売買契約時に発生する手付金の意味とは

手付金には3つの意味がある
契約の証拠としての「証約手付」
売買契約時に買主が売主に支払うお金が手付金だ。手付金には、契約が成立したことの証拠としての性格があり、これを「証約手付」という。
解約の代償としての「解約手付」
民法の規定では買主は手付金を放棄すれば(手付流し)、また売主は手付金の2倍の金額を買主に支払えば(手付倍返し)、契約を解除できる。これを「解約手付」という。
債務不履行に対する違約金としての「違約手付」
このほか、買主か売主のどちらかに債務不履行があった場合に、手付金が違約金として、損害賠償とは別に相手方に没収されると定めるケースがある。これを「違約手付」という。
手付金は売買代金の5%〜20%が一般的
金額が小さすぎても大きすぎてもだめ
手付金の額については特に法律で制限はされていない。だが金額が小さすぎると売主も買主も気軽に解約できてしまい、逆に金額が大きすぎると解約が難しくなり、どちらも解約手付としての意味をなさなくなってしまう。
不動産の売買契約では、手付金を売買代金の5%〜20%の範囲内で決めるケースが一般的だ。ちなみに不動産会社が売主になる場合は、法律で20%以内と定められている。
手付解除できるのは相手が契約の「履行に着手」するまで
自分が履行に着手しても解除できる
売主は手付金を倍返しすれば契約を解除できるが、いつでも解除できるわけではない。民法の規定では「当事者の一方が契約の履行に着手するまでは」手付解除ができるとされている。
ちなみに「当事者の一方」とは契約の相手方、つまり売主にとっては買主、買主にとっては売主を指すと解釈されている。売主が手付解除できるのは「買主が契約の履行に着手するまで」で、売主自身が履行に着手したかどうかは問われないという意味だ。
解除できる期限を契約書に明記するのが一般的
「履行に着手」とは聞き慣れない言葉だが、契約の履行、すなわち売買を成立させるために必要な行為をしたときといった意味だ。どんな場合が履行の着手にあたるのかは明確なルールがないが、例えば以下のようなケースが該当するとされる。
●売主が所有権移転登記の手続きをしたとき
●買主が中間金や残代金を支払ったとき
とはいえ、所有権の移転登記や残代金の支払いは引き渡しと同時が通常なので、その時点まで手付解除が可能とすると取引が不安定になってしまう。そのため、実際には当事者の合意によって手付解除ができる期限を定め、売買契約書に明記するのが一般的だ。ただし買主は、売主が履行に着手するまでか所定の期日までのいずれか遅い時期までは手付解除できるとされている。
解除するときは実際にお金を提供する
買主の口座に手付金の倍額を振り込む
手付解除をする場合は、売主は契約解除の意思表示を買主に伝えるとともに、手付金の倍額を買主の銀行口座に振り込むなど、実際にお金を提供する必要がある。
逆に買主が手付解除をする場合は、配達証明付き内容証明郵便で意思表示を行うことが望ましいとされている。
【監修】
不動産アカデミー代表・中村喜久夫さん
宅地建物取引士の法定講習講師や宅建試験の指導のほか、企業向けの研修も手がける。著書に『スッキリわかる宅建士』(TAC)、『不動産広告表示の実務』(週刊住宅)などがある。明海大学不動産学部特任准教授、不動産鑑定士
構成・取材・文/大森広司