年月を経た家がもつ味わいを活かしながら、現代の暮らしに合う空間につくり変える古民家リフォーム。その魅力や暮らし心地を、築80年の家を購入しリフォームしたKさんの実例を通して紹介する。
転勤先から地元の宮崎県に戻ったことがきっかけで、そろそろマイホームを持とうと考え始めたKさん。
「以前から、将来家を建てるときのことを思い描きながら、モデルハウス見学などをしていました。気密性の高い家とか、スタイリッシュなデザインの家とか、最近の家はどれもすてきだなあと感じていました」というKさん。しかし、選んだのは古民家をリフォームすることだった。
「もともと古いモノを大切に使うことが好きで、人の手によって大切にされてきたぬくもりや、味わいを感じられる家が、自分たちにとって落ち着ける空間だと気がつきました。それを実現できるのが古民家リフォームだったんです」
そこで、通勤中に目にしていた瓦屋根の古い家を購入しリフォームすることに。地元の建築会社が古民家再生プロジェクトを手がけていることを知り、リフォームを依頼した。
築80年という古さに抵抗はなかったのだろうか。
「不安はありました。昔の家ですから、基礎は石の上に柱がのっているだけで、土台も腐食部分があり心配でした。でも、建築会社の方がきちんと調べてくださって、必要な箇所は新しくし、使えるところは活かしましょうという説明があったので安心してお願いできました」
「建築会社に伝えたいちばんの希望は、開放感のあるリビングが欲しいということ。古民家リフォームならではの味のある梁を隠さずに見せたいということでした」とKさん。
約4カ月をかけて大規模なリフォーム工事が行われ、古民家は、使いこまれた柱や木目の美しい梁は残しながら、大空間が広がる住まいに生まれ変わった。1階は吹抜けのある広々としたLDKと子ども部屋、和室。駐車スペースから離れた位置にあった玄関は、車からの荷物の出し入れがしやすいように家の北側に移動し、土間のあるゆったりとした空間に。2階は広々とした納戸とクロゼットのほか、吹抜けにL字型のキャットウォークを設けることで、高い位置の窓の開閉がしやすいプランになっている。
「リフォームを依頼した建築会社は、古い柱や欄間、板戸を再利用し、できるだけ自然素材を採用したいとのことで、壁には漆喰(しっくい)が使われ、古民家のもつ味わいが感じられる家になりました」
雑貨を見たり、買ったりするのが好きというKさんは、
「間取りのプランニングはもちろんですが、大好きな家具や照明器具、小物を選ぶ過程も家づくりの醍醐味のひとつでした。家に合うものをあれこれ探すのも楽しかったですね」という。アンティークな小物は、買ってきて家に飾ったそのときから空間になじむ。また、北欧テイストのファブリックや、白いシンプルなキッチンなど、この古民家にはさまざまなテイストのものが違和感なく溶け込み、さらに趣を増していくように感じているそうだ。
中古住宅は耐震性や断熱性などが気になるもの。Kさんの家は新築同様の性能になるよう、耐震や断熱を高める工事を行い、安心感と快適性を高めている。
「夏の暑さも冬の寒さも気になりません。特に夏は、上下階の窓を開けると、さーっと涼しい風が家の中を吹き抜けるんです」と、通風にも配慮されているようだ。
また、開放感がありながら、温かみや落ち着きも感じられるリビングでは、親子で会話をしたり、それぞれが思い思いに過ごしたり……。自然に家族が集まる場所になった。
「家を持つことで家族の拠点ができたこともうれしいですね。夫は転勤があるので、単身赴任になる可能性もありますが、『自分の家』という戻る場所があること、快適で居心地のよい空間があることに幸せを感じているようです」
自分たちが心からくつろげるのはどんな家なのかを考え、古民家リフォームを選んだKさん。古い家の味わいと、新しい家の快適性、その両方を満喫できる暮らしを手に入れることができたようだ。
●取材協力
LIXILリフォームショップ岩切建設
構成・文 / 田方みき