自由に設計して設備や建材を選べる注文住宅は、結果的に予算オーバーしてしまうおそれがある。
そこでどうしたら住み心地を下げないでコストダウンできるのか、うまく予算調整ができるように、さまざまな面からそのテクニックを紹介する。
せっかく注文住宅を建てるなら自分のこだわりを実現したいもの。一方で予算は無限ではなく、頭を悩ませている人も多いだろう。
「家づくりのコストは、家の形、間取り、設備・建材の3つの面から考えるといいでしょう」と柏崎文昭さん(甚五郎設計企画)。
「例えば総2階という形は、上下階が不ぞろいな形の家や凹凸のある家に比べて、材料が少なくてすみ経済的です。スッキリした外観になり、周囲の街並みに溶け込みやすいというメリットも」
また間取りについては、仕切りの少ないオープンなプランを勧める。
「壁を少なくすることで、骨組みとクロスなどの材料費、施工費や建具が省けるのが大きい。暮らしの面からは間取りがオープンになることで、家の中に一体感が生まれ、家族の自然な交流が生まれます」。
図面を見て間仕切り壁を省略できないかチェックしよう。
設備・建材選びは自分が何を優先するかがポイントになる。
「自分には過剰と思える機能もあると思うので、どこまで必要なのかをもう一度考えてみては。省けるものがあったら、その分こだわりたいものに予算をまわせます」
なお費用調整を行うのは、見積もり提案後、契約までの期間。この間を逃すと、調整が難しくなるので気をつけたい。
1. プランの打ち合わせ
建築会社に予算やほしい部屋数、設計・材料の要望などを伝える
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2. 基本設計・見積もり
ここで見積もりが予算を超えていたら双方で話し合って調整を行う
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3. 設計・見積もり完了
費用についての調整を行い、予算内に収まったら見積もり確定
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4. 契約・着工
これ以降は色・柄など費用と設計に影響しない変更にとどめる
ここからはコストダウンできる方法を建築家の試算付きで紹介。
予算を超えたときに自分ならどこを調整するのか、参考にしよう。
※掲載しているコストダウンの金額は記載している条件でシミュレーションしたもの、またはカタログ記載価格に基づく目安です。(掲載している事例写真は各テーマに基づくイメージで、費用とは一致しない場合があります)
約28万円DOWN↓
1・2階の面積を同じにする総2階は、基礎や柱など構造部と屋根材が最小限ですむ。隣家への日照を妨げない、間取り的に問題がないなど条件が整っていれば、不ぞろいより総2階がコストを抑えられておトク。デザイン的にはすっきりしたフォルムになるし、変化が欲しければ外壁をツートンにしたり、スリット窓など窓の形状の工夫で補える。
試算条件:延床面積120m2程度で、1階部分の屋根(幅11.20m、奥行き2.60m)付きの家と総2階の家を比べる
約11万円DOWN↓
屋根には寄棟(よせむね)、切妻(きりづま)、片流れなどがある。このうち寄棟は棟が多くなるので部材と施工費が膨らむ。切妻は寄棟よりコストが安く、片流れはさらに安い。外観全体のデザインを考慮し、シンプルな形がよければコストは下げられる。ただ勾配がきついと施工時の危険防止のため屋根面に足場が必要になりコストアップするので、勾配は抑え気味に。
試算条件:延床面積120m2程度、総2階建てで寄棟と切妻を比べた場合。屋根材を標準的な化粧スレートとして
約40万円DOWN↓
同じ床面積なら四角い形より凹凸のある家のほうが外壁量は多くなる。また凹凸の隅部には構造的な補強も必要。四角い形のほうがコスト面ではおトクだが、四角にすることで間取りに不都合が生じないか要検討。
試算条件:延床面積120m2で、四角い形よりも、凹凸があることで外壁の量が約13%増えた場合
約95万円DOWN↓
外構は門扉やフェンスにかかる費用が多くを占めるので、それらを設けなければ、大幅にコストダウンできる。見た目が物足りなければ玄関まわりに植栽をあしらっても。オープンな外構は近隣に親しみを与える面も。
試算条件:敷地面積100m2程度で、門扉、フェンスありの外構と、フェンス、門扉なしを比べた場合
約14万円DOWN↓
窓の数を減らす、あるいはサイズを小さくすることもコストダウンになる。西日の当たる窓を減らす、北側の窓は換気用として小さくすると、かえって冷房費の削減になるし、プライバシーが守れる家になる。
試算条件:40.5cm×183cmのフィックス窓を2カ所減らした場合
約172万円DOWN↓
床面積を減らすと面積分の材料費、施工費が省ける。暮らしにどの程度の広さが必要なのか、部屋数や水まわりなどそれぞれの面積の目安を出してみよう。面積を省くと家事動線が短くなって掃除がラクになるのが利点。
試算条件:延床面積120m2の家と110m2の家を比べた場合(設備・内装は変えないとして)
約25万円DOWN↓
バルコニーの先端までが長いと補強が必要になりコストアップする。一般的な90cm程度で、物干しには十分。またすべての部屋にバルコニーが必要かどうか再検討を。バルコニーを減らすと外観がすっきりする点も考慮。
試算条件:奥行き約91cm、幅約273cmのバルコニーをなくして、掃き出し窓を腰高の窓に変更した場合
約10万円DOWN↓
階段を仕切らずオープンにしてリビング内に設けると、出入口の建具の分がコストダウンに。階段を仕切る壁の費用は手すりと同等と考えてよい。子どもの様子がわかって、家族のコミュニケーションに役立つ面も。
試算条件:階段を仕切る壁と建具をつくった場合と仕切らずオープンな場合の比較(壁と階段手すりは同程度の費用とみなす)
約14万円DOWN↓
子どもが小さいうちは個室がいらないので、最初から間仕切りをする必要はない。間仕切り壁は下地材のほかに、両面の仕上げのコストもかかる。将来2部屋を想定しているなら出入口や照明を2カ所設けておけばよい。
試算条件:6畳+6畳の部屋に間仕切り壁(長さ364cm、高さ240cm)を設けない場合
約21万円DOWN↓
三和土(たたき)から直接リビングなどに続く間取りにして玄関ホールを省くと、狭小敷地でも広いLDKが確保でき、コストメリットも。玄関ドアを部屋の中が見えない位置に設けると、プライバシー侵害の心配を避けられる。
試算条件:1坪程度の玄関ホールをなくした場合(ホールの壁・天井・床仕上げ工事費、木工事費、建具代含む)
約40万円DOWN↓
1部屋設けるには仕切る壁、出入口の建具が必要。例えば、リビングの一角に書斎コーナーや畳スペースを設けると、部屋の代わりを果たして費用削減になり、家族でコミュニケーションもとりやすく一石二鳥。
試算条件:引き戸付き4畳の和室をつくった場合と仕切らずリビング内に畳コーナーをつくった場合の比較
約10万円DOWN↓
システムキッチンは吊り戸棚を省いて設置することが可能で、それだけでコストダウンになり、対面型なら明るく開放的なキッチンになる。収納が足りなければオープンな棚を造作すると既製品より安くなる場合がある。
試算条件:既製品の吊り戸棚(間口255cm)を省いて、同じサイズのオープン棚3段をつくった場合の差額
約15万円DOWN↓
部屋ごとにクロゼットを設けるより、大きめのウォークインクロゼットを1カ所設けるほうが、出入口の扉が1つですみそれだけでもコストダウン。中に入って着替えができるし、オフシーズンのものもしまっておける。
試算条件:幅182cmのクロゼット2カ所分と1坪程度のウォークインクロゼットを比べたときの扉の差額
約7万円DOWN↓
収納は必ずしも扉をつける必要はない。パントリーのように、ひんぱんに出入りする場所は、使い勝手の観点からも、扉を省いたほうがいい場合もある。見せる収納を心がけることでコストダウンができる。
試算条件:パントリーに折り戸タイプの建具(高さ180cm、幅91cm)をつけた場合との比較
注文住宅はどこまでもこだわれるが、予算は有限。譲れない部分と妥協できる部分を決めておこう
省いても住み心地の良さにさほど影響しない設備や間取りもある
コストダウンの実例を見ながら、住み心地を変えずに安くできるポイントを考えよう
HOUSING(2017年3月号)掲載