安心しきった高校時代を過ごした小江戸の街・川越の思い出

著: けいろー 

僕には、「故郷」と呼べる街がない。転勤族の家庭で思春期を過ごし、小学生の6年間だけで4つの学校を転々としてきた。――だからと言って、「中学高校も合わせれば、6つも校歌を歌えるんだぜ!」なんてことはありませんが。うろ覚えで2つ、かな……。

暮らしたことのある街は多い。けれど、それらの街の魅力を僕は知らない。ガキンチョだったころの活動範囲なんてたかが知れてるし、進学した高校・大学はいずれも街の外。自分にとって「住んでいる街」とは、「眠りに帰る街」とほぼイコールだった。不便なく暮らせて、ご近所トラブルもない……けれど、近くに友人知人もいなかった。

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そんな自分が「好きな街」を考えたときに自然と思い浮かんでくるのは、学生時代を友人と過ごした街になる。住んだことはないものの、3年間にわたり通い続けて勝手知ったる、身近な地域。

「一人暮らしするなら、ここがいいなー」と学生時代から漠然と考えており、前職を辞めたときには、ハローワークへの手続きと同時に物件見学を申し込んだほど。結局は実家に戻ることになり、その土地の住人となることはかなわなかったのですが……。それでも、一度は住んでみたい大好きな街。

それが、埼玉県の“小江戸”として名高い街「川越」です。

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世間的な「川越」のイメージには、どのようなものがあるだろう。――江戸の面影が残る、蔵造りの町並み? 巨大なふ菓子でおなじみの、菓子屋横丁? 『ウォーターボーイズ』のモデルとなった、川越高校?1783年創業・亀屋の和菓子は有名ですが、最近はコエドビールも人気ですよね。

自分が川越に通っていたのは高校の3年間だけだったけれど、脳裏に浮かぶのはやはり、そういった「観光地」としてのイメージだ。あるいは、学校帰りにふらっと立ち寄った神社仏閣だとか、課外活動として参加した地域のお祭りだとか。学生らしく駅前の商店街をぶらぶらしたり、友人とファミレスに入ってダベったりといった思い出も少なくない。

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この日、そんな川越の地をひさしぶりに訪れた。

埼玉県有数の観光地である川越も、ぶっちゃけその立ち位置は「微妙」と言える。もちろん、江戸情緒あふれる昔ながらの町並みは人気だし、市内には歴史的建造物も数多い。事実、川越は関東地方における文化財数・第3位を誇る街なのだとか。やるじゃん。

しかし、上位には鎌倉&日光という名だたる観光地の存在があるため、やっぱり影は薄い。旅番組や雑誌の取材が入ることは少なくないものの、観光地としてはまだまだマイナーな印象も拭えないのが実情。そのため高齢者からは、「鎌倉ほど混雑しとらんけん、歩きやすくてええがな!」という、喜ぶべきか悲しむべきか悩むような評判も得ている。確かに、鎌倉と比べちゃあ……ねえ……。

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とは言え、良い意味での「過ごしやすさ」や「お手軽感」は街全体の印象としてもしっくりくるもので、個人的にはそれが川越の魅力のひとつだと思っている。なんたって、池袋からは約30分、新宿からも約1時間、それぞれ電車1本で来れる距離なのだ。東京都心からもアクセスしやすく、週末の観光スポットとしては程よい位置にあると言える。

「都会」と呼ぶには物足りないが、「田舎」と呼ぶには人が多い。駅前にどデカい百貨店や商業施設が立ち並んでいるわけではないが、数年前に駅ビルがリニューアルされるなど、パッと見て「そこそこ栄えている」といった印象の街だ。変に背伸びすることなく、さりとてド田舎というほどでもないので買い物には困らず、中学・高校生くらいの年代にも過ごしやすい土地と言えるのではないかしら。一口に言えば、“バランスの良い街”。

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そんな川越市内でも特に学生が集う場所として、川越駅から蔵造りの町並みの方向へと伸びる商店街「クレアモール」の存在がある。若者から年配の買い物客まで、いつも大勢の人でにぎわう歩行者天国(お昼過ぎから夕方にかけてのみですが)。原宿の竹下通りと比較されることもあるけれど、昔ながらの商店も残っている川越のほうが僕は好きだ。

竹下通りほどには混雑していない、けれどほどほどににぎわっているクレアモールの途中には、とある「お馬さん」がたたずんでいる。近くの服屋さんが設置しているものらしく、看板娘ならぬ“看板馬”として、いつも圧倒的な存在感を放っている。僕が通学していたときは茶色だった気がするので、おそらくは何度か代替わりしているのでしょう。ひさしぶりに見に行ったところ、現在は白馬のイケメンだった。……どうも、おひさしぶりです(?)

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また、数多くの商店がひしめきあうクレアモールには、ひときわ目立つ大きな建物がある。それが、1957年から続く老舗百貨店「丸広百貨店川越店」だ。屋上の観覧車は遠目にもよく目立ち、新旧の建物が入り乱れた川越の景色のなかに違和感なく溶け込んでいる。

しかもこの観覧車、なんと2016年現在も稼働中。日本国内でも数少なくなった屋上遊園地として、地元住民から愛されているようだ。川越在住の友人いわく、「ガキのころに行った“遊園地”と言えば、丸広だったなー」とのこと。町並みだけでなく、こんなところにも昔の風景が残っているのも川越ならでは。ちなみに、今も屋上観覧車が稼働中の遊園地は、川越丸広と蒲田東急プラザだけらしい。意外にレアな風景なんですね……。

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さて、クレアモールを抜けると、突如として周囲の雰囲気が変わる。これこそ、江戸時代から残る蔵造りの町並み――ではなく、ご覧のとおり、時代的にはもうちょい新しい。御影石の石畳に沿うようにして軒を連ねるのは、川越らしい町家造りとレトロな洋風建築のコラボレーション。その名も、「川越大正浪漫夢通り」でございます。

昭和のころは「銀座商店街」として地域住民に親しまれ、いつも大にぎわいだったというアーケード街。その後、1995年にアーケードが撤去され、新たな街づくりがスタート。「大正浪漫」をコンセプトに商店街をあげて町並みを再構成し、現在のすてきな通りができあがったそうな。メインストリートと比べると人通りも少なく、閑静な雰囲気は個人的にも好みの区画。飲食店も結構ありますよ。

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そしてたどり着いた、小江戸の街。川越のメインストリートと言えばここ、蔵造りの町並みでござる。江戸幕府の重臣が治める川越藩の城下町として栄えた歴史を持ち、現代にもその景観が残る一帯。川越観光では、まずこの通りを散策することをおすすめします。

観光地としての「川越」については、多くの情報サイトや雑誌などで紹介されていますし、ここでは割愛。強いて言えば、「神社仏閣もいいぞ」と勧めておきたいくらいです。おそらく、川越の見どころとしてメディアで取り上げられているのは、時の鐘、菓子屋横丁、各種商店と、グルメ情報が大半であるように思うので。鳥居やお寺さんもいいぞ。

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喜多院、熊野神社、氷川神社といった有名どころのほか、大小さまざまな神社仏閣が点在している川越の街。裏道にもポツポツと小さな社が立っているのが目に入るので、好きな人は探して歩くのも楽しいと思う。狐耳のチビっ子が出てきそうな雰囲気。良い。

僕自身、何度も歩いているつもりなのに、最近まで存在に気がつかなかった社がいくつかある。この日は、なんでもない個人商店の2階、ベランダ部分に立っている鳥居を発見した。スクールバスで毎日通っていた道路なのに、今の今まで知らなかったでよ……。

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そんな小江戸の街も少し離れれば、現代生活の息遣いが感じられる住宅街に行き着く。ここまでは観光客の足が向くこともほとんどなく、ベッドタウンとしての川越の風景が見ることができる。閑静な住宅街を見ると、どこに行っても「埼玉っぽい」イメージを感じてしまうのは、自分が埼玉県民として過ごした期間が長かったせいだろうか。

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蔵造りの町並みを抜けて、住宅地を通りすぎ、国道に出ると、一気に視界が開けた。この広大な水田地帯と、都心ではなかなか見られない広い空が、自分にとっての「川越」の原風景と言えるかもしれない。主にスクールバスの窓から眺め、時に制服姿で駆け抜けた、緑と青の世界。

「川越」と聞いて僕が思い浮かべるのは、やっぱりこの景色だ。川越の高校に通うようになる以前、ニュータウン内の中学校で過ごした3年間は閉鎖的で息苦しかったため、その反動もあったのかもしれない。男臭い、けれど広々とした環境で過ごした3年間は、この四半世紀の人生において最高に自由で安心しきった日々であったと振り返ることができる。

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――そう、当時の僕は、すっかり“安心”していたのです。狭苦しいコミュニティの人間関係もなく、整然と並んだ無機質な集合住宅もなく、目の前に広がるのは田畑だけ。水田地帯だけを見ると田舎のようでもあるし、思春期の男子高校生には刺激が少なすぎるようにも見えるけれど、少し歩けば“小江戸”の町並みもある。そして先ほども書いたように、この落ち着きあるバランス感こそがこの街の魅力だと、僕は思う。

昔ながらのお店に入って気さくな店主さんと話す日があれば、新しくできたおしゃれなカフェに気取って入り、耳慣れないスイーツの名前にドギマギする日もあった。どちらを選ぶかは、その日その時の気分次第。「古き良き」がすべてではなく、新旧入り混じった街としての魅力が川越にはある。

もちろん、イマドキの学生にうれしい商店街・クレアモールも欠かせない。男子高校生が連れ立って服を買いに行く……ことはあまりないにしても、遊び場はいくらでもあった。カラオケでバカ騒ぎするも良し、ゲーセンでスコアを競うも良し、サイゼで遅くまでダベるも良し。帰り道にこっそりと寄ったアニメイトで偶然、それまであまり話したことのないクラスメイトと遭遇するなんてこともあった。初めてのオタク友達だった彼は今、どこで何をしているんだろう……。

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そんなこんなで、わずか3年間とはいえ青春を過ごした「川越」の街の話でした。すっかり足も遠のいてしまったけれど、こうして振り返ってみると思い出や街のイメージが色濃く残っており、自分の精神的な「故郷」のひとつと言える……のかもしれない。

社会人になり、千葉の片田舎でひぃひぃ言いながらも肉体労働をこなせたのは、きっとそこに川越と似た田園風景があったから。さらに、初めてのボーナスでなんとなく「着物」を買おうと呉服屋さんに向かったのも、小江戸の街に対する郷愁が一因としてあったように思う。――いや、正確には「和」に対する中二的な憧れやら好奇心やらもあったのだけれど、ここではそういうことにしておこう。うん。

現在は東京都民であるこの身も、心のどこかには「埼玉県人」の自分を抱えている。時たまふらっと訪れるくらいの距離感がちょうど良いようにも思うけれど、やっぱり一度は住んでみたい。今なおこうして、気持ちは川越の街に惹かれ続けているのだから。そして、古きと新しき、ハレとケが混じり合った小江戸の街で「日常」を過ごすようになったとき、自分の心境はどのように変わるのだろう。今から楽しみでならない。

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著者:けいろー (id:ornith)

けいろー

フリーライター。インターネット大好きゆとり世代。新卒入社したメーカーで営業職として働くも、身体を壊して退職。無職期間にブログを書いていたら仕事をもらえるようになったので、ノリで独立。ウェブメディアで記事を書いたり、ライブパンフレット制作のお手伝いをしたりしました。はやくにんげんになりたい(おしごとください)。

ブログ:ぐるりみち。 Twitter:@Y_Yoshimune