日常と歴史が交錯する街「府中」で暮らす愉しさ

著: OKP 

結婚するにあたり「お互いの勤め先の中間点あたりに住もう」という単純な理由で引越してきたのが、今も住んでいる「府中」。住むまでは「右に見える競馬場、左はビール工場♪」くらいのイメージしかなく、以前勤めていた職場でも「“ふちゅう”って味スタのあるとこだっけ?」なんて、微妙に名前の似ているお隣の「ちょうふ(調布)」と混同されることがあり……。

同じ東京都民にすら、イマイチその実態が伝わっていない気のする府中ですが、住んでみるとこれがなかなかに味わい深く住み心地の良い街なのでした。その府中について「京王線の府中駅から西武多摩川線の是政駅(これまさえき)にかけてのエリア」、ちょうど府中街道沿いの徒歩にして30分圏内を紹介します。

ジョギングならちょうど一周に収まってしまいそうな、私が普段散歩で出掛ける府中のごく一部です。そんなさほど広くないエリアに、歴史と産業、緑豊かな市民の憩いの場まで、新旧さまざまな魅力が詰め込まれていることを少しでも感じてもらえると何よりです。

日常に「歴史」が溶け込んでいる

府中というと、皆さんどのようなイメージをお持ちでしょうか。東京競馬場や多摩川競艇場という公営ギャンブル。はたまたサントリーに東芝、NECにキユーピーなどなど名だたる大企業が集まった、にぎやかな工業都市というイメージをお持ちの方もいるかもしれません。たしかに、それらはこの府中を支える重要な要素です。

しかし、はるか昔の飛鳥時代には武蔵国の国府が置かれ、鎌倉時代後期は大きな戦の地となり、徳川家康は「府中御殿」を設け、江戸時代には甲州街道の宿場町(府中宿)として栄えていました。そんな歴史や伝統が今も色濃く残っている街なのです。

武蔵府中郷土かるた

その一つが、府中市内のいたる所に建てられている「武蔵府中郷土かるた」という標識です。その数なんと約50本……私もまだ10本くらいしか見たことがありませんけども(笑)。ちなみに「いろはにほへと」ではじまるカルタ札の最初の「い」は……

「いちばんはじめに武蔵の国府」でした。

そう、かつての武蔵国府があった国衙跡(こくがあと)です。国衙とは国府の中心、役所の集まった官庁街、県庁といった感じでしょうか。発掘調査後に国衙跡として整備され残っています。


大國魂神社(おおくにたまじんじゃ)

国衙跡と道を挟んで西隣にあるのが「大國魂神社」。府中駅前のメインストリート、馬場大門のけやき並木を参道とする神社です。

正月の三が日は延べ50万人の初詣客が訪れる都内屈指の古社であり、府中に住みはじめた年の大晦日に訪れた際は、夜中の時点ですでに正面の大けやきまで続く大行列に驚いたものです。その翌年は、散歩がてら1月2日の早朝に訪れてみることに。すると、驚くほどに静かな境内でお参りをすることができました。以来、地元の強みを活かし(?)、早朝に参拝することにしています。これ、なかなかオススメですよ。

大國魂神社の例大祭「くらやみ祭」

大國魂神社といえば、毎年ゴールデンウィークに開催される「くらやみ祭」でも有名です。期間中に多くの人でにぎわいます。

祭りのメインとされる神輿渡御(みこしとぎょ)は、8基の神輿が交通規制された街の中心街を練り歩きます。この日ばかりは、見慣れた府中市役所前の交差点も、溢れんばかりの観光客と神輿の担ぎ手たちで埋め尽くされ、ものすごい熱気です。

大國魂神社で参拝した後は「蔵カフェ」へ

その交差点の一角、くらやみ祭の神輿たちが目指す御旅所である「府中高札場」の向かいに「蔵カフェ」があります。大國魂神社の御神酒(おみき)も造っている創業1860年の野口酒造店が、古い蔵を改装して営む喫茶店です。

レトロテイストでまとめられた内装が特徴の静かなカフェ。2階はギャラリーとしても貸し出しているようです。窓際の席に座ると、いい具合に高札場が見えました。そうそう、この府中高札場、後ほど出てくるのでよく覚えててくださいね。

さて、ここ蔵カフェはランチメニューもありますが、ひと息つけるカフェとして地元の人に愛されています。ケーキや珈琲の他、蔵元ならではの酒粕でつくった「酒粕ラテ(ホット&アイス)」もちょっとした名物。

この日は少し暑かったのでアイスで。なんというか……柔らかな甘酒という感じでしょうか。途中からジンジャーパウダーをお好みで振りかけると、また風味が変わって美味しいんです。ケーキと飲み物をセットで頼むと50円安くなるので、チーズケーキを注文。濃厚でどっしりとした味わいを堪能しました。

蔵の奥の分厚い扉をくぐると、そのまま酒屋の「中久本店」につながっています。野口酒造店が造る各種地酒はもちろんのこと、各地から取り寄せた日本酒が並んでいます。蔵カフェでひと息ついた後に、つい日本酒を買ってしまった……。

まだまだある歴史を感じるスポット

蔵カフェの前の府中街道をJR府中本町駅方面に歩いていくと、駅前に写真のような広大な空き地が広がります。もともとスーパーの移設が予定されていましたが、土地調査で武蔵国府の国司が住んでいたとされる「国司館(こくしのたち)」跡や、徳川家康がタカ狩りの際に利用したという「府中御殿」の跡と考えられる数々の歴史的に重要な遺構が発見され、府中市が買い上げることに。大型スーパーの移転計画が立ち消えとなり残念な思いをしたのは、我が家が府中に住むようになって比較的すぐのころでした……。

この界隈は他にも京王線の分倍河原駅(ぶばいがわらえき)西方に広がる「高倉古墳群」や、JR南武線の西府駅近くにある美しい復元古墳「武蔵府中熊野神社古墳」など、古墳も数多く点在しています。

どれも特別に調べたわけでなく、散歩やジョギングの最中に偶然見つけたものばかり。引越してきた当初は、近所を散歩するだけでこのような史跡を目にすることに驚いていましたが、今ではこれらの歴史を感じる風景がすっかり日常に溶けこんでいます。

競馬場、市場、郷土の森……「今」の府中を歩いてみる

ここまで歴史スポットをいくつか見てきたので、続いて「今」の府中を代表するいくつかのスポットを訪ねてみましょう。東京競馬場から多摩川にかけてのどれも私が普段からよく利用している場所です。

東京競馬場からスタート

府中御殿にちなんだ「御殿坂(府中街道)」を下っていくと、左手に見えてくるのが東京競馬場のメインスタンドです。

この日はちょうど、G1レース「日本ダービー」開催日ということもあり、14万人もの競馬ファンが詰めかけての大にぎわい。

私は競馬をやらないので馬券目的に競馬場を訪れることはありませんが、カメラが趣味ということもあり、レースやパドックでサラブレッドを撮ったり、敷地内の日本庭園やバラ園などを散歩しながらのんびり写真を撮るために来ることがあります。

飲食施設も充実していますし、レース開催日でも200円の入場料で一日楽しむことができます。個人的にオススメなのは、レースが開催されない「パークウィンズ」と呼ばれる場外発売の開放日。入場料は無料ですし、がらんとしたスタンド席に座って、一日のんびりと広大な馬場を眺めているだけでもいい息抜きになるんです。


夏は花火大会も

ちなみにこの東京競馬場と、そこから近い多摩川競艇場では、毎年夏になると無料の花火大会を催しています。どちらも大々的に告知されることはなく、市の広報誌などでひっそりと告知される府中市民のお楽しみ。特に競艇場の方は、未だ知る人ぞ知る花火大会かもしれません。場内に入らずとも、周辺の各所から盛大な花火を眺めることができます。我が家のリビングからもこんな感じで花火が見えるので、ここ数年は外に出ることなく自宅からビール片手に楽しんでいます。


東京競馬場の帰りに寄りたいオケラ街道

競馬場から駅までの帰り道のことを、財布がスッカラカンになった様子を表す“おけら”という言葉から「オケラ街道」と呼ぶことがあります。この東京競馬場の西門前にも、そんな昭和の雰囲気の漂う居酒屋が並ぶオケラ街道があります。オケラという悲観的な言葉の響きは何処へやら。レース開催日の午後ともなると、愉快な話し声が響くにぎやかな場となります。

歩道に並べられた丸いすに座り、店の前で焼かれる焼き物の煙を浴びながら食べる居酒屋メニューは、開放的な雰囲気も手伝って何を頼んでも美味しいですし、お値段もとてもリーズナブル。競馬をやらない私も、ついつい引き寄せられてしまいます。


府中市民の食を支える大型市場

続いて、府中街道を中央自動車道方面へ。JRの線路を潜ると目の前にサントリーの武蔵野ビール工場があります。こちらも工場見学がオススメのスポットですが、今回紹介するのはその隣にある「大東京綜合卸売センター」です。ここは地元民に愛される……というか我が家にとってなくてはならない生活密着の施設。卸売市場といっても利用できるのは業者だけでなく、広く市民に開かれた市場です。「真っ昼間市」「Dot混む市」なんてユニークな名前のセールも定期的に開催されています。

市場の中には小さな商店がズラリと並んでいて、魚介類などの水産物はもちろん、食肉(鳥・豚・牛)、青果、海苔や干物などの乾物類、酒類、生ゆば屋、アジア食材、さらには食器や衣類、日用品まで多種多様な専門店が軒を連ねています。

市場といったら水産物のイメージが大きいですよね。ここも、マグロ専門店だけで3店、鮮魚で3店、さらに干物、冷凍魚、切り身、鰹節などなどその数なんと20店舗! 我が家のような2人家庭で食べられる単位での販売もあるので、「美味しい魚を食べたければスーパーなど行かず市場へ行け」が我が家の鉄則。鮮魚系の店舗は比較的店じまいが早くて(11時ごろ)、その時間付近になると思わぬ安値で買えるのもポイントです。

市場内はお食事処もあって、ラーメン、蕎麦、うどん、カレー(インド・ネパール料理の店)といった店舗が並んでいます。

そんな中から特に立ち寄ってもらいたいのが「のんしゃらん食堂」というお店。「市場のまぐろ丼」が人気です。ガリの敷かれたご飯の上には、秘伝のたれを絡めたまぐろが並びます。ご飯の大盛りやまぐろの増量の注文も可能です。ご飯少なめの注文でちょっと安くなるのも、うれしいですね。1000円でお釣りが来るお得なメニューです。

まぐろ丼の他に定食メニューも用意されていて、この日のメニューは「コロッケと焼き肉定食」でした。市場らしいスタミナメニューで満足度も十分!

さらに「まぐろステーキ丼」や「まぐろ味くらべ丼」、そんなにお腹は減ってないけどせっかく市場に来たから……という人のための「ミニ市場のまぐろ丼」なんてうれしいメニューも用意されています。安いものならワンコインで、少し高いメニューでも1500円以内でいただくことができます。

四季の草花から貴重な展示まで 見どころ満載「府中市郷土の森博物館」

市場を出て多摩川方向へと住宅地を抜けていくと「郷土の森」と呼ばれる広大な緑地エリアに出ます。サッカー場や野球場といったスポーツ施設に、子ども向けの交通遊園や釣り堀のある公園、多摩川河川敷のバーベキュー場などが集まった府中市民の憩いの場です。

そして、この郷土の森の西半分を占めているのが「府中市郷土の森博物館」。本館を含め14万平方メートルの敷地を有する野外博物館です。通常の入場料は大人200円と公共施設ならではの価格ですが、府中市民ならさらに100円割引、市内の小中学生以下ならば無料で入ることができます。ここは私のお気に入りスポットで、散歩で足を延ばして行くこともありますし、車で訪れることもあります。

野外博物館ということで、園内に移築・復元された江戸時代や明治の家屋、旧府中町役場の建築物があり、それらを見ることができます。こちらは梅の季節の「旧田中家住宅」とその庭園。奥に見えるのが「旧府中尋常高等小学校」の校舎です。

その他にも園内には水田や水車小屋、雑木林をはじめ、梅やあじさいといった四季折々の植物も植えられています。「梅まつり」や「あじさいまつり」といった催しには近隣からも多くの人が訪れます。梅雨の季節は園内を彩る一万株のあじさいが見ごろになります。個人的にオススメなのは雨の日の観賞。来場客も少なくなりますし、風情もたっぷりで写真撮影にもつい夢中になってしまいます。

さて、博物館本館の常設展示では、古代国府の誕生から現在の府中までの成り立ちが歴史に沿って分かりやすく説明されています。映像を使った解説なども多く、どれも充実していて面白いのです! 入口を進むと写真のような、くらやみ祭の特設コーナーが見えてきました。

また、竪穴式住居の跡から発掘された縄文土器や古墳時代の宝飾品をはじめとするさまざまな出土品も見ることができます。古代からの遺跡が数多く発見される府中市ならではの展示内容でしょう。

こちらは江戸時代の甲州街道の府中宿を再現した精巧なジオラマ。あまりに巨大なため、観賞用の双眼鏡が数ヵ所に用意されているほどです。これを見ると、けやき通りから伸びる大國魂神社が、当時から府中を代表するランドマークだったことがよく分かります。

ところで、この赤い柵に何か見覚えがありませんか?

そう、蔵カフェの向かいにあった高札場(くらやみ祭の御旅所)です。甲州街道と相州街道(現在の府中街道)、そして川越街道が交差する交通の要であったこの交差点には、御法度や掟書を張り出す一種の掲示板である「高札場」が設けられていたのです。

ついさっき、蔵カフェで酒粕ラテを飲みながら見たばかりの高札場に、博物館で再会するなんて! このような歴史との距離感が一気に縮まったような瞬間に、ものすごく興奮してしまうのは私だけではないはず……!

こんな感じで、日ごろ暮らしている街だからこそ、この常設展示を見に来る度につい夢中になってしまいます。一度に全て覚えきれないこともあって、園内に咲く花や紅葉など季節の写真を撮りに来た流れで「今日は古代国府」「今日はくらやみ祭」と展示を巡ることが多いです。

常設展示室|公益財団法人府中文化振興財団

この他にも本館に併設されたプラネタリウムや、天文関係の展示もあります。これらを全て楽しもうとすると一日では足りないですが、100円なら毎週散歩のついでに遊びに来られますね。

市内各所から眺めることができる“あの山”

府中市郷土の森博物館まで来たら多摩川はもう目と鼻の先。多摩川に出たら「多摩川サイクリングロード」の別名もある遊歩道を下流に向かって歩いていきます。河川敷の「郷土の森サッカー場」のあたりまでくると、天気が良ければ多摩川の向こうに富士山が見えてくることでしょう(写真は1月頃の真っ白に冠雪した富士山)。

府中市内にはこのように富士山が見えるスポットがいくつもあって、建物の隙間から偶然富士山が見えたりと、そんな自分だけの「隠れ富士山スポット」を見つけるのも私の楽しみだったりします。先ほど歩いた府中本町駅も有名な富士山スポットです。駅から東京競馬場につながる専用歩道橋からは、今の時期だとこんな富士山が見えました。

以前は府中より富士山に近いはずの神奈川県に住んでいた私ですが、手前にある丹沢の山が邪魔をしていたこともあって、日常的に富士山が見えるのは府中が初めての経験。自分の住んでいる街から富士山が見えるというのはなんともうれしいものです。

さて、もう少し歩いて南武線の高架を潜ると見えてくるのが「是政橋」です。先ほどまで歩いていた府中街道が、多摩川を越えるための橋になります。橋の東西に多摩川が開けていることで、日の出から夕焼け、そして富士山も楽しめるという超お得スポットです。写真は是政橋から見た今年の初日の出ですが、元日にここから「初日の出と初富士」を楽しむのが我が家の恒例行事です。

視界の開けた是政橋は市内で富士山が綺麗に見えるポイントの一つ。運が良いと、このように鮮やかなマジックアワーの夕焼けと富士山のシルエットを楽しむことができます。

今回取り上げた府中駅の南側だけでなく、北側に広がる桜通りやその周辺(オシャレなカフェも多いんです)、多磨霊園にかけての広大な緑地エリアなどなど、府中の魅力はこれだけではありません。実を言うとまだまだ紹介したいスポットはたくさんあるのですが、それは実際にこの街に住むこととなったら皆さんの足でぜひ探してみてください。

最後に


野口酒造店と郷土の森博物館のお土産……というか、私にとっては「地元でのお買い物」といった感じ


最初にも書いた通り、たまたま夫婦の通勤の都合で住みはじめた府中ですが、私が在宅フリーランスとなった現在もしばらくは引越す予定はありません。妻の仕事にあわせて住居を移す必要性を感じてないこともありますが、なにより6年住んでみて、この府中という街をすっかり気に入ってしまったことが大きいかもしれません。

以前に比べて自由な時間が増えた今だからこそ、もっとこの街の魅力を発見すべく、積極的にこの府中や周辺の街を歩いてみたいとも考えているところ。お知らせしたい情報がたまってきたら、またどこかで皆さんに紹介できればと考えてます。

今回紹介したスポット

※蔵カフェ、府中市郷土の森博物館に関する情報は2016年5月31日時点のもの、大東京綜合卸売センターに関する情報は2016年5月28日時点のものです

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著者:OKP (id:OKP)

OKP

1974年生。神奈川県出身、東京都府中市在住。2015年に音楽出版関係の会社を辞めて、フリーランスの編集者兼主夫へ。アウトドアと音楽、6年前に始めたカメラが趣味。ブログ「I AM A DOG」では、カメラや登山、日々の食事について書いてます。

Twitter:@iamadog_okp

編集:はてな編集部