読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

歩いて食べて、の繰り返しで好きになる「池尻大橋」

著: トミヤマユキコ 

池尻大橋との出会いは、今から10年ほど前にさかのぼる。大叔母から借りていた要町のマンションが、彼女の高齢化にともない売りに出される運びとなり、「ならば三軒茶屋に引越したい!」と思っていたわたしに、中学時代からの友人ゆみちゃんが「うちの親がマンション経営やってて、三軒茶屋の隣町に物件があるんだけど、空きがあるか聞いてあげようか?」と言ってくれたのだった。渋谷から二駅という便利さにもかかわらず都会っぽさがあまりなく(褒めてます)、シブい飲み屋やのんびりとした商店街がある三茶にわたしは憧れていた。

その時点で池尻大橋のイメージは限りなくゼロに近かった。でも、大好きな三茶に歩いて行けるのだから文句はない。結局わたしはほかの物件を一切見ることなくそのマンションに入った。そして数年後、いまのパートナーと付き合い始めると、大家さん=ゆみちゃんパパが「別のマンションの部屋がひとつ空きそうだよ」と言ってくれて、笹塚に住んでいた彼が同じ町内に引越してきた。

やがてわたしたちは結婚することになったが、ふたりぐらしのための部屋もまた、大家さんに紹介してもらったものだ。ちなみにその部屋は、大家さんご夫婦が新婚時代を過ごした部屋。というわけで、池尻大橋での暮らしは、どう考えてもゆみちゃん一家の優しさによって支えられている。ありがとうございます。

「池尻大橋に住んでいる」と言うと「オシャレですね」という反応がかえってくることが多いし、実際オシャレだと思うこともあるが、生活者にとっての印象は、なんといっても「スーパーの数が異様に多い」である。オオゼキ、Odakyu OX、LIFE、食品館Bon Visage、だけでもすでに多すぎな気がしているのに、春には成城石井がやってくるという。どうなってんだこの街は……便利だからいいんだけど。ちなみに我が家は安くて新鮮な野菜が買えるオオゼキを一番利用しているが、お惣菜の種類が多いLIFEも好きだ。料理をする気が起きないときなどに助けてもらっている。

f:id:SUUMO:20170313122514j:plain

f:id:SUUMO:20170313122439j:plain

f:id:SUUMO:20170313123123j:plain

スーパーのほかにも大きめのドラッグストアが3軒くらいあるし、ちゃんと数えたことはないが、クリーニング屋も数十mおきにある感じ。池尻ってオシャレ一辺倒に見えて、案外生活の基礎部分がしっかりしている。引越してくる前は「どうせ三茶のほうが充実してるんだろ!」とか思っていたが、そんなことはなかった(うれしい誤算)。

池尻大橋には気の利いた飲食店がたくさんあるので、なんとなく夜のイメージが強い。でも、わたしとこの街との付き合いは、昼〜夕方の時間帯に集中している。わたしは散歩が好きで、仕事に煮詰まると街を歩くことにしているのだが、池尻大橋に引越してきてからというもの、考えを整理するための散歩はいつだって「ご近所うまいもの巡り」になってしまうのだった。

今日も散歩の途中でチョコレートの店に吸い寄せられてしまった。「CRAFT CHOCOLATE WORKS」は、Bean to Barといって、豆の仕入れからチョコレートをつくるまでの工程を全部自分たちでやるお店。店員さんのレクチャーを受けながら、20種類近くあるチョコを試食しつつ、自分好みのものを探し当てるのが楽しい。

f:id:SUUMO:20170313122548j:plain

f:id:SUUMO:20170313122614j:plain

仮にチョコレートの店の誘惑に勝ったとしても、その先にアップルパイの店「GRANNY SMITH APPLE PIE & COFFEE」が待ち構えているため油断ならない。店には常時5種類くらいのアップルパイがあるのだが、この日は、わたしの大好きなタルトタタンがあった。レギュラーメニューじゃないから、次はいつお目にかかれるかわからない……。まあ当然買いますよね。

f:id:SUUMO:20170313123030j:plain

f:id:SUUMO:20170321110356p:plain

f:id:SUUMO:20170321120934j:plain

そんな寄り道をした後は、戦利品の入った紙袋をぶらさげたまま世田谷公園をうろうろ。立派なSLが展示されていたり、園内に子ども用SLの線路が敷かれていたりするので、いわゆる鉄っちゃんにはたまんないんだろうな、などと考えつつ、一時期「Pokémon GO」のプレイヤーでごったがえした噴水とかを見るともなく見る。

f:id:SUUMO:20170313123216j:plain

f:id:SUUMO:20170313123248j:plain

公園をぐるっと一周しただけで満足して帰るときもあるが、もう少し足を延ばして、目黒天空庭園に行くこともある。ここは首都高速大橋ジャンクションの上につくられた屋上緑化の公園。面積が約7000㎡とかなり大きく、やや高低差があるため、ちょっとした山登り気分を味わうことができる。頂上の眺めがよいのも山登りっぽい。

f:id:SUUMO:20170313123528j:plain

f:id:SUUMO:20170313122946j:plain

ここでひと息ついたら、いい加減まっすぐ帰ればいいものを「もうここまで来ちゃったんだから」と自分に言い訳をしてもう少し歩く。天空庭園のすぐ目の前には「目黒川緑道」というのがあって、ボランティアの方々が手入れした四季の草花を見ながら歩くことができて楽しい。

f:id:SUUMO:20170313122844j:plain

f:id:SUUMO:20170313122914j:plain

目黒川の見事な桜も良いが、個人的には目黒川緑道にぽつぽつと咲く桜もいい。というか、わたしは断然緑道派で、缶ビール片手に毎年プチ花見をしている(つまみはもちろんスーパーのお総菜)。都会の真ん中でちゃんと四季を感じられるこの街を、わたしはとても気に入っている。三茶が憧れの先輩だったら、池尻は話の合うクラスの男子って感じだ。

夕暮れ迫る緑道を散歩していると、夕方から開店する不思議なパン屋「Woody BAKERY」のことが気になってくる。今日はもうチョコとアップルパイを買ったし、このあとスーパーにも行くんだし……とは思うものの、ドアから覗いてよさげなパンがあったらもう買うしかない(焼いて食べるとうまい系のパンが多い)。

f:id:SUUMO:20170313122809j:plain

f:id:SUUMO:20170313122826j:plain

こうして、散歩に出かけたのか買い物に出かけたのかよく分からない状態で帰宅するのがわたしの日常だ。楽しいが、散財しちゃうのが困りもの。そう思いながら、また散歩に出かける。その繰り返しのなかで、わたしはこの街を少しずつ、しかし着実に好きになっていくのだろう。

賃貸|マンション(新築マンション中古マンション)|新築一戸建て|中古一戸建て|土地


著者:トミヤマユキコ

トミヤマユキコ

ライター・早稲田大学文化構想学部助教。『文學界』『ESSE』『エル・グルメ』などで日本の文学・マンガ・フードカルチャーに関する連載を持つライター。大学では少女マンガ研究を中心としたサブカルチャー関連講義を担当。著書に『パンケーキ・ノート』(リトルモア)、『大学1年生の歩き方』(左右社)がある。

連載:http://tababooks.com/taxtbinfo/joshi-manga Twitter:https://twitter.com/tomicatomica