手に「大丈夫そう」って思ってもらえるかもしれません。まずは相手の意見にある背景を聞くことが、すごく大事だと思います。
「話し合いをいつするか」も決めておいたほうがいいでしょう。我が家の場合は、問題が発生して30秒後ぐらいに都度話し合いを行っていますが、定例形式で話し合いをするカップルもいます。
また話し合いのスタイルも対面なのか、LINEなどテキストベースにするか、事前に決めたほうがいいかもしれないですね。
あと家選びに直結してくるトピックとしては、個室や一人の時間が欲しいかどうかもあります。特に生理のときや体調が悪いとき、機嫌が悪いときや、落ち込んだときに構ってほしいのか、放っておいてほしいのかなども事前に知っておけるといいでしょう。
放っておいてほしい場合は絶対一人になれる部屋が必要になるので、最低限、寝室とリビングで部屋が分けられる1LDK以上がいいでしょう。感染症を患った場合や、お互いにリモートワークをする場合は、2LDK以上が安心だと思います。
最後にセックスの頻度などについても確認しておくといいでしょう。やはりセックスレスになってから話し合うのは難しいので。例えば「自分は週1以上できたらうれしい」などと伝えておくと、セックスレスになりづらいのかなと思います。
基本的にどちらでもいいと思うのですが、会社から住宅手当が出るのであれば、その人名義で家を借りたほうがいいですよね。
あと賃貸契約の際には審査があるので、ローンの借り入れ額がない(少ない) 会社の信用度が高い方が契約するといいでしょう。
連帯保証人については、少々高くとも別れたときに揉めないために保証会社に委託するのがよいでしょう。最近は保証会社の加入が条件になっている物件が多くなっていますので、探すことは難しくありません。
――あつたさんカップルの場合、物件選びで外せないポイントってありましたか?
間取りを決めるときに「同じ部屋でリモートワークできるといいよね」と仕事部屋を作ったのですが、いざ隣の席で仕事をしたら会議が被って困りました。結局、仕事部屋とリビングの一角に分かれたのですが、今度はリビングでくつろげないという問題が発生して、仕事部屋と寝室の一角で仕事をする形に落ち着きました。
ただ、これも2LDK以上だったから試行錯誤できたので、部屋数が多いほうがトラブルが発生しても解決できる可能性が高いのかなと思います。ある程度どういうライフスタイルになりそうかを事前に把握した上で、物件を選ぶといいのかな、と。
知り合いで六畳一間に住んで別れたカップルがいるのですが「それ間取りのせいじゃん!」って思ったんです。家賃が安いことも大事ですが、バス・トイレが一緒であったり、ワンルームの安い物件にしてしまったりして、ストレスが溜まって別れてしまうのは本末転倒ですから。
パーソナルスペースなど、二人の快適さもある程度考えたほうがいいと思っています。あとは買い物しやすい立地であるとか、お互いの勤務先からなるべく近いとか、離れている場合は中間地点にするとか、家賃の上限なども決めておくといいかもしれません。
バス・トイレ別、洗面所独立の物件を推奨します。片方がお風呂のときでも、トイレや洗面所を使えますので。また、同棲の場合に限らず、万が一に備えて、ハザードマップはチェックしておきましょう。築年数も40年以内、新耐震基準が施行された1981年6月1日以降に建築された物件のほうが安心だと思います。
あとは必須条件ではないですが、生活リズムが朝型と夜型に分かれているカップルの場合は、お風呂の時間帯もバラバラになるので、追い焚き機能がある物件にしたり、寝室も分けたりするのがおすすめです。
加えて、お掃除ロボットを使う方は部屋に段差がないかどうか、ポイ活をしている方は家賃をカード決済できるかどうかといった点も見れると良いかもしれません。
「マスト条件」と「理想の条件」で検索してみて、折り合いをつけていくのがおすすめです。まずは「バス・トイレ別」や「築年数」など最低限の条件で絞り込みをして一緒に物件を見て、その後「追い焚き機能」など「マストじゃないけどあったらいいな」の条件で 絞り込んで物件を見るのがいいと思います。
今回あつたさんのお話を聞いて、仲良く同棲するためには、快適に暮らすためのルールやそれを決めるための話し合いが大切だとわかりました。それは同棲が始まる前も同じ。物件選びをする段階からお互いの価値観や考え方のすり合わせが必要になってきます。
意見が違うのは当たり前だからこそ、仲良く話し合うコツを押さえて、二人にとってベストな選択をしたいところ。あつたさんに伺ったチェックポイントのほか、SUUMO編集部が作成した、さらに詳しい同棲前チェックリストもあるので、気になる方はそちらも参考にしてみてください。
さらに詳しいチェックリストをPDFでみる
→同棲に対しての考え方のすり合わせチェックリスト
同棲を始める前に、まずは「同棲の目的」と「家をどんな場所にしたいか」をお互いに確認することが大切
意見が違って当たり前、対話をして二人が納得する方法を考えよう
お互いの生活スタイルを尊重するには、最低でも2LDK以上の間取りがおすすめ
株式会社すきだよ代表取締役。家族・パートナーシップに関する社会課題を解決し、ふたりらしい生き方を支援する事業を行っている。8万人以上の夫婦・カップルが利用する対話ツール「ふたり会議」や、結婚とキャリアのプロが人生設計から結婚後までサポートする婚活サービス「LASIKU」を運営中。企業・自治体向けに、共働きでのキャリア形成・夫婦間のコミュニケーション講座・ライフプラン研修も提供している。TBS・フジテレビ・TVほか、日経ウーマン・日経新聞などメディア掲載多数。2022年に著書「仕事も家庭もうまくいく!共働きのすごい対話術」を出版。