2015年2月某日、私はひとり丸の内にたたずんでいた。
丸の内に来るといつも『「丸の内OL」って具体的にはどういう女性なんだろう』と思う。わざわざOLを観察しにここへ来たわけではない。丸の内に本社ビルを置く株式会社リクルート住まいカンパニーで、不動産・住宅サイト「SUUMO」の編集長と会う約束をしていたのだ。
西東京の某所にあるややボロいアパートのポストに「契約更新のお知らせ」が届いたのは1月のことだった。
「大学に近いから」という理由で父が選んでくれたそのアパートは学生でいるうちは便利であったが、卒業した今では打ち合わせに行くにも遊びに行くにも不便極まりない物件だった。契約が2月末で切れることになっていたので、この際、引越しちゃおうと不動産会社に退去届を出したはいいが、自分ひとりで引越しをした経験がないためどうすればいいか分からず途方に暮れていた。
そうこうしているうちに退去日まで1カ月を切り、とうとう「『家なき子』にでもなります」と自暴自棄になる私を見かねた株式会社はてなの営業部長T氏が「引越しのプロフェッショナルを紹介してあげるからその人に相談しなさい」と優しい言葉をかけてくれ、会談の場を設けてくれた。その引越しのプロフェッショナルというのがSUUMOの編集長、池本洋一氏なのであった。
池本洋一氏は約20年前から住まいの研究を続けている、いわば住居においての第一人者だ。テレビや雑誌などさまざまなメディアに出演し、住まい選びのポイントや、近年の日本の住宅事情について解説をしている。
↑池本洋一編集長(想像図)
(※株式会社ガイナックスのガイドラインに沿って掲載しています。配布や転載は禁止です)
SUUMOの編集長というくらいだからきっとものすごく偉くてお金持ちなのだろう、と想像した私は恐怖に震えていた。「子どもの駄々に付き合っている暇はない」などと言われ一蹴されるに違いない。
「引越しをされるそうですね」
実際の池本氏は思っていたより柔和そうな方でホッとした。
「退去予定日はいつなんですか?」
暇「2週間後です」
「はっきり言って相談に来るのが遅いです」
編集長「どの辺りに住みたいんですか?」
暇「……や……山手線の円のなかに住みたいです。芸能人に会えそうだし……例えば中目黒とか」
「中目黒は山手線の外なんだけど」
↑株式会社はてな営業部長T氏
「すみません編集長。この子は引越しが初めてなんです……お手柔らかにお願いします」
編集長「……家賃のご予算はどのくらいで?」
暇「ろ……6万5000円です」
「なんだってー!」
「芸能人のいるエリア……港区、目黒区、渋谷区などは、物価も家賃ももっと高いんですよ……」
「芸能人って、例えばどんな芸能人に会いたいんですか?」
「サブカル有名人とか……お笑い芸人さんに会いたいです」
「ふむふむ……」
編集長「それさ……山手線のなかじゃなくてもよくない?」
「え?」
「『中野』ってどうよ」
「ナ・カ・ノ……?」
中野は「2014年版 不動産のプロがおススメする街ランキング『実は穴場な街』」第1位
「昨今、中野駅周辺は独身の女性に人気なんだ。『2014年版 不動産のプロがおススメする街ランキング 実は穴場な街』で第1位になっている。『2015年版 みんなが選んだ住みたい街ランキング 関東版 穴場だと思う街(駅)』でも第4位に入っている」
「なぜですか?」
「理由は大きく2つある」
まずは駅が再開発されてオシャレになったこと。
もう1つは、街に1人でも入りやすい女性向けのバーやカフェが増えたこと。
中野には本当にいろんなタイプの人間が集まっている。見知らぬ人と飲むのが好きな女性や、出会いを求める女性にとっては楽しい街だ。フラっと入った店で文化人や業界人に会えるなんて可能性もある。国際交流系のキャンパスもあるから、留学生も多い。『まんだらけ』に通えばアニメや漫画好きの外国人と友達になれるかもしれないぞ。
「へえ~。中野って……」
「阿佐ケ谷・高円寺ほどディープにアングラの世界へ入り込む自信はないけど『サブカル好き』をアピールしたい人や、『大都会』って感じのイケイケな街に住めるほどの金は持ってないけど新宿の隣ということでアクセスの良さと一応のプライドを保とうとしている人の巣窟だと思ってた……でも言われてみればそういう『イイとこ取り』な感じも欲張りな私にはピッタリかも……」
『……ただの世間知らずだと思ってたけど、なんだかこの子……』
「ちなみに編集長が個人的におススメする街は『赤羽』『蒲田』『北千住』だ。変わりつつあるそれぞれの街の魅力を、SUUMOの記事でも紹介している。『住みたい街ランキング』で毎年のように話題にのぼる街にわざわざ住むと高くつくことも多いが、ちょっと視点をズラすだけで意外な穴場物件を見つけられることがあるぞ!」
「これだけは譲れない」という条件を決めておこう
「家賃以外で譲れない条件はあるか? 例えば、バス・トイレ別とか、駅徒歩5分とか、イグアナ飼いたいとか、ギターをかき鳴らしたいとか」
「壁が厚いところがいいです。……今住んでるところは壁が薄すぎて、隣人の話し声とか笑い声が全部聞こえるんです」
『……わざわざ聞いてたりして……』
「そういうときは『鉄筋コンクリート』造の物件を選ぶといい。住宅サイトの検索条件のところに『アパート』とか『マンション』とか書いてあるチェックボックスがあるだろう?」
基本的に「アパート」が木造建築、「マンション」は鉄筋コンクリートだ。鉄筋コンクリート造なら、部屋と部屋の間にコンクリートを流し込んであるから遮音性が高い。ついでに言うと断熱性も高いから、木造建築よりは冬でも室温が下がりにくいぞ。
「あともう1つは、4階以上の部屋に住みたいです」
編集長「どうして」
「……絶対にゴキブリに出会いたくないんです。4階以上ならゴキブリは出ないってウワサを聞きました」
「あほう、そりゃただの都市伝説だ。古くて汚い部屋なら4階だろうと出る!」
編集長「まあでも、女性だしセキュリティのことなんかを考えて『2階以上』を選んでもいいな。あと忘れちゃいけないのが『即入居可』だろう」
「あ、そうだった。忘れてた」
「『3月半ばまではまだ人が住んでるから、入居できるのは月末になってから』なんてケースは山とある。そういうことをちゃんと確認しておかないと家財道具を抱えたまま途方に暮れることになるぞ」
おトク物件を掘り出すキーワードは「築年数指定なし」
よく住居を探すときに「新築」「築浅」で選ぶ人が多いけど、賢くお借りドクな物件を探したいなら迷わず「築年数指定なし」をチェックしよう。築年数が古いといっても日本の住居は比較的地震に対して強くつくられているのでそこまで心配することはない。古いのが心配なら、現行に近い耐震基準の『築30年以内』だな。それに築年数が古い物件は入居者がつきにくいということを大家さんも知っているので、内装リフォームできれいに生まれ変わっている部屋も多いから狙い目だぞ。
じゃあ、今までで上がった「家賃6万5000円以下」「鉄筋コンクリート」「2階以上」「即入居可」「築年数指定なし」という条件で絞って検索してみよう。
「この辺に住みたい」をかなえる「なぞって検索」が超便利
編集長「SUUMOのスマホアプリの検索方法は5つあるけど、一番おススメしたいのがこの『なぞって探す』方法」
SUUMO iPhoneアプリ | リクルートの不動産・住宅サイト SUUMO(スーモ)
SUUMO Androidアプリ | リクルートの不動産・住宅サイト SUUMO(スーモ)
「『●●駅から徒歩15分』という表示はされていても、その物件が南口から出て15分なのか北口方面にあるのか分からなくて、もどかしい思いをしたことはないか? 『この建物の半径1km以内に住みたい』と思っても、見知らぬ土地の住所を細かく調べて検索条件に入力するのは面倒くさいと思わないか?」
「『テーマパークの花火が見える距離に住みたい』と思ったことはあるけど、具体的になんて検索ワードで探したらいいか分かんないかも」
「中野駅」とか「スカイツリー」とか「金閣寺」とか、ざっくりと希望のエリアを入力して地図を表示させる。
画面下部にある青いボタンを押して、目的の建物の周りをなぞると……
金閣寺の周りには意外と空き物件があると分かる!
おうちマークをクリックすれば詳しい物件情報を見られるし、そのまま内見予約もできちゃうぞ。
「こりゃ画期的ですね。琵琶湖の周りの物件情報なんか無駄に調べて遊んじゃいそう」
↑成約済の物件が載っていた際はユーザーに報告してもらうなど、地道な取り組みでWebと実際の情報の齟齬(そご)を減らしている。
↑実際の池本編集長と、実際の引越し相談会の様子。
編集長「中野駅周辺で探してみよう」
「見つけた! 中野駅徒歩5分! 温水洗浄便座付き! ……あ、でも定期借家だ」
「テイキシャッカ?」
「定期借家(ていきしゃっか)」とは何か
「定期借家というのは、転勤の間だけ物件を人に貸したい人などが、期限付きで部屋を貸し出している物件のこと。借りる人にとっては、期限が来て、貸主に出ていってと言われたら、否が応でも新しい引越し先を見つけなければいけない、というデメリットはある」
(※その後も住んでもいいよ、という場合もある。期限後、退去してと言われたら、3カ月以内に退去しなければならない)
「でも、その代わりに相場よりも安い家賃で借りられるよ。この物件もこれだけ良い条件でこの値段は相当おトク。引越しが好きな人なら最高なんじゃないかな」
「せっかくだから港区や中目黒なんかでも探してみようか……」
「おっ! 港区白金1丁目。4階建ての4階。23平米、角部屋、バストイレ別」
「とうとう私も『シロガネーゼ』ですね」
「和室だけどね」
「えっ」
編集長「『和室だから』って毛嫌いするのはちょっともったいないかもよ?」
DIYで部屋までクリエイティブに改造しよう
「畳の部屋がどうしてもイヤならフローリングカーペットを敷くのもアリだし、今なら無垢(むく)の床材も安く売っているから、洋室に変身させるのも簡単。新築は難しいかもしれないけれど、築年数が古い物件なら壁紙を変えたり、キッチンの壁にアクリル板を張って磁石が使えるようにしたりとかも自由なところが多いんだ」
↑SUUMOには「DIY可」というレアなチェックボックスがある。
その後も編集長自ら良い物件をいろいろ探してくれた。憧れの中目黒にもお手ごろ物件があった。
編集長「あるねえ、探してみたら意外と。でも本音を言えば、今の時期に引越しをするのはあまり賢いとは言えないなあ」
「……どういうことです?」
「もちろん選べる物件のバリエーションが多いのはこの2〜3月なんだけど、家賃交渉しやすいのはゴールデンウィークを明けてから。その時期までに入居者が決まらなかった物件というのは、大家さんが焦っているケースが多い。『1年間誰も住んでくれないかもしれない』と心配しているところに訪ねて行けば『家賃を5000円下げてください』という無理なお願いも聞いてくれる可能性がある。だから、検索するときも『希望の家賃+5000円』で検索してみて。家賃を下げてくれなくても、『フリーレント』といって1カ月分の家賃をタダにしてくれたりする場合もあります」
「うわぁ知らなかった。今度引越すときはそうしよう……」
編集長「……ほかに何か聞きたいことありますか?」
「編集長のおうちって、どんな家ですか?」
編集長「一戸建てで、注文住宅ですね」
「そのおうち建てるのにいくらかかったんですか?」
「教えるわけねーだろ」
著者:暇な女子大生 (id:aku_soshiki)
「暇な女子大生が馬鹿なことをやってみるブログ」を書いている女子大生もといフリーライター。いま一番行ってみたいのは熱海秘宝館です。
編集:はてな編集部