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自分らしさってなんだ。千葉らしさってなんだ。

著: いのっち 

18歳の春、僕は千葉駅に立っていた。大学受験に鮮やかに失敗した僕は、1年間予備校へ通わせてもらっていて、その予備校が千葉市にあったのだ。その時から千葉って街は、なんとなく自分に似ていると思っていた。

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東口を出て、京成千葉駅方面へ足を進めれば飲食店がずらっと並ぶ。高校生と同等のポテンシャルを持っていた僕の胃袋は十二分に満たされ、マックや吉野家みたいなチェーン店はいつだってお財布に優しかった。

パルコ前の道まで行けば思春期真っ只中の感性を受け止めてくれる服屋がそろっていた。実家の市原周辺では年ごろの男子の服は買えなかったので、ぺらぺらの心もとない財布をデニムのポケットに突っ込み、予備校の合間をぬってコツコツ子どもから脱皮しようと勤しんだ。

千葉は市原と比較するとまるで都会のようだった。ただ、都会と言っても東京のような「大都会」じゃない。千葉で過ごしている皆が、もちろんそのことを理解をしている。けれども、街だけは変に東京のような大都会に近づこうと、無理やり努力しているようなところがあるように思えた。その身の丈に合わない「ちぐはぐ感」が僕には愛らしく感じていた。高みを望むのに、自信がまったくない自分のように思えた。

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毎日予備校に通いながら「どうしてこんなに自分は自分に自信がないんだろう」と思っていた。なんとなく志望校を高く掲げていても、自分なんかがその学校に通えるはずがないと心のどこかで思っていたし、現役の時に受けた入試は全てガチガチに緊張してつまらないミスをした。その度にまぁそんなもんか、と思ってうまく笑ってみせようとしたけど、自己採点で国立大学の数学2点はさすがに笑えなかった。もうちょっとできただろうよ。

とにかく、当時は自分の"芯"のようなものを持っていなくて、だからいざというときにも力の込めようがないし、最終目標の設定のしようがなかった。自分は何ができる人間なんだろう、何をすれば良いんだろう、それが分からないから、ただがむしゃらに漠然と考える"上"を目指すしかなかったんだと思う。目に見える分かりやすい目標を目指すのが一番楽だったのだろう。

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はっきり言ってその時は辛く、何をしてもパッとしなくて、毎日ただ目の前にその場限りの目標をつくって、こなそうとしていた。また、自分はそもそも能力が低いのだから、友達なんてつくってたら後れを取ってしまうと思って、できる限り予備校では友達をつくらないようにしていた。自習室にこもるのも嫌がって、講義が終わり次第家に帰り、机にかじりついて勉強をしていた。

まぁ、結果から言うと友達は予備校でたくさんできたし、自習室にこもらないようにしよう作戦も早々に決壊した。でも今は、予備校で初めに僕に声をかけてくれた小倉君にはすごく感謝している。あの出会いがなかったら、おそらく受験の結果や、そのあとの大学生活までだいぶ変わっていたと思う。

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浪人とは、外から見ると受験勉強の期間である。ただ、その期間を越えた自分が今にして思うと、「自分との対話」の期間だったのかも、なんて思う。テーマがたまたま「受験勉強」だっただけで、そのテーマについて、「自分はどういうアプローチができるんだろう」、「行き詰まったときに自分が本当に大事にできる価値観は何なのだろう」、というのをしっかりと考え、つかむ期間だったのかもしれない。

とにかく、千葉で過ごした1年間は、僕に僕自身の「戦い方」のようなものを考えさせてくれた期間だった。その期間があったから、10年たった今の僕はしっかりとした自分の"芯"を持つことができているんじゃないか。

自分の話が長くなってしまったが……、「千葉」の話について。千葉の方も、あの時からだいぶ変わったらしい。2016年11月20日にJR千葉駅がリニューアルオープンしたという。だからというわけじゃないが、久しぶりにふらっと千葉の街を歩いてみることにした。

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新しい駅ビルはまだまだ完全オープンとは言えないけれど、既に「松戸富田麺業」や「ピーターパンJr」なんかはびっくりするくらい行列ができていた。どちらも千葉県ならではの美味しいお店だ。

駅舎の中で聞き耳をたてると、そこかしこの人が「すごい綺麗になった!」、「おー、スーパーみたいでいいねぇ」、「デカくてホームが分かんねぇや」などさまざまなリアクションをしている。各々別のリアクションだけど、おおむね新しい姿をポジティブに捉えているようだった。慣れ親しんだ場所だけに、何だか自分のことのようにうれしくなってしまう。

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新しくなった駅舎の中で、ふと現千葉市市長の熊谷さんの言葉を思い出した。以前、あるインタビュー記事で千葉の持つ「千葉ならではの良さ」について語っていたのだ。千葉自体も、これまで都会ぶってその良さをうまく伝えられなかったことがあるらしい


そうなんですよ!変に都会ぶったのが良くなかったのかなと思ってます。いくら都会ぶった所で東京には勝てないですからね。千葉には東京には無いバランスの良さがあるのに。


意外とね、住んでる人からすると『どう見られてるか』ってわからないものなんです。千葉市にビーチがある事を東京の人は知らなかったりするんですよ。幕張が千葉市にあるって事を知らない人もたくさん居るし。

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千葉も一旦自身の価値を見直した結果として、今回のように変化をし始めているのかもしれない。だとしたらやはり僕と似ているんではないか、と勝手に親近感が湧いた。もしかしたら同じ時期に、もやもやを共有していたのかもしれない。いや、流石に気のせいか。

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駅を出て見慣れた道を歩いた。東京よりも街路樹の多い道は、広々として気持ちがいい。人も多すぎず少なすぎずちょうど良い。この「ちょうど良さ」が僕は好きだ。

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せっかくだから何か食べていこう。10年前は貧乏浪人生だったが、今は一応会社員であるので、多少は好きなものが食べられるようになった。とは言え……足が覚えているのは、ラーメンか定食屋さんだ。

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ぶらっとやってきた千葉の「武蔵家」は、横浜で家系の味を知ってから通うようになったお店だ。キレッキレのスープと、中太もちもちの麺をおかずにライスを食べるというスタイルにハズレはない。個人的に千葉の中でガツンとした家系ラーメンを食べられるお店は貴重だと思っているので、年末に千葉に帰ってくるたびに寄ってしまう。この日は楽しみを年末に残しておこう、と思ってあえてスキップすることにした。

かわりに訪れたのが「らーめん亭 よ志乃」さん。千葉らしいというか、実家の近くでよく家族で食べに行っていたラーメン屋さんと似た懐かしい味がするお店だ。

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何よりこのお店の好きなところは、この溢れでる"庶民感"である。東京や横浜のラーメン屋みたいに味が一つしかないなんてことはなくて、味噌・塩・醤油、さらにはカレーまで何でもそろっている。節操がないくらいだ。いつも五目ラーメンか五目焼きそばにセットで、おつまみをつけていたのだけど、今日はどうしようかと考えていたら、素敵なメニューを見つけてしまった。

その名も「キーマカレー」。ただのカレーじゃない、なにせ麺とライスのハーフ&ハーフができるのだ。節操がないにもほどがあるだろうと思いつつ、面白かったので注文をした。

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店内の雰囲気は「アットホーム」といえば聞こえは良いが、少々安っぽい。でもそれが好きなのだ。雰囲気だけで言うならば、浅草の立ち飲み屋に近いが、こちらの方が広くて、よりくつろげる。くつろげるのだから、ビールを頼んでも構わないだろう。

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注文したのはキーマカレーと餃子セット。ビールが少し減っているのは、待てずにちょっと飲んだからだ。仕方ない。

はっきり言ってしまうと、餃子もカレーも麺も特別な仕掛けがあったり、隠し味が入っているわけでもないし、何となくどこかで食べたことがあるような味がする。でもそれが良い。どこかで食べたことのある味の餃子をつまみに生ビールを飲み、庶民的な味のするキーマカレーで胃を満たす。最高だ。

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何か特徴があるというお店ではないから、誰もにおすすめできる店ではないかもしれない。でも、力を抜いてその時間を楽しみたいなら足を運んでみるのもいいだろう。変に"ぶってない"味が楽しむことができる。

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歩きながらふと「千葉はこんなにも力を入れずに過ごせる街だったのか」と思った。あの予備校時代に街から感じた「ちぐはぐ感」は、きれいさっぱりなくなったんじゃないだろうか。いや、駅がただ変わっただけでこんなにも印象は変わらないだろう。確かに千葉は変わった。でも、千葉とともに僕自身が"芯"を持てるように変わったのも大きいんじゃないだろうか。

僕が千葉にいた時に学んだことは、「何となく高いレベルを目指す」だけでは具体的に何をして良いか分からず、迷ってしまうということ、前に進むことができなくなってしまうということだ。自分の良いところはどこか、自分に今できないことは何か、自分自身と向き合う中で、自分の輪郭をはっきりとさせながら、目指す姿を形づくっていくことの大切さ。でも、それはただ何となく毎日を過ごすよりは、辛い作業なのかもしれない。黙っていればその場が楽しく過ぎていく日常に、無理やり問題意識をつくるような、正直面倒くさいことだ。

でも、自分の"芯"がなかった僕にはそれがきっと必要だった。そして、そのおかげで"芯"を中心に、今の「自分なりの良さ」を持つことができたんじゃないだろうか。

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久しぶりに訪れた千葉を歩き回りながらそんなことを考えたのは、きっと千葉という街も「千葉なりの良さ、千葉らしさ」を発揮するために、今も日々変わり続けようとしているのを、肌で感じたからかもしれない。

東京のような大都会とは違って、肩肘張らずに過ごしていける街、バランスの良い街、それが僕の感じる千葉の良さ。もちろん人によって感じ方は違うかもしれないが、僕はそう思う。少しずつ変わっていく千葉という街の姿に自分を勝手に重ねながら、もう一度気持ちを新たにして、自分も自分なりに前に進んでいこう、と思った。

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著者:いのっち (id:ino_null

いのっち

1988年生。ゆとり世代。千葉県出身、神奈川県横浜市在住。日本のメーカーでサラリーマンをやりながら大学院生として奮闘中。原付一人旅や音楽が趣味。原付日本縦断の途中でカメラの楽しさに触れて以来、カメラバカへまっしぐら。フィルムカメラを片手に365日毎日スナップしながら、なんとなく思ったことをブログ「銀塩日和」に書きなぐってます。

ブログ:銀塩日和 Twitter:@ino_null