私がこの街を好きな理由 ~十条~

著: SUUMOタウン編集部 

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みなさんは「十条」という街をご存じですか?もしかしたら、どこにあるのかも分からない、取り立てて何のイメージも持っていない、という方もいらっしゃるかもしれません。

では、「赤羽」はどうでしょう。10年ほど前には「乗り換えに便利な駅」としてのイメージが強かったような街ですが、久住昌之・谷口ジロー両氏の漫画『孤独のグルメ』や清野とおるさんの『東京都北区赤羽』が火つけ役となり、いまや街歩き番組の常連に。「せんべろ」「朝酒」など、デフレ時代のトレンドキーワードとともに検索される話題の街になりました。それにともない「住みたい街」としての注目度も急上昇。2016年「住みたい街ランキング総合」では、前年の30位ランク外から20位にランクイン入りを果たしています。

十条は、そんな赤羽駅の一つ隣の街です。

埼京線で池袋まで6分、新宿まで12分。渋谷・恵比寿にも一本で出ることができ、りんかい線の直通運転もあります。駅から徒歩10分程度の場所には、京浜東北線東十条駅もあり、東京駅や横浜方面に行く際も便利です。

交通至便なのに家賃はお手ごろ。商店街も驚くほど充実しており、本来、赤羽にも負けない個性をもった街なのです。

ところが、赤羽人気の影に隠れてそれほど知名度は高くありません。そんな十条の魅力に迫るべく、十条在住の方にお話を伺ってきました。

お話を伺ったのは、フリーランスカメラマンの岡田孝雄さんと、編集者の妻・真由美さん。お二人は十条駅と東十条駅の間にあるレトロな一軒家に暮らしています。

「十条に住み始めたのは、8年ほど前に友人からこの一軒家を紹介してもらったのがきっかけで、それまでは正直、十条に何のイメージもありませんでした(笑)。引越してきてはじめて、こんなに住みやすい街だと知って驚いたんですよ」という孝雄さん。

十条とはどんな街?

「まず、交通の便がいいですね。うちは十条(埼京線)まで8分、と東十条(京浜東北線)まで3分の場所にあるので、両方の路線が使えますし、王子に出れば南北線(東京メトロ)も利用できます。車を使うときは環七や東北道にも出やすい。赤羽の隣なのに、とても静かなところもいいですね」

フリーランスのカメラマンである孝雄さんは、仕事によってさまざまな場所に出向いて撮影を行うため、十条の立地も気に入っているそうです。

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岡田邸の2階にて。ご友人のツテで借りた家を、自らほぼフルリノベーションした

「それからやはり、すごいのは商店街ですね」とご夫婦は口をそろえます。十条駅北口のロータリーからは、都内有数の規模をほこる商店街群が広がっています。「十条銀座商店街」「十条富士見銀座商店街」「演芸場通り商店街」「十条仲通り商店街」「いちょう通り西口商店会」の、5つの商店街が集まっており、お店の数はおよそ500店舗とのこと。

衣料品や本、雑貨、文房具、何でもそろいますが、とくにすごいのは食料品。青果店や鮮魚店をはじめ、コロッケややきとりなどの惣菜を売る店が並び、人気店には行列ができるほど。全国でシャッター商店街が増えているなか、そのにぎわいぶりは驚異と言ってもいいでしょう。

物価が非常に安いのにも驚かされます。歩いてみると、コロッケ30円にやきとり50円、299円の衣料品、紳士靴にも500円以下の値札が。これほど激安店が並ぶ商店街はなかなかお目にかかれません。

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十条銀座の惣菜店。多くがアーケードの下で露天スタイルで商っている。基本的にどこも激安

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こちらは古着屋さん。基本的に1000円以下。新品を扱う店もやはり安い

商店街は岡田夫妻の生活にも欠かせません。編集者の真由美さんはお弁当を持って通勤しているため、商店街は買い出しの強い味方です。

「私は商店街が好きなので、最初からこの街を気に入りました。お店の人と仲良くなって買い物するのが好きなんです。今では仲良くなりすぎて、何も買わずに素通りするのが難しいぐらい(笑)」と真由美さん。

一方、料理写真を得意とし、グルメ雑誌などでも活躍する孝雄さんは、やはり食に敏感。おいしいものへの探究心が強く、自らも包丁をふるいます。

「十条銀座だけでも2軒の魚屋さんがあるんですが、どちらも安くて新鮮でおいしいんです。私はよく刺身を買ってきていただくのですが、時には寿司を握ったりもします。『鳥大』の朝じめの鶏肉も素晴らしいですね。新鮮なので、タタキにして食べると最高。もも肉を唐揚げにするのも好きです」(孝雄さん)

ある商店街の研究者によると、鮮魚は長く売り場に置くことができないため、商店街の経済活動が停滞すると、まず鮮魚店が最初になくなるのだそうです。2軒も鮮魚店が残っているということは、十条銀座が元気な証拠でもあるわけですね。

とはいえ、「彼は料理好きなのはいいんですけど、ちょっと揚げ物が多いのは気になりますね。一度喧嘩になったときに、揚げ物は週に何回まで、という決まりをつくったぐらいですから(笑)」と真由美さん。

孝雄さんの揚げ物好きもさることながら、「鳥大」が家から近すぎるのも原因の一つのような……。

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鮮魚店には新鮮な旬の魚が並ぶ

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孝雄さんお気に入りの「鳥大」。夕方になると行列ができる。チキンボール1個10円(1人50個まで)が名物

街を掘り起こすほどに暮らしの楽しみが広がる

岡田夫妻は、オフの日も街の資源を上手に活用しながら暮らしを楽しまれています。昔ながらの銭湯「十條湯」でリフレッシュしたり、広々とした「北区中央公園」でジョギングをしたり、「パノラマプール十条台」で泳いだり。お二人ともお酒が好きなので、飲み歩くのも楽しみの一つ。

「やっぱり、手軽に飲める赤羽が近いっていうのはいいですね。赤羽には自転車で行ける距離なのですが、飲むときは電車です。この距離感が逆にいいのかもしれませんね。せんべろで有名な『いこい』が徒歩圏内にあったら、ちょっと危険ですから(笑)」(孝雄さん)

「赤羽の飲み屋街はいいですね。私も一人で飲みに行くこともありますよ。でも、お芝居を観に行ってカフェで一休みとか、こじゃれたイタリアンやビストロで一杯みたいな雰囲気が、たまに恋しくなることもありますけど(笑)」(真由美さん)

大衆酒場が集まるお隣の赤羽に繰り出すことも多いそうですが、最近の十条でのお気に入りは、スタイリッシュなバル風の店内で日本酒の飲み比べが楽しめる「サケラボトーキョー」と、自社工場で醸造した個性的なクラフトビールを提供している「Beer++(ビアプラスプラス)」だそうです。

「赤羽や十条というと、安く飲める大衆酒場のイメージがありますが、最近は上質なお酒を出す店も増えてきたのがうれしいですね」(孝雄さん)

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敷地面積64,000㎡におよぶ広大な「北区立中央公園」。元は陸軍の軍用地で、終戦後はアメリカ軍に接収されていた。1971年に返還され、1976年に公園として開放された

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2015年夏にオープンした「サケラボトーキョー」。週末は満席になるほどの人気店

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こちらも十条のニューフェイス、クラフトビールの「Beer++」。「スタンプカードも持っていて、貯まるのが楽しみ」(真由美さん)

また、地域や季節のイベントごともチェックして、積極的に出かけているそうです。

「2月には『王子稲荷神社』の凧市に行って、毎年火伏せの凧を購入します。春は『飛鳥山公園』でお花見。6月には朝鮮学校の文化祭に行っています。チマチョゴリのファッションショーや着付け体験もできておもしろいですよ。あと、『お冨士さん』にも欠かさず行っていますね。『お冨士さん』は、十条にある富士塚の例祭で、毎年富士山の山開きの日に縁日が立つんです」(真由美さん)

十条周辺は、いわゆる「下町」というわけではありませんが、近隣では歴史ある催事やイベントが豊富。そういった情報を見逃さずに参加していくことも、この街を楽しむ秘訣のようです。

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凧市や、年末年始の風物詩「王子の狐」で知られる「王子稲荷神社」。東十条から京浜東北線で2駅先の王子駅が最寄駅

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江戸時代から富士講の人々の信仰を集めてきた十条の「冨士塚」。毎年富士山の山開きの際には、200以上もの露店が立つ 

地域コミュニティに入ってみて分かった十条の良さ

「この街の良さは、気取らずに暮らせるところ」と孝雄さんは語ります。

「この界隈の人たちは、古い家を手入れしながら住み続けているところがいいですね。地方だと、わりとすぐに新しい家に建て替えてしまう傾向があるように思います。あっちの家がきれいにしたから、うちもきれいにしよう、誰々の家がクラウン買ったから、うちはセルシオだ、とか。そういう見栄を張らなくて済むのが気楽でいい」

岡田夫妻は、推定築70年ほどの一軒家を、自らの手でコツコツとリノベーションしながら住んでいます。物件を決めた当初はあちこち傷みが出ていたため、引越す前に当時住んでいた葛西の自宅から通いながら修繕したといいます。古くなった畳を捨て、床を張り替え、壁に断熱材を入れ、半年かけて内装を整えたのちに新生活をスタート。そして、暮らしながら3年ほどかけて、屋根や水道管、玄関の屋根などを、そのつど修繕していきました。

手間暇かけてリノベーションされた家は、レトロな雰囲気を残しながらもこざっぱりした上品な住み家に仕上がっています。

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2階の天井部分。天井を抜いて、壁面も全て塗り直した

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1階から階段を見上げると、階段のレトロさが際立つ

「けれどまだ北側の外壁はなどは手がつけらていなくって、そのうち塗らないといけないんです。谷根千や鎌倉でこの状態だと気が引けますけど、ここだったらマイペースに直していけばいいやと(笑)。でも、近所の人の目は行き届いているから、ごみ捨て場などはきれいで荒れていませんよ」

「この辺は、地域のつながりがきちんとあるところがいいと思います」と真由美さんが続けます。真由美さんは月に一回、「北区中央公園」で行われる障害をもつ子どもたちのための乗馬体験のボランティアをしており、その場で地域の人と交流をもつようになったと言います。

「ボランティアが終わった後に、地元の方から飲みに誘っていただくようになって。『じゃあ行こう』と、『天将』とか、昼間から飲めるお店に(笑)。地域の人同士仲がいいと、将来子どもをもったときにも安心感がありますね」

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見るからに渋い大衆食堂「天将」。知る人ぞ知る名店だ

十条の家賃相場、物件の傾向は?

十条の街には派手さはないものの、東京でかつてはよく見かけた商店街のおっちゃんの威勢のいい掛け声や、ご近所さんとのおつきあいが残っており、どこかホッとするような温かさがあります。肩肘張らない雰囲気は、自然体な岡田夫妻の暮らしぶりにとてもマッチしているように感じました。

最後に、家賃にも触れておきましょう。十条の家賃相場は、ワンルームで6.6万円。お隣の赤羽駅が6.9万円なのに対してリーズナブルです。(SUUMO家賃相場/2017年1月10日現在)また、賃貸物件の数が豊富なので、ワンルームから一戸建てまで、選択肢の幅が広いのが魅力。さらに十条の賃貸物件の特徴としては、激安物件が多いことも挙げられます。なかには、2万円台3万円台の激安ワンルーム物件も。ただし、リフォーム済みでない場合、風呂がないことが多いのでご注意を。

以上のことから、十条は、「とにかく安く住みたい!」という人や、生活・交通利便性のよさも合わせると学生さんやシングルの方、若いカップルさんにはオススメと言えるでしょう。

賃貸ほど数はありませんが、中古の分譲マンションは、3LDKで3500万円から4500万円程度が標準的な価格帯です。また、さらに数は減りますが、新築の一戸建ての場合は1LDK+2S(納戸)〜2LDK+Sで4000万円ぐらいから検討できるでしょう。

赤羽周辺で物件を探している方は、ぜひ十条も候補に入れてみてはいかがでしょうか。

 

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取材・文/鈴木さや香 撮影/中村宏覚