2人で暮らす横浜 10年住んだ街の魅力を、相手のフィルターを通して再発見する

著: 在華坊
大さん橋から世界一周に出発する飛鳥II

「SUUMO住みたい街ランキング2018 関東版」で、横浜が総合1位になったという。

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この調査、具体的に「どの駅に」住みたいかを調査しているものなんだけれど、横浜在住の私からすると、アンケートに回答した人は横浜「駅」というよりも、漠然とした「横浜」のイメージで回答しているのでは……?という気がしている。

横浜を1位に挙げた人の理由は、

圧倒的に「交通のアクセスの良さ」と「何でもそろう買い物の便利さ」を挙げる人が多かった。(上記記事より引用

だそう。

正直、そごうとタカシマヤがある点を除けば、都心へのアクセスや買い物の便利さでは川崎「駅」のほうが上のような気がする。なので、横浜から「みなとみらい」「関内」「山下公園」「中華街」「元町」あたりまで含んだ、海に近い横浜のイメージに魅力を感じて選んでいる人も多いんじゃないかな、と推測している。

以前、私は『SUUMOタウン』の記事に「横浜に住みたいと思っても横浜駅周辺は高いので、桜木町、戸部、日ノ出町から少し坂の上を探せ」と書いた。

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詳しくはこちらの記事を読んでみてほしい。

幸い、この記事は、かなり多くの人に読んでいただいたらしい。そして『SUUMOタウン』でいろんな人が街の魅力を語るシリーズも、自分の横浜の記事からはじまっている。Takiさんが語る神楽坂、メレ山メレ子さんが語る池袋、平民金子さんが語る神戸、phaさんが語る京都、雨宮まみさんが語る西新宿、ヨッピーさんが語る上野、小島アジコさんが語る辻堂……そして、黄金頭さんが語る関内関外

たくさんの人のあふれる街への愛が読める幸せを噛みしめていたら、住みたい街1位に横浜が選ばれたことをきっかけに「もう一度、横浜について書いてもらえませんか?」と依頼があり、再登板させてもらうことになった。

前回記事を書いたときから変わらず横浜に住んでいるので、そうそう、新しく書くべきことは無い。無いけれど、前回の記事を書いてからの2年間で、少し変化があった。横浜に、2人で暮らすようになったのだ。

「横浜都民」な自分を、根無し草だと感じていた

有名な大岡川の桜。朝、出勤途中に静かに愛でる

ところで、前回「横浜いいですよ!」と、まるで生まれながらの横浜市民のように紹介したけれど、実は“横浜ネイティブ”ではない。生まれは東京の中目黒。5つの時に横浜に引越したけれど、住んでいたのは東急東横線の綱島駅だった。

横浜市民であっても、東急東横線や田園都市線、小田急線の沿線では都内に通勤通学する人が多く、そのような人を俗に「横浜都民」と呼ぶ。総務省によれば、「横浜都民」に該当する人は50万人もいるらしい(平成27年国勢調査より)。そして自分もご多分に漏れず、小学校は地元だったものの、中学・高校は広尾、大学は高田馬場、会社は青物横丁。買い物に行くのは渋谷、遊びに行くのは新宿、アルバイトは中野と御徒町、調べ物があれば都立中央図書館。もともと父親が中目黒で自営業をしていたころのコミュニティに軸足を残していたり、自分自身も都内の友達が多かったりで、横浜への帰属意識は薄かった。

会社員になってしばらくして勤務先が横浜になったのだが、15年近く都内に通っていたためか、東京への視線は変わらなかった。勤務地が変わったことで私ははじめて、何も考えずにつながっていた、勝手に帰属意識をもっていた東京との接点を失ったのかもしれない。それを回復するかのように、東京に足が向いた。

なのだけれど、だんだん、違和感が出てくる。根無し草。実家に住んで両親はいる、大切な人間関係はある、仕事もある、会社に所属している。だけど地域として根無し草だ。私の地域としての軸足はどこにあるのか。

そんなことを考え、しばらくして実家を出た。新たに住む場所として目を向けた街は、横浜。それも、桜木町・関内・石川町周辺だった。

野毛名物「都橋商店街」は、最近は若者も多い

「街についてはよく理解しているので、説明は不要なのでとにかくこのあたりで『面白そうな、住んで楽しそうな物件』を紹介してほしい」。不動産屋さんの担当者にそうお願いして何軒か内見し、選んだ先が野毛だった。住宅街ではなく、さまざまなルーツをもった人が入り混じって暮らす街。そこなら、根無し草の自分も受け入れてくれるのではないか。その時には「面白そうだから」としか表現できなかった街選びは、実は、そんな動機だったのではないか。今はそう思っている。

そうやって選んだ街は、自分を期待以上に迎え入れてくれた。多様な人々が暮らす街では、さまざまな年齢、性別、人種、職業の人が排除されることなく自然になじんで暮らしていて、ベタベタしすぎない、適度な距離感のコミュニティを形成している。あまりの住み心地の良さ、楽しさに、長く野毛で住み暮らし、多くのコミュニティに触れて、友人も大勢できた。そうして8年目に、前述のSUUMOタウンの記事で、横浜について書かせてもらったのだった。

2人で暮らす場所もやっぱり「横浜」になってしまった

野毛山の丘の上から磯子方面を眺める

話を冒頭に戻そう。一緒に2人暮らしをはじめることになった相手は、野毛のとあるコミュニティの中で知り合った人だった。2人で暮らす場所を探すにあたり、まずはやはり、共通の知り合いが多く、お互いの実家にも近い横浜でまず探しはじめた。しかし、どうしても横浜、だったわけではなく、いろんな街を候補に入れていた。でも、やっぱり横浜になってしまったのだ。

1人なら立地優先で最低限の広さがあればいいけれど、2人で生活するとなると少し視点が変わってくる。お互いに荷物が多いのである程度は広さがほしいし、それぞれ落ち着く場所も必要。でも、一緒に海外にも遊びに行きたいから家賃はなるべく安く抑えたい。料理も2人でよくするだろうから台所は広いほうがいいし、台所とリビングは離れていないほうがいい。料理のために安くて便利な買い物もしたい。そして通勤や遊びに出る都合も考えると、アクセスはなるべく便利なほうがいい……。そんな欲張りなニーズを満たしてくれる物件が、あったのだ、横浜に。

3LDK・65平米で10万円。最寄駅から徒歩7分、坂道を駆け下りれば5分で着ける。坂道? そう、坂の上。前回の記事で「最寄駅は桜木町、戸部、日ノ出町で、少し坂の上を探すのです」と書いたことを、自分でそのまま実践してしまった。徒歩圏内でJRも京浜急行も市営地下鉄も利用できる便利な場所。古めの掘り出し物件なため、周辺の家賃相場から比べると少し安めではあるけれど、とにかくこんな便利な場所でもこれぐらいの家賃で住める。

引越したあと、住処(すみか)に至るまでのいろんな坂道を歩いてみた。横浜は坂道が多く、縦横に走る道、階段、いろんなルートを日々探索するうちに、知らなかったカフェを見つけたり、猫が10匹くらいうろうろしている坂道を見つけたりした。10年も住んだ街だからみんな知っているはず、以前の住処から新しい住処は歩いても10分くらいの距離だから知らないところなんてないはず……と思っていたけれど、少し住む場所を変えただけで、また新しく街が見えてきて、魅力的な場所も見つかる。

例えば「CASACO」というスペース。自転車で世界一周をした人が古民家をリノベーションして立ち上げた場所で、地域の人が交代で“日直”をするカフェがあったり、海外からの留学生が住んでいたり、集会所のような半公共スペースで交流イベントをやっていたりする。

イベントに参加して話を聞くと、立ち上げ人は世界中を回って糸を結んでつないでもらう、という活動をしており、あ、そのつないだ糸の展覧会、みなとみらいのJICAの展示室で見たことあります!なんて、会話が広がる。横浜の、ゆるく微妙にあちこちでつながっている感じ。多様な国籍の外国人や、留学を控えた学生や、町内会の人や、地方議員の人や、それこそ自分たちみたいな近所に住んでいるだけの人など、いろんな人が集まって、いろんな国の言葉で会話している。いわゆる“意識高い系”じゃないほんとにちゃんと意識が高い人が多くて、自分の不明を恥じたりもするんだけど、その中に身を置いて話をしているととても楽しいし、刺激になる。

いつもの街も、2人で歩くと違う景色になる

いつも買い物客でにぎわう横浜橋商店街

2人で一緒に街を歩くと、今まで見てきたものが違って見えたりしてくる。例えば横浜橋商店街。これまでも多国籍な人が集う面白い商店街だと思っていたんだけれど、台湾や中国茶が好きな彼女から、中華圏の料理や食材について教えてもらうと、いままで気にしていなかったものが実は中華料理向けに用意された食材だったんだな、なんてことに気が付く。商店街で大量の食材を買い込んで、台湾で買ってきたあの調味料、あの漬物と組み合わせて何をつくろうか、そんなことを考えながら坂道を上る。

「銭爺」では味が想像できないものを頼もう

商店街の路地裏には「銭爺(ぜにや)」という、なぜかリアルタイムで台湾のテレビ番組が見られる小さな台湾料理店がある。以前から知ってはいたけれど、台湾料理の知識を得てから改めて行くと、メニュー選びが楽しくなる。

横浜中華街「春節」。旧正月のにぎわいは地元の人だけが知っている

それは横浜中華街にしてもそうで、食べ放題や甘栗売りばかり目立ってあまり魅力は無い、みたいに思ってしまっていたけれど、視点が変わるとまた新しい魅力が見えてくる。「南粤美食(なんえつびしょく)」は比較的新しいけれど、広東料理の神髄を味あわせてくれる。絶品の海老雲吞(わんたん)麺や塩蒸し鶏、釜飯をはじめ、注文すればどんなオーダーにもこたえてくれそうな店だ。しかし、この店だって、自分の視野が拡がらなければその魅力に気付けなかったかったかもしれない。

ある日は横浜橋商店街から八幡橋をわたった先の商店街にある「お店のようなもの」へ。以前から気になっていて、スペースを管理している野宿エキスパートの……野宿エキスパートってなんだよ、と思うけれど、とにかく、かとうちあきさんという人をTwitterでフォローしていて、たまたま、よく行く野毛の「はる美」という店で隣り合わせになり、誘われて、彼女と2人で餅つき大会に行ってみた。そこには、エベレスト登山経験のある人や山伏など不思議な人たちが入り乱れて謎のコミュニティが発生していた。

§

彼女は自分と違って、本当の横浜ネイティブ。生まれも育ちも横浜で、遊ぶのも横浜だった。そんな彼女と一緒に歩くと、横浜が違った魅力を見せてくれる。これまでよりフックを増やした自分に引っ掛かるような、これまで見えてなかった魅力が、横浜にはたくさん隠されている。横浜の街を歩き、昔の思い出を掘り起こしながら話をすることで、知らなかった相手のことがまた見つかったりする。

新しい魅力を見つけても、以前からのつながりが途切れるわけではない。ずっと独身の人、家族持ちの人、学生、さまざまなルーツや来歴の人が集っているコミュニティは、自分の状況が変わっても動じない。変わったままで受け入れてくれる。そうやって、10年住んでも、まだ魅力がたくさん発見できて、どんどん魅力がつながっていく街。そんな横浜に、これからも住み続けるのだと思うし、また自分の状況に変化があれば、別の魅力が見付かるだろうと考えると、ワクワクする。

 

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著者:在華坊 (id:zaikabou)

在華坊

1978年生まれ。横浜、野毛のあたりの坂の上在住。出張ついでに飲み歩くことが楽しみな会社員。横浜の話題や出張の旅先での酒場めぐり、美術館めぐりの話が多いブログ「日毎に敵と懶惰に戦う」を2004年から14年間更新中。『はま太郎』(星羊社)で横浜カウンター百景という連載もしています。

編集:はてな編集部