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大切な人と大好きなパンに囲まれて生きる

開いたスペースとオーナー

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大切な人と大好きなパンに囲まれて生きる

神奈川県横浜市の住宅街の一角。一見するとお店があるようには思えない街角に、こじんまりとたたずむのが、清水麻美子さんが営むパン工房「キナリノワ」。清水さんが生まれ育った実家の一部を改装してはじめた自宅パン屋さんだ。もともと清水さんは、3人の子どもを育てる主婦。趣味のパンづくりが高じてパン教室に通い、イベント時に自分のパンを販売したり、イベント主催も行うセミプロだった。それが自分の店を構えることになったのは父の死と、同居することになった母の言葉だ。

「実家に戻ることになり、父が生前、事務所として使っていたスペースを見て、母が『場所があるし、せっかくなら何かやったら』とすすめてくれたんです。それで夢だったパン屋をはじめようと決心しました」(清水さん)。清水さんが思いを話すと、夫も子どもも理解し、応援してくれた。大好きだった古道具屋兼大工さんに内装と家具の手配を依頼し、自分でも一部、塗装するなどしてリフォーム。厨房機器の購入を含めて、トータルで約600万円かかった費用は母から借りて工面した。しかし、夢をかなえて開業したものの、思うように人が集まらない。早朝から仕込みをはじめ、自家製の天然酵母でつくったパンが余ってしまうこともしばしばだった。

「自分がおいしいと思うパンをつくっているので、処分するのはイヤなんです。だから、知人に送りつけていました(笑)」と清水さん。なんとか集客しようと、店を開けて、ポスティングをして、と地道に繰り返していたところ、だんだんとチラシを見て来てくれるお客さんが増え、2年目以降はクチコミで集まるように。今では開店前に行列ができるほどの人気ぶりだ。

しかし、お客さんが増え、店が軌道に乗りはじめた2014年、「もう、店をやめるしかないと思った」というほどの事件が清水さんを襲う。突如として、自家製酵母が全滅してしまったのだ。

「原因不明で、どんなに試しても酵母がダメになってしまう。私の精神的ダメージも大きくて、今まで楽しかったパンづくりが、まったく楽しくなくなり、スランプに陥りました」と話す。このときいちばんの支えとなったのが、お客さんの言葉だ。

「『清水さんのパンなら大丈夫。お店の再開をまっているから』といっていただいて。お客さんって本当にありがたいな、としみじみ思いました」。試行錯誤の末、パンづくりを習った先生とも相談し、自家製酵母の代わりにホシノ天然酵母を使って、パンづくりを再開した。現在、お店のパンはホシノ天然酵母とイーストの2種類でつくっている。これは食べ比べたうえで、その日の気分や好みに応じて、好きなパンを買ってほしいという思いからだ。

「このお店は、赤ちゃんを連れたお客さまがとても多い。また地元の小学生や中学生が、お小遣いをにぎりしめてきてくれるので、値段は手ごろにしたい。これが場所を借りていれば採算が合わず、店を維持するのは難しいのでしょうが、私の場合は幸いにして自宅です。地代を気にせず、自分の思い描く理想のパンをつくり続けられる。これは家を開いて店をはじめる良さだと思います」。また、最近のキナリノワは、カフェメニューも出しているが、これは独り立ちを夢見る人たちの「チャレンジの場」も兼ねているのだとか。実は清水さんなりのお客さんへの恩返しなのだという。

「私は人、特にお客さんに恵まれてここまで来ることができました。だから、みんなに助けてもらったのと同じように、私も自分の経験を伝えて、手助けをしてあげたい。お店をしたいと迷っている人の相談を受けたら、じゃあ私の店で試しにやってみなよ、と声をかけています。それで料理を出す人がスタッフに加わって、カフェになるんですよ」

これまで、キナリノワでスタッフをしていた人のなかには、フードコーディネーターになった人、自分の家を改装して店を出した人がいるのだという。清水さんのがんばりがお客さんの笑顔になり、また清水さんも家族やお客さんに支えられている。ここは、そんな幸せな関係を紡ぐ場所なのかもしれない。

  • 実家の一角を、
    自分の好きなテイストに改装
    清水さんのお父さんが事務所を営んでいた自宅の一角を「お店を開くなら絶対にここにお願いしたい」と思っていた古道具屋兼大工さんに依頼して、「ちょっと懐かしい感じのパン屋」に。老若男女がくつろげる、やさしい空間だ
    実家の一角を、自分の好きなテイストに改装
  • 開店前から行列ができ、パンが飛ぶように売れていく
    開店前から行列ができ、
    パンが飛ぶように売れていく
    店のオープン前から、ぽつりぽつりと人が集まりはじめ、行列ができることも多い。焼きたてパンの香り漂う店内では、ショーケースに並ぶパンが次々と売れていく。一週間分まとめ買いをする人もいるそう
  • もっともごまかしが利かない、
    小さなお客さん
    お客さんには若いママが多いため、自然と小さなお子さんも多い。「子どもは正直なので、ごまかしが利かない」と清水さん。おいしそうに食べている姿を見ると、「やっていてよかった」と心から思うそう
    もっともごまかしが効かない、小さなお客さん
  • スランプ時期を支えたのは、お客さんの言葉
    スランプ時期を支えたのは、
    お客さんの言葉
    あたたかく、理解あるお客さんたちに支えられて、スランプを乗り越えた清水さん。現在は天然酵母にこだわらず、ホシノ天然酵母とイーストの2種類の発酵法を併用し、理想のパンづくりを追求している
  • 定番のパン以外は、内容は日替わり。良い素材で自分が食べたいと思うパンをつくり続ける

    定番のパン以外は、内容は日替わり。良い素材で自分が食べたいと思うパンをつくり続ける

  • 老若男女、コミュニティ・カフェのように多世代が集う。新しい交流が生まれている

    老若男女、コミュニティ・カフェのように多世代が集う。新しい交流が生まれている

  • この日は友人が厨房を借りてランチプレートを提供。デザート付きで大人気!

    この日は友人が厨房を借りてランチプレートを提供。デザート付きで大人気!

  • 週4日は朝3時30に起床し、仕込みを行う清水さん。体力的にはハードだがその顔は常に笑顔

    週4日は朝3時30に起床し、仕込みを行う清水さん。体力的にはハードだがその顔は常に笑顔

かかった費用は?

厨房機器に125万円ほど、内外装費300万円ほど、トータルで600万円程度。費用を借りた母には毎月返済をしていて、収支はとんとん。改装は古道具・大工のcohakoさんに依頼し、自分好みの空間につくりあげた

アドバイスとこれからの展望

「私は支店を出すとか、規模を大きくするとかは、まったく考えていません。自分の好きなパンをつくりたいだけつくる、街のパン屋でいいと思っています。これからは、若い人に経験を伝えていけたらいいですね。飲食業に関わらず、店をやりたいという人は多いですが、夢や憧れるだけで終わってしまう人が多い。実にもったいないですね。特に若い人のチャレンジの場がないのは、さみしいことです。まず、できることからやってみたらいい。自分はそうした相談にのりたいですし、この店を幸せな人を育てる、旅立っていく場所にしていけたらいいですね。カフェのような試験的なコラボはこれからも積極的にやっていきたいと思っています」

間取りとDATA

間取り1

空いてるスペース

施主名 清水麻美子
開いているスペースの面積 約60m2
開いているスペースの% 約40%
住所 神奈川県横浜市
営業時間 月10日程度11:30~18:00
※不定日営業、売り切れ次第終了
建物形態 一軒家

取材・文/嘉屋恭子 撮影/飯田照明 間取りイラスト/tokico

情報掲載日/2015年11月11日

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メディア掲載履歴

2013年11月28日
TBS「Nスタ」で紹介されました。
2013年10月19日
「“自宅で自分らしく働く”ワーキングスタイル&マネー術」公開セミナーを開催しました。

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更新情報

2016年6月15日
【実例追加】 近隣住民も集う マンションの日曜喫茶
2016年5月25日
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2016年4月28日
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